そこは、薄暗く人通りの少ない場所だった。
 だがそこには、争った形跡があり、所々破損している。
 そこには、ここで争ったと思われる少年と少女が居た。
 敗者と思われる傷付き辛くも意識を保っている少女が勝者に呼びかける。
 勝者の少年を止めなければと思ったのだ。
 
「………行かないで………、お願い……、お願いだから………」

 普通ならとっくに気絶してしまうような状態で少女は、少年に願い続ける。
 少年は、丈の長い黒い繋ぎを着込んでいた。
 少年は、そんな少女を見てこう呟くと歩き始める。

「……………ごめん………、俺じゃお前を…………」

 ―――……護れない―――――――――――――――

 適うことのないことを少年に向かって少女は、願う。
 少女は、涙で顔を赤くしながら少年の行く先を見つめる。
 勝負に敗れ、傷付き大事なものを追えないもどかしさを感じながら。

「…………お願い……戻ってきて………私を見捨てないで…………」

 少女の願いは、少年に届くことはなかった。
 そして彼は、夜の闇と同化し、彼女の視界から消え去る。
 悲しみにくれる彼女を置いていきながら………

 

 

 

Aftar.1st「Silence & Sparkle.」

 

 

 

#1“平凡な日常”

 ―――トージョ地方カラマツタウン。
 ポケモントレーナーたちが熱狂したトージョリーグも終わり、また春がやってきた。
 清々しい朝であるがこの町の西部にある一軒家の住人の一人は目覚めて居ないようだ。
 寝ているのはセミロングの茶髪に青い瞳の可愛らしい少女だが様子がおかしい。
 枕が濡れてしまうほど泣いていたのである。

「……ふわぁ〜、今、何時だろ……」

 ――何か物凄く、嫌な夢だった――――――――――――――――――――

 ―――悲しくて………、どこか不安だった――――――――――――

 と、少女は、不機嫌そうに目を覚ます。
 まずは、顔を洗う為に洗面所に向かうことにした彼女なのだが不意に抱きつかれた。
 だが彼女は驚く素振りも見せずに、自分が小さくなったような少女を引き離す。
 だがその少女は、彼女とは違い髪が長く落ち着きがない。

「お姉ちゃん、おはよう!!」

 と、少女は威勢良く彼女に朝の挨拶をする。
 どうやら彼女らは姉妹のようである。
 だが普段のように姉である彼女は、妹に挨拶を返さない。
 寝起きだからぼぉ〜っとしているのもあるがそれだけでは無いようだ。
 顔を洗い、髪を整え、歯を磨く、いつもの習慣を終えるとようやく脳が冴えてきたらしい。

「つき(ツキ)、ごめんね。私、ちょっと変だったかな? 取りあえず、おはよう」

 と、彼女は妹であるツキに謝りながら朝の挨拶をする。
 それを見たツキは、彼女にこう呟いた。

「で、お姉ちゃん、お昼ご飯どうする?」
 
「えっと……そうね。え゛っ、お昼?」

「うん、そうだよ。あっ、やっぱりおはようじゃおかしかったね。」

 ツキの何気の無い一言を聞いてキラメは、驚愕する。 
 そんな姉の姿を見たツキは、疑問に思いこう言葉を付け足す。

「それがどうしたのお姉ちゃん? 今は、十二時だよ。
 もしかして静真(シズマ)君とでもデートの約束でもしてたの?」

 彼女の名前は、炎野 煌(エンノ キラメ)。
 去年のトージョリーグの三位入賞者であり、『トージョ三強』と詠われているほどのトレーナーだ。
 静真(シズマ)と言うのは、彼女のライバルであり、恋人と噂されている。
 海原 静真(ウナバラ シズマ)のことである。
 妹の指摘を受けたキラメは、急いで着替えを済ませるために自分の部屋へと急いだ。
 だがツキにこういい残してから……

「ただシズマの奴に呼ばれただけよ、間違えてもデートじゃないからね!」

 キラメは、妹に向けるとは考えられないほど殺気を孕んだ目でツキをも睨みつける。
 だがツキは、いつもの事だと言わんばかりに飄々としている。
 ただ並みのものなら殺気に当てられ気絶ぐらいはしていたほどである。

「お姉ちゃんのそう言うところを突っつくのは面白いな!」
 
 と、ツキは呟いたことをキラメは知らない。
 食事もとらず急ぎ支度をしたキラメは、家を後にした。
 血相変えて急いでいるとはこう言うことを言うのだろう。
 約束の時間に間に合うように急いだ目的地にようやく到着し、こう呟く。

