「ア、アスさーん……待ってよ〜」
そこは、人里離れた森の奥。
13歳の少女2人は、ちょっとした探検気分で、その場にやって来ただけだった。
「ここ、薄暗くって……オバケ出そう……」
「大丈夫よ。ゴーストポケモンが出てきたって、あたしとミキの実力ならチョロイもんでしょ」
背の低い方の女の子が、背の高い方の女の子の腕に、ひしっとしがみつく。
実際、周囲には不気味な暗がりが広がっている。
時刻も丁度、この季節の日が沈む頃合。
あえてそんな時間に訪れたのは、肝試しの意味も含めての事なのだろう。
「あたしはむしろ、不審者がいないかが心配だわ。ミキの貞操が危ない」
「博пI?」
「だって、あたしは逃げるもん」
「私も逃げるよ!」
「……トカゲはね。身の危険が迫ると、囮に自らの尻尾を切り離して、逃げるのよ」
「堂々と見捨てる宣言しないで! アスさんの場合、ほんとにやりそうだから怖い!」
「大丈夫よ。ミキは、再生能力付きだから」
「ほんとにトカゲの尻尾!? そんなアビリティ、身に付けた覚えないよ!」
「先っちょの炎さえ消えなければ、死なないから無問題」
「それヒトカゲ! しかもその子は、たぶん尻尾失ったら死んじゃう!」
ひたすらわめくミキの姿を、なんとも愉快そうに楽しみながら。
アスと呼ばれた背の高い、S(?)な女の子は、軽い足取りで歩を進めた。
「それより、見なさいよ。この遺跡、結構立派よね」
明らかに人工と思われる、建造物跡前。
いつの時代、誰が作ったかは分からないが、ともかく2人はこれの前に立っていた。
古代の遺物というのは、それだけで一種の神秘性を持つ。
人の興味をそそり、それが一体何であり、どういう理由で存在するのか。
そんな、惹きつけられる謎を秘めている。
「(私には、不気味にしか見えないけどなぁ……)」
半ば引きずられ気味に来たミキとは対照的に、アスは目を輝かせて遺跡を眺めていた。
その瞳に浮かぶは、『$』マークの文字!
「金銭目的!?」
「この遺跡、文化的価値はどれくらいになるのかしら〜♪ ……あーでも、こんなに放置されてるってことは、大した事ないのかなぁ」
すると、『$』の字は消えていく。
あまりに分かり易い親友の態度に、ミキも一瞬、恐怖を忘れかけた。
「ねぇ、アスさん。帰ろうよぉ……」
だが、やはり長居はしたくないらしい。
アスの服をくいくい引っ張り、撤収を促す。
「そうね。(金目の物無さそうだし)帰ろっか」
「って、さっきまでの意欲はどこへ!?」
「……ん? 何かしら、あれ」
ふと、アスが異変に気づく。
無人のはずの遺跡だが、奥の方で、何かしら発光するものが目に入ったのだ。
「誰か先客がいるのかしら。それとも、ポケモンかな」
「オ、オバケじゃないよね?」
「どうかしら。さっきはああ言ったけど、この辺にゴーストポケモンは生息してないはずだし」
「だから、そうじゃないってば〜……」
半べそ顔のミキは、アスの腕にしっかりしがみついたまま、よろよろとした足取りでついていく。
アスも少しは警戒しながら、発光する何かへと近づいていった。
…………。
それは、例えるなら扉。
明確に、ドアがついてる訳ではない。
ただ、それらしき物が引き抜かれたように。
人が通り抜けられる位の長方形の穴が、その壁に空いていた。
光っているのは、まさしくその穴だった。
「ここに、元々はドアがついてたとか、そんな雰囲気よね」
「……ね、ねぇ。なんか光、だんだん大きくなってない?」
「えっ?」
ミキが不思議な異変に気づいた、その直後。
発光は、突然に大きく膨れ上がった。
「きゃっ!!?」
「な、何よこれ!!」
