・小説「フォーメーションZ」
『Zの悲劇』
書いた人:J・ジャッキー
俺が操る無敵ロボ「フォーメーションZ」はバリバリと快進撃中だ。
それは今も昔も変わらない事実。なにせこのマシンは前進しか知らないからな。
止まることが出来ないのだ。ということでピコンピコンと計器が示す方向に向かって時速十キロで撃進中ってわけだ。
基地を出発してから半月が過ぎようとしているが、周りの景色は何ひとつとして変わらねえ。
遥か前方に見える地平線。左右は遠くに山。後ろは・・・前といっしょ。
そんな大自然のまっただ中、俺の孤独を癒してくれるのは一日一回襲ってくる敵だけだ。
一日の大半を寝て過ごしている俺はレーダーの敵襲を知らせる警告音で目覚める。
中空を一列に並んで飛んでくる小型の戦闘機。俺を見つけたら一直線に突撃してきやがる。
なかなか男気のあるやつらだ。地面にへばりついてて近寄ったら突然飛び上がる緑色のやつ。
あれには、はじめはびびったな。あとはふわふわ浮いてる白い鞠みたいなやつ。
あれは一体なんなんだろう? ほっといても無害だが一応撃っといたけどな。
初めて敵を倒したときは気持ち良かったな。
飛んでくる敵機をピチュンピチュンピチュンと撃ってバンバンバンとね。
この勇姿を田舎のみんなに見せてやれないのが残念だぜ。
俺、子供のときからこういうロボットに憧れてたんだよな(前進しか出来ないけど)。
さてそれではこのマシンの内部設備の話でもしようかな。
かなり問題ありだが。
俺が今座っているコクピットの前のパネルには幾つか計器が並んでいる。
速度計は時速十キロを指している。昼夜を問わず自動で前進し、さっきもいったように止まれない。
二十キロぐらい出るんだが振動がすごいんで十に落としてるってわけだ。
それからレーダー。敵が接近するとコクピット内の赤い電灯が点滅して、凄い音でわめきたてやがる。
いやでも目が覚めるってわけさ。
燃料計。週一回、補給を受ける。残り弾薬。これも週一回撃ち切れないほど補給を受ける。
あとは方向を示す計器。基地を出発してからずっとあのクソ博士の言った方向に向かって直進している。
俺の使命はその先にある悪の根源的基地を破壊することだと。
パイロット座席の後ろは冷蔵庫。入っているものは塩、醤油、酒が一升。それだけ・・・・・・。
キッチンもあるぞ。材料は何もないけど・・・・・・。カップ麺の湯を沸かすためだな。
気をとりなおしていこう。クーラーがある。結構快適だ。ドアを開けると便所だ。
ひとつ穴が開いてて、見えないけど外に直通のようだ。それと十四インチのテレビ。
はじめのうちは「まっ昼間王」を見るのが楽しみだったが出発してから三日目には何も映らなくなった。
電波が届かないみたいだな。そりゃこんな荒野のど真ん中じゃあな。
それとこれが最大にして根源の問題なんだが、通信機がない。
これについては何も言いたくない。
さっきちょっと言っちまったクソ補給についてだが、これについてもできれば何も言いたくない。
言いたくないことがいっぱいだ。
ヒゲのクソ博士が出発のときに言ったことには
「週に一回のペースで補給を受けられるように物資を置いてあるから心配するな」
だったよな?
俺は待ったさ一週間。歩きっぱなしでな。あったさ補給用花型コンテナ。
中身は燃料。弾薬。それと生活物資だが、飲料水。カップ麺ひとケース。コンビーフの缶詰三つ。
塩ひと瓶。醤油ひと瓶。酒一升瓶。
それと分厚い手紙が入っていた。
「ヤッホー。わしじゃ。わしのマシンの調子はどうかな?