「……はぁ、間に合った」

「いや、十分の遅刻だな。十分前集合ってのは常識だろ?」

 と、キラメがギリギリセーフでやってきたのに卑屈にも愚痴をこぼす男がいた。
 黒髪なのだが少し茶味掛かっているのが特徴の男―――シズマである。
 世間では、恋仲と噂されるのだがキラメ自身、彼とは腐れ縁なだけだと思い込んでいる。
 そんな彼に痛い所を突かれたキラメは食って掛かる。

「間に合ったんだからいいでしょ? 十分前集合ってのはね、間に合いそうにないとろい奴が使う方法よ
 私、とろくないもん! あんたはとろいから十分前集合なんてしてるんでしょ!」

「いや、十分前集合は常識だ。かえってとろい奴ほど十分前集合を否定するよな?」

 このまま彼女らを恋仲と知らしめる痴話喧嘩が勃発すると思われた。
 だが彼女らはそれを勃発させることはなかった。

「……取りあえず……、早く行きましょ」

「と、取りあえずだな。時間も無いし、さっさと行こうぜ!」

 喧嘩はする物のこう言う所で気が合うところもそう言われる由縁だと彼らは知らない。
 シズマは、ボールホルダーから一つのボールを選択し、空に放る。
 それが地についた時、腹に甲羅をつけた赤い翼のドラゴン―――ボーマンダが繰り出された。
 だがそれは、通常のボーマンダの比では無い大きさである。
 そして二人はボーマンダに乗ることにしたようだ。

「………きゃぅ! 何するのよ!」

「お前じゃ俺を掴んでても振り落とされるから俺が支えてやってんだよ。
 そうじゃない限り、俺がお前の嫌がることをすると思うのかよ」
 
 急に体を掴まれたキラメは、喘ぎシズマを振りほどこうとする。
 だがシズマは、冷静にそう呟く。

「なら空の上で逃げ場がないからって変なことはしないわよね?」

「さて其れは如何かね? そん時にならなきゃ分からないだろ? 行くぞ、ジェノー!」

 ジェノーと呼んだボーマンダにそう指示すると急上昇し、目的地へと向かいはじめる。
 
 ―――そう言えば旅の途中も優しかったわよね―――――――――――――

 ――――私は、シズマのことが好きなのかな……――――――――――――

「ふふっ、そうね。やっぱり、時間は守らなきゃね」

 
#2“血と絆”
 
 トージョ地方の上空を赤い翼の飛竜――ボーマンダが飛んでいた。
 その背には、二人の少年と少女が乗り込んでいる。
 どうやらその二人は、さきほどカラマツタウンから飛び立ったシズマとキラメのようである。
 シズマは、キラメがボーマンダから落ちないように支えているのだがどこかぎこちない。
 そしてキラメは、シズマに身体を預けているせいなのかいつもより、しゅんと為ってしまっている。
 耐えられなかったのかキラメは、シズマにそう呟いた。 

「ちょっとシズマ、話題ないわけ?」

「………話題と言われてもな。話のネタがないんだ……」

「物凄く暇だし、それに………恥かしいじゃない!」

 キラメの質問にシズマはそう答える。
 どうやらシズマも好きで黙っていたわけでは無いようだ。
 だがキラメは、それでも納得がいかない、顔を赤らめながらそう叫ぶ。
 恥かしさで頭が一杯になったキラメは、シズマを振りほどこうと努力する。

「いや、危ないから………」
 
 と、自分を振りほどこうとするキラメにシズマが説得するのも無理は無い。
 仲良く談笑をしているように見えるがここは、上空なのである。
 簡潔に言えば落ちたら死ぬ。
 そしてもつれ合いの結果、シズマは、有らぬ所を握ってしまった。
 一応、説明しておくがキラメの臍より上にある豊満な部分である。
 その瞬間、両者の顔が蒼白になった。
 だがその顔は、段々と赤みを帯びていき、キラメの悲鳴が響いた。

「シズマの馬鹿ァ! このド変態、犬畜生……!」

「いやわざとじゃないから……許してくれ!」

 ――前より成長してたとかそう言うことは、内緒にしておこう―――――――――――――

 ―――口に出したら本当に何されるかわかったもんじゃないしな―――――――――――――

 必死に謝るシズマだが必死に抵抗し、彼を振りほどこうとするキラメには届いていないようだ。
 変態と罵られながらもキラメの胸から手を離していないシズマもシズマである。

「………もう放してよ! 馬鹿シズマ」 

「分かったから暴れないでくれ………」

「ってあ゛っ、キャァァァ!」 

 気付いた時にはもう手遅れ、シズマの手は完全にキラメから放された。
 そこまでは、良かったのだが気付いていないキラメは暴れる事を止めない。
 不意にもキラメは、ボーマンダからずり落ち落下する。
 そしてそれを落ちていることに理解したキラメの絶叫が響いた。
 