光はたちまち2人の少女を飲み込み、さらっていってしまう。
輝きが消えた時、あとには誰の姿も残されてはいなかった。
attribute 〜Enter(序編)〜
【INFORMATION】カルネリア境界の間
――あなたが望むものを、選び取りなさい。
そこは、『部屋』だった。
壁は無い。
天井も無い。
真っ暗闇な、何も無い空間の中。
どれほど奥底から伸びているとも分からない、巨大な円柱だけがそびえている。
中空を漂うように……。
どこからともなくミキが降り立ったのは、円柱の頂上だった。
それでもきっと、ここは『部屋』なのだ。
壁は無い。
天井も無い。
はっきり言って、入口たり得る扉さえ見当たらない。
あるのは、ただ深淵の闇のみが抱(いだ)き続ける、暗黒の空間のみ。
にも関わらず、円柱の頂上だけは明るく、利きすぎるほどに見通しが利く。
そんな虚無の間であろうとも、声の主にとって、そこは紛れもなく『部屋』なのだ。
――あなたが望むものを、選び取りなさい。
再び脳内に響く、耳とは明らかに異なる侵入経路で彼女に至った、不思議な女性の声。
円柱頂上の中央に立つミキは、何の事かと、無言のままで周囲を見渡す。
すると床より、何かが浮かび出てきた。
――戦う力を求めるのなら、ツタージャの見つめるスペードの剣を。
床をすぅっとすり抜け、ミキの前に現れた物体。
それは確かに、銀の刀身中央に黒のスペードマークが象られた、一振りの両刃剣。
その更に向こう……断崖絶壁の更に先では、緑の体をした見慣れぬ生き物が1匹、空中に浮かんでいる。
声の主が呼んだツタージャというのは、この生き物のことだろうか。
――身の護りを求めるのなら、ミジュマルの見つめるハートの盾を。
再び別の方角に、今度は赤のハートマークが入った盾が浮かび上がる。
その向こうには、これまた空中に浮かぶ、水色と白のラッコのような生き物。
――魔法の術を求めるのなら、ポカブの見つめるダイヤの杖を。
そして、また別の方から浮かぶ上がる、先端に赤いダイヤマークが描かれた、魔法の杖のようなもの。
これまた、ポカブと呼ばれた橙色の仔豚のような生き物が、共に姿を現す。
――選べるものは1つだけ。
――さぁ。貴女の、望むものを選び取りなさい。
「…………」
正直、ここがどこなのか全く分からない。
まして、声の主が誰かなど知る由も無い。
少なくとも、ミキがこれまでに聞き覚えのある声ではなかった。
ただ、「選べ」と言われて、不思議とミキの手は動く。
「…………」
ミキが無言で選び取ったのは、ミジュマルが見つめる先にあるもの。
即ち、護りを司る盾。
それは手にした瞬間、不思議な光を放ちながら徐々に透けていき……消え去る。
無くなった、というよりかは、自分の体の中に吸い込まれていった印象だった。
これが、身の護りを求めた結果として与えられたもの、なのだろうか。
――これから、貴女の戦いが始まります。
再び、先ほどの女性が語りかけてくる。
――それを乗り越える力を、今ここで示しなさい。
不意に。
それまで、ただ空中に浮かんでいるだけだった、ツタージャ、ポカブ、ミジュマルの3匹が。
こちらへ向かい、歩み寄ってきた……!
【INFORMATION】迫り来る敵たちを倒せ!
「……! チェリム!」
まず仕掛けたのは、ラッコの姿をしたミジュマル。
放たれる水の波動に対し、すぐさまミキはチェリムを繰り出し、マジカルリーフを放って相殺。
だが、すぐに別の方向から新たな攻撃が飛んでくる。
ツタージャのリーフストームが、ミキとチェリムを包み込んだ。
「脱出するよ。チェリム、突進!」
バキッ!
