「さーて、軽く服屋でも見てから帰ろうかしら」

 カントーとジョウトの境界に位置する町、シロガネタウン。
 そこの飲食店『WALKING(ウォーキング)』で食事を終えた、深希(ミキ)とアメシスト。

 店を出るなり、アスことアメシストは唐突にボーマンダ♀を繰り出すと、勢いよくその背に飛び乗る。

「え、アスさん!?」

「ミキは先に、宿へ帰ってなさいよ」

 などと去り際の言葉を残すと、アスを乗せたボーマンダはバサバサと翼を羽ばたかせて、宙に浮かぶ。

「わっ!?」

 巻き起こる風を浴び、一瞬目をつぶったミキが次にまぶたを開いた時には、すでに彼女の姿は無い。
 口出しする暇も無かったミキは、すでに遠くの空で小さくなりつつあるボーマンダの後ろ姿を見上げながら、1人ぽつんと取り残されてしまった。

「……もう。お買い物なら、私も一緒に連れていってくれても良かったのに」

 特に欲しい物がある訳でもないが、1人でとぼとぼ帰るぐらいなら、アスに付いて行った方が良かった。

 しかしアスの機敏さにしばしば出遅れるのは、何も昨日今日から始まったことでもない、そんなおっとり派のミキ。
 仕方無しに、彼女は孤独な帰路につくことにした。

「ん。何だろう」

 そんな折、斜め前方に見える道の角の、更に奥……そこが妙に騒がしいことに気付く。
 まだ店からほとんど離れていない所で、彼女は帰りの歩みを中断、何となく興味の赴くまま、曲がり角の向こうを覗き込んでみた。

 ……ドガガガガッ!!

「Σぶっ!」

 まるで神様が見計らったかのような絶妙のタイミング。
 ミキが道の奥を覗き込むのと全く同時に、周囲の壁は粉々に吹っ飛び、舗装されていた道路は無残に抉られていく。

 巻き込まれたミキの身体に、破片などが当たらなかったのは不幸中の幸いである。

「え、何……?」

 気づけば尻餅をついてたミキが見たもの。
 それは、一振りずつ剣を携えた2人の少年と、彼らに対峙しながらライチュウ♂やポリゴンZと共に立つ、更にもう1人の少年。

 茫然としている内に、ライチュウとポリゴンZを従えている方の少年が、ジロリとした目つきでミキを見下ろしてくる。
 そして、どことなく呆れたような表情で、一言。

「…………。何やってんだ、お前?」

「えーっ。私、明らかに巻き込まれた人間なのに、そんな反応されるの!?(涙)」

 話す声は、剣を持つ相手方の少年2人からも聞こえてくる。
 もっとも、あちら側はミキに向けて放った言葉ではないらしいが。

「おい、ケアル。あの女ってもしかして……」

「あぁ。先日、ラドノス様を退けたっていう奴だね」

 

 

 

attribute 〜FlowGod(次編)〜

 

 

 

【INFORMATION】ケアル&ザットを倒せ!

 

「ラドノス=ロジクターを、退けたぁ?」

 言葉は、ライチュウを連れる少年のもの。
 剣を携える相手2名への警戒を維持しつつも、彼は怪訝そうな反応を示す。

「え……あ、えっと……(汗)」

「…………。あー、もしかしてお前か。ユメノの言ってた、川端深希(カワバタ ミキ)って奴は」

「そ、そうだけど……ユメノさんのこと、知ってるの?」

 耳にしたのは、ミキにとって知った名だった。

 ユメノ=アーシアは、ミキがこちら側の世界に迷い込んできた際に助けてくれた、理ノ峰の1人。
 その後、石にされたアスを助け出す戦いにおいても、タツヒトや彼女の力を借りて絶素ノ峰と戦ったのだ。

