2.【婿入りの儀】(……1.『帝都の想い人』とストーリーの繋がりはありません) [登場人物紹介] ●グリシーヌ……フランス人。巴里華撃団メンバー。本作品の主人公。大貴族ブル ーメール家の一人娘でありながら、身分を隠してシャノワールの舞台に立つ。プ ライドが高く、曲がったことが許せない性格。その反面、単純で融通がきかない 面もある。青い貴族服をまとい、決闘やピンチの際にはどこからともなく巨大な 斧を出してくる。ゲーム中では、ブルーメール家を継がなければならないという 自らの宿命に思い悩んでいた。 ●大神一郎……日本人。海軍中尉ながら帝都・巴里、両華撃団の隊長。正義感にあ ふれる熱血漢として幾度となく人々の危機を救ってきた。 ●エリカ……フランス人。赤を基調とした派手な服を着ているシスター。巴里華撃 団メンバー。天然ドジ。 ●コクリコ……ベトナム出身の少女。巴里華撃団メンバー。舞台では動物を使った ショーや得意の手品を見せる。 ●ロベリア……巴里を中心に盗みを繰り返す悪党だったが、減刑と引き換えに巴里 華撃団メンバーになった。グリシーヌと仲が悪い。 ●花火……日本人だが巴里に住んでいる。巴里華撃団メンバー。純日本的な気質を 持つ大和撫子。 ●グラン・マ……女性ながら巴里華撃団司令にしてシャノワールの総支配人。 ●タレブー……長年、ブルーメール家に仕えるメイド長。 ●ダニエル……貴族のぼんぼん。平民や有色人種への偏見が強く、大神を「猿くん」 と呼び、嘲っていた。 ※巴里華撃団……日本の帝国華撃団の成功をもとに巴里に新設された秘密部隊。知 識人や文芸人が集まる劇場シャノワールを本部とする。蒸気を動力とする人型兵 器・光武を駆り、敵に立ち向かう。光武を動かせるのは霊力を持つ限られた者の みである。サクラ大戦3では、大神は、立ち上げたばかりの巴里華撃団の臨時隊 長として赴任し、半年後に帝都へ帰還した。3のヒロインが大神を慕って東京ま でやってくるというのがサクラ大戦4の設定。 ---------------------------------------------------------------------------- 【婿入りの儀】 西暦一九二九年六月某日 ブルーメール家伝統「婿入りの儀」が盛大に行われた 出席者は主としてブルーメール家に連なる親族遠戚が大半、残りのほとんどもフラ ンスの有名貴族が占める その中にはライラック伯爵夫人ことグラン・マも含まれていた 大神家側からは、わずかに姉が両親の代理として出席するだけ 他には両者の友人として、エリカ、コクリコ、ロベリア、花火、迫水大使、メル、 シー、ジャン班長以下整備班の面々等 帝國華撃団のメンバーは、長安の事件も有り、帝都の防備に専念する為、誰一人出 席することができなかった 儀式は婚姻成立の証というよりも花婿のお披露目の意味合いが強い だが、貴族のほとんどは、今回の儀式を苦々しく眺めていた 当時、東洋人と結婚することは、平民ならいざ知らず、上流階級ではありえなかっ た オーストリア駐日大使と結婚した光子・クーデンホーフ・カレルギー伯爵夫人の例 もあるが希有の例である ブルーメール家程の格式ある貴族が東洋人を婿として迎えたとなると、まず前例が ない 皆、口にこそ出さないが内心は花婿に対する反感でいっぱいなのだ しかし、現当主であるグリシーヌとその両親が決定したことに表だって反対するこ とはできない それでも、若いぼっちゃん貴族達(彼らは花婿候補として見合い写真に登場したも のの、グリシーヌからは一瞥だにされなかった者達である)は露骨な反発を示して いた 彼らは寄り集って花婿の陰口を叩き、列席者に平民が混じっていることに非を鳴ら す だが、ダニエルがその輪に入ろうとしないのは、心境の変化があったからであろう か? グリシーヌはそれを知ってか知らずか、表情を変えずに儀式の進行を見つめていた ◆ 花婿と花嫁はお揃いの青色の礼服を着て、並んで座っていた 儀式は滞りなく、粛々と進められていく グリシーヌはさすがに堂々としたものだが、大神は多くの敵意を含んだ視線にさら されて戸惑いを覚えた (一体、なんだというのだろう? 