"お前にとっての力とは何だ"
―――護る為に必要な物だ
―――それ以上でもそれ以下でもない。
"だがお前の力は人を傷つける"
―――大切なものを護る為の力だ
―――相手が傷付こうが気にはしない。
"傷つけることに大事なものやそれ以外と言う違いは無い"
―――割り切るしかないだろう
―――それが力を持つ者の義務だ。
4th「Beginning of Shadow.」
#1“獣”
――――遡ること四年前のトージョ地方ツチギシティ
この町にある風変わりな巨大な建物、そこに少年は居た。
その少年の居ない所で、少年について会議をしている。
どうやら何かの採用について巡っているらしい。
「はっきり言うと彼は、向いていない。……危険すぎる」
「………危険すぎる?」
一人の男がそう皆に告げる中、疑問を持った女性がそう尋ねた。
辺りは、がやがやと騒がしい。
「どうも彼からは、邪なオーラを感じる。だから向いていない、ただそれだけだ
力に固執し、周りを省みない。………ただ力を求めてきた獣だ。獣に護れるものは何も無い」
「だからとは言え決め付けるのは間違っていると思うわ。
まだことを起こしたわけでもない。求める理由も知らないで言うのは酷いと思うわよ」
「獣が何かを護ろうとしても護ろうとする対象が傷付くだけだ。
………野放しにしておくのも無理があるか飼いならすというのも悪くは無い。
だが俺は、獣の調教はしない。お前達でかってにやれ」
そう言うと男は、席を立ち会議室を後にした。
静観していた者達も自分の意見を主張し始める。
「………調教ね。難しいとは思うけど………」
「野放しにして手がつけられなくなる方が恐いか………」
「まぁ今は子供だ。手がつけられなくなる前に……」
飼いならすという方向へ話が纏まる。
そんな中、黒髪の男が自嘲的にそう呟いた。
誰にも聞こえないように小さく、そして意味深げに……
「………獣か。凛々しい番犬に育てば好都合とは悲しいもんだ」
――だが情の無い飼い主にはどんな犬も懐かない―――――――――――――――――――――
―――そう言う野生の感ってものが獣には、備わってるはずだからな――――――――――――――――――――
#2“手持ち”
―――トージョ地方ナグラシティセントラル。
今日もまた太陽が昇り、清々しい朝がやってきた。
だがかなりふら付いた足取りでポケモンセンターを目指す少年が一人。
その少年は、茶味掛かった黒髪を除き後は全て黒尽くめという風変わりな服装をしていた。
となりに居るそりゃまた風変わりな白色の毛並みを持つグラエナが心配そうに彼を眺めていた。
「…………やっぱり徹夜はきついな……」
と、少年は、手持ちのポケモンと思われるグラエナにぼやく。
其れに対し、少年のグラエナはこう返した。
「………静真(シズマ)、自業自得ですよ。……私は、知りませんからね」
「………そりゃないぜ、クレア。俺だって一仕事終えた後なわけだしさ。察してくれたっていいだろ?」
シズマと呼ばれた少年は、クレアと呼んだグラエナの言葉が聞こえるらしい。
但し、疲れていることからくる幻覚ではないのである。
少年は、クレアにそう哀願した。
「私は、他のグラエナより、大きいですがあなたを運ぶ事は、出来ません。
明朝とは言え、大都会の中核、気違いだと思われても知らないですよ」
「ならジェノー、頼んだ」
シズマは、溜息をつきながら腰のボールホルダーからボールを宙に放つ。
ボールが地についた時、中から通常の二倍はゆうに越えているボーマンダが繰り出された。
そんな緊急事態に道を行く人たちの足が止まる。
化け物と言わんばかりの周りの驚きは、ものすごい物だっただろう。
「ジェノー、シズマの頼みですが聞く必要は無いです」
「クレア殿、了解だ。古人曰く"可愛い子には旅をさせろ"と言うことですな」
ジェノーと呼ばれたボーマンダに頼み事をしようとするシズマだったがクレアによって望みは途絶えた。
ジェノーは、微笑みながらボールの中に戻った。
其れを見届けた道行く人は、驚きを隠し切れぬまま歩き出した。
「ならテュ―ル!」
「………自分の足で歩け。俺は、お前を怠惰にさせるために居るわけではない」
シズマは、諦めきれぬようで手持ちのポケモンの力を借りようとする。
するとまたもや通常のオーダイルより一回りも二回りも大きいオーダイルが繰り出された。
だがボールの中でことを悟っていたようでシズマにこう呟きボールの中に戻った。
「ならノルディ達! お前達なら俺の気持ち分かってくれるよな!」
「分からない」
「分かりません」
「愚者に用はありません」
そう言って繰り出した残りのポケモン達だがそっぽ向いてしまっている。
因みに繰り出されたのは、普通より一回り小さいサンダースのノルディ
そしてルカリオのカロスとヨノワールのプネウマだ。
クレアが最後に、こういって締めようとする。
「だから言ったでしょ。私達は、あなたが堕落するのを手伝ったりはしないと」
「………其れは知ってるがそろそろあのじか―――――――――――」
「えっ、シズマ。シズマ、もうそんな時間だったの!」
シズマは、話を終わる前に、疲れが溜まっていたのかふらりと倒れてしまう。
言っておくがこの失神の理由は、疲れとは、何も関係は無い。
倒れたシズマが地面にぶつからない様に受け止めながらクレアは、そう叫んだ。
#3“???”