「俺もユメノと同じ、理ノ峰だ。で、あっちの連中は絶素ノ峰な」

「えぇっ! 絶素ノ峰!?」

 そういえば彼は、剣を持つあちら2人との戦闘中にも見える。
 ミキは今頃になって、彼らが対立関係にあると気づいたらしい。

「聞いていたより、随分と鈍そうな奴だな。お前」

「そんな酷い……」

 初対面なのに、いきなりな言われ様にミキが涙目になる一方で。
 絶素ノ峰たちは、何やら静かに話し合う。

「おい、ザット。ここは一旦、退くぞ」

「は? 何でだよ」

「ラドノス様が遅れを取ったのは、あくまで相性が悪かったに過ぎない、という事は分かっている。が、それでもあの『中核因素(セントラル・ファクター)』の1人を撃退するほどの腕を持つ女だ。雷峰と組んで来られでもしたら、消耗戦になるぞ」

「だから、どうした。俺たちに勝ち目が無いとでも言いたいのか?」

「違う」

 ピシャリと、ザットの言葉を否定した。
 が、その上で。

「これだけ人に囲まれた中で戦うのは、あまりにも分が悪いからだよ」

「…………。へ?」

 間の抜けたザットの声が漏れた時。
 すでに周囲は、ワイワイ、ガヤガヤ。

「何なんだ、あいつら?」

「こんな街中で、物騒に剣なんか持ちやがって」

 ざっと20人。

「おい。まさか、また絶素ノ峰のやつらか?」

 かと思えば、すでに50人。

「嘘でしょ? でも、たった2人で、なんでこんなところに……」

 むしろ100人超えてね?

「拍Wまり過ぎだろ!!」

 気づけば、周りはあまりに多くの野次馬たちに埋め尽くされている。
 ケアルとザットは、いつの間にやら、すっかり見物の対象と化している。

「動物園ならぬ、絶素ノ峰園か」

「蝿モ味分かんねーから!! つか、俺達はめられた!?」

「誰もはめてない。街中でザットが派手な攻撃かましただけだよ」

 そして……。
 これだけ人が寄ってくれば、当然来るのは一般人だけに留まらなくなる。

「お前たち、武器を捨てて大人しく投降しろ!」

 キーンと鳴る拡声メガホンでけたたましく怒鳴りつける、町の警備に勤しむ方々が!

「ユウト、何があった!?」

 同じ任務でユウトと共に町に来ていた、理ノ峰タツヒトとマサシが!

「絶素ノ峰がまた現れたってのは、本当か!?」

「ほら。あそこでミキちゃんがぼーぜんと地べたに座ってる辺りだってー」

 飲食店『WALKING(ウォーキング)』の料理長と、アルバイト店員のフウカが!

「狽サこ同じ扱いなの!?」

 あっという間に人の海に囲まれ、何気に中心地にいる1人だったミキが一番慌てふためいていた。

「えっと、そもそも料理長とフウカさんまで、なんで……(汗)」

「絶素ノ峰がまた現れたと聞いて、黙ってられるか! こちとら、以前に町を侵略された経験を活かして、また連中がやって来た時に対抗する為の秘策を用意していたんだからな!」

 自信満々で語る料理長は、まるで何かに合図を送るかのように、バッと右手を空に掲げる。
 そして、その『秘策』とやらに呼びかけた。

「いでよ、カイオーガ!!」

「Σえぇーっ!!?」

 そいつは、特に繰り出されたモンスターボールとかから現れる訳ではなかった。
 ただ店の裏側からぬぅっと顔を出し、たかさ4.5mの巨体を屋根の上から覗かせる。

「え゛。マジでカイオーガ?」

 さすがにこの展開は考えていなかった、絶素ノ峰諸君は絶句もの。

「わー。すごーい。料理長、この子どうしたんだってー?」

「今度、町が襲われても自力で守れるようにとな。たまたまネットオークションで見つけたので、競り落とした!」

 などと、現代のネット文化の恐ろしさをさらりと言ってのける料理長だった。
 ……普通、売ってないと思う(汗)。

「ポ、ポケモンを売り物にするなんて、ダメ!」

「ミキちゃん。気持ちはわかるが、今の論点そこじゃないから(汗)」

 ツッコミを入れるマサシも、実のところ予想外な展開に大粒の汗マークを浮かべている。
 当初は自身が戦おうと思っていたのだろうが、なんかもそれどころじゃなくなってるし。