有色人種に対する蔑視、平民に対する差別感、自分達と違うものへのどうしよう もない排撃意識 ……理解できない) 大神は悲しかった グリシーヌは花婿のついた溜息に気がついた その奥に隠された感情も同時に…… 「ああいった連中だ 無理な注文かもしれぬが、なるべく気にしないでほしい 何者に反対されようと、私と両親が貴公に沿いて守る故…… だが、彼らとはこれからも付き合って行かねばならぬぞ」 そう言いながらも、グリシーヌは、自分も昔はああだったのだろうか……と暗澹と した気分になった (ブルーメール家の荷は、私よりも貴公にとってのほうが重いのかもしれぬな だが、どうか試練を乗り越えて欲しい そして、私との結婚に疑問を抱かないでくれ 私は貴公無しでは生きていくことができないのだから……) グリシーヌの両親と大神は既に何度か、対面を果たしている 彼らはこだわりなく、大神を受け入れてくれた それどころか、何日か一緒に過ごす内、グリシーヌ同様、大神を大変気に入ってく れたのだ 後からグリシーヌに聞いた話によると、手紙のやり取りで「大神を婿にしたい」と 言った時には非常な反対を受けたそうだ だが、グリシーヌの粘り強い説得で最後は折れたと言う…………娘の男を選ぶ眼力 を信頼したのだろう グリシーヌの両親とライラック伯爵夫人ことグラン・マは、大神にとって数少ない 味方であった ◆ 儀式は無事終了した 大神は花婿に迎えられ、ブルーメール家の一員として(表面上は)認められた これより、大神の本名は一郎・ブルーメールとなる 引き続き、祝賀会に移ったものの、貴族達は気乗りしないイベントから解放された かの如く、さっさと家路についた 後に残るのは、花婿・花嫁にとって気の置けない人々ばかり エリカは子犬のようにそこら中を走り回っては大騒ぎを起こすし、コクリコは整備 班の連中にせがまれてマジックを見せる、花火は彼女らしく客へのもてなしに努め ていた 高級ワインを飲みながら、その様子を眺めているロベリアが大人しいのが少し不気 味である 大分、酒が廻ってきた それにつれ、理性を奪われる者が続出し始める 奇声を上げる者あり、踊りだす者あり、涙を流しながら犯した罪を告白する者とそ れを聞く者、噴水に飛び込む者、大した理由もなく殴り合う者などバラエティ豊か だ 祝賀会はなんとも品のない「宴会」に変わっていた だが、大神とグリシーヌは先程とはうって変わって、真に楽しそうに笑っていた 花婿に酒を飲ませるなとは、古くからの言い習わしであるが、この日の大神はロベ リアに強引な酒を飲まされた 断ろうにも、「あたしの酒が飲めないのかい」と絡まれる ロベリアにしても「ちょっとだけ」のつもりが、酒に弱い大神を酩酊させるには充 分な量であった しまった、と思ったものの、もう遅い 前後不覚に酔っぱらった大神は倒れたなり、そのまま眠り込んでしまった 「伝統と格式あるブルーメール家婿入りの日に、このような不様な姿をさらすとは 情けなや……」 とタレブーが泣く メイド達が懸命に介護に努めるが、花婿はいっこうに目を覚ます気配がない ことの張本人のロベリアはいつの間にか遁走していた ◆ (どこだろう……ここは?) 闇に包まれた見覚えのない寝室 風に木々の枝がそよぐ音が聞こえる 人の営みに関わる音は何もない まるで、森の中に残された部屋で寝ているようだ 記憶の混乱 ここが何処で、何故、自分がここにいるかもわからない (そういえば、前にもこんなことがあったような気がする……) 大神は軽い既視感を覚えた 頭が少々重い 微熱もあるようだ 突然、隣りに人の気配を感じてハッとした 「誰かいるのか」 「………………」 シーツの奥に身を隠した影は答えない だが、この匂いには覚えがある そう……この香水をつけている者を自分は確かに知っている 「グリシーヌ!」 一気に失われた記憶を取り戻した (そうだ!……俺は婿入りの大切な日にロベリアに無理矢理酒を飲まされて眠り込 んでしまったんだ!) 闇に煌めく二つの青い目がスッと近づいてきた やがて、おずおずと大神の胸に白い手が伸び、徐々に体と体が触れ合っていく だが、そこに両者を隔てるべき衣服の感触はなかった 「……貴公はもう……私だけのものなんだぞ」 青い目が囁いた −続く− -------------------------------------------------------------------------- ★この作品の感想を下さい → 感想送信フォーム(簡単&匿名)