少女は希望を抱きつつ、少年は過去に苦しむ(後編)
シャーウの意識の中に入り込んだ3つの精神体は、シャーウの精神を探していた。
緑色の髪の少年、漆黒の髪を持つ美女、黄緑色の髪を持つ陰気な雰囲気の少女。
その3つは、シャーウという存在を探していた。
「シャーウたまっ! …………ヤミちゃま、シャーウたまが見つからないでしゅっ」
「キーっち。入り込んだばかりだから」
シャーウの心の中は複雑に絡み合っている。
いくつものの紐状の物が進行を妨げて、彼らを拒絶する。
これが、シャーウの心の中なのだ。
人を拒絶して、騙し続けていたシャーウの心の中はとても暗くて寒い。
「…………シャーウ様は…………奥に居るよ、絶対」
アイスにのみ少し開いた心だが、デビーの覚醒によって再び閉ざされてしまった。
そしてシャーウは心の奥にある牢屋の様な部屋で眠り続けている。
昔はその牢屋にデビーが眠っていたのだが、今はシャーウが眠っている。
正直言って……その牢屋は近づきたい雰囲気ではない。
「でも、私達でシャーウ様を救えるのかしら? うふ」
そう美女が呟いた瞬間、紐が襲い掛かってきた。
「……何、これ……」
「キノは予想外の行動されても陰気なままなのね――――!?」
紐を千切ろうとしたが、キノと呼ばれる少女が叫んだ。
「駄目! この紐はシャーウ様の精神と繋がってる……!」
「ぬぁんでぇすってぇ――!?」
…………………………。
「――――!? 何故? 何故動かないんだ、キノココ!」
ボールから出てきたのに全く動かない。
ならば、と他の2つも出すが、全員動かないで倒れてしまった。
「何故だ!? ――――。お。お前のせいか――!!」
「は?」
デビーの腕が首に近づいたが、アイスは別に避けようともしなかった。
マルスにも手を出さないように目で合図をして、ただデビーに微笑んだ。
「――シャーウ」
シャーウじゃないと知っていても、顔はシャーウだということに変わりない。
「シャーウじゃなくても、シャーウだよ……」
アイスは珍しく涙を流して、敵であるデビーに懇願した。
「シャーウを返して? 私の――仲間を返しなさいよ!」
首にある手を振り払って、デビー(シャーウ)の顔を叩いた、思いっきり。
パーンと良い音が響き、アイスは涙を流しながら叫んだ。
叫び、叫び、そして、アイスはデビーに指を差して言う。
「その子たちはあんたの言う事は聞かないわよ。だって、その子たちが信頼しているのはあんたじゃなくて
シャーウ。シャーウ=J=クロッサーなのよ!」
…………………………。
あ
い
す
?
アイスが俺の名前を呼んでいる。
アイスが俺を求めてる。
アイスが――アイスが――。
『シャーウたまっ!』『シャーウ様』『シャーウ…………様』
皆が。
皆が俺を呼んでくれている。なのに、俺はどうしてこんな牢屋で眠っているのだろうか?
デビーと共存できないのなら、俺は勝つしか無いじゃないか。俺が表の人格。
後で作られたデビーという存在に負けるわけには行かないじゃないか。
「あ い す」
もっと大きな声で言えよ。
デビーなんて存在を凌駕する力を俺は持たないといけない。
「みんな」
見える。緑・黒・黄緑……あぁ、俺のポケモンたちか。
ここまで、追いかけてくれたのか? ……嬉しいじゃないか。
「俺は」
俺の名前は何? デビー? デビー=ブラック? 違うだろう。
「俺は、シャーウ=J=クロッサー……!」
…………………………。
「シャーウ!」
「…………アイス」
まぁ、この後起きた戦いはあまりにはグロテスクなので省略。
食事前に読むと、絶対食べ物逆流することとなるくらいグロテスクだ。
それは、アイスとマルスが殆どやったようなものだけど。
さて、それは置いておこう。
問題は、今ここに、アイスとマルスが再開してしまった事である。
どうする〜♪ アイフル〜♪ じゃないけど。
アイス&マルス、お互いにお互いを見詰め合っています。
因みにアイスはお得意の煙だまを切らしているので逃げられない。それに、先ほどの惨劇でジムの扉が閉まっている。
ジムから逃げるなんて、不可能? まぁ、ガラスを割ったりすれば逃げられるかもしれないが。
アイスは服を握り締めて俯いていた。
逃げるつもりは無いが、何を言えばいいのか分からない。
謝る? 謝るつもりなど無い。自分が悪いとは思っていないのに……じゃぁ、今までどうして逃げようとしていた。
彼女自身は親に認めて欲しいと思っていたのに。
「アイス――――」
アイスは何を言うべきか思い付かず、ただ黙っていた。
「アイス……」
だから。
「アイス――……」
マルスのその行動に、更に混乱した。
「やっぱり――。私じゃ、お前の親には成れないのかな……?」
お父さんが――泣いた?