「さぁ、カイオーガよ。お前オリジナルの技を披露してやれ。デュアルスプラッシュ!」

 グォォっと、カイオーガは口を開くと、ハイドロポンプのような水の弾丸を2つ同時に発射。

「げっ」

 それは的確にケアルとザットめがけて飛んで行き、ズバシャァァっと炸裂。
 地面に大きな穴が2つ空き、周辺にいた野次馬数名が水しぶきの勢いで吹っ飛ばされる始末。

「わはは。どうだ、この威力!」

「アホー!! お前まで町を壊す気か!」

 たぶん一番まっとうな意見だったであろう、町の住人達からの野次が飛ぶ……。

 しかしながら、敵もさる者。

 ケアルとザットは直撃ルートの弾丸を受けながらも、それを剣の腹を盾にして受け止め、無傷の状態で立っていた。
 無傷……と言っても、全身ずぶ濡れで、髪の先からぽたぽた水が滴っている姿は、いささか無様ではあったが。

「……どーするよ、ケアル。あれ相手にするのは面倒そうだぞ」

「だから退くと、最初から言っている。ほら、行くよ」

 すると2人の身体が、白い光に包まれ始めた。

「! 要素術によるテレポートか」

「次はこうはいかない。覚えてるがいいさ、理ノ峰。『流れ神』は、必ず俺たち絶素ノ峰が頂く」

 シュウン!
 ケアルの言葉を最後に、2人組の絶素ノ峰は、何人もの町の住人たちが眺める中から、一瞬にして姿を消すのだった。

 

 

 

【INFORMATION】流れ神と絶素ノ峰を追え

 

「ほーら。いっぱいお食べ〜」

 近隣で採れた適当な餌をフウカに与えられ、あぐあぐと満足げに噛みしめるカイオーガ。
 日常風景にしては、少々ペットが豪快過ぎた。

 

「海の幸じゃなくて良いのかなぁ」

 そんな様子を、窓を介してぼんやり眺め、ミキは平和そうに呟く。

「気にする所がそこかよ……。つか、もう一般人は帰れ」

「……そんな酷い(涙)」

 ミキは、「うぅ〜」と唸りながら肩をすぼめる。

 辛辣な言葉を口にするのは、先ほどの戦闘で絶素ノ峰2人と対峙していた、ライチュウを連れていた少年。
 名は、城田裕人(シロタ ユウト)。
 タツヒトやユメノと同じ理ノ峰であり、電気タイプ使いとして雷峰の称号を持つ者だという。

 奇しくも今回、流れ神を追う3名の理ノ峰は、伝説の3鳥と同じ属性の、炎・氷・雷を担当しているのだ。

「(ユメノさんの知り合いだって言うけれど……やっぱりこの人、ちょっぴり苦手かも……)」

 絶素ノ峰を追い払った後、理ノ峰3名は改めて飲食店WOLKINGの店内にて、話し合いにて状況を整理していた。
 ミキが同席していたのは、何となく、その場の流れである。

「……えっと。つまり流れ神は、絶素ノ峰が捕まえるか何かしようとして、手を出したから暴れてたって事なの?」

「恐らくは。今後、流れ神を追う以上、先ほどの2人組ともいずれ遭遇するでしょう」

 答えてくれたのは、理ノ峰の炎使い、灯峰タツヒト。
 彼もさほど気さくな性格ではないのだが、こちらの世界に来た当初からの知り合いであった分、ミキにとっては接し易い相手だった。

「待った、タツヒト。正確には3人だ」

 一方でユウトとタツヒトは、割と馴れ合った感じで、先ほどから会話をしている。
 結構性格が違うように見受けられるが、同年代の男子同士、意外とウマが合うのかも知れない。