――――深淵の闇、そんな一つの光を差し込む事の無い闇
そんな場所に一人の少年がただ一人浮かんでいた。
「………なんで俺がこんな所に居る? またお前か?」
少年は、何も無いはずの闇に呆れながらそう呟いた。
そんな闇は、少年にこう語りかける。
「お前が何故、力を求めるのか其れを知りたくなっただけだ。
我は、貴様の心の闇が呼んだもの。………その闇、見させてもらう」
「………や、止めてくれ! 頼む」
だが少年の願いは無情にも適えられることは無かった。
何も見えず光がさすわけの無い場所にぼやけた光の様なものが差す。
そこには、一人の少女と平和な日常が浮かび上がった。
「この娘がお前の力を得るための理由か……」
「………止めてくれ、これ以上見せないでくれ……」
無情にもその光は、彼自身封印していた記憶の断片を映し出している。
その少女の笑顔、その少女の笑い声、その少女の仕草、その少女の………
そして悲しい結末、少年は悲鳴を上げた。
「うわぁぁぁぁぁ、止めてくれ! ………でもぼ、ぼ僕は…………」
「…………面白い物を見せてもらった。また聞くがお前は我が力を求めるか?」
全てを見終わった闇は、そう少年に語りかけた。
そしてその記憶の光は、消えてしまった。
少年は、小さく呟いた。
「………力。そう破壊の力、それがお前の力だ……」
「………違う、僕の力は………、破壊なんかじゃない」
「………望んだのは、我が主、つまりお前だ。今更、どういっても変えられぬ」
それを言うと闇は、少年の中へ入り込んでいった。
――――受け入れるべき力でなかったと知る前に………
#4“痴話喧嘩”
―――ナグラシティセントラルポケモンセンター。
その一室で一人のセミロングの茶髪が美しい少女が眠っている少年をその青い瞳で眺めていた。
少年は、寝巻き姿ではなく普段着のままベットに寝かされている。
どうやら寝ているというよりも運び込まれたといった感じだ。
「ったく、久しぶりに出会ったと思ったらこんな形で再会なんて……」
――………心配どころじゃすまないわよ――――――――――――――――――
―――まぁこの旅で大分成長は、したんでしょうけどね―――――――――――
と、少女は心配そうに呟いた。
眠っている少年は、まだ十歳としてのあどけなさを残したままである。
「………こいつ、寝顔だけは変わってないんだから……、性格は、あんな卑屈になったのに」
その寝顔を覗き込みながらそう愚痴をこぼしてみせる。
すると少年は、欠伸をしながら目を覚ます。
「ふわぁ〜、よく寝た!」
沈黙する事、三十秒それほどの時間を費やし捻り出した言葉はこうだ。
両者ともほぼ同時、シンクロでもしているかのようなタイミングだ。
「き、き、き、煌(キラメ)ぇ? えっとキラメさん、どうなってるの?」
「ま、間が悪い時に起きないでよ! 静真(シズマ)の馬鹿ァ!」
少年の名前は、海原 静真(ウナバラ シズマ)
少女の名前は、炎野 煌(エンノ キラメ)
二人は、幼馴染であり宣戦布告をしあったライバルでもある。
シズマの質問は、実に精確なものであろう。
『個室』、『ベット』、『二人っきり』、『異性』行き成りこの状態にめぐり合ったら驚くのも無理は無い。
その質問の回答者であるキラメは、既に顔が真っ赤に染まっている。
「オイオイ、殴るなって! 意味が分からないから!」
「勝手にしなさいよ! 私が拾わなかったら大都会の中心でぶっ倒れたまんまだったんだからね」
完全に気が気じゃないキラメは、シズマにビンタや肘鉄を食らわす。
