1.【帝都の想い人】 〜あらすじ〜 エリカ、コクリコ、ロベリア、花火を率い、助っ人として遙か東洋の国 日本にやってきた巴里華撃団副隊長(兼、臨時隊長)グリシーヌ・ブルー メール だが、祖先であるバイキングの勇ましい血がそうさせるのか、大神の想 い人が真宮寺さくらであることを確信したグリシーヌは、すぐさま決闘 を申し込んだのであった…… 「さくら!……貴殿に決闘を申し込む!  勝った方こそ、隊長の伴侶となるにふさわしい女性だ!」 「……わかりました  その勝負、受けてたちます!」 「いいっ!  二人とも敵との決戦を前にその……怪我するようなことはやめよう…」 「隊長は黙っておれ!!」 「大神さんは見ていて下さい!!」 「はいいっ!」 決闘が始まった グリシーヌは自分の背丈ほどもあろうかという戦斧ハルバート、迎え撃 つさくらは亡き父より受け継ぎし霊剣荒鷹 意地と誇りと恋を賭けた、絶対に負けるわけにはいかない勝負であった 一撃必殺を狙い、大振りのめだつグリシーヌ 一方、斧による攻撃を巧みにかわしながらも鋭い突きを繰り出すさくら 火花散る丁々発止の戦いはいつ果てるとも知れなかった しかし… 「どうした?  グリシーヌの様子がおかしい…」 その言葉のとおり、前半の大振りが効いたのか、グリシーヌの動きが鈍 い それだけではない 額には滝のような汗を流し、口は間断なく荒い呼吸を繰り返していた さくらも、グリシーヌの突然の変化に攻撃の手を休め、怪訝そうな表情 を浮かべた その態度に愚弄されたと怒るグリシーヌ だが、最後の力をふりしぼってハルバートを振るうも、そこまでだった 「くっ……このような時に」 戦斧を杖に辛うじて姿勢を保とうとするも、ふっと全身から力が抜け、 その場に崩れ落ちてしまった 「グリシーヌ!!」 [2] 皆が一斉にグリシーヌの元に駆け寄った 大神の腕に抱えられたグリシーヌの体は、操り糸の切れた人形のように 意志が感じられず、汗に覆われた顔には血の気が全くなかった 「私、かえでさんを呼んできます!」 「ああ、頼む!  俺はグリシーヌを医務室に運ぶから、かえでさんにはそっちの方へ来  るように伝えてくれ!」 大神は大急ぎで、だが慎重に、グリシーヌの体を医療ポッドのある帝国 劇場地下の医務室へ運んだ 医療ポッドには、かなり重度の病気や怪我であっても驚異的な回復効果 があるのだ 「かえでさん、どうなんですか?グリシーヌの容態は?」 帝国劇場医務室には最新の蒸気電算機が備えられている 藤枝かえでは、無数のボタンやレバーを操作して、蒸気電算機にグリシ ーヌの体内を探らせていた 「大神はん、安心しておき  この蒸気電算機なら、グリシーヌはんの病原をたちどころに突きとめ  てくれるはずや」 「そうだといいけど…」 大神は紅蘭の慰めの言葉にも、完全には不安を払うことができない様子 だった かえでは後ろの会話には参加せず、黙々と蒸気電算機を操作していた だがやがて、電算機の電源を切り、こちらに向き直った ……診断結果が出たようだ 「大神君、いいかしら?」 「はい…」 かえでの真剣な表情に大神は思わず唾を飲みこむ そして、次に出てくる言葉がどれだけ深刻なものかを想像して、不安で いっぱいになった 「グリシーヌさんはね…」 「はい…」 「妊娠しています」 「はいっ!?」 大神は思わず、すっとんきょうな声をあげていた 「4ヶ月よ  身重の体で決闘なんて無茶したからでしょうね  他は全く異常ないわ」 「4ヶ月…」 「大神君なんでしょ?」 「え!?」 「4ヶ月前といったら、ちょうど大神君が巴里を離れた頃と重なるじゃ  ない…」 「は、はあ……ええ、まあ…(ハッ!)」 大神は後方から異様なまでの"殺気"を感じて、恐る恐る…振り返った そこには……怒気を孕んだ12対の目が……大神を見据えていた 1「大神さん!不潔です!」 2「お兄ちゃんの浮気者ーーー!」 3「グリシーヌと大神さんが、そんな…………ふぅ(貧血)」 4「隊長!あんたって人は…!あんたって人は…!」 5「あ〜あ、遂にやってもうたか……(呆)」 6「くっくっくっ……しっかり手を出してやがったってわけか、隊長」 7「隊長、いささか軽率だったのではないのですか?」 8「やっぱり、日本の男は信用できないでーす!」 9「イチローのエッチ!」 10「………………………………………………………………………隊長」 11「ひどい……大神さんが私の純情を踏みにじるなんて… びえええええええええ!」 12「中尉、見損ないましたわ!」 皆、思い思いの言葉で大神を罵り、大声を上げて彼をなじった 中には「バカバカバカバカバカ〜!」