「元々もう1人、あの2人組とは少し毛色の違う野郎がいやがった」

「毛色が違う? 幹部か、何かですか?」

「どうも、そうでもないみてぇだったが……。とにかく、あっちも3人で動いてるようだな」

 会話が進む中、どうにも立場上、口の出しづらいミキはしばらく無言で眺めるばかりであったが。

「…………。あ、そういえば。えっと、セ……セン……?」

 不意に、何かを思い出したらしく、のんびりした声を発する。

「……んー……? ねぇ、『セ』ってなぁに?」

「白mらねぇよ、そんなんで分かるか!! お前が言いたいのアレだろ、『中核因素(セントラル・ファクター)』のことだろ! いくら何でも覚えてなさ過ぎだ!」

 容赦無いユウトの指摘に、ミキまたも涙目(何)。

「『中核因素(セントラル・ファクター)』。率直に言うと、絶素ノ峰の幹部のことだよ」

 答えてくれたのは理ノ峰の氷使い、氷峰マサシ。

 実のところ、第一印象は彼らの中で一番気さくそうに見えたが、そこは今回のチームにおける最年長ゆえの落ち着きなのか、これまで聞き役に徹していた。
 そんな彼が説明してくれたこのフレーズは、元々ケアル達の話の中で出てきたものを、ミキが断片的に覚えていたものだ。

「断片的どころか、頭文字しか覚えてなかったじぇねぇか」

「…………(泣)」

「え、えっとね(汗)。絶素ノ峰にも、やはり組織の頂点に立つ親玉がいるらしいんだ。
 この『中核因素(セントラル・ファクター)』というは、その頂点に最も近い実力を持つとされる8人の最高幹部を指した呼び名さ。その全貌は未だに分かっていないが……そうだな」

 マサシは、言うべきか否かを若干迷った様子だ。
 一呼吸置いてから、次の言葉を語る。

「君が戦ったラドノス=ロジクター……そしてゾルガ=エクストレームも、『中核因素(セントラル・ファクター)』の1人だ」

「えっ、あの人達……が」

 どちらも、ミキが忘れるはずの無い名だった。

 かつて数多の理ノ峰を殺したことから『死峰』と呼ばれ恐れられる男、ラドノス=ロジクター。
 すでに理ノ峰たちの力を何度も目にしたミキだからこそ、その強力さを伺い知るのは容易だ。

 彼女は一度ラドノスを撃退しているが、それは要素術を用いないミキの戦い方が、相手の要素術を阻害する力を持つラドノスにとっては相性的に天敵であっただけである。

 恐らく、本来の実力差はかなりのもの。
 もし次に戦う機会があり、ラドノスがミキとの相性の悪さに対策を持って臨んでくれば、結果は180度変わるどころの話ではあるまい。

 それ程の底知れぬ力を、あの男からは感じた。

「(私、そんな人を撃退しちゃったものだから……絶素ノ峰に警戒されてるのかな(汗))」

 しかし、ある意味それ以上に忘れられない名前なのが、ゾルガ=エクストレーム。

 何しろ先代草峰スレイを、ミキの目の前で殺した張本人なのだ。
 ミキ自身もゾルガの石化の力で、3年もの間、石になり続けていたのである。

「(…………。スレイさん……)」

 ラドノスも、十分恐ろしい相手には違いないのだが。

 ゾルガに至っては、更に異質な……。
 何か、こう、触れてはならないような存在感を受ける。

「彼ら『中核因素(セントラル・ファクター)』には、理ノ峰のような『峰』の付く二ツ名が与えられている。例えばラドノスが、『死峰』と呼ばれているようにね。もっとも、ラドノスは連中の中でも例外的で、周りから呼ばれたあだ名がそのまま称号として付いたようだが」

「……おい。そろそろ行こうぜ」

 急にユウトが立ち上がる。
 その行動自体が、話を切り上げようという合図だった。

「え。みんな、もう行っちゃうの?」

「ここからは絶素ノ峰と、どちらが先に流れ神を見つけるかの競争になるしな。それに、もたついてて無関係な奴を巻き込むのも好かねぇ」

「…………」

 それは暗に、ミキもまた無関係な人間と告げていた。
 そこにミキは、ユウトとの壁を感じる。

「そうだな。……これが恐らく、理ノ峰としての最後の仕事だ。気合いを入れないと!」

 述べたのは、マサシだった。

「最後って、どういう事ですか?」

「あぁ。俺は元々、とある人物を追う為の情報集めが目的で、理ノ峰に入ったんだ。けど、ある程度の区切りがついたところで、いったん個人行動を取ろうと思ってね。抜けることは、すでにリーダーのキヨミさんにも了承をもらってる」