マルスは、涙を流してアイスの頭を撫でていた。
強くて、厳しい父は泣いていた。
気弱に、ただ涙を流していたのだ。
「お父さん……?」
「御免。私じゃ、やっぱりアイスの父には成れないのか――?」
…………………………。
アイスとマルスは実の親子じゃないのは知っていると思う。
アイスは、幼いオルガが見つけた子どもだった。
家族のどれとも違う、青い瞳に蒼い髪の女の子だ。
この地域では珍しい髪色をしている。
青い瞳であることも不思議だが、髪もとても綺麗で惹かれてしまった。
そして、アイスと一緒に手紙が置いてあった。
『この手紙を読んでいる人にお願いします。この子を育ててください。身勝手であるのは承知です。
しかし、私達には手に負えません。この子は、神に見捨てられた天使――悪魔の様な子どもなのです。
きっとあなた達もそれを知る。
だから、いざという時にはこの子を殺してください。
しかし、若しかしたら……若しかしたら神が微笑んでくださるかもしれない。そしたら、私達は報われる。
……今は殺さず、育ててください。
私達は――この子が15歳になったら迎えに行きます。生きていたら。だから――15年後、必ずこの橋の下にいます。
この子に出会える日まで。
それまで――お願いします』
本当に身勝手で支離滅裂で幻想的な手紙だった。
悪魔とか天使とか神とか。
でも、子どもに罪があるとは思えない。
そこで、私は子どもを引き取った。
一緒に暮らしてて、全く変なところは無い子どもだけど、身体だけは弱かった。
原因不明の病気で吐血する日もあるので目が離せなかった娘。
そのせいで息子も離れた。
息子が離れ――娘が離れ――1人しか残らなかった。
「違うよお父さん! ……私は、お父さんを――」
「アイス。『俺』は、お前の父親じゃないんだよ…………!」
「知ってる。お兄ちゃんが教えてくれた! でも、私は見もしない人より、お父さんのほうが好き!」
優しい娘に育ってくれた。
いつも護らないといけないと思っていたからか――俺は、娘の成長に気づかなかったんだな。
今までこいつを認めてあげられなかった。
認めて……欲しかったんだよな、アイスは。
「アイ――――」
でも、アイスの名前を呼ぶことは叶わなかった。
「サヨウナラ、そしてオヒサシブリ。アイス、父さん」
実の息子の冷たい瞳は近くにあり、その口から飛び出た指示によって俺の視界は暗くなった。
あんなにも、毒に抗体があったのに。
どんなに毒に抗体があっても、身体を鍛えていても、鋭い翼は俺を貫いた――。
最愛の息子の瞳は深海よりも暗い。
ウラバナ
マルスの死!?
オルガの目的は!?
そして、アイスは何を目指す? シャーウはもう一人の自分と戦う?
次回『涙。再会(予定)』
オルガはアイスの為に戦い、アイスはオルガを嫌う。
人の想いとは、その人に届かないものなのかな……?
シャーウ「この物語は大体シリアスを目指してたから良い傾向かもしれないけどさ」
でも、happy endを目指してますから(苦笑)。
最後には皆仲良し! が良いですねw
[一言感想]
ハッピーエンド以前に、シャーウが殺されてますけど……(いや死んでないから)。
アイスが、極度のツンデレということが分かっただけでも良しとしましょう(オイ)。
さて、ようやく事態が落ち着いたかと思ったら……今度は、マイスの命がピンチと、休まる時がありません。
ほんと、アイスが体調を崩さなければいいのですが。