タマムシシティジムリーダー・アオイの屋敷に泊まることになったカオルはそこで自分の祖母がこの家の人間だという事実を知る。そしてアオイもまた、オーキド家の人間であるカオルに惹かれているのだった………
「う…ん……」
窓から差し込む光がカオルの目を覚ました。ふと時計に目をやるとそれは午前10時を指している。
「少し寝すぎてしまったか…アオイさんは……?」
カオルは急いで着替えて荷物をまとめ、部屋を後にした。すると1人のメイドがカオルに走り寄ってきた。とはいっても別に彼女はカオルに気があるわけではない。
「やっと起きましたか。お嬢さまが気を遣って起こさないようにとおっしゃっておりましたので起こしませんでした。さ、こちらへ。ご朝食の準備が出来ております。」
メイドに案内され、カオルは昨夜の大食堂に着いた。円卓の上にはバターロールの入ったかごにスクランブルエッグの乗った皿、シーザーサラダの入った器にミルクの入ったポット、それに一人前の食器が並べられている。
「お嬢さまは既にお見合いに向かわれました。お食事が済みましたらお部屋の方でお待ちください。くれぐれもお見合いの邪魔をなさりませんよう…」
「…わかった。終わったら知らせてくれよ。挨拶してからここを出るからな。」
そうメイドに伝えるとカオルは席に着き、朝食を採り始めた。
(ふぅ、まったく…本当に態度のでかい子ねぇ……)
「は、はい…」
心の中でため息をつきながらもメイドはしぶしぶ了承した………
第48話 お見合い相手の正体
部屋に戻ったカオルは窓を開け下の様子を眺めていた。すると向こうの離れから一組の男女が歩いてくる。女性の方はアオイだが、男の方は見覚えがない。恐らく彼がお見合い相手なのだろう。男の後ろからは彼の付き人だろうか1人の少女がついてきている。
(ん…?後ろの女、あたりを見回している…?)
その少女は何かを探すようにキョロキョロしている。一見するとまわりの景色や建物を見回しているようにも見えるがその目が真剣そのものなのでよく見ればすぐわかる。ふと、少女ではなく男の目がカオルの方を向いた。が、すぐに目をそらしアオイと何か話を始めた。
(…何かクサいな、あの2人……)
彼等を見下ろしながらそんなことをカオルは思っていた。すると、男が再びこちらを向き、手招きをした。つい先程アオイと話していたのは自分のことだったのだろう、とカオルは判断できた。
「どういうことだ…まあいい。呼ばれたのなら行ってやるさ。出てこいスリープ。『テレポート』であそこまで移動させてくれ。」
カオルの出したバクを思わせる二足歩行のポケモンはまるで何かをなでるように両手の指を動かしながら念を放ち、自分と主を指示された場所へ瞬間移動させた。消えたと思ったら突然目の前に現れた少年にその場の3人は一瞬目を丸くし、後ずさりした。
「な、なるほど…このスリープに『テレポート』させたのか…なかなか格好つけた登場の仕方をしてくれるじゃないか。」
そういったのはお見合い相手と思われる若者だ。焦げ茶色の髪をした好青年である。
「まあいい。君はカオルくんというそうだね。何でも昨日アオイさんに勝ったそうじゃないか。一度バトルしてみたいな。」
青年はやけになれなれしくカオルに話しかけてきた。
「…別にバトルならしてもいいが、その前に名前ぐらいは名乗ってほしいものだな。」
相変わらず無愛想にカオルが言った。青年は『おっと』と言いたそうな顔で頭を掻いた。
「そうだな。わたしはスサノオ。そこにいるのがわたしの身の回りの世話をしてくれているウズメだ。よろしく。」
青年が名乗ると近くの少女も笑顔でうなずいた。礼儀は知っているようだが、カオルは気を許していない。自分がバトルを了解したところでスサノオがわずかの間不敵な笑みを浮かべていたのを彼は見逃さなかったのだ。
(こいつら、確実に何かを企んでいる……化けの皮をはいでやるか……)
先日カオルとアオイがバトルしたタマムシジム内バトルフィールド………
「ではこれより、カオルとスサノオによる練習試合を開始します!使用ポケモンは両者1体ずつ。それでは、始め!」
審判を務めることになったウズメがフラッグを振った。アオイはそのそばにある椅子に座って観戦だ。
「お二人とも頑張ってくださいませ〜!」
「よし、行けっスリープ。」
「行くのだ、ルナトーン!」