と大神の頭を両拳で叩く者もいた 「あいたた……エリカ君、乱暴はよすんだ!」 「みんな、これ以上騒いではグリシーヌさんの体に障るわ!  一度、ここを出ていきなさい!これは命令よ!」 [3] 騒音と共に一団が去った後の医務室は、ようやく元の静けさを取り戻し ていた 「ふぅ……助かった」 「大神君」 「はい」 「私も医務室を出て行くわ  それで、グリシーヌさんとゆっくり話し合いなさい  いいわね?」 「わかりました  かえでさんにはご迷惑をおかけして申し訳ありません」 「ふふ……そんなこと気にしなくていいのよ」 かえでが去った医務室は、大神とベッドに横たわるグリシーヌとの二人 きりになった 既にグリシーヌの呼吸は安定し、顔には生気が戻っている 見る限り、何の問題も無さそうだ 大神は、ベッドの傍らに椅子を引き寄せて、グリシーヌの寝顔を見守っ た すると、眠っているとばかり思っていたグリシーヌの唇が動き「隊長…」 と呟きを漏らした 「起きていたのか」 「ああ…」 「ご両親はこのこと…妊娠のことは知っているのかい?」 「知らぬ」 「じゃあ、タレブーさんには…」 「知らせていない」 「どうして…?」 グリシーヌは目を開き、大神の顔を見つめた そして、大神の手に自分の手をそっと重ねて言った 「子供っぽいと思われるかも知れぬが、私はこの喜びを……まず、誰よ  りも先に貴公に知らせたかったのだ…」 「俺に…?」 「そうだ  さくらとの決闘に勝利して、その上で貴公に報告するつもりだった…」 グリシーヌは再び目を閉じた 「だが、私は敗れてしまった…」 その声は幾分、自嘲的な響きを伴っていた 「それは違うよ…」 「何が違う!  私は……私は、敗れたのだ!」 「グリシーヌは身重だった……普段と同じ体調じゃなかった…」 「それは言い訳だ!」 「いや……君は昔、俺との決闘で攻撃を躊躇したことを知って怒っただ  ろう?  それは、純粋な戦いの場において、実力以外の不純な感情を入り込ま  せたことに対する怒りだったはずだ  さくら君だって、純粋な実力以外の要素で勝利することは望んでいな  いと思う  もし、これが逆の立場だったらどうだろう…?  グリシーヌならきっと、決闘のやり直しを希望するはずだよ  少なくとも、俺は……そう思う」 「………………………」 「………………………」 「……そうかもしれぬ……いや、貴公の言うとおりだな…」 グリシーヌの顔がぱっと明るくなった 「決めたぞ、隊長!  私はもう一度、さくらに決闘を申し込む!  そして、今度こそ本当の白黒をつけてくれる!」 「それでこそ、グリシーヌだよ…」 「まあ、勝つのは当然、この私だがな」 「ははは……その台詞は前にも聞いたことがあるな」 「ふふ……そうだったか?」 笑いがはじけ、なごやかな雰囲気が二人を包んだ [4] 暫く、二人は見つめ合っていた すると、やおら、大神が体を近づけ、グリシーヌの方に上半身を屈めて きた びっくりするグリシーヌの腹部にちょうど大神の右耳が密着するような 形になった 大神の表情は、グリシーヌからは裏側になっていて見ることができない 「???」 「聞こえないね…」 どうやら、赤子が発する音…胎内をうごめく胎動…を聞きたかったらし い 「あ……ああ…  まだ、それ程大きくはなっていないからな…」 「ありがとう…」 「え…?」 「こんな自分の子供を育んでくれて……ありがとう」 「隊長……  私の子を喜んでくれるのか?  迷惑では……ないのか?」 「自分の子供を喜ばない親はいないさ  正直、最初に聞いたときは驚いて何も考えられなかったけど、時間が  たつにつれ、実感というか、喜ぶがふつふつと沸いてくるんだ」 「……………………」 「ああ……早く、見てみたいな…」 声にはならなかった ただ、喜びが涙となって、とめどなくグリシーヌの頬を伝うばかりであった この人は私との子をこんなに喜んでくれている! そして、我が子の誕生をこんなに心待ちにしてくれている! グリシーヌはこの、己の胎内に宿る、天からの授かり物に感謝した 天秤の比重はわずかながら帝都の想い人から自分に傾きつつある……グリシ ーヌはそう確信した 半年後、産まれてくる我が子は私に絶大な力を与えてくれるであろう その上で帝都の想い人との決闘に勝利し、必ず、隊長…大神一郎を手に入れ てみせる! グリシーヌは心の中で誓った (了)               →2.婿入りの儀 -------------------------------------------------------------------------- ★この作品の感想を下さい 感想送信フォーム(簡単&匿名)