ミキが指で方角を指し示すと、やや強引めにチェリムがリーフストームの壁を突き抜けた。
チェリムの攻撃軌道上には敵のポカブがおり、突進の一撃で突き飛ばす。
しかし、リーフストームはかなりの威力を誇る技。
さすがにチェリムの方も、あちこちが傷だらけになっていた。
「(結構、レベルが高いのね)」
無理に戦い続けていけるほど、相手も弱くはない。
それをミキも理解し、確実な戦い方をする。
「日本晴れよ、チェリム」
そこで、まずは回復。
チェリムの状態を万全に戻すことに努めた。
――防御の堅さだけが、身の護りではありません。
――いたわり、そして癒しもまた。
――仲間の、ひいては貴女自身の護りとなるのです。
「マジカルリーフ!」
即座に、ミキとチェリムは追撃を再開。
そもそも、強引にポカブへ攻撃したのには訳がある。
彼女は見逃さなかったのだ。
ツタージャがリーフストームの攻撃を放ったのに続き、ポカブもまた口から炎を放つ攻撃に出ようとしていたのを。
チェリムがポカブに打撃を加えたのは、それが発射される直前だった。
結果、ポカブは突然の奇襲に、攻撃を中断せざるを得なかった。
草タイプのチェリムは、炎に弱い。
一瞬判断が遅ければ、致命的なダメージを被っていただろう。
「ッ! 来るよ」
実際、ポカブはマジカルリーフの追撃に耐えながら、今度こそ火炎放射で攻める。
チェリムからの攻撃も通りが悪い。
恐らくは、ポカブ自身が炎タイプなのだろう。
「(あんまり、時間はかけられないよね)」
火炎放射をギリギリでかわしながら、冷静に状況を読むミキ。
炎の攻撃は触れただけでもチェリムにとっては致命的。
しかもポカブは更に、体に炎をまといながら突っ込んでくる攻撃、ニトロチャージを放つ。
「(ツタージャ、ミジュマルも次の攻撃体勢に入っている……こうなったら!)」
3方向から向かって来る敵達に対し。
ミキとチェリムは、早々に勝負を決めに出た。
「花びらの舞い!!」
直後、大量の花びらが宙を舞った。
それらは、一枚一枚が刃となって全ての敵を切り裂く。
それはポカブのニトロチャージをも、強制的に止めさせてしまう威力があった。
立て続けに攻撃を受けたポカブは、これで目を回して気を失う。
「(あと2匹……いや、1匹)」
花びらの舞いは、ツタージャ、ミジュマルにも大きなダメージをもたらす。
特にミジュマルは水タイプらしく、草の攻撃は有効に働いた。
この段階で、ほぼ勝敗は決していた。
ミジュマルもどうにか水の波動で応戦してくるが、さっきよりも力がこもっていない。
チェリムは花びらの舞いの反動をキーの実で回復し、即座にマジカルリーフ。
水の波動を貫き、ミジュマルに叩きこませて気絶させた。
「ラストよ。チェリム、気を抜かないでね」
残されたツタージャは、葉の刃を竜巻状にして飛ばす技、グラスミキサーを発射。
その葉、一枚一枚に必中の技、マジカルリーフを放って相殺し……。
「突進!」
敵の攻撃の規模が小さくなったところへ、最後にツタージャへ打撃を叩き込む。
ツタージャの気絶に伴い、グラスミキサーも完全に消え失せた。
ボンッ! ボンッ!
「!?」
これで、敵は全滅させたはずだった。
しかし続いて、新たな敵の姿がミキの周りに4体。
全身を鋼鉄の甲冑で硬め、鋭利に輝く剣と盾を装備した、鎧の騎士たち。
今度の相手は……ポケモンではない!
――そう、これから始まる戦いは、相手がポケモンだけとは限りません。
また、声が聞こえる。
――不可思議な術に、神秘の武具。
――それらを操る者たちを相手に、ポケモン以外に戦うすべを持たない貴女が、どのように立ち向かうのか。
――見せて頂きましょう。
鎧の騎士たちが携える剣が、黄色い光を帯び始めた。
それを4人一斉に持ち上げ、今まさに振り下ろさんとする。
ただ、4人とミキとの間には、まだそれなりの距離がある。
少なくとも、このまま剣を振るったところで、切っ先すら触れられぬ位には離れているはずだ。
にも関わらず。
騎士たちは、難なくその攻撃が届くことを知るかのように、各々が剣を振り下ろした。
「…………。チェリム、日本晴れ」
それにミキも気づいたから、手は抜かない。
戸惑わない。
アスと一緒にいた時の弱々しさが嘘かのように。
淡々と、チェリムに指示を出した。
「行くよ、フラワーギフト!」
チェリムの特性は、日本晴れ発動時に味方を含め能力を上昇させるもの。
また、普段は蕾の姿をしたチェリム自身も花開き、姿を変える。
一方、騎士たちの振り下ろした剣からは、黄色い光がそのままビームのように放たれた。
4方向からの同時遠隔攻撃に、ミキは逃げ場が無い。
「……花びらの舞い」
ズォォォォオオっっ!!
