『snowdrop』






『snowdrop』

2002/02/13
Author by たつる







プロローグ


 ポーン♪

間も無く当機は新千歳空港に着陸致します。今日の札幌の天候は雪。午前8時の気温はマイナス10℃となっています……』

 札幌行きの飛行機の中にスチュワーデスさんのアナウンスの優しい声が響いた。
 マイナス10℃……冷蔵庫とどっちが寒いんだろ……
 飛行機の窓から見える雪景色にワクワクしていた気持ちがちょっとだけ心配になった。
 2月の連休に突然入った『札幌雪まつり』の仕事。
 前にCMに出た『ミルキィココア』のメーカーさんがキャンペーンをやるから、北海道に来ませんか?ってお話が来たのは先月の始めのこと。
 どうやら商品の無料配布とステージが仕事の内容。商品キャンペーンは前にもやったことがあってずぅっと立ちっ放しで大変だってわかってたけど、北海道に行った事もないし雪まつりは見てみたいから二つ返事でOKした。
 でもマスターは寸前になって他のお仕事が入って、結局私一人で行くことになった。
 ぎりぎりまでうららお姉ちゃんが一緒に行くって言ってくれたけど、もう大人なんだから平気だよって強がりを言って出発してきた。
 お仕事とはいえ、一人で飛行機に乗るのも一人の旅行も初めてで、不安と期待で複雑な心境。  
 やっぱりうららお姉ちゃんに来てもらうんだったかなぁ。
 ……ううん。これは私の仕事だもん。頑張りなさい、きらら。
 自分に一生懸命言い聞かせてるとえれふぁんと目が合った。

大丈夫だよね、えれふぁん」

 そう小さく呟いてリュックに着けてきた小さなゾウのぬいぐるみ、えれふぁんをツンと指で弾く。

大丈夫だよね、おにぃちゃん」

 心の中ではそう呟いて……



〈1〉


 空港で荷物を受け取って(あのベルトコンベアに乗ってみたいと思うのは私だけ?)待ち合わせのメーカーさんを待つ。
 う〜んと、来てくれる人の名前なんだったっけ?
 マスターが持たせてくれたメモを見る。

新千歳空港で霙(みぞれ)印(株)の鷹村さんと会うべし!そしてお土産はカニでビバ!』

 マスターらしいメッセージにちょっと緊張がほぐれた。ありがと、マスター。
 たかむらさん?男の人か女の人かくらいはは聞いておけば良かった。

きららちゃん、こっちこっち。鷹村です〜」

 不意に名前を呼ばれて声のした方を向くと長い髪を一つにまとめたの元気そうなお姉さんが私に向って手を振っていた。
 その人に向ってぱたぱたと小走りに走っていく。よかった、優しそうな女の人で。

霙印広報課の鷹村 深雪です〜はじめまして、きららちゃん」

 鷹村さんはそう言ってにっこり笑うと一枚の名刺を取り出した。

ありがとうございます」

 名刺なんてもらうの初めての経験。きちんと両手で受け取って改めて名前を見た。

たかむらさん、ってお呼びすればいいですか?」

 お仕事で会う人って、どう呼べばいいか困っちゃうから必ず伺うようにしている。ちょっと困っている私の心が見えるのか鷹村さんは

きららちゃんさえよければ深雪ってよんでくれないかな?」

 って、言ってくれた。

深雪さんでいいんですか?」

うん、その方が私としては嬉しいな。寒そうな名前だけどね。タダでさえ寒いのに嫌になっちゃう」

あ、天乃川 きららです。よろしくお願いします」

よろしく、きららちゃん。こっちでのことは小泉さんから全て一任されているから安心してね。それより堅っ苦しいことは抜き抜き。寒いから行きましょうか。駐車場に車停めてあるから」

 そう言うと深雪さんは私の荷物を持ってさっさと移動してしまった。
 自分で持つからいいです。って言おうと思ったとき、空港の自動ドアが開いて目の前に一面の雪景色が広がった。

