ガーディにとどめをさそうと近付いてくるベイリーフは、ついにガーディの目の前に迫った。
「『のしかかり』ですわ!」
高くジャンプしたベイリーフはそのままガーディへ向けて体重をかけて落下してきた。絶体絶命だ。
「今だ!真上にジャンプして、ベイリーフの腹に『頭突き』!」
「えっ!?」
ガーディの頭がベイリーフのお腹のちょうど柔らかい部分にヒットした。ベイリーフはそのままひっくり返って落ちてしまった。かろうじて立ち上がったもののよろけ気味だ。
「うしろにまわりこめ!」
「させませんわ。『はっぱカッター』!」
「そうはいくか。『火炎車』で防御だ!」
カッターはガーディに向かうもののその体を包む炎によって全て焼き尽くされた。ガーディは炎に包まれたままベイリーフのうしろをとった。
「よし、うしろをとれば壁の効果は関係ない。ガーディ、そのまま『怒りの炎』を燃え上がらせろ!」
「アォーーーーン!!」
ガーディの声とともに炎が広がっていき、ベイリーフを包み込む。苦手な攻撃をまともに受けたベイリーフはひとたまりもない。炎がおさまると黒こげになって気絶していた。
「ベ…ベイリーフ戦闘不能。ガーディの勝利……」
タエコがカオル側のフラッグを挙げた。
「よし、まずは1体…」
第47話 激突!剣VS剣
「ベイリーフ、お疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいませ。」
アオイはベイリーフをボールに戻し、それを包み込むように優しく握った。その顔はまるで全てを慈しむ女神のようにも見える。
「さて、戦いはこれからですわよ。ナッシー、おいでませ!」
次のポケモンはまるでヤシの巨木のような姿だ。それに実った3つの果実がそれぞれ顔となっている。
(ナッシーか…あの巨体なら動きは鈍いはず。うしろに回り込むのは簡単だろうが…)
「ガーディ。まずは『火の粉』だ。」
カオルはまず様子見の一撃を指示した。火の粉はまだ残る光の壁に阻まれたものの少しひびが入った。効き目が薄まってきている。
(あと一撃で砕けそうだな……)
「よし、今度は『火炎車』で壁を砕きながらナッシーに攻撃だ。」
「アォーーーン!」
ガーディが燃えながらナッシーに突っ込んでいく。あの巨体ではよけることは難しいだろうし、よけられたとしてもバランスを崩して倒れてしまうだろう。それはアオイもわかっているはずだ。よけではなく攻撃の指示を出した。
「今ですわ。ナッシー、『目覚めるパワー・水の力』!」
ナッシーの体中から光の球が無数に放出された。そのうちのいくつかがガーディにヒット、炎とともに蒸気となり消えた。ガーディはダメージこそ少ないが攻撃をストップしてその場に急停止した。ナッシーの足元に。
「『踏みつけ』ですわ!」
ナッシーの短い足がゆっくりと上がり、ガーディへと勢いよく降ろされた。そして再び足を上げると地面にめり込んだガーディが気絶していた。
「ガーディ、戦闘不能。ナッシーの勝利!」
今度はアオイ側にフラッグが挙げられることとなった。心なしかタエコはさっきより元気よく声を出しているようにも感じられる。
「くっ…戻れ、ガーディ。まさか水タイプの攻撃を仕掛けてくるとはな……フッ、ワクワクしてきたぜ。こいつの弱点を突けるか?行けっストライク!」
カオルの2体目のポケモンは両手が剣のように鋭い鎌になったポケモンだ。背中には小さな翼がついており、動きは素早そうである。
「ストライク、『電光石火』。」
ストライクは肉眼ではとらえられないほどのスピードでナッシーに近付き一撃を加えた。
「続けて、『かまいたち』。」
空気の剣がナッシーの右の顔に命中、気絶させた。だがまだ2つの顔が残っているので戦闘不能にはならない。
「『原始の力』ですわ!」
先程ベイリーフも使った技だが、硬質化した岩はベイリーフのそれより一回り大きい。
「『目覚めるパワー・鋼の力』!」
今度はストライクの体から光の球が無数に放たれる。ただナッシーのものと違いメタリックグレーの光だ。それが岩を砕いていく。
「まあ、なんてこと……」
「今だ!『スラッシュダウン』!」
ストライクは天井近くまで跳び上がり、落下しながらナッシーめがけて鎌を振り下ろした。その刹那、ナッシーの巨体が揺らぎ、大きな音とともに崩れ落ちた。2つの顔はどちらも気絶している。
「な、ナッシー戦闘不能展ストライクの勝利……」
(何てこと!信じられない!お嬢さまのナッシーをここまで早く倒すなんて!)