まさに、攻防一体だった。
フラワーギフト発動状態のそれは、先ほどとは比較にならない程の威力。
嵐のような無数の花びらの渦が、剣から放たれたビームの全てを粉砕する。
鎧の騎士をもまとめて包み込み、打ち砕いた。
中は空っぽ。
人が入っている気配は無く、鎧だけがバラバラと崩れ落ちていった。
【INFORMATION】異世界の目覚め
その日の朝は、良く晴れていた。
外から差し込む太陽光が、暖かな香りのようにこうばしい。
よく眠る少女の顔を、窓ガラスが意地悪して日差しを照射する。
それが妙にまぶたをなじるものだから、彼女はしぶしぶ目を開いた。
「……ん、あれ?」
ミキにとっては、見慣れぬ部屋。
半分寝ぼけた彼女は、辺りをきょろきょろ見渡してみる。
「…………」
しばらく呆けていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「ミキ。起きた?」
「! ユメノさん」
そこでミキは、ようやく頭が覚醒する。
同時に、自分が置かれた立場を理解した。
「(そうだ。私、つい何日か前にやってきたんじゃない)」
いまだ自覚の薄い自身をたしなめながら、彼女は内心でこう付け加える。
「(……『この世界』に)」
自分たちが住んでいるのとは別の世界がある。
そんな夢物語、ミキやアスは実際に目にするまで、それが事実であるなど思ったこともなかった。
数日前。
遺跡にあった不思議な力に呑み込まれ、ミキとアスは異世界へとやって来てしまったのだ。
行くあても無く、途方に暮れながら旅をし始めた矢先、強力な野生ポケモン達に囲まれたのが先日のこと。
やや連戦が続いて疲弊した頃合だったものの、やむを得ずポケモンを繰り出そうとしたところへ……。
「デアリガス、炎のキバだ!」
「エリアス、渦潮よ!」
どこからともなく響いた、少年と少女の声。
そして眼前に舞い降りる、リザードとマナフィ。
恐らく、呼ばれた名はこの2匹の名前だろう。
ともかく彼らは、ミキとアスが手出しするまでもなく、あっという間に野生ポケモン達を撃退してしまった。
「怪我は無いかい?」
呆気に取られていると、30代ほどの男性が声をかけてきた。
よく見ると、その後ろには少年と少女が1人ずつ。
恐らく、先ほどのポケモン達を繰り出したのが彼らだろう。
「ありがとうございます! ミキの貞操以外は無事です」
「Σそのネタまだ続いてるの!? あと、そっちも含めて大丈夫だから、私!」
……かくして。
ようやくミキとアスは、こちらの世界での味方を見つける事ができたのだった。
この世界に来てから数日。
ミキ達は、すでに幾つかの村や町を巡ってはいたのだが、異世界から人が来るなどという謎めいた現象に助けてくれる者には出会えずにいた。
しかし、どうもこの3人組は、一般の人たちとは毛色が違ったらしい。
「君たちの名前を、教えてくれるかな?」
彼ら3人は、『理ノ峰』と名乗った。
炎ポケモン使いの少年、タツヒト。
水ポケモン使いの少女、ユメノ。
草ポケモン使いであり、ミキ達に優しく語りかける男性、スレイ。
「えっと……私は、ミキです」
「……アメシストです。アスと呼んでください」
理ノ峰というのは、ある役割の為に結成された集団らしい。
実際にはもっと人数がいるようなのだが、たまたまミキ達を助けてくれたのが、この3人だった。
「なるほど……。恐らくその遺跡に、太古の空間転送システムが組まれていたんだろうな」
「とはいえ、異世界にまで送り込むシステムとは……。にわかには信じがたいですね」
事情を説明すると、スレイとタツヒトはそのように話をしていた。
異世界とは言うものの、この世界はミキ達が元いた世界に大変酷似している。
話を聞くと、辿って来た歴史こそ若干の違いがあるものの、同一の地名が多く存在するとのこと。
もちろんポケモンもまた、多くの野生が同様に生息する世界だった。
「その遺跡に、案内してもらうことはできるかな?」
「は、はい。ここから何日か歩きますけど……ただ、私達が何を試しても二度と動かなかったんですよ」
「心配はいらない。私はこいつを使って、その扉とやらを開くことができるんだ」