うわぁ……綺麗……」

 思わず足を止めて呆然とその雄大な雪景色を眺めた。
 どこまでも真っ白で、空から大きな雪がふわふわと降っている。
 星野ヶ丘にも雪は降るし、雪を見るのは初めてじゃないけれどこんなに綺麗なものだなんて思ってもいなかった。
 ふと隣を見ると深雪さんも一緒に空を見上げてくれている。ただそれだけのことだけど何だか嬉しくって、この人なら大丈夫、信頼できる人だなってその瞬間確信した。

すごく雪が大きいんですね」

温かいから雪と雪がくっつくの。ぼたん雪って言ってるけどコッチだけかなぁ」

へぇ……」

 ぼたん雪、か。帰ったらぬり江ちゃんに教えてあげよう。
 なにはともあれ、北海道での第一歩。そして雪の上への二歩目、っと。

きゃっ!」

 ……二歩目は足じゃなくてお尻での着地となった。痛いよりもじんわりと冷たい。
 転んだ地面を恨めしそうに見ると、氷の上にうっすらと雪が積もっている状態だった。

大丈夫?きららちゃん」

 深雪さんが差し伸べてくれた手を取って、何とか立ち上がった。
 お尻についた雪をパンパンと払う。うぅっ、カッコ悪い。

その靴じゃ転ぶのも仕方ないよ。とりあえず靴を買ってそれから、ね。じゃ、車回してくるから少し待っててくれる?」

はい、お願いします」

 私の返事ににっこり笑うと、深雪さんはすたすたと駐車場の方へ歩いていった。
 私はもう一度、足を動かして氷のすべり具合を確かめる。ツルツルだ。

ねぇ、えれふぁん。深雪さんの足の裏、吸盤でもついてるのかなぁ」

 いつもなら小うるさいほど何か言ってくれるえれふぁんが静かなので不思議に思ってみてみると、えれふぁんは寒いのか押し黙って震えてた。
 ……腐ってもインド象……



〈2〉


 場所は変わって、札幌のカニ専門料理店『カニ元祖』
 実はココに辿り着くまでが大変だった。
 深雪さんが乗ってきた車は外車の『すまーと』っていう小さな車。色はアイボリーで外見は軽自動車くらいの大きさなのに中は広く、でも軽自動車という不思議な車だった。
 社用車じゃカッコ悪いからって深雪さんが自分の車を持ってきたみたい。
 『バニラアイスみたいな美味しそうな車ですね』って言ったらすごく嬉しそうに笑って『自慢の車なの。ちっちゃいけどパワーはあるのよ』って喜んでた。
 ……順調だったのはそれまで。
 その後高速に乗るまでに、雪で滑って180度と360度のターンをそれぞれ披露?してくれた。
 『北海道ではフツウ、フツウ。エンジンブレーキも当たり前よ』って言ってたけど、ホントかなぁ。
 高速ではこれといって何もなくて安心したけどね。
 その後、靴屋さんで可愛いブーツを買ってもらって(なんと靴の裏にスパイクが付いてる!)雪の上を歩くのも怖くなくなってきた。
 そしてお昼ご飯に、って、カニ料理のお店に居る。
 カニの酢の物から始まって、カニの天ぷら、カニグラタン、カニ寿司、カニコロッケ、カニのお吸い物などなどなどなど。
 次から次と出てくるのはカニばかり!
 最後にゆでカニが親の仇とばかりにどーん!と出てきた。

うわぁ、まだあるよぉ」

 って、思わず悲鳴にも似た言葉が出る。その言葉に、お店のお給仕さんが

お客さんが観光なら、カニをお残しすると『カニの呪い』にかけられますよ」

 って、笑って言った。
 『カニの呪い』って何か聞こうと思ってらお給仕さんはもう居なくなっていた。ひょっとして電波?