どうやらあの時、倒れてしまったシズマは、キラメによってポケモンセンターまで運ばれたらしいのだ。
「だから殴るなって、頼むからさ。あっ、グフォォ!」
ドスッと言う鈍い音が辺りに響いた。
その音源はシズマの鳩尾だ。
つまり、キラメの正拳突きが鳩尾と言う名の急所を捉えたのだ。
普通なら目覚めた早々、また夢の世界と言う手筈だったのだが事は違った。
「………痛ってなぁ? 助けてくれたのは、嬉しいがふざけんのは、大概にしろよ!」
「何? 文句あるの? 助けてもらって文句があるのなら言ってみなさいよ!」
「あぁ、これは、助けるとは言わないな。ただの暴力だ!」
「そうだったら今度は、私、直々にあんたを町のど真ん中に投げ捨ててやるんだから!」
こうして壮大な痴話喧嘩が始まった。
顔を赤くしながらシズマに殴りかかるキラメと怒りながらも其れを止めようとするシズマの壮絶な痴話喧嘩
それは、止めに入った別室のトレーナーなども巻き込みかなりの被害を出したと言う。
ここにナグラシティセントラルポケモンセンターの歴史に刻まれた―――最狂最厄(さいきょうさいやく)の痴話喧嘩と。
#5“戦う理由”
一人の少年が悩んでいた。
深く、ひたすらに誰の助けを乞うことも無く。
ひたすら悩んでいた。
食事もとらず、ただひたすら悩んでいた。
深く深く、熱心にただ物悲しそうにただ悩んでいた。
―――戦いを求める理由………。力を得るためなのか?――――――――――
――――何のために力を求める? それは…………――――――――――――
――――戦うのに理由は必要なのか。……必要なんだ―――――――――――
―――――純粋に戦いが好きだから。………違う―――――――――――――
―――――大事なものを護る為だ。……そうだよな――――――――――――
――――――俺は大事なものを護れているか。……足りない――――――――
――――――何が足りない? そう力だ―――――――――――――――――
――――――なら力を得るためには何が必要だ? 戦いだ―――――――――
―――――――理由は、そこにある。戦うしかないのか?―――――――――
―――――――お前の答えは、戦いと言う事だ! 戦いにしか道は無い―――――
「俺は、戦う。大事なものを護る力を得るために………」
少年は、そう結論付けると自分の心に言い聞かせた。
―――自らの戦う理由は、そこにあると………
―――他者とは、違っていても戦う理由はそこにあると
―――だいじなもの全てを守り通すという信念の元に
少年は、そう誓った。
―――どんな手を使っても
―――どんな風に思われようが
―――己の正義はここにあると
少年は、そう思う。
―――勝てばいい
―――勝たなきゃ何も護れない
―――敗者には、護る術は無いのだから
少年は、そう考える。
「俺はどんな汚い真似をしようが手に入れる。力を……」
少年は、突き進む、己の信じる道を……
弱い心など持ち合わせていないように思わせながら……
弱い自分を隠し、自分を強いと信じただ盲目に戦いを求める。
全ては、『己の大事なものを護り抜く』ただそれだけのために……
続く
[一言感想]
確かに極論で言えば、どんな事して手に入れたものであろうが力を得たもの勝ちです。
もっとも、得た力を十分に活かせるかどうかは別問題ですが。
活かせる力を得る手段となると、やはり自分で見出さなければならないいでしょう。
それとキラメですが、典型的な暴力系ヒロインのようです。
もうちょっと、おしとやかになってくれるといいのですが……(苦笑)。