「そうなんですか……。理ノ峰で情報を集めるってことは、やっぱり相手は絶素ノ峰にいる人なんですか?」

「あぁ」

 そこでマサシの表情、そして声色が一変する。

「さっき話した『中核因素(セントラル・ファクター)』の1人、ゾルガ=エクストレームこそが俺の追う相手だ」

「……っ」

 ぞくっと、ミキの背筋に寒気が走る。
 その睨みは決して彼女に向けられたものでもないのに、横顔だけで戦慄をもたらす迫力だった。

 詳しい事情を知らないミキだが、それでも何となく察する。
 彼と、ゾルガ=エクストレームとの間には、何か因縁めいたものがあるのだ、と。

 

 

 

「……じゃあマサシさん達は、また流れ神を探しに行ったのね」

「うん。やっぱり潜んでいる場所としては、シロガネ山が怪しいみたいなの」

 シロガネ山のふもとに位置するこの町は、温泉地としてもそれなりの観光名所となっている。
 ミキとアスが泊まっている宿も、そんな中にある1つの温泉宿だった。

「あら。あなた方の知り合い、シロガネ山に入ったの? じゃあ、きっと凄い実力者たちなのね」

 休憩所のような部屋で、机を挟み向かい合うような形で座りながらミキとアスが話していると、宿の仲居らしき女性が話しかけてくる。
 女性、というよりも、むしろ少女か。
 ミキ達より少し年上に見えるが、恐らく20歳に届くかどうかという年齢である。

「……あ、ごめんなさいね。私は、葉織(ハオリ)と言います。立ち聞きする気はなかったのだけれど、会話が聞こえてしまったので、つい」

「気にしないでください。けど、シロガネ山に行けるのって、やっぱり強い人たちだけってことですか?」

「そりゃあ、そうよ。少なくともジョウト地方の中では、一番強力な野生ポケモンが住む場所だもの」

 やっぱりそうなのかと、ミキは内心納得する。

 ミキも、元いた世界におけるシロガネ山は、やはりそういう場所なのだという知識はあるが、こちらの世界とどこが同じで、どこが異なるのか、まだ不明点が多いのだ。

 ハオリと名乗る仲居が述べた通り、シロガネ山は屈強な野生ポケモンの巣窟。
 滅多な人が入れる地ではないが、その一方で達人クラスのトレーナーが修行に入る場としても知られている。
 だが、少なくともミキの世界では登山できる人を厳しく規制するほど、危険な場所には違いない。

「まぁ、そんな場所に住んでるような、変り者の祖母を持つ私が言うのも何だけどね」

 なので、この発言にはミキも度胆を抜く。

「えぇっ! ハオリさんのお婆さん、シロガネ山に住んでるんですか!?」

「もちろん護衛付きではあるけれど……。私のお婆ちゃん、知る人ぞ知る、預言者やってるの」

 さらっと、ハオリは何気に凄いことを口にする。

「よ、預言者……ですか」

「それで、力を一番発揮するには、あの山に籠ってるのが一番いいんだって。シロガネ山から、何かしらの恩恵でも受けられるのかしらね」

「へぇ……。いわゆる、霊山みたいなものなんですかね」

 近くにあった窓を、ミキは何気無く覗き込んだ。
 すでに外は暗いが、夜の闇の向こうに佇む山の影が、ぼんやり浮かびあがっているのを見て取れる。

「(もしかしてタツヒト君たち、その預言者に会いに行ったのかなぁ)」

 

 

 

【INFORMATION】預言者に会え

 

