年齢を問わず女性だけの食事と言うものは賑やかなもので、伝統あるリリアン女学園においても、その法則が覆される事は無いようだ。
昼休み―
薔薇の館で昼食を取る事が日課になっている私達は今日も皆でお弁当箱を広げていた。
しかし、お弁当の中身は昨日とは少し違い全員のご飯がおにぎりで作られていた。
誰が言い出したのか覚えていないけれど、今日はみんなでお弁当を交換する事になっていた。
「お姉さまのおにぎりは俵型ですね」
「変かしら?」
「ううん、すごく志摩…お姉さまらしいよっ!」
そう言いながら真っ赤になって両手をブンブンと勢い良く振るのは『白薔薇のつぼみ』の二条乃梨子ちゃん。
その横で乃梨子ちゃんの慌てぶりを見て微笑んでいるのは『俵型おにぎりの似合う女性』
…もとい『白薔薇さま』こと藤堂志摩子さん。
「由乃…何それ?」
呆れた顔をして由乃さんのお弁当を見ているのは『黄薔薇さま』こと支倉令さま。
「え?おにぎりだよ」
「そうじゃなくて・・・サイズの事を言っているの」
「由乃特製の『ジャンボおにぎり』よ!」
『黄薔薇のつぼみ』である島津由乃さんのおにぎりは1個だけ。
しかし、普通サイズの5個分は軽くあるだろう巨大なおにぎりだった。
「…いくら何でも由乃じゃ食べきれないと思うけど」
「何言っているのよ、はい交換」
「え!?」
そう言って令さまのおにぎりと交換(強奪)してしまう由乃さん。
哀れな令さまは『ジャンボおにぎり』を食べる羽目に…。
「わあっ令ちゃんのおにぎり美味しいそう」
「くすん…由乃の馬鹿」
ヘタレ過ぎです令さま。
私のお姉さま『紅薔薇さま』こと小笠原祥子さまのおにぎりも俵型がお弁当箱に奇麗に敷き詰められていた。
「凄い、まるで料亭のお弁当みたいですね」
「みたいではなくて、料亭のお弁当よ」
「…え?」
「みんなに美味しいもの食べて貰いたいと思って」
何でも昨日の晩に手配して、わざわざ早朝に持って来て貰ったそうだ。
よく見れば、アワビやら松茸やらキャビアなど高級そうなおかずがズラリと並んでいた。
(このお弁当幾らするのだろう?)
値段を考えただけで箸が止まりそうだった。
まあ、そんなこんなで『お弁当会』が始まったのだった。
「どうかしたの志摩子?」
隣に居た志摩子さんが先程から祥子さまのお弁当を見ていた。
「あの祥子さま・・・その里芋の煮物を貰っても良いでしょうか?」
「里芋?ええ、どうぞ」
これだけの豪華料理の中で選んだのが『里芋』とは…さすが志摩子さん渋い女子高生だ。
ぱくり
「んはあっ!」
里芋を口にした途端に色っぽい吐息と共に倒れそうになる志摩子さん。
「しししっ志摩子さん、しっかりして!」
慌てて、私と乃梨子ちゃんが支える。
で、当の本人は…。
「お・い・し・い(はあと)
志摩子さんの目が完全にイッてるんですけど…。
「…あげましょうか『里芋』?」
「全部頂きます!(キッパリ)」
卒倒した志摩子さんに戸惑うお姉さま。
その申し出に遠い世界に旅立っている志摩子さんに代わって即答する乃梨子ちゃん。
そして―
「志摩子さん、あーん」
「あーん」
ぱくり
「美味しい?志摩子さん」
「ええ、とっても美味しいわ・・・うふふふふふ」
戦利品(?)の里芋の煮物を乃梨子ちゃんに食べさせて貰い、御満悦な志摩子さん。
「ああ、志摩子さん可愛いよ」
その志摩子さんを見て腰をくねらせながら悦に浸っている乃梨子ちゃん。
相変わらずラヴラヴな白薔薇姉妹だった。
「由乃・・・何これ?」
先程まで勢い良く(自棄になって)『ジャンボおにぎり』を食べていた令さまが、あからさまに嫌な顔をしていた。
「どうかしたの令ちゃん?」
対照的に令さまのおにぎりを美味しそうに食べている由乃さん。
