ヤマブキシティでゴールドバッジをゲットしたサトリ一行はタマムシシティに到着した。
「よーし、ポケモンセンターで準備を整えたらジムに行くわよーっ!」
「どのポケモンを使うか決めたのかい?」
思いきり伸びをするサトリにコタロウが聞いた。
「うん。タマムシジムは草ポケモンのジムだっていうからロコンを先発で出すわ。」
「今回はちゃんと調べたのかにゃ。おみゃーにしてはいい心がけじゃにゃ。にゃはは〜」
笑うニャースの頭にサトリのげんこつが振り下ろされた。その部分が団子のようにふくれあがり赤くなる。かなりのダメージを受けた模様。
「あんたは一言多いのよ!さっ、ポケモンセンターに行きましょ!」
ポケモンセンター………
「サトリちゃんね。預かったポケモンはみんな元気になったわよ。」
モンスターボールを乗せたカートを押しているラッキーを連れたジョーイがサトリに声をかけた。
「ありがとうございます!さてと、ジムに行こーっと!」
サトリはボールを受け取ると跳びはねるように元気に立ち上がり、ボールを投げる真似をした。シャドーピッチングだ。
「まあ、ジムに挑戦するの?頑張ってね!」
「慌てず落ち着いて戦うんだぞ!」
「バッジを持って帰るのを待ってるからにゃ〜」
「うん!じゃあ行ってくるね!」
2人と1人の激励を受け、サトリは勇んでポケモンセンターを後にした………
第50話 ジム戦前の冒険
同じ頃、タマムシシティ郊外に位置する教会………
パイプオルガンの旋律が響き渡り、集まった人々が聖歌を合唱している。それも若い女性が大半を占めている。やがてオルガンの合唱がストップし、奏者がゆっくりと立ち上がり前を向いた。背は高く、女性のように美しい顔立ち、流れるような黒髪をポニーテールのように束ね、黒いマントのような服に、首には銀に光る十字架をかけている。女性達のお目当ては彼なのだ。
「はい、今日はここまで。シティの合唱コンクールまであと2週間を切りました。皆さん自宅練習も欠かさないように。」
「はい、シロウさま。」
教会をあとにする女性達は口々に小声で話している。
「シロウ様って素敵よねぇ〜。そのお姿を見ているだけでため息が出てしまいそう……」
「あなた毎日そればっかね…でも同感だわぁ〜。並みの女性だったらクラッときちゃうもの……」
「でもそれだけじゃなく音楽やポケモンバトルの才能もおありなのよね〜…天から二物も三物も与えられたまさに神童よぉ〜」
どれもこれも彼を誉める言葉ばかり、まるで人気アイドルのファンクラブのようだ。最も彼自身下手なアイドルよりルックスもスタイルも抜群なので同じようなものか。
「さて…何の用かな。」
彼は唯一人残った女性に背を向けた状態で言葉を投げかけた。女性は何も言わずに彼に近付き小型のディスクを差し出した。
「何の用かと聞いているのです。答えなさい。」
シロウが振り向くとそれを待ちかねたかのように女性が話し出した。
「シロウ様、会長からの指令です。このタマムシシティにネオロケッツの支所があることがわかったので“処理”するようにとのこと。詳しくはこのディスクをご覧ください。では…」
それだけ話し終え、ディスクをシロウに手渡した女性はまるで風のように素早く立ち去った。
「…おやおや、随分と早いお帰りで。お茶でも飲んでいけばよろしかったのに…といってももう聞こえませんか。…さて、この機械的なプレゼントの中身を見てみるとしましょうか…」
シロウは微笑みながら奥の部屋へ行き、ディスクにあるスイッチを押した。するとディスクの中心から幅広のレーザー光線が放たれ、そこにブラック・サン会長の立体映像が現れた。
「この道を曲がればジムだわ…ん?」
ふと上に何かを感じたサトリは空を見上げた。4つの影が見える。それはだんだん大きくなり、近付いてくるのがわかったため、サトリはその場から緊急退避した。影の正体は男女ひと組にポケモン2匹。サトリがいたところにまるでピンポイント爆撃のように正確に落下してきた。もしサトリが退避していなかったら彼女もこの見知らぬ連中の巻き添えをくっていただろう。
「あ、危なかったァ〜…だけど人とポケモンが降ってくるなんて天気予報では言ってなかったわよォ…あっ!」
冗談をつぶやくサトリだったが2人の服を見て驚いた。黒字に赤の『NR』…ネオロケッツだ。感づいた方も多いだろうが彼等は前回カオルとアオイによって天に飛ばされたタケルとミコトである。幸運にも(?)神さまに嫌われて無事に(かどうかはわからないが)地上に戻ってきたのだ。
「あ!」
サトリは慌てて近くの木のうしろに隠れた。2人が目を覚ましたのだ。
「…う〜ん…いったァ〜い!あのツンツン頭絶対許さないんだからァ〜!」
