昨年の流行語大賞になり、すっかり定着した感のある「IT革命」だが、その実像を分析する間もなく、次なる新たな情報化社会を迎えようとしている。それが、「ユビキタス社会」である。
「ユビキタス社会」が実現されれば、「いつでも、どこでも、誰でも」簡単にコンピュータを使えるこの社会では、デジタル・デバイド(情報格差)も解消され、我々の生活が豊かになるだろう。
ユビキタス・コンピューティングは着実に進歩しているとともに、すでに企業も動き始めている。ユビキタス社会では、日本のモノづくり力とコンテンツ力が強みを発揮する分野であり、日本経済の復興にもつながる可能性のあるものだ。
2000年は「IT革命」の年だったが、2001年は、「ユビキタス社会」の幕開けの年になるようだ。「ユビキタス(ubiquitous)とは、(神が)同時にいたるところに存在する」という意味のラテン語である。ユビキタス・コンピューティングとは、携帯電話やモバイルを始め、パソコンやゲーム機、情報家電やカーナビ、コンビニなどに 設置されているマルチメディア端末といった情報機器がすべてネットワークで結ばれ、「いつでもどこでも、誰でも」ストレスなくコンピュータを使える環境を指す。
この構想自体は、十年以上も前から米ゼロックス社のパルアルト研究所を中心に研究が進められてきた。最初に実現の可能性が見えたのは、'93年にブラウザ(ホームページ閲覧ソフト)が登場し、インターネットが爆発的に普及してからである。しかし当時は、通信技術や通信回線の帯域幅、パソコンの処理能力の面でまだまだ限界があった。
ところが、IT革命の進展により、
2005年論の根拠のひとつは、政府が推進する「IT基本戦略」にある。政府は「5年以内に世界最先端のIT国家となる」ことを目標に、
もちろん、ITの"先進国"アメリカでも動きは同様だ。例えば、アメリカ最大のIT展示会であるCOMDEX(コムデックス)でのこれまでの主役はパソコンだったが、2000年は携帯情報端末やネットワーク機器、ブルートゥースを始めとするユビキタス・コンピューティング技術が主役となった。
キーワードは「モバイル&ワイヤレス」。同展示会には、自動車メーカーからダイムラー・クライスラーも参加していた。
一方、今年1月に開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)のキーワードは、「Convergence(融合)とConnected(接続)」。ユビキタス社会を展望して、家電メーカーとPCメーカーが大同団結。あらゆる機器を融合接続していこうと謳っていた。アメリカを、はじめ世界は確実にユビキタス・コンピューティングに向かいつつある。
では、ユビキタス・コンピューティングは我々の暮らしをどう変えるのか?
これまでは、インターネットにアクセスするにはパソコン(あるいは携帯電話)が不可欠だった。ところがユビキタス社会では、コンピュータが机の上を離れ、現実社会のあらゆる所に形を変えて入り込んでゆく。家の居間や台所、歩行中や車の移動中、駅やコンビニなど、生活のあらゆるシーンでインターネットにアクセスし、EC(電子商取引)ができるようになる。これは決して夢物語ではなく、現在すでに、その具現化に向けてあらゆる分野で革新が進められている。
例えば、情報家電の分野。CSやBS、地上はデジタル放送はSTB(セット・トップ・ボックス)を介してインターネットとつながり、テレビは見るもの(受動)から使うもの(能動:ユーザー参加型)に変わろうとしている。MP3プレイヤーやPVR(パーソナル・ビデオ・レコーダ)がネットとつながることで、好きなときに自動録音や自動録画ができる。
これらの情報家電はブルートゥースや家庭内無線LANなどで相互に接続され、携帯電話やパソコンともつながる。
また、ゲーム機に関しては、すでに『ドリームキャスト(生産中止となった)』などの据え置き型は、インターネットに接続され、携帯ゲーム機も携帯電話とゲーム機をケーブルで接続することで、すでにインターネットに接続できる環境が整っている。今後は携帯ゲーム機が単独でインターネットにつながり、ゲームソフトをダウンロードしたり、ネットワーク・ゲームで世界中の人と対戦できるようになる。