「おにぎりの中に色んな具を入れて味の変化を付けるのは良いと思うよ」
「我ながらナイスアイデアでしょ」
「鶏のから揚げは中々の出来だったよ」
「やったね」
「だし巻き玉子も少し焦げているけど良いとしよう」
「わーい」
どうりで巨大になる訳だ。
「でもね、何でおにぎりの中にパイナップルが入っているのよ!」
机をバンと叩く令さまに対して由乃さんは動じることなく。
「デザート」
「………はい?」
「だからデザート」
令さまは決して聞こえなかったから聞き直したのでは無いと思うけど。
「…今度からデザートは分けて入れようね」
「大丈夫、食べちゃえば同じだから」
「その食べる時が1番問題だと思うけど?」
「そんな時は令ちゃんの右手付近の具を食べれば安心よ」
「…何が入っているの?」
「胃薬」
「そんなモン具にしないでよぉ…」
そう言いながらパイナップルと胃薬を取り除く作業に入る令さま。
おにぎりがしょっぱいのは塩の所為か涙の所為か。
いずれにせよ哀れ過ぎです。
「祐巳のおにぎりの中身は何かしら?」
「梅干しです、お姉さま」
今朝、母に聞いたので間違いない。
「そう、では頂くわ」
「あれ?また梅干し食べれるようになったの祥子」
そう言ったのは不純物撤去作業を完了したばかりの令さま。
「また?」
祥子さまが梅干しがお嫌いなのは知っていたけれど、以前は平気だった事は初耳だった。
「祥子って昔は梅干し食べれたんだけど、蓉子さまの梅干し入りのおにぎりを食べてから嫌いになったのよ」
「蓉子さまの梅干し?」
「普通と違うの令ちゃん?」
私が思った疑問を代弁してくれた由乃さん。
「ううん、普通なんだけど…」
「種が入っていたのよ!」
お姉さまは観念したのか令さまが言う前に自分から言ってしまった。
「「種?」」
私と由乃さんの声がハモる。
「祥子ったら、その日まで梅干しに種がある事知らなかったから種を噛んじゃったのよ」
「「え――――!?」」
「だって、今まで食べた梅干しに種なんて入っていた事なんて一度も無かったのよ!」
お家では料理人の方が梅干しの種を取っていたそうで…。
その気配りが返ってお姉さまに『梅干しには種が無い』と誤解させる結果になろうとは小笠原家の専属料理長も思わなかっただろう。
「それを、お姉さま達が大笑いするものだから…」
「梅干しがお嫌いになったと」
しかし、それは『嫌い』といえるのだろうか?
「だって知らなかったんですもの仕方ないでしょ!」
プイとそっぽを向きながら頬を膨らませて怒り出すお姉さま。
…もの凄く可愛いんですけど。
「それに今では食べられるようになったのだから」
そう言って私のおにぎりを口へと運ぶお姉さま。
まあ過去の経緯はどうであれ、お姉さまの嫌いなものが1つ減った事は喜ばしい。
…。
……。
……はて?
そういえば、お母さんが今朝おにぎりを作っている時に何か言っていたような。
確か…梅干が…なんだっけ?
バキッ!
突然、何かを噛み砕いた音が私の隣から聞こえた。
隣に居るお姉さまが顔を歪め口元を押さえている。
「…ふひ、ふぉおひはっはひ(…祐巳、ちょっといらっしゃい)」
ゆらりとコチラを向くお姉さまは全身から怒りのオーラに包まれていた。
「え?ええ?何で種が…??」
「ひひはふぁひはっはひ!(いいからいらっしゃい!)」
「おっお姉さま怖いです!!」
「ほふぁふぁひ!!(お黙り!!)」
そう言って私の腕を強引に掴み部屋を出て行こうとするお姉さま。
その瞬間、今朝お母さんが言った事を思い出した。
『梅干し切らしているから小梅でも良いわよね?』
と言った事を…。
了
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