スサノオが出したポケモンは三日月のような姿をし、その中ほどに血のように赤い瞳をギョロギョロとさせる奇妙なものだ。カオルも初めて見る。
「ルナトーン…隕石ポケモン。満月の時期に活発になる習性を持ち、空中に浮いて移動する。宇宙からやってきたとも言われている。」
「そうか…スリープ、先手だ。『シャドーボール』。」
先程と同じくなでるような指使いをするスリープの前にサッカーボールほどの大きさの黒い塊が出来た。スリープはそれを両手の平で強く押し出すように放った。
「ルナトーン、かわして『体当たり』。」
ルナトーンは空中を滑るように動き、シャドーボールをかわしそのままスリープに向かっていく。
「スリープ、『冷凍パンチ』だ。」
スリープの右手が冷気をまとい、向かってくるルナトーンめがけてげんこつをぶちかました。ルナトーンは少し後ずさりしたものの再度向かってくる。命中した部分だけが凍りついているようだ。
「今だ、今度は凍った部分に『爆裂パンチ』!」
「そうはいくか!ルナトーン、横になってそのまま突っ込め!」
スリープがパンチを繰り出した瞬間、ルナトーンは体をスリップさせるようになめらかに横倒しにしてスリープの拳をかわし、その体をスリープの腹に押し込んだ。スリープの表情が苦悶の色を見せる。
「負けるなスリープ、そのままルナトーンをつかんで動きを封じるんだ。」
スリープは力を込めてルナトーンをつかむがルナトーンの方も凄い力で応戦する。体を縦に戻して激しく振り回し、スリープを振り払った。
(フッ、大したことはないな。これなら楽勝だ。アオイさんからのイメージアップにつながるはず。そうすれば作戦もやりやすいというもの……)
「ルナトーン、とどめの『冷凍ビーム』だ!」
スサノオは怪しげな笑みを浮かべながら最後の一撃を指示した。冷気の光線がスリープを貫こうとしたその時………
「『光の壁』!」
カオルは防御に転じ、何とか戦闘不能はまぬがれた。スサノオがチッと舌打ちをしているのがわかる。
「くっ…ええいこざかしい!ただ敗北がわずかに先伸びしただけよ!ルナトーン、今度こそとどめの『のしかかり』!これならば耐えきれまい!!」
ルナトーンはフワリと浮き上がり、スリープの真上から急降下を始めた。ところがスリープの脳天にぶつかる直前、その動きが止まった。
「ど、どうした!攻撃を止めるな!」
だがルナトーンは動き出さない。それどころか少しずつ上昇していく。
「『サイコキネシス』で動きを封じたのだ。形勢逆転だな。さあスリープ、ルナトーンを吹っ飛ばせ!」
スリープが小さな目をクワッと見開くとルナトーンは大きくアーチを描き吹っ飛ばされた。それはスサノオのいる場所に向けて飛んでいく。
「危ない、お兄ちゃん!」
そう叫び声がしたかと思うとその声の主がスサノオにかけより彼を突き飛ばした。スサノオは後ろに下がり尻餅をつき、もといた場所にはルナトーンが落ちてきた。気絶している。
「えっ……?なんで……?」
アオイは驚いた。突き飛ばした人物とはスサノオの付き人、ウズメだった。彼女はハッとしてカオルの方を見た。彼もまたウズメを見つめている。
「…ボロを出したな。付き人じゃなかったのか?」
「は…はかったわねっ!」
怒鳴るウズメに対してカオルは首を横に振る。
「いや、偶然だ。だがその偶然がお前達にとっては不運だったな。答えてもらうぞ。お前達は何なんだ。何のために正体を隠していた?」
「フッ、フフフ………」
カオルが『何だ』と言った瞬間2人は笑い出した。カオルはもとよりアオイも目を丸くしている。
「何だかんだと聞かれたら」
ウズメの声だ。
「答えないのが妥当だが」
続けてスサノオの声である。
「まあ特例として答えてやろう。」
2人同時だ。さすが兄妹、息もピッタリである。
「この世の破壊を防ぐため」
再びウズメだ。
「この世の平和を守るため」
またスサノオだ。2人交互にしゃべっているのだ。
「愛と寛大な悪を貫く」
「プリティーでセクシーな敵役」
それと同時に2人はバッと身をひるがえした。そこにはお見合い相手スサノオと付き人ウズメの姿はなく、かわりに胸に『NR』の文字のある黒い服をまとった2人の姿があった。
「ミコト!」
元・ウズメの少女である。
「タケル!」
こちらは元・スサノオだ。
「小宇宙(コスモ)を駆けるネオロケッツの2人には」
「バーニングブラッド!燃える明日が待ってるぜ!!」
