少女は希望を抱きつつ、少年は過去に苦しむ(前編)

 

 

 

再発するかもしれない病気という爆弾を抱え込む少女は、自分が何をしたいのか探す為に旅に出る。

同じく過去に苦しむ少年は、少女に出会い変わるのだろうか……?

そして、その二人を捕らえようと考える者、倒そうとする者がいる。

 「…………お前…………何者なんだよ……!」

 「……。オレは、ただのゲッター見習いだよ」

 ジャスは地面に倒れていて、シャーウは無傷だ。ポケモンすら。

でも、シャーウの目は異常だった。

いつもの目じゃなく、まるで……感情が無いみたいだ。冷たく、深海のように深い……漆黒の様に黒い瞳。

 「オレに手を出した事、後悔させてやるよ。ボーヤ」

 「なっ……本当にお前、シャーウって奴か……?」

シャーウは哂う。

 「オレは。オレは、デビー。デビー=ブラック。シャーウ=クロッサーの……悪い心さ」

 血肉が飛び散るのを楽しむシャーウを、審判であるルビアは止められなかった。

恐怖で身体が凍りつき、ただ叫んだ。

誰にも届く事の無い叫び。

 シャーウは、シャーウ=ブラックは…………悪魔だった。

悪魔の攻撃は、シャーウ=クロッサーが目覚めるまで続かれる。

 いや……シャーウ=ブラックが……目覚めたのか?

……………………。
 
 「ざ……ざけんな! 巫山戯たことを抜かすんじゃねぇ! シャーウ……シャーウと離れろなんて、どうしてお前に言われなきゃいけない!?」

 「あの子は私のものだと決まっているからさ」

ジムリーダーに勝ったアイスが直ぐ言われた言葉だ。

 「タダとは言わない。ここにいるポケモン、ポッチャマたちをあげても構わないさ」

 私は……。

私は、どうしてだろうか? 今日、無性に人を殴りたい。

 「テメェ……。許さない!」

そう叫んだ瞬間、扉が開いて、そこから見覚えのある人が現れた。
 
 「どうやら……。シルス、君の息子は居ないらしいな? しかし、私の目的は果たされる」

 お父さん?

嘘。嘘嘘嘘。なんでいるの? ジムは? いや、こんな所まで態々来る理由無いじゃない!?

 「…………君の実験には呆れるしかないが、私は娘さえ捕まえられれば良い。さぁ、アイス。今なら許すから、帰ろう?」

 巫山戯たことを抜かすな。

親って、どうしてこうも巫山戯たことしか言えないんだよ!

 私は旅をする。

 「…………。…………。私は」

 「お前が旅したって、どうせ途中で諦めるだろう。昔から、お前は何も出来ないのだから」

 煩い。

煩い煩い煩い黙れ!

 「家に帰るぞ」

手を掴んだマルスに、アイスは拒絶する。

 「巫山戯た……巫山戯たこと言うな! 私は……!」

 私は何の為に旅をしたい?

ジム制覇とかじゃなく、何の目的で旅をするの?

私は……。わ、た、しは…………。



 「アイスは、俺と旅をする!」

 よく通ったその声に、アイスは力がみなぎるのを感じた。

 「――――もう、逃げない! お父さん。私は、私の為に旅をする!」

 手を上げたアイスにマルスは一瞬反応が遅れた。

シャーウの声にシルスは時が止まったかのように微動だにしなかった。

 「これが――私の全て」

ボールを投げる。

そこには自分のパートナーが入っている。パートナーは自分が何を指示するかわかっている。

「ラプラス!」

…………………………………。

 昔からだけど、私は大事な人が離れていってしまう。

 妻、息子、娘と。

私が悪いのかもしれないけど、大切な者が消える悲しみを知っているのに消えてしまう。

 シルス。

シルス=クロッサーという男は優しい微笑の後ろに残酷な顔を隠すマッドメディカリストだ。

 妻を失った事が彼の全てを変えてしまったのだろう。

 血の繋がった息子に行った事を聞いたとき、私は信じれなくて、息子を自由にしてやれと説得を試みた。

でも、無駄だった。

 彼は――彼は、もう手遅れだ。

 『二重人格』

この言葉を聞いたことはあるだろう。

これは精神病にも似たものなのだが、正式名称『解離性同一性障害』と呼ばれるもので、彼が息子に行った実験は酷い。

 煉丹術という言葉に聞き覚えがあるだろうか?