信じられないのはタエコだけではない。バトルをしているアオイ本人も同様だった。
「お、驚きましたわ…ナッシー、お疲れさまでした。お休みくださいませ。」
ナッシーを戻すアオイの顔が再び女神に見えた。
「さて、わたくしは残り1体になってしまいましたね。でもまだわかりませんわよ。わたくしの最後のポケモンはこの子ですわ。頼みますわよ、ジュプトル!」
アオイの最後のポケモンはトカゲのような姿をし、腕には鋭い刃、いや葉のようなものがついている。
「なるほど、剣には剣ということか。面白い。行くぞストライク、『切り裂け』!」
ストライクの鎌がジュプトルに振り下ろされる。
「『見切り』ですわ!」
ジュプトルは素早く両腕をクロスさせ、葉の部分で鎌を受け止めた。見た目よりかなり頑丈な葉である。
「そのまま『連続斬り』ですわ!」
鎌を跳ね上げ、ジュプトルはストライクのボディーに斬りつけた。連続で斬りつけていくたびに勢いがついていく。
「くっ…ひるむなストライク、こっちも『連続斬り』だ。」
今度はストライクがジュプトルの葉をはねのけて反撃に転じた。ジュプトルはどんどん後退していく。
「とどめだストライク、『スラッシュダウン』!」
ナッシーを倒した大技が今度はジュプトルに向けて火を吹いた。鎌が一直線に振り下ろされ、ジュプトルは倒れ………なかった。再び葉の部分で鎌を受け止めていたのだ。
「なに、まだ『見切り』ができるほど体力が残っていたのか。しかも落下の勢いが威力にプラスされるこの技を受け止めるとは……」
ストライクはジュプトルから少し離れたところに着地した。一方のジュプトルは両腕をゆっくりと波打つように動かしている。その姿は何とも言えず奇妙だ。
「よろしいですか、カオルさん…今からお見せいたします。タマムシジム奥義……『双樹葉斬剣』!!」
アオイがカオルに向けて両手を広げると同時にジュプトルが目にも留まらぬスピードでストライクに突っ込んでいく。しかもその両腕の葉はまるで巨大な剣のように変化している。
「は、速い!」
ジュプトルがその動きを止めたとき、ストライクは地面に倒れていた。いつ攻撃を受けたのかさえ見えなかった。
「この技はただ単に『リーフブレード』を両手で繰り出すものではありません。それを柳のようにしなやかに、しかも風のように速く正確に実行するのです……」
「ス、ストライク戦闘不能!ジュプトルの………あっ!」
アオイ側のフラッグを挙げようとしたタエコはハッとした。ジュプトルもその場に倒れてしまったのだ。
「り、両ポケモン同時戦闘不能!えっ…つまり……よって勝者、挑戦者・カオル!!」
慌てて訂正したタエコは今度はカオル側のフラッグを挙げ、バトル終了を宣言した。カオルはストライクを戻し、クールにガッツポーズをした。ふと、アオイを見ると彼女もまたジュプトルを戻し、こちらに近付いてくる。
「…参りましたわ。あの技は強力すぎるために使用したポケモン自身にもダメージがあるのです。もしかしたらと思いましたが……わたくしもまだまだですわね。では、このレインボーバッジをお受け取りくださいませ。」
アオイは懐から虹色に輝くバッジを取り出し、カオルに手渡した。カオルは何も言わずにそれを受け取り、小さく微笑んだ。
「ありがとう。いいバトルだった。」
「カオル…さん……」
その時、アオイの胸は高鳴り、頬は薄紅色に染まっていた。だがそれが何なのか彼女にはまだ知るよしもなかった………
夕刻、ジム兼屋敷内大食堂………
「では、こちらへどうぞ。」
カオルは案内された席へと着いた。立派な円卓である。その上には一般家庭の人々が見たら度肝を抜かれそうな豪華料理が所狭しと並べられている。真向かいにはアオイの父が、そこからわずかに離れた席にはアオイが座っていた。
「よし、では遠慮なく召し上がってくれ。足りなければ……」
「その前に話してくれないか。あなたの家とオレの生まれたオーキド家との関わりを。」
アオイの父が言い終わる前にカオルは尋ねた。この家に自分が呼ばれた理由もそのことに関係したことだろうし、何よりカオル自身がそれが何なのか知りたかったのだ。顔には出していなかったが。
「…わかった。話そう……」
話が始まった。カオルはゴクリと唾を飲み込む。
「我がタマムシジムの家系では先祖代々から男女関わらずポケモントレーナーとして最も優れたものに家を継がせるというしきたりがある。そして先代のあととりと決まっていたのがわたしの伯母であり当時ジムリーダーでもあったエリカという女性だ。」
「エリカ……?いや、何でもない。それより何故あととりの子じゃないあなたが今の当主なんだ。今の話からすれば矛盾しているぞ。」
カオルの指摘に、アオイの父は目を閉じてしばし沈黙ののち、再び話しだした。
「…そのエリカはあるとき挑戦にやってきた1人のトレーナーに恋をし、あととりの座とジムリーダーの地位を捨て、そのトレーナーのもとへ行ってしまったのだ。よいかね?そのトレーナーこそがシゲル・オーキド。今ポケモン研究の権威といわれるオーキド博士だ。」