「くううっ…ミコト、とりあえずは支所に帰ろう。戻れデルビル。」
「うん…戻ってヒノアラシ。」
2人はポケモンを手持ちのボールに戻すとそのまま歩き出した。市街の方だ。
「支所…?奴らのアジトがこの近くにあるのかしら?よーし、ついていっちゃえ!」
2人の後をつけるサトリ。その頭の中はほんの軽い冒険程度の気持ちだ。ネオロケッツに対する恐怖心というものはない。今まで何度か奴らと戦っているが、一度も敗北は経験していないからだ。それはほとんどがコタロウの戦いだったのだが。その軽い気持ちが後になって彼女を後悔させることになる。
郊外の教会………
“…今言ったポイントに奴らの支所はある。そこを壊滅させよ。手段は問わぬ。もし邪魔をする者がいれば一緒に消してよろしい。これは会長命令だ。すぐに行動を起こすように。なお、このディスクは自動的に消滅する。”
役目を終えたディスクは小さな爆音と共にこの世から消え去った。
「何と古典的な…さて、行くとしましょうか。」
シロウはスクッと立ち上がり教会を出ると入り口の鍵を閉め、市街へ向けてゆっくりと歩き始めた。同じ頃、彼の目的地に2つ+1つの影が到着していた………
タマムシマンション第4号棟裏口………
「誰も見ていないな?」
「うん……」
タケルとミコトはそこからマンションに入っていった。サトリもこそこそとついていく…見つからないように柱に隠れながら少しずつ。これでは仮に見られていた場合彼女の方が怪しまれそうだ。そしてある一室の手前………
「ミコト、鍵を。」
「はい。開けるわよ。」
鍵を開け、中に入っていく2人。サトリは音を立てないようにすり足でドアに近付いていく。ドアの目の前に来たとき、中に入りかけた2人がその気配を感じ後ろを振り返った。そこには何とレオタードにスパッツといういでたちの少女がいるではないか。これは驚きだ。男にとっては喜びだ。
「な…なんだお前は…」
「ま、まさかあたし達をつけていたの…?」
「くっ……」(み、見つかった!)
相手が急に振り向いてきたためサトリは驚いた。心臓がバクバク言っているのがわかる。深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着かせる。
「そ、そうよっ!」(くぅ〜っ、引っ込みがきかなくなっちゃった…)
サトリは開き直った。もう引き返せない。彼女が2人を指さすと彼等は一瞬ビクついた。Gメンか何かかと思っているのだろうか。そう感じたサトリはモンスターボールを構えた。こうなったらバトルで相手を倒して逃げるしかない。だが普通にバトルと言っても受けてくれる相手ではないはずだ。なんとか上手く言ってバトルにこぎつけなければならない。
(…ごくっ、よし!この手だ!)「さぁ、アジトの案内をしてもらうわよ!それともバトルでやっつけてもらいたい!?」
「チッ…やってやるぜ!」
一歩前に出るタケル。だがそれをミコトが制止した。
「待って!お兄ちゃんは今戦えるポケモンがいないでしょ!ここはあたしが戦うからお兄ちゃんはその間に中へ!」
「ミコト…わかった!気をつけろよ!」
タケルはそう言い残し部屋の奥へ入っていった。それを見届けるとミコトもモンスターボールを構えた。両者臨戦態勢だ。
「ふぅん…お兄ちゃん想いなのね。」
「そんなじゃないわ。あたしとお兄ちゃんは…想いとかじゃなく…絆で結ばれてるのよ!あんたが考えているよりずっと強い血の絆でね!行くのよソルロック、あいつを倒せェーっ!!」
ミコトの繰り出したポケモンは太陽のような形状をし、2つの目を細めそこから赤い瞳をのぞかせている。
「ソルロック…隕石ポケモン。太陽光線がパワーの源。体を回転させて高熱を放つ。」
「なるほど…岩ポケモンね。だったらあたしは…行くのよ、カメール!」
「カメーッ!」
「先手必勝!『水鉄砲』よ!」
「ソルロック、『炎の渦』!」
カメールの放った水鉄砲が炎に包まれ、一瞬のうちに蒸発してしまった。渦はなおも勢いを落とさずカメールまでも包み込んだ。
「いいわよ!そのまま蒸し焼きにしちゃえ!」
その指示に従ってソルロックは炎の勢いを更に強めていく。このままでは本当に蒸し焼きだ。
「前にもこんなことが…そうだ、おじいちゃんのジムの最終試験の時のことだわ…あの時どうやって抜け出したか…そうだわ!カメール、『高速スピン』よ!!」
カメールが甲羅を軸に回転を始め、体を包む炎の渦を少しずつ散らしていく。そのままカメールはソルロックに体当たりをしかけた。
「な、なんてこと…でもそれぐらいの攻撃じゃソルロックにダメージを与えることはできないわよ。」
そう言ったのも束の間、ソルロックの体がグラッと傾いた。ダメージはそれほどでもないようですぐに体勢を元に戻すが、ミコトは信じられないというような顔をしている。