おまえさんがこの手紙を読んどるころにはもうバシバシ敵を打ち倒しとるじゃろうなあ。
なにしろわしが設計開発したマシンじゃからな・・・」
「・・・わしの書いた小説を読んで鋭気を養ってくれい。
これはわしが活躍する恋愛小説じゃ・・・『花の嵐 第一回』
わしは恋人に死なれてからというもの愛というものを忘れようと努めて生きてきたが、
わしの蒸せかえるような豊潤的魅力とその少女の清純さゆえの初々しき可憐さの合致により、
ふたりが恋に落ちたのは至極当然の結果と言えた・・・」
「・・・おまえさんが退屈しとるといかんと思ってわしのお気に入りのCDを同封しておいた。
大事に聞いてくれい。それではくれぐれもお体に気をつけてください。
PS もし何か足りないものがあったら知らせて下さい」
「!!!!!!!!!」
俺は心の赴くままに何かをわめきたて、窓を開けて手紙を跡形無く破り捨て、CDを投げ飛ばした。
それからもと来た方向に機体を返そうとした。もちろんあのヒゲの妖怪の基地を破壊するためだ。
だがハンドルは回らないし傾きもしない。
あれ?俺は躍起になってそこら中をいじりまわしたが、方向は変わらない。
俺は呆然とした。
今まで気付かなかったのもあれだがこいつは本格的に前進しかしないらしい。
俺は命知らずの直進歩行兵器に乗ってるってわけだ。
・・・その晩、俺は塩を舐めながら酒をあおった。塩か涙か、とにかくしょっぱい味がしたな。
それから俺は一日一回襲ってくる敵を驚喜して撃ちまくった。
全ての敵にヒゲ野郎の顔をロックオンして破壊した。
敵パイロットの断末魔の悲鳴が聞こえたような気がしたがそれは全てヒゲ野郎の悲鳴ということにした。
だが一週間もしたらその行為に空しさを覚えるようになっていた。
俺は誰と、何のために戦っているのかわからなくなった。とにかく今は生きなければならない。
このテレビが電波を受信するまで歩き続けなければならない。
そしてこのコンビーフの缶を開ける方法を見つけなければならない。
俺がそうやって冷静さを取り戻したころ、いまいましい二度目の補給となった。
燃料、弾薬、水、カップ麺、コンビーフ、塩、醤油、酒。それと分厚い手紙。
前とまったくいっしょだ。まあ期待はしてなかったけどな。
「元気してるー?わしのマシンの活躍が見れないのがとても残念じゃ。
といってもこの手紙を書いてる今はまだ完成しとらんがな・・・」
「今週の『花の嵐 第二回』はちとエッチぃ内容になっておるぞ。
若いおまえさんには刺激が強すぎるかも知れんが・・・」
「ということでわしの膨大なCDコレクションの中から厳選した一枚じゃ。それじゃ、アデュー!」
期待しなければショックもそれほどでもない。
俺は至極冷静で、手紙を便所に置いておいた。トイレットペーパーがないのだ。
紙資源は有効に使われなければならない。
俺はこんな状況下でも地球に優しいぜ?
それから窓を開けてただの銀色の円盤を飛ばした。いやあ、よく飛んだよ。
出発して一ケ月が経った。つまり禁煙一ケ月達成ってわけだ。
人間やりゃあ出来るもんだね。外の景色は変わらないしテレビは映らないけど、まあ気長に待とうや。
相変わらず夜の孤独には酒と涙が手放せないが、じきに慣れるさ。
変わったと言えばひとり言が多くなったかな。それと敵を撃つのも単調で飽きてきた。
だが気を付けなければならないやつがいる。戦車だ。
こないだのこと、うつらうつらしていた俺は敵襲の警報で目覚めた。だが敵の姿が見えない。
きょろきょろと敵さんを探すと、いた。ほぼ真下に戦車だ。
俺のナイス反射神経でまたいでやり過ごしたからよかったが、危うく蹴つまづいて転ぶところだったぜ。
まったく誰だ、こんなとこに戦車を停めたやつは。
ジャンプはいけない。
ちょいと前にジャンプボタンってやつを押してみたんだがマシンの全長の三倍くらい跳び上がりやがって。
やばいと思って慌ててボタンから手を放したんだが、落ちる!
落ちる!
しこたまシートに尻をうちつけちまった。もう少しで危うく死ぬところだったな。
はじめの一ケ月ちょっとはカレンダーに印をつけていたが、
それもやらなくなったので出発からどれだけたったかわからない。いかんなあ。
無気力になってきたって証拠だ。まあこれだけ毎日同じ事を繰り返してたらそれもしょうがないかな。
もちろんあのヒゲがどうやって補給物資を設置したのかなんていう初歩的疑問は俺の脳裏にはもう浮かばない。
いつかの手紙に入ってたヒゲ野郎の写真を壁にはりつけて、
キッチンにあった果物ナイフを投げつけて暇潰しをしていたんだが(使い道がこれくらいしかないからな)、
それもいつしかやめちまった。ヒゲの顔を見ても燃えなくなったからな。
俺はぼろぼろになった写真を捨て、カップ麺を排拙するために便所に向かった。
クソをして紙で拭こうとすると偶然、クソ小説の野郎が目にうつった。
『第十回』。博士はニューヨークの私立探偵として人生の成功をおさめていた。
そうか、十週間か。するってぇと少なくとも二ケ月は経ってるってことか。
つまり二カ月間、人の顔を見てないし人としゃべってないってことだな。
特に感慨はない。
もう涙も枯れちまった。
俺は冷蔵庫にたまっていた十七本の塩と醤油をごっそり捨てた。
外は相変わらずの景色。地球って丸かったんじゃなかったっけ?
俺の妄想か?