「いつになったら着くんだよ、その預言者の家ってのは!」

 いい加減、我慢の限界に達したのか、ユウトが声を荒げて怒鳴り散らした。
 彼よりずっと年上のマサシも、ここは寛容に彼をなだめる。

「も、もう少しのはずだから(汗)。とりあえず着いたら、今日はそこで休もう」

「必要ねぇ! さっさと流れ神を探さねぇと、絶素ノ峰に先をこされるだろうが!」

「ですが、闇雲に探し回っても見つかりませんよ。マサシさんの言うように、先に予言者といい方から情報を得た方が……」

 ユウト達3人が、預言者が住むと言われる家を探す理由は2つ。

 1つは、預言者というぐらいだから、どこで流れ神と出会えるのかを予知してもらえるのではないかという、情報目的。
 そしてもう1つは、シロガネ山を探し回る以上、拠点として使わせてもらえる宿が欲しいという理由だった。
 特に、いつ絶素ノ峰と戦いになるか分からない以上は、なるべく常に万全の態勢を整えておきたい。

 しかし、悠長な策がとことん肌に合わないらしいユウトは、ただ流れ神だけを求めてガンガン突き進みたい一心なご様子。
 いかにシロガネ山が屈強な野生ポケモンの巣窟と言えど、理ノ峰である彼らにとっては問題無く対処できるレベルであるし、とにかくユウトには退屈なのだろう。
 少し前から、不平不満を叫びっぱなしだ。

「とにかく俺は、さっさと仕事を終わらせて帰りてぇんだよ!」

「気持ちは、分からないでもないですけどね。ユメノさんも、待ってることでしょうし」

「……うるせぇよ、タツヒト」

 そんなやり取りをしつつも足を進める一行の前に、ようやく建物が見え始めたのは、すでに日が沈みきった後の話。
 淡い明かりが照らす入口の前に、マサシよりも少し年上ぐらいの男が立っている姿が見えた。

「お待ちしておりました。理ノ峰の皆様方」

 相手は名乗るより先に、こちらへ一礼しくる。

「あぁ? まるで、俺たちが来るのを知ってたみたいだな」

「もちろん、知っていましたとも。葉津(ハツ)様は、預言者ですから」

 男は身の丈ほどもある大きな槍を、鍛え抜かれた肉体を以て携える、門番の如き戦士に見えた。
 だが、そんな迫力ある姿を見せながら、あくまで一歩引いて、来客達にへりくだった態度を保つ。

「私は、預言者ハツ様の護衛に仕える、エルバイトと申します。皆さまの本日の寝床もご用意させて頂いてますので、どうぞこちらへ」

「……ちぇっ。なんか調子狂うな」

 頭をがりがり掻き毟ると、ユウトはそっぽを向いてしまう。

「ユウト、入らないのか? 流れ神を探すにしても、無理に駆けずり回るより、きちんと情報を得てからの方が早いぞ」

「分かったよ。ちょっとその辺ぶらついてから、あとで行く」

 素直に流れに従うのが、どうにも嫌なのか。
 ユウトはぶっきらぼうな態度のまま、シロガネ山に広がる森の中へ、勝手に散歩に行ってしまった。

「……まぁ、彼なら大丈夫か」

「それにしても、マサシさん。この、3人のチームだと、どうも一番の苦労人になりがちですね」

「え゛」

 ひとまずユウトは放っておき、マサシとタツヒトは預言者の家に入ることにする。
 家、と一口に言っても、外見ではそこそこの豪邸に匹敵する大きさだったので、中は広々としていそうだ。