ミキの顔色は不安げだったが、スレイはそんな彼女を優しく察してくれた。
そうして彼は、ある物をミキとアスに見せてくれる。
「こいつは、理ノ峰の草使い……『草峰』の証でね。時空間移動の力を持つセレビィに由来する、『空間を繋ぐ力』を秘めている」
スレイが説明するのは、翠色に輝くエメラルド。
透きとおった中を光が滑らかに通り抜けていく、美しい宝石だった。
「この力は、『扉』という概念のものであれば、それが続く先へとつなげてくれるものなんだ。その遺跡を通って君達がこの世界へやって来たというのならば、形はどうあれ、概念上は『扉』であるはず」
「……じゃあ、その宝石を!」
「奪えば、いいお金になりそう!」
「Σアスさん、違う!!(汗)」
……アスなら、元の世界に帰れずとも、楽しくやっていけそうだった(ぇ)。
「とにかく、心配する必要はないよ。その遺跡に到着したら、すぐに君達を元の世界へ帰してあげられるだろう」
炎・水・草の使い手たる3名と出会うことで、ミキとアスは元の世界へ帰れる目途が立った。
どうしていいか分からない中で彼らに出会えた事は、2人にとって幸運だったとしか言いようがない。
「スレイさんに出会ってなかったら、今頃あたし達は野山でのたれ死んでましたよ」
その日は小屋に泊まり、一夜が明けた朝。
上品げに朝食を口にしつつも、アスは笑い話のように身の上を語っていた。
「いや、アスさん……笑い事じゃないよ、それ(汗)」
アスは美しい少女だし、一見すると気品も漂う雰囲気を持つ。
なのに一緒にいると、どこか図太い内面を感じずにはいられない。
まぁそれも彼女の個性なのだが、思わずミキは、彼女を見てると笑ってしまうのだ。
表情に気がつかれないよう注意しながら、ミキも隣で朝食を口に運ぶ。
「ミキ。あなた今、あたしのことを『図太い』って思ったでしょ」
「え゛」
否、思いっきりばれていた!
「あたしのデリケートさにも気付かず、そんな風に思われちゃうなんて……ちょっと傷つくなぁ(もぐもぐ)」
「ご、ごめん……。私、そんなつもりは……」
「こうなったら、ミキには身を以って慰めてもらおうかしら(もぐもぐ)」
「狽ヲえ!? それ、すっごい危ない気するんだけど……」
「あらあら。ミキったら、何やらしい方向に考えを巡らせてるのかしら。あどけない童顔しといて、そんな子だったとはね〜(もぐもぐ)」
「……うーっ……」
とまぁ、そんなノリは朝っぱらから絶えない。
「あははっ。ねぇねぇ、2人は一緒に旅をしている仲なの?」
聞いてる内にお腹を押さえていた、水峰ユメノ。
彼女も同じ机で朝食を取りつつ、2人に問いかけた。
「今は旅はしてないんだけどね。でも確かに、どこか行くにもミキを従えて行ってました」
「し、従えられてたんだ、私……」
「そういう理ノ峰の皆さんは、そもそも何をしている方なんですか?」
ミキのささやかな反論(?)はスルーされる。
逆に質問を投げ返すアスに対して答えるのは、やはり同様に同じ机で食事を続けていた、草峰スレイ。
「うーん、一口で説明するのは難しいけどね。ポケモンを悪用する奴らが起こす事件を解決したり、救助活動なんかをしたり……ってところかな」
「へぇ、警察みたいなものですか。カッコイイ♪」
ところで今、食卓に集う頭数は4名。
ミキとアスは当然として、そこに水峰ユメノ、草峰スレイが加わっている。
しかし、ミキ達が出会った理の峰には、もう1人。
炎使いの少年、灯峰タツヒトがいるはずなのだ。
「そういえば、タツヒト君はどうされたんですか?」
彼の不在は、ミキにとっても疑問だったらしい。
灯峰について、水峰と草峰に問うてみていた。
「彼なら毎朝、熱心に特訓に励んでいるんだよ。実力を磨くことに、ひたむきな子でね」
感心げに、スレイは答えた。
それを聞いて、なるほどとミキも納得。
しかし……。
「けど、朝食の時間にも戻って来ないなんて。今日はいつになく熱が入ってるのかな?」
ただ1人。
ユメノだけは、どこか引っかかるものを感じていた。
【INFORMATION】襲撃者の攻撃に耐えろ!