「そんな!あの小さな体のどこにそんなパワーが!」
「それはあたしにもわからないけど、この子のパワーは並みじゃないことは確か!カメール、続けて『気合いパンチ』!」
「ソルロック、『体当たり』で押し返すのよ!」
カメールの拳とソルロックの体がぶつかり合った。いや、正確に言えばソルロックの体がカメールの拳に突っ込んでいったのだ。2体のポケモンはそのままお互いに押し切ろうとしている。
「そっちもかなりのパワーがあるようね。でも勝つのはあたし!カメール、『怪力』よ!」
カメールはあいている方の手でソルロックの体をつかみ、両腕を使い力任せに突き飛ばした。
「今よ!最大出力で『水鉄砲』!!」
怪力の勢いに更に水鉄砲の威力が加わり、ソルロックは一番奥の壁に激突し気絶した。
「ええっ!そんな…」
「言ったでしょ?勝つのはあたしだって!じゃあ、あたしはこれで!」
サトリはそう言ってダッシュで立ち去ろうとした。がそれをミコトが呼び止めた。
「あら?アジトの案内をしてほしいんじゃなかったの?」
「げっ…それは…」
サトリは言葉につまった。バトルにこぎつけるために言った言葉がここで脱出を阻もうとしている。ますます後には引けなくなった。
(仕方がない!こうなったら中に入って隙を見て逃げるしかないわ!)「そ、そうね!じゃあ案内してもらうわよ!」
サトリはミコトに言い寄り、腕をつかんだ。次の瞬間、ミコトは物凄い剣幕になりもう片方の手でサトリの頬に平手打ちを放った。サトリはミコトから手を離し頬を押さえた。それをカメールは心配そうに見ている。
「いったァい!何すんのよ!」
「それはこっちのセリフよ!!」
ミコトが叫んだ。その顔は怒りに満ちている。
「あたしに触れないで!あたしの体に触れていいのはお兄ちゃんだけなんだから!!」
「か、からだ…!?」(なによこいつ!ブラコンじゃないの!)
そうサトリに向けて怒鳴りつけるとミコトは振り返ってソルロックをボールに戻した。顔は元に戻っている。とてつもない変わり身、いや変わり顔の速さだ。
「お疲れさま…ゆっくり休んでね。」
「そうだわ、あたしも…カメール、お疲れさま。心配してくれてありがとう。あたしは大丈夫よ。」
サトリもそれに倣うようにカメールをボールに戻した。するとミコトがくるっとサトリの方を向いた。
「ちょっと…マネしないでよ。」
「な、なによ…マネなんかしてないわ。カメールをボールに戻しただけよ。変なことでつっかかってこないで。それよりアジトの中を案内しなさいよ。」
サトリは部屋の中に入った。だがそこはもぬけのから。団員達はおろか先に入ったはずのタケルもいない。
「え、誰もいない…って、どういうこと〜っ!?」
「フッ、誰がここがアジトって言った?」
ミコトも入ってきた。サトリを鼻で笑っている。
「で、でもあなたのお兄さんはここに入って… !ということはどこかに入り口があるのね!どこにあるの!?」
サトリは振り返ってミコトを睨みつけた。
「仕方ないわね。案内してあげるわ。でも…後悔するわよ。死ぬほどね。もしかしたら本当に死んじゃうかもよ?」
「ハンッ、なによ!驚かそうったってどうはいかないんだから!」(なによ、バトルで死ぬわけないじゃない!何言ってるのよ?)
サトリはミコトの言葉を先程彼女がやったように鼻で笑いながらついていった。だがネオロケッツとの戦いではそれが有り得ないことではないということをその身で実感することになる………
第51話に続く。
作者のうだうだ雑言
ついにこの『ポケF』も50話到達となりました。まだ先の見えない状態で『ついに』をつけるのはいかがな感じもしますが…正直言ってここまで来られたことに驚いています。面倒くさがりのぼくがここまで続けられたのはそう、今これを読んでくれているあなたのおかげなんだヨ……ここまで来たからにはあとは前へ前へ進むのみ。サトリ達と一緒に走り続けるぜ。これからもよろしくたのんます。
[アットの一言感想]
50話到達おめでとうございます。
前回の2人にシロウ、そして(自業自得だが)巻き込まれてしまったサトリと、ネオロケッツを中心に話が進み始めましたね。
シロウは例の怪しげな、会長(ポケモンリーグ所属だったカントー支部の支部長)とつながりがあるようです。
ブラック・サンって、ポケモンリーグ協会を脱退したカントー支部の新組織名だったはず(つまりジムリーダーの母サトミとかも属してる訳で)だけど、何度聞いても悪の組織と勘違いしてしまいそう←
会長が怪しさ3割増しな存在だし!
でも確か、シオンジムリーダーのレイカはこの名前気に入ってましたね(苦笑)。
第19話参照。