「き、き、き、キラメが落ちた! ジェノー!!」

「"火中の栗を拾う"でありますな」

 ――………絶対に助けるから待ってろよ―――――――――――――――
 
 地上へ落下するキラメを受け止めようとシズマはボーマンダに指示を出す。
 彼女を追い急降下するボーマンダにしがみ付きながらシズマは、自分の力のなさを悔いた。
 ボーマンダから落下すると言う情け無い状況に陥ったキラメは、走馬灯を追う様に記憶を洗っていた。
  
 六年前のカラマツタウンの西の森、"深緑の森"と呼ばれる場所
 ここには、幾多もの運命の始まりがある不思議な場所である事は、間違いは無い。
 そんな場所に茶髪に青い瞳をした少女と茶味を帯びた黒髪の少年が遊びに来ていた。
 どちらとも四歳ぐらいと言ったところだ。
 この二年後、彼らに待ち受ける過酷な運命の訪れる前の少しばかりの平穏である。
 
「唯(ユイ)さん、今日は、来なかったね」

「うん、でも明日は、来てくれるよ。だから今日は、二人で遊ぼうよ!」

「うん! 何で遊ぶ?」
 
 どうやら唯(ユイ)と言う人物を待っていたようだが今日は折り合いがつかなかったらしい。
 二人は、遊びを決めたようで森の奥へと進んでいく。
 この森は、ポケモンが出てくるのだが気にしていないらしい。
 茂みから何かがざわめき音を立てて飛び出してきた。
 つまり、彼らはポケモンに襲われたのだ。

「キラメちゃんは、下がってて………僕とクレアが何とかするから……」

 と、少年はキラメと呼んだ少女に下がるように伝えた。
 キラメと呼ばれた少女は、軽く頷いて彼の後ろに回る。
 つまり相当、少年を信頼していると言う事である。
 敵のポケモンは、彼の目の前に一体、殺気を漲らせながら襲い掛かる機会を伺っている。
 そして威嚇をしながらも少年が繰り出した純白の毛並みを持つグラエナは、意味深げな事を忠告する。

「………ゲフフッ、こんな餓鬼のしもべに負けるほどわしは弱くは無いぞ」
 
「あまり、舐めていると怪我どころじゃ済まないかもしれませんよ」

 対峙した二匹のポケモンは、少年とキラメから離れていく。
 どうやらグラエナの機転により、間合いを謀ったともいえる。
 長い緊張の末、先に動いたのは、敵のポケモンだ。

「クレア、切り伏せろ! アイアンエッジ!!」

 鋭い牙を滾らせながらグラエナに迫る敵。
 それを見ながらも冷静にそして冷酷に指示を少年は送った。
 襲い掛かってきた相手の動きに乗り、攻撃の瞬間に一閃する。
 この技は、攻撃範囲が少なく斬り返しに向く技だが威力は、他のアイアン系に劣る。
 そして戦いの後、倒れる間際に敵のポケモンが呟く。

「………なっ…………、このわしが………、敗れるなど……。……有り得ぬ」

「……有り得ぬことなどはないですよ。特にこう言う戦いの場ではね」

「ゲフフッ、有り得ぬことは無いかそれも確かじゃな。……やれ、しもべども!」

「!!」

 次の瞬間、敵のポケモンの群れと思われるポケモン達が飛び出してきた。
 狙いは、キラメ達人間である。
 勝利からの油断、其れによってグラエナは、動く事は容易くなかった。

「………キャァァァァァ!!」

 飛び出してきたポケモンの数は、四、五匹と言ったところだ。
 キラメもこの歳にしては珍しくトレーナーだったが恐怖のあまり、ポケモンを出すことが出来ない。
 そして恐怖の現れとして悲鳴をあげ現実から目をそむける為に目を瞑る。
 だがその一瞬、喧騒は終わりを告げた。
 恐れを振り払いキラメは瞳を開く。

「………な、何で……何でなの………」

 周りの状況を確認しながらキラメは、少年の名を口にした。
 そう敵のポケモン達の攻撃を自ら受け意識を朦朧とさせ立っている少年の姿が有った。
 攻撃を終えたポケモン達は、第二撃のために一時離脱する。 

「…………キラメちゃんを守りたかった。ただそれだけだよ……」

 少年は、キラメに優しくそう呟いた後、そのまま仰向けに倒れた。
 どうやら少年は故意にキラメを守るため盾となったようだ。
 傷はかなり、のものであり血が溢れ出ている。
 そして彼のポケモンであるグラエナ――クレアが駆け寄る。
 その純白の毛並みを真紅に染めながら………