暖かな朝食の場から、100メートルそこそこ離れた先。
小高い丘に、木の密度こそ少ないものの、雑木林が広がっている。
緊迫した表情のタツヒトは、木々の合間を、小柄な体で駆け抜けていた。
その後ろから、鋭利な刃が舞い降りる。
「っ! クローシス……!」
ズドォンっ!!
とっさに出現したフライゴン♂こと、クローシスが大文字を吐き出し迎撃。
「グォオッ!!?」
炎は、ほとんど爆発同然で襲撃の主を吹き飛ばした。
タツヒトを襲う凶器、ザンズースの爪は砕け、ザングース本人もまた煙をあげて地に伏せる。
「はぁ……はぁ……」
タツヒトは、すでに呼吸が荒い。
体のあちこちに泥がつき、もうかなりの距離を疾走していた事が伺える。
だが、彼は決して警戒を解かなかった。
理由は単純、敵の攻撃はこれで終わりではないからだ。
「さすがは、理の峰の炎使い。やはり姿を見せずに仕留めるのは困難か」
声と共に、何も無かったはずの空中に、男の姿は半透明から徐々に実体化していく。
それまで姿を消してそこにいたのか、あるいはワープしてきたのかは分からないが、ともかく彼は目の前に現れた。
それも、空中だ。
何の仕掛けも無し、ただ漠然と地上から5メートルほどを浮かんで漂い、タツヒトを見下ろしている。
「やはり貴方か。絶素ノ峰……死峰ラドノス=ロジクター」
わずか11歳の少年の態度は、肝が据わったものだった。
冷たい視線で睨みつけ、出現した敵に目で抗す。
「光栄ですね、ラドノス。理の峰においては新入りな僕であっても、かつての峰殺しで有名な貴方の目にかけてもらえるとは」
だが、それは表層だけ。
内面でかなりの焦り、そして己の立場が不利である自覚を、タツヒトはひたすら噛みしめ耐えていた。
「(『絶素ノ峰』……理の峰に敵対する存在達につけられた名だが、その中でもあいつは……!)」
相手の知名度は、その強大さを物語る。
悪名高いが故に様々な者から狙われつつも、それら全てを蹴散らしてきたからこそ、存在し続けているのだから。
目の前の男とて、それは例外ではない。
奴はかつて、死神の如き殺戮によって、裏の世界で名を馳せた男。
昔の理の峰に対して、多くの犠牲をもたらした事から、いつしか称された名が『死峰』だった。
「さて。では、改めて始めようか」
ラドノスはモンスターボールを手に取り、投げつける。
そこから出現したのは、2匹目のザングース。
「! さっきと同種のポケモン!?」
「力量(レベル)も、ほぼ同等。だが、さっきと同じ結果にはならないと思った方がいい」
「っ!!」
先手必勝と言わんばかりに、タツヒトのフライゴンは炎を吐きつける。
ドゴォっ!!