 実際、中へ一歩踏み入れてすぐに開けた空間が広がり、目の前に大きな女性の像が立っている。
 恐らく4〜5m程の高さがあるであろう姿に対し、早速マサシが訪ねてみた。

「この像は?」

「ミキラフィア=リレイト様。……かつて、このシロガネの地で、聖女ミキ様と呼ばれて称えられた方だとか」

「聖女……ミキ様、ですか」

 タツヒトとマサシが、顔を合わせた。
 偶然なのだろうが、2人が同じ少女のことを思い浮かべたのは、言うまでもないだろう。

「わずか14歳にして、絶大かつ神聖な要素力を持っていたミキラフィア様は、当時この地に災いをもたらしていた『悪魔』を封印したと言われています」

 そんなタツヒト達の心中を知るはずもなく、エルバイトは淡々と語ってくれた。

「と言っても、そんなに昔のかたではないんですよ。私は直接会ったことはありませんが、このお姿も、せいぜい15、6年ほど前のものだとか」

「……その像は、私がここに住むと決めた時に、かつてこの地を守ってくれた聖女様に敬意を表す意味で置かせてもらっているものです」

 家の奥へとつながる通路の先から、しわがれた声が近づいてくる。
 だが、それは至極落ちつき、安らぎを感じさせる声色でもあった。

「よく来ましたね、理ノ峰の方々。この館の主、ハツと申します」

 程なくして、マサシとタツヒトの前に、杖をついた女性が現れる。
 眼鏡をかけ、だいぶ歳を召しているように伺える一方で、杖に頼りながらも軽々と1人で屋敷を闊歩する辺り、なかなか健康的な足腰を持つらしき老婆だった。

 

 

 

「さて、ここで1つ疑問なんだけど。その聖女ミキ様とやらが封印した『悪魔』って、どんなだったのかしらね」

 シロガネ山に広がる樹海に、そう滅多に人が立ち入るはずはない。
 故にユウトの散歩も、ただ1人の孤独なひと時になるのが自然な形であった。

「……知るか、そんなもん」

 しかし、実際は異なる。
 先ほどから、少女のものらしき妙な声がまとわりつくので、ユウトはうっとうしい感情を顔に出しつつ歩いていた。

 それから更にしばらく歩くと、森の中に不自然に大きな岩が見えてくる。
 縦横、共に2m程度の、球体と呼ぶにはあまりにいびつな塊だった。

 しかし、注目すべきはそこではない。
 その岩の上に、足を組みながらクスクス笑い続ける、赤い服の少女が座っているのだ。

「私は気になるわ。怖いもの見たさってやつ? いったい、どんな姿かしらね。化け物のような醜い姿かも知れないし……案外、見た目はただの人間と同じかも知れない」

 少女は結構幼い。
 たぶん、見た目は10歳に行くかどうか、そんな程度である。

 だが、口調に見た目相応の幼さは微塵も感じられない。
 どうにも人をおちょくっているかのような言い回しが、さっきから鼻につく。

「つまんないわね。あなたも、少し興味持ったら?」

「じゃあ、てめぇがその『悪魔』って事でいいだろ。もう俺に構うな」

「……いいわ、なら最後に1つ。あなた、どうせ流れ神は絶素ノ峰が捕まえようとしたから暴走してるとか、そんな風に考えてるんでしょうけど、実はそうじゃない」

 右手の人差し指を立てて、くるくる回しながら、少女は語る。

「私が、引き寄せたの」

 その言葉が聞こえた時。

 少女の姿は、岩の上から忽然と消え失せていた。
 少女の指は、ユウトの後ろから、彼の頬をさすっていた。

「……失せろよ」

 ユウトは、特に動じない。
 ただ乱暴に腕を振るって、背後にいる少女の影を薙ぎ払う。

 もっとも、すでに彼女の姿は無く、風に揺れて木々がざわめく中を、くすくすと不気味に笑い声を残すのみだった。

「なんなんだ、あいつ」

 幽霊にでも遭遇したかのような錯覚だが、あの声、あの姿は紛れもなく現実のもの。
 ユウトはいぶかしげな表情のまま、来た道を引き返して預言者の館へと向かうのだった。

 

 

 

【INFORMATION】灯台下暗し

 

「ふわぁ〜……」

 シロガネタウンにある、とある1件の温泉宿の裏手。
 ミキは、なんとなく早朝から目が覚めてしまい、あくび交じりに朝の散歩に赴いていた。

「うー……。やっぱり戻って、2度寝しちゃおうかなぁ」

 軽く目をこすりながら歩みを進めると、いきなり物影の向こうに、うごめく紅蓮の色が見え隠れした。
 朝日の降り注ぐ林の中にしては、あまりに異質の色である。

「…………。え」

 よく目を凝らすと、それは炎が燃え盛るような姿の、大きな鳥の翼だった。
 鳥は目を閉じ、暖かな朝の陽だまりの中を、すやすや穏やかな眠りについている。

 その微笑ましい姿が流れ神の一角であると、誰が想像できるだろうか。

「……ええええええっ!!?」

 