「な、何で……、何で私のために………こんな無茶を……」

 キラメは、自身も少年に駆け寄りながら涙を零しそう言った。
 それに対しグラエナのクレアは、聞こえるはずもないと分かっていながらもこう答える。

「………あなたが好きだからに決まってるでしょ。そうじゃない限りこの子はこんな事しません」

 そんな言葉は、届くはずもないのだがキラメには分かったような気がした。
 この少年は、自分のために自らを投げ打ってでも助けてくれる存在だと。
 キラメは、だから信じることにしたこの少年を。
 どんなに為ったとしても彼を信じ抜くと…………。


#3“眺め”

 少女は、目を覚ました。
 辺りには、少年とそのポケモンであるかなり大型なボーマンダが心配そうに眺めていた。
 目を覚ました少女を確認した少年は、態度を一変させこう少女を罵る。

「ったく、本当にとろいな。普通、あんな高さで暴れるか?」

「……あうぅ、言わないでよ。………恥かしいんだから! ちなみに怖かったんだからね
 ………あと……シズマ、私を助けてくれたの?」

 そのシズマと呼んだ少年に対し、一度の発言に三度態度を変え意思を伝える。
 少女の質問に対し、シズマは、赤面しながらもこう呟いた。

「……クッ…、……たり前だろ……。乗せてやったのに死なれちゃ気分が悪いからな……。
 それに………、お前だからって言う特別意識は無いものだと思えよ。分かったってるよな、キラメ!」

「ええっ、そうね。特別意識なんかあったら困るのよね」

 どうやら彼は、そう釘を刺すと言う事自体が認めているということを分かっていないらしい。
 そして聞くほうも聞くほうであり、それをそう言う意味と気づいているようで気づかないようにしているとも取れる。
 キラメと呼ばれた少女は、シズマに向かってこう呟いた。

「一応、礼は言っとくわね。シズマ、ありがとう」

 "ありがとう"と呟いた瞬間、彼女は、ニッコリと微笑んでいた。
 この感謝の気持ちは、本当であるらしい。
 其れを見たシズマの顔は、未だ紅潮している。
 そしてどもりながらもシズマは、其れを返した。

「ま、まぁな。ど、ど、どういたしまして………」

「それにしてもこんなに遅くなっちゃったけどどうする?」

 と、キラメは、シズマに問い掛けた。
 昼から出発した物のすでに夕陽によって綺麗にオレンジ色に染まっていた。
 今から目的地を目指したとしても辿り着くのは、夜中であろう。

「まぁいいや、目的はこうやって果たせたわけだし」

「シズマ、どう言うこと?」

 目的はすでに果たしたと言うシズマに疑問を抱き問い掛ける。
 するとシズマは、苦笑しながらこう呟いた。

「いや、夕陽が綺麗な場所を見つけたからそこで夕陽でも見せてやろうと思ったのさ」

「そうね。今、こうやって二人で夕陽を眺めてるわけだしね」

「ご免な、俺が言う場所で見せてやれなくて………」

 シズマは、キラメに申し訳無さそうに頭を下げた。
 だがキラメは、そんなことしなくてもいいと言わんばかりにこう呟く。

「命を救われたし、私に綺麗な夕陽とか見せようとしてくれるなんてことされたら怒るに怒れないでしょ?」

「………でも俺は……」

「細かい事は気にしない。一応、目的は果たせたんでしょ?」
 
 そのキラメの発言に対し、情けなくなったシズマは力無くそう呟こうとする。
 だがキラメは、微笑みながら其れを静止させた。
 夕陽を眺めながらキラメはシズマにこう話した。 

「夕陽は、凄く綺麗だけど……。直ぐに沈んじゃう………。
 どんなに鮮やかでどんなに綺麗でも………沈んじゃったらもう次の日まで見れないから……」

「………安心してくれよ。俺は、沈んだりはしないからさ………」

「……そうね」

「……そうさ」

 ――……シズマ………のことが好き―――――――――――――――――――

 ―――優しくて………、私の事を思ってくれる彼が……―――――――――――――
 
 シズマは、キラメの肩をポンっと叩き優しくそう囁いた。
 それを聞いたキラメは同意するように頷く。
 沈まない夕陽などありはしない。
 だが沈まないと心に決めた少年と沈まない事を信じる少女。
 二人の物語は、始まったばっかりである。

 終わり

 

[一言感想]

 今回はキラメがメインの物語でした。
 とりあえず分かった事は、キラメは典型的なツンデレ娘であるということ(オイ)。
 シズマの胸中ともども、今後の心の動きが気になるところです。
 それにしてもポケモンの空を飛ぶって、慣れないと結構恐いでしょうね……。

 

戻る