一方、携帯電話は「iモード(IMT-2000:次世代携帯電話での情報配信サービスへの布石として投入されたサービス)」を見るまでもなく、めまぐるしい進化を遂げている。現在、携帯電話はメールの送受信やホームページの閲覧、マルチメディア・コンテンツの送受信など、ユビキタス環境にアクセスするプラットホームとして大活躍しているが、今後最も大きな期待がかかるのが、モバイル・コマース機能だ。
携帯電話には個人ごとに発信者番号が付与されているので、ICカードを搭載してドッキングさせれば、各種の決済が可能となる。つまり、「電子財布」の実現である。
マクドナルドの店頭で携帯電話をかざすだけで支払いができてしまう日も近い(ジュースの自動販売機では、このような電子決済の試験的なサービスが一部で始まっている)。
車はこれまで、情報アクセスから最も孤立した空間だった。しかし、「自動車通信システム」によって、「走る情報端末」に変わろうとしている。車内に置いたパソコンや携帯電話、カーナビでインターネットや企業のコンピュータ・ネットワーク、道路情報サービスや故障・事故対応サービス、保険情報サービスなどと接続できる。
アメリカではすでにGMが'97年に「On Star」を、日本ではやや送れて'98年にトヨタが「MONET」を、'99年にホンダが「InterNavi」をスタートさせている。一方、ITS(高度道路交通システム)の実用化実験も始まっており、近い将来、ゲートの下を通過するだけで高速料金の支払いができるようになる。
このように、ユビキタス社会に向けた「第二次IT革命」はスタートしている。しかし、ITではアメリカの後塵を拝した日本が、ユビキタスでの巻き返しは可能なのだろうか?
次世代携帯電話を軸にした電子デバイス技術や光通信技術などにおいて、日本は世界の最先端をいっていることから、第二次IT革命のカギとなる技術や市場は日本が握っているといえる。これは、ユビキタスにおいて、日米逆転の可能性を意味している。
以下、現段階で考えられる日本の強みを挙げてみる。
「IT革命」という言葉が、昨年の流行語大賞に選ばれたことは記憶に新しい。しかし、振り返れば、早期に「ブロードバンド」(広帯域)への移行が期待された「N-ISDN(ナローバンドISDN、いわゆるINS64)は結局10年間、家庭の通信環境の首座を譲ることはなく、「iモード」端末は、9600bps(パケット通信)という、15年前の低速通信だ。
'90年代というのは「FTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)や「高速モバイル通信」といった言葉に対して、現実味を書いた"夢物語"の年を拭い去れなかった10年であった。しかし新世紀が近づくにつれ、ようやく実感を伴う進化が感じられてきた。昨年から、ケーブルテレビやxDSLによる高速インターネット接続が徐々に普及し、今年からはいよいよ「iモード」端末の40倍という速さのモバイル通信、「IMT-2000」の第一弾が現実のものとなる。
ようやくプラットホームの整備が完了する目処が立ち、この先4,5年の間に一気に社会のユビキタス・ネットワーク化が進む。その結果、eビジネス競争が本格化するとともに、従来とは質の異なる戦いも始まる様相だ。
野村総合研究所では、4,5年後に十分実現が可能なITパラダイムとして、「ユビキタス・ネットワーク」を提唱している。
これまでは、必ず古い世界を残しつつも、その上に重層的に新しいパラダイムが登場するという形式を踏んできた。「メインフレーム」の時代、「CSS」(クライアント・サーバーシステム)の時代を経て今は、「Webコンピューティング」の全盛期である。今後、これらの役割は維持されつつ、PDAや携帯電話、情報家電やセット・トップ・ボックスをつなぐ「ユビキタス・ネットワーク」という新たなフロンティアが開かれるだろう。