 

 

 続く

 

 

 

 起承転結って、難しいよね!(何)

 EnterもFlowGodも4話構成なので、ちょうど1話ずつ起承転結に当てはめていくこともできたのでしょうが……。
 いかんせん、そういった流れを普段意識して執筆しないもんで、どう書いていいかよく分からない←
 なので、相変わらず徒然なるままに書いてます(謎)。

 これもEnterからそうでしたが、とにかく登場キャラクターが多い。

 最初にミキとアスがいて、理ノ峰が3名いて、絶素ノ峰も3名……でも、フルバは今回出なかったか。
 加えて料理長&フウカちゃんに、仲居さんに、預言者さんに、門番さんに、像だけだけど聖女さんに、最後よく分からない女の子まで。
 モブ除いても今話だけで登場人物10名超えてるとか、いいのだろうか。いや、よくない(汗)。

 キャラクターは数よりも、1人1人を深く掘り下げて書きたいと思ってます……今後、できれば……。

 

 <オマケ>

 

「私の名前を出しそびれたとか作者がアホなこと言ってたけど、緋華(ヒバナ)っていう名前がちゃんとついてるから。『名前まだ設定されてないんじゃね?』的な感想を持たれたって、悔しくなんかないんだからね!」

 ビシィ! と、どこへでもなく人差し指を突き出しながら、夜の森の中で1人叫ぶ、赤い服のいかにも怪しい女の子。
 つか言い回しのツンデレさが、わざとらし過ぎる(汗)。

「今回、私はシロガネ山に流れ神をおびき寄せてみました。目的? んなもん、暇潰しに決まってるでしょ」

 右手の人差し指を突き立てて、くるくる回しながら、そんな身もフタも無いことを目を閉じてのたまう彼女。

「おびき寄せたはいいけど、せっかくだから捕まえてみたいのよね。そんな訳で定番な『ひもを結んだ棒を立てて支えたカゴで、ひもを引っ張るとカゴが倒れて獲物を閉じ込める』トラップを作ってみたわ」

「……定番な割に、説明長いね(汗)」 by.ミキ

 小説で表現するのは大変なのです←

「というか、相手は伝説のポケモンでしょ? そんなので捕まらないと思うけど……」

「と、それを口にするのは、漫画じゃ直後に相手がうっかり引っかかるフラグよ。だから大丈夫」

「えぇー……(汗)」

 と、そんな時。
 上空を、1匹のサンダーが飛び去った。

「! まさか、流れ神!?」

「……っ! 見切った!」

 狙ったように、棒につながるひもを引っ張るヒバナ。

 もちろんサンダーは上空にいて、カゴが倒れたところで捕まる相手などいない。
 だが、どういう力学が働いたのやら、ひもを引っ張った直後にカゴはぽーんと、空高く飛び上がった。

 それは正確にサンダーの頭に向かっていき……。

 

 ドゴンッ。

 

「秤スで出来てるの、あのカゴ!!?」

 いやに重みのある鈍い音が響いたかと思うと、サンダーは頭に大きなたんこぶをつけて、よろよろ森の奥へと落下していった。

「ちぇっ。逃げられちゃったわね」

「逃げてないよ、あれ墜落してるよー!!(泣)」

 ……流れ神、あと1匹(ェ)。

 

 

 

 このオマケって、アニメのBLEACHや未来日記なんかにある、Cパートのようだ(苦笑)。

 

 

 

[翡翠さんの一言感想]

 新しく現れる敵の影と、未来を見通す預言者。
 彼女の指し示す未来は希望か・・それとも。
 そして、へそ曲がりな雷峰は自分の立ち位置を示すのに精いっぱいの様相。
 若い峰とミキたちがうまくチームワークを発揮できると良いですね

 

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