「ハッピー! ついに完成したよー! フォーメーションZ!!
君が今乗ってるやつさ! ラッピー!!・・・」
・・・・・・特に感慨はない。人を恨んだり後悔したり、そういうのはとうの昔に忘れっちまったからな。
それよりも俺は、人はこんなにもハイテンションになれるのかということが不思議だった。
もう長い間、声を出していない。
不安だった。
俺はしゃべれるのだろうか?怖くて確かめられなかった。
俺の体は痩せ細り青白く、目は霞んだ。
最近目を閉じて眠ろうとすると、暗闇の中を巨大な光がすごい速度でこっちに向かってきて、
はっとして目を開ける、なんてことがよくある。昼間はまだいいが夜が恐ろしい。
俺はここまでよくやった。カップ麺でよく生きてきたよ。
はあ・・・・・・。
次の敵襲で・・・・・・。
その日の夕暮れ。いつもの列にならんで飛んでくるやつらが現れた。
敵襲を知らせるけたたましい警報は俺の耳に届かない。
とても静かな気持ちだった。
俺は銃を下ろし、突っ込んでくる敵機を見上げた。
今まで見えなかったものが見えた。
迫る敵機のコクピットガラスの向こうに激しく歪んだ顔があった。
顔は涙を流し俺を睨み、俺に何かを叫び続けた。
それは俺の眼に焼きつき、永遠とも思える時間、俺に何かを叫び続けた。
ピチュンピチュンピチュン。
バンバンバン。
俺は撃ち落としたらしい。
俺は敵機の残骸を踏みつけ前進していた。
さっきのパイロットの顔が視点の中心に焼き付いて消えなかった。
俺の目からは忘れていた涙があふれ出し、流れ落ちた。俺は何かしゃべってみようと思った。
「・・・・・・バナナ・・・・・・」
それは俺の人的大宇宙の奥底から絞り出された言葉だった。
もうちょっとしゃべってみよう。
「・・・きりん・・・・・・・・・」
なぜか黄色いものが連続して出てきたぞ。うーむ。
「・・・・・・・・・チンピラ・・・」
なんだそりゃ?
「・・・かゆ・・・うま・・・・・・」
そんなふうにして俺は徐々に言葉を取り戻していった。
そして四十三番目に出てきた言葉が「ヒゲ」だった。ヒゲ・・・。
それはしばらく忘れていたが何かとても大事な言葉だ。
・・・ヒゲ。・・・はっ!
それはミスター味っ子ばりのひらめきだった。俺は便所に行きヒゲ小説の最新号を探した。
『第二十三回』。二十三週。俺の超計算がはじまった。
百六十一日。一日に二百四十キロ進むとして、三万八千六百キロ・・・。
攻撃が激しくなった。
敵の基地に近づいてるってことだ。気力と復讐心を回復した俺は使命に燃えて撃ちまくった。
おまえたちの分も俺が生きてやる!
だから成仏してくれ! ピチュンピチュンピチュン。バンバンバン。
一週間もすると俺の予想通り、見覚えのある街に辿り着いた。
さらに直進を続け(直進しか出来ないしな)見覚えのある悪の秘密基地が見えてきた。
俺は屋上の「おかえり」と書かれた横断幕の下で手を振っているヒゲの妖怪野郎に照準をロックした。
ずんずんと距離をつめていく。
ヒゲの顔がこわばった。
俺の脳裏に戦友たちの顔が浮かぶ。
俺に生きるということを教えてくれた、あの突攻機に乗ってた男。あんたのおかげで今の俺があるんだ。
まあ浮かんだ顔ってのはそれだけなんだけど、今まで俺が倒してきた多くの戦士たちの想いも乗せてだな。
もちろんふわふわ浮いてるだけの白い鞠みたいのに乗ることになったついてない戦士も含むぜ。
なんだか元気玉を溜めている悟空みたいだな。それでは、あばよ。
「フリーーーザーーー!!!」
ヒゲと悪の秘密基地はこの世から消え去った。
そしてちょうど燃料が切れてマシンはとまった。俺は実に久しぶりに大地に降り立ったってわけだ。
フラフラした足取りでよろよろと歩き、瓦礫に足をかけて感慨にふけってみる。
すると足元の瓦礫が崩れ出し、女が這い出てきた。
「ああっ! 父の野望を打ち砕いてくださったのね、ありがとう!」
誰だっけ?
ああ、そうだ。ヒゲの娘さんだ。あれの娘とは思えないようなべっぴんさんだ。
とりあえず抱き合った俺たちのもとに、町内新聞のカメラマンがやってきた。
「おめでとうございます! 記念写真をお願いします!」
ふう。それも悪くないな。俺たちはZと瓦礫の前に立った。カシャリ。
そして俺はそこらへんに転がっていたCDを一枚拾って、天高く投げ上げた。