「…………」
ただし、この一撃で仕留められるような甘い相手だとは、タツヒトとて思っていない。
さっきとは違うと、ラドノスがはっきり宣言していたのだから。
ゆえにこれは、『何が違うのか』を確かめる為の一撃。
同じ技をぶつける事で、その差を明らかにするためのものだった。
「別に、構いやしないさ。灯峰」
「!」
「その目で違いを、じっくり見極めてくれ」
あたりには爆発による煙が立ち込める。
それはすぐに風で消えていったが、その向こうから現れたのは……。
「……ほとんど無傷」
悠然と立つ、ザングースの姿であった。
あちこちに黒焦げは付着してるが、大したダメージを受けていない。
「これが貴方の、要素拡散の力ということですか」
「あまり、能力を知られ過ぎているというのも考え物だがね」
ラドノスは右手を持ち上げ、掲げるような体勢でいる。
その手の先の周囲に、空気が渦巻くような旋風が舞っていた。
厳密に言うと、それは風ではなく、不思議な光の粒達だったが。
ただし、その効力はラドノスの手の身に限らず、この周辺一帯に広がっている。
「(くっ……クローシスが纏う要素力が、拡散していく……!)」
タツヒトのフライゴンが、徐々に脱力していく様子が伺えた。
フライゴンを覆っていた、能力強化のための『力』が、消え去っていく為である。
「そう。我が要素術は、他の全ての要素力を拡散させる。ポケモンを強化させる力の全てを消してしまうんだ。当然、君の要素力による強化支援も役に立たなくなる」
「……っ!」
「さぁ、灯峰。これで君は、丸裸も同然だ」
朝食の時間は、とうに終わっていた。
「タツヒト君、どうしたんだろう」
ミキは、ぼうっと窓の外を眺めていた。
結局、特訓に出かけていたタツヒトが帰ってこないのである。
「スレイさん。探しに行った方が、いいんでしょうか?」
「そうだね。こうなってくると、さすがに少し心配だ」
草峰と水峰が、ようやくそんな会話を始めた矢先の事。
「……え?」
光の弾丸だった。
恐らく、何かしらのエネルギーの塊を放ったものだろう。
……バキキっ!! メキメキメキっっ!!
気づいて警戒する間もなく、その小屋は弾丸によって抉られた。
一瞬にして、ほぼ倒壊同然に追い込まれた家屋の中で、家の中にいた者達は攻撃がやってきた方角を凝視する。
「理の峰が、他に2人か。始末するには、ちょうど手ごろな数のようだ」
ぐったりした様子な灯峰の少年、タツヒトを抱えて、不気味に空中を浮かぶ男。
そいつは大地に立つ屈強なザングースと共に、ミキ達の前に姿を現した。
続く
今回の作品『attribute』は、ちょっと特殊な進め方を予定しています。
最初からいきなり白状すると、冒頭で剣と盾と杖の中から1つを選ぶシーンは、普通にキングダムハーツが元ネタです←
話の途中途中に出てきた【INFORMATION】も、元はそこから来ています。
なので【INFORMATION】はサブタイトルというより、ゲームの中でプレイヤーに対する指示メッセージのようなものです。
しかし小説として書くと、全て指示メッセージにするのは結構大変なので、結局サブタイトルっぽい言い回しもよく出てきます(オイ)。
また、この作品は全体としてのタイトルは『attribute』ですが、必ず小タイトルがついてて、その中で数話ずつ話を作っていく形式です。
例えば、最初の話となる『Enter』は全4話を予定してます。
今後も何かしらの小タイトルの作品を順番に出していき、各数話ずつで話を進めていく予定です。
いや、たまに1つの小タイトルの中だけで話数が結構多くなる話とかも、予定としてはあるのですが(苦笑)。
そんな訳で、まずはEnter。
始まりっぽい意味の単語を探して、結果これに決めただけであり、実は特に深い意味はなかったりします←
ほら、ウェブサイトの最初のトップページにEnterって文字が書いてあって、クリックするとメニューページに行けるとか、あんなノリ(謎)。
……今後の小タイトルは今考えてます←
とりあえず、ミキとアスのやり取りは書いてて楽しい。
同い年なんだけどアスのがお姉ちゃんっぽくて、ミキのが妹っぽいイメージです。
理ノ峰は、翡翠さんが設定したキャラクター達(一部他の作者さんのキャラもあり)です。
一応、ポケモンの17タイプそれぞれのエキスパートが1人ずついるという設定。
始めということもあり、今回、理ノ峰から登場するメンバーは炎・水・草のみに絞りました。
ポケモンにおける基礎の3属性というと、やっぱり毎回御三家のタイプとして選ばれるこの3属性かと思い、Enterに登場させてみました。
とりあえず、最初からあまり大人数出しても、混乱させてしまうだけと思い人数を絞ってみたが……合計6キャラは、すでに十分多いかも(汗)。