……2人は燃えているが、まわりはあまりの寒さに凍りついた………
しばし沈黙ののち、カオルの氷が溶けた。
「ネオロケッツだと…何のためにこんなことをした。」
「指令だ。」
タケルが即答した。しかもかなり得意げに。
「我々の正体がばれてしまった以上は隠す必要もないので話してやるが、正体を隠してこの家と結びつき、この家の莫大な財産をネオロケッツの資金とする計画だったのだ。せっかくニセの経歴も用意されうまく入り込めたのにな。」
「あんたのせいでオジャンだわ!許さないんだから!」
ミコトはカオルをビシッと指さした。当のカオルは少々呆れ顔である。
「オレのせいと言われてもな…最終的に正体をばらしたのもお前ら自身だろう。あの長いセリフ……」
カオルの一言が2人の胸にグサッと突き刺さった。効果は抜群だ。ふとアオイに目をやると彼女はカオルのその一言に小さく拍手をしている。追加ダメージがプラスされた。再び効果は抜群だ。
「お、おのれ……あの決めゼリフが完成するまでどれだけの歳月を費やしたと思っているのだ……侮辱するとは許さん!」
「そうよ!何度も試行錯誤を重ねた末に完成したんだから!あんた達にその苦労がわかってたまるものですか!行くのよヒノアラシ!あいつをボコボコにしちゃいなさい!」
ミコトはカオルに向けてネズミとモグラの中間のような姿をしたポケモンを繰り出した。対するカオルも身構える。
「チッ…戻れスリープ。こっちはニョロゾだ。頼むぞ。」
「ニョロ!」
「あっ、カオルさん危ない!」
突然アオイが叫んだ。ヒノアラシとは別の方向から炎がカオルに向けて放たれていたのだ。アオイが教えてくれたおかげでカオルは間一髪かわすことが出来た。
「フッ、運のいい奴だ。あのまま動かなければ黒こげになって事は終わっていたのにな。それならばバトルで叩きのめしてやろう!なあデルビル。」
「デルルル…」
黒い体に骨のような模様を持つ狼を思わせるポケモンは低くうなり声を上げている。カオルはもうひとつボールを手に取った。ダブルバトルの構えだ。
「そっちが2体ならこちらも…」
「お待ちください!わたくしも戦います!」
アオイがすかさず名乗りを挙げた。みんな唖然とする中彼女はボールを手に取りながらツカツカと進み、カオルの隣に立った。
「アオイさん、気持ちは嬉しいがあなたの草ポケモンでは炎に対して不利だ。ここはオレがたたか……」
言いかけたところで色白ですらっとしたアオイの指がカオルの唇に触れた。
「いえ、これはわたくしの戦いでもあるのです。だまされたんですもの。彼等を倒さなくてはわたくしも気がおさまりませんわ。それにご存知の通りわたくしの草ポケモンは炎ポケモンが相手でも互角以上の勝負が出来ますわ。」
2人の目が1ミリの狂いもなくピッタリと合った。アオイがニッコリと微笑むとカオルの唇もゆっくりと緩み、アオイに微笑み返す。
「…わかった。2人で戦おう。行くぞ!」
「ハイ!」
アオイはとても嬉しそうにうなずいた。それを見たタケルとミコトは2人をバカにするかのようにほくそ笑む。
「バカな奴らだ。即席のコンビでオレ達に勝てると思っているのか。なめられたものだな。」
「あたし達はずっと一緒に戦ってきた兄妹!コンビネーションは誰にも負けないわ!」
2つのチームはじっと睨み合い、そしてアオイがボールを投げた瞬間、それがバトル開始の合図となったかのようにネオロケッツの兄妹が攻撃を仕掛けた。
「先手必勝だ!」
第49話に続く。
作者のうだうだ雑言
早いもので、この小説を書き始めてから1年が過ぎた(2004年2月現在)。だいたい50話弱。週刊誌のペースだ。仕事にも就いたので書くペースはだいぶ遅くなるかもしれない。あ、あともうひとつ執筆を遅らせるものが………新作のポケモンソフト、ファイアレッドとリーフグリーン!ルビー・サファイアで登場しなかったポケモン達の特性や使える新技もわかってきてそれを小説に入れられるようになったのはいいのだが……面白くてつい夢中になってしまう。全国図鑑完成目指して、オレの小宇宙はファイヤーのごとく熱く燃えさかっているのだ!ドッセェーイ!!
[アットの一言感想]
46話冒頭でタケルとミコトが受けた指令というのが、今回の件だったようです。
つか、ミコトがよく許したな……。
所詮、形だけで終わらすつもりだったから?
そんな企みもバレて、次回は決戦のようです。