錬金術と似ているが異なる術で、一般には錬金術の力によって薬を精製するという術だ。

 彼は、この術について研究していた。と、言っても齧っていた位なので腕が立つわけじゃない。

彼、シルスは……。

煉丹術によって作られた特別な薬を息子に与え続けていた。

与え、与え、そして彼は彼の望む息子を作り出した。



 「あああああぁぁぁぁぁ!」

 「シャーウ!? ど、どうしたの……?」

 そして、その人格は徐々に『シャーウ』という少年を蝕んでいく。

近い将来、彼を乗っ取ることと成るだろう。

 「――――――くくく」

 私はそんなシルスとその息子に何かするわけじゃない。

人間と言うのは結局自分のみが大事な生物だから、私はアイスが取り戻せればいい。

 「デビー≠サの娘を倒せ」

 「了解」

 声は一緒のその少年を、私はただ見つめた。

 「キノココ、メガドレイン」

 「ら、ラプラス!?」

 娘を助けられれば……。その為に、私はずっと守ってきた。

息子が嫌っても、何が起きても私はアイスを守ってきた。例えシャーウという少年とアイスが別れても私にデメリットは無い。
 
 けど、こんなに苦しいのはどうしてだろうか?

……………………………。

 「シャーウ!」

ラプラスをボールに戻した私だけど、ラプラスの怪我は酷かった。

 シャーウってこんなに強かったけ……? それに、デビーって誰?

 「…………。オレは、デビー<Vャーウって奴と別人だ」

 「ははははは! この私の最高傑作デビー≠ヘ、煉丹術の賜物だ!」

 れん……た……んじゅつ?

よく分からないけど、変な術に掛かっているのね、シャーウは。なら、その術を解いてしまえばOKじゃん。

 と、思っている私の腕をお父さんが掴んだ。

家に帰らせようとしているのではなく、私がシャーウと関わるのを嫌がっているような顔だった。

 「お父さん……?」

黙っているお父さん。

なんか、嫌だよ。

 「アイス……。あの子は、もう元に戻れない」

 「え?」

 「錬金術の知り合いというのか……錬丹術は、元々は薬を精製する古代の術なんだよ」

 お父さんがどうして知っているのか分からないけど、話を聞くと、シャーウは実の親の実験台として扱われていた。

そして、その実験とは別人格を作る実験で、近い将来シャーウはデビーに乗っ取られる。

それは、シャーウの優しさとかバトル嫌いな部分とかを失う事と成る。

 シャーウは前にバトル嫌いだと独白していて、どうしてかと聞いたら、バトルをしようとすると自分の『何か』が失われる気がすると言っていた。

シャーウは、感づいていたのだ。

自分の中にいるもう一人の人格について……。

 「お父さん! 何で諦めるの?」

 昔っから、お父さんは諦めている。

 「お母さんが消えて、お兄ちゃんが家出して、どうして諦めるの? 私を追いかけているのは諦めていないけど、それは、家に帰らしたいからじゃない。 お父さんは、心の中で気づいてる。諦めたくないと思っていて、私を追いかけているのはそんな気持ちを打ち消す為。 だって、お父さんだって旅の楽しさを知っているでしょ? 旅で成長した事もある。家出は悪いけど、それを追いかけるほど心が狭い人じゃない。 私を追うのはオマケで、本当は――諦める心を捨てたいだけ。お父さんは、本当は、お母さんを探したいんでしょ!」

 更にアイスは言う。

 「私は諦めないよ! 私は――シャーウと一緒に旅をして、楽しかった。一人じゃない事は私に安心を与えてくれた。 病気が再発するかもしれない私だけど、シャーウと一緒に居る時はそんな不安は消えてるの!」

 アイスはシャーウに向かってボールを突き出す。

 「見ててよお父さん! 私、シャーウを元に戻してみせる」

娘が家に居る時よりも元気に見えた。

 「s……デビー=I 私とポケモン勝負よ!」

 「……。死ぬなよ?」

 アイスとシャーウが同時に上空にボールを投げた。

いつもより綺麗な空だった。雲ひとつも無くて、ボールが徐々に落ちてくる。
 
 そして、地に落ちた。

 ボールが開く。

 「勝負!」

 二人が同時に叫んだ。

 

[一言感想]

 ……ま、逃亡者はいつかは捕まってしまうものですが(ぇ)。
 ところがシャーウがダーク化してしまうという、想像を上回る危機状況にはアイスも苦戦必至?
 今回は、父親と娘との、意地のぶつかり合いが見れましたね。

 

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