「なっ…?」
カオルは絶句した。驚きのあまりぐうの音も出ない。
(なんだと…?バカな、オレのおばあちゃんがこの家の人間だと……?そんなことは一度だって聞いていないぞ……)
「そ、そうか…メイド長が恋愛結婚はうまくいかないと言っていたのはそのためか…『この家にとってうまくいかない』ということなのか……」
カオルの腕が震えている。それは何から来ているものなのか、彼自身にもよくわからない。
「カオルさん……」
アオイが心配そうにカオルを見つめている。と、アオイの父が三たび話しだした。
「…そして次に優れたトレーナーであった彼女の妹…わたしの母が家を継いだ。だが跡取りにはなりたくなかったようだ。息子のわたし達もよくエリカやオーキドに対する恨み言を聞かされた。そして『オーキド家の人間とは絶対に関わり合いになるな』とまで言っていたよ。だがわたしはそうは思わない。確かに伯母の行動は許されないことだったのかもしれない。しかしそれをいつまでも引きずっていてはいけないと思うのだ。だからカオルくん。わたしは君を恨んでなどいない。それだけはわかってほしい。」
「わかっているさ。」
カオルがくすっと微笑んだ。
「オレのおじいちゃんがこの家のあととり候補と結ばれた。それによって恨まれるのは当然。だがオレはオレだ。おじいちゃんじゃない。」
「うむ。その通り。では食事にしよう。冷め切ってしまわないうちに食べなさい。」
3人は静かに料理を口に運び始めた。それらの料理はアオイの父の心配(?)通り少し冷めていた。だがそれを差し引いても美味であることは確かである。
「…ところでカオルくん。君の泊まる部屋のことだが……」
みんな食べ終わった頃、アオイの父が言った。
「今はちょうどアオイの部屋の隣があいているのでそこでいいかな?あとでメイドに案内させよう。」
「わかった。…ありがとう。」
ずっと無愛想な態度をとってきたカオルだが、この時は席を立ち一礼した。ふと見るとアオイがとても嬉しそうにニコニコ顔をしている。満面の笑みだ。
「…ではわたくしがご案内いたしますわ。隣ですし。さあ、行きましょうか。」
アオイは席を立ち、カオルの手を取って部屋を後にした。
「お父さま、おやすみなさいませ。」
「うむ…では、また明日。」
2人を見送るアオイの父の胸中は複雑だった。
(間違いなくアオイはあの少年に惹かれている。しかもオーキド家の者……そしてエリカの孫……もし運命などというものが存在するのならばアオイもまた………?)
その夜、カオルは部屋の窓を開け、夜空を眺めていた。月が闇夜を薄明るく照らし、弱く吹き付ける冷たい夜風がその髪を揺らす。ふと隣を見るとそこの窓も開いており、そこからアオイの姿が見えた。彼女もまた夜空を眺めていたのだ。
「…アオイさんか。」
「…カオルさん…」
アオイもこちらに気付いた。しばらく2人は無言のまま見つめ合っていた。そしてその沈黙を最初に破ったのはアオイだった。
「明日のお見合い…お受けすることにしました。お気に召さない相手でしたらお断りすればよいとお父さまもおっしゃっていましたし……」
「そうか…ということは見合いは初めてなのか?」
「ええ……」
アオイは夜空を見上げながら答えた。
「でも…やっぱりできることなら一生を共にする方は自分で見つけたい…お互いに愛し合える方を……」
そう夜空に向かいながら話すアオイの目がわずかに自分の方を向いているのにカオルは気付いた。
「ん、どうしたんだ。」
「えっ…いえ、なんでもありません。で、では…おやすみなさいませ……」
アオイはあたふたしながら顔を窓から引っ込め、窓も閉じた。カオルの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
(…なんなんだ……なにか嫌なことでも言ってしまったのか…?)
アオイのとった行動を考えつつ、カオルも窓を閉め、寝床についた。
タマムシシティの夜はゆっくりとふけていった………
第48話に続く。
作者のうだうだ雑言
これがわたしの好きな組み合わせです。譲れない好み。たとえマイナーだと言われても自分的にはカップリングにメジャーもマイナーもなし。全ては趣味の世界なり………おっほほほほほ………(蹴)。だからといってシゲルさんがらみの他のカップリングを否定するわけではありませんヨ〜。自分を主張しつつ他の方も肯定している。そういうことなのです。
[アットの一言感想]
かくいう自分もかなりマイナーカップリングで好きなものが多いので。
しかしカオルとアオイの家系に、そのようなつながりがあったとは。
メイド達には警戒されているようですが、アオイの父親がアオイの感情に理解を示してくれそうなのもまた、そんな出来事がかつてあった結果なのかも知れません。