深雪さん、『カニの呪い』ってなんですか?」

ああ、大きいカニの看板があったでしょ?」

 深雪さんの言葉に、この店に架けられていた足が動く大きなカニを思い出した。

よく観光客が目立つからって目印にするんだけど、実は結構な数があるのよ。で、どこのカニを目印にしたかわかんなくなって結局は迷子になっちゃうから『カニの呪い』って茶化すのね」

 深雪さんがカニをほぐしながら教えてくれた。
 そっか、それで呪いか。電波じゃなくて良かった。

でも、おもしろいですね」

他にもいろいろあってね、カップルが時計台の前で待ち合わせしたり、ホワイトイルミネーションを見に行くと別れるとか、受験生が雪まつりを見に行くと受験に失敗するとか……」

なんだか全部悪いことなんですね」

あ、でも四越デパートのライオンさんにまたがるとどんな試験でも受かるっていうのもあるわよ」

それじゃ、全国の受験生が集まりますね」

そうかもね」

 深雪さんと二人で顔を見合わせてふふっ、と笑う。でもその笑いも深雪さんの手によって食べやすくほぐされたカニの山によって長くは続かなかった。
 お願いです。どうか、『カニの呪い』にはかかりませんように!!



〈3〉


 深雪さんの話だと、このあと3時からステージ。4時から商品の配布ということだった。
どうやらその後お土産を買いに行く時間も確保してくれているらしい。
 カニ元祖を出て、時間があるから少しだけど観光をしようということになった。有名なススキノ交差点、狸小路、そして四越デパートのライオンさんを見て雪まつり会場である大通公園に着いた。
 見上げるほどの大きな雪像に思わず感嘆の声があがる。
 大小取り混ぜた雪像はそれが雪で出来ているって信じられないくらい精巧に出来ていて、ただただ驚くしかなかった。私が上るステージも見せてもらったけど、これも雪で出来ている。
 滑らないのかな、とちょっと心配。
 商品の無料配布は雪まつりでは恒例のイベントで、3つくらいあるかまくらの近くで一日に何回か甘酒とかコーンスープを配るみたい。私がお手伝いするのは『ミルキィココア』のときだけ。
 今も温かい甘酒を配っていて、受け取った人たちの顔がほっと温かくなるのがわかった。
 これならやってみたいな、と心から思った。だって、みんなとても素敵な表情になってる。

きららちゃん、寒いだろうけどこれに着替えてくれる?」

 そういって控え室のテントの中で深雪さんから渡されたのは今日の衣装だった。

うわぁ……かわいい」

 渡されたのは牛柄のフードが着いたコートと黒のミニフレアスカート。スカートはペチコートが付いてとても裾が広がってお姫様のような気分になれそう。  牛柄のコートはフードにちゃんとツノと耳がついていて、ご丁寧なことにお尻にはしっぽがついている。でもきっと彗聖がみたら『乳もないのにウシ女かよ!』とか悪口いうんだろうな。
 ……なんで彗聖のことをここで思い出す!!さ、仕事仕事。
 テントの中で着替えて鏡を見てみる。ちょっと子供っぽいかもしれないけど充分可愛い。
 覗きに来た深雪さんも可愛いって褒めてくれた。えへへ。
 でもいくらテントの中とはいえ寒い。テレビ塔の近くにある温度計はマイナス8度を指している。

これをお腹に入れておいたほうがいいわよ」

 深雪さんがカイロをくれた。なんでもお腹に入れて内臓を暖めた方が寒さを感じないんだって。またひとつ勉強になった。
 ごそごそとカイロを入れていると、雪まつり会場内に放送が入った。

ただ今より、大通西2丁目会場にて、霙印主催『ミルキィ・スノーステージ』が開催されます……』

 どきん。
 私の心臓がひとつ高い音を立てた。う〜緊張するよぉ。

がんばってね、きららちゃん」

 ありがとう、大丈夫。がんばります。
 雪上のステージで私を呼ぶ声がする。私はその声に合わせて駆け出していった。


 沢山の人の声援。
 眩しいスポットライトの光。
 握ったマイクが緊張の汗で少し滑る。
 今日歌うのはこの間出たばかりの新曲『Snow Present』
 空から落ちてくるぼたん雪が私の歌にあわせて、くるくると踊っていた。



〈4〉


おつかれさま〜可愛かったよ、きららちゃん」

 少し息を切らしながらステージを降りてきた私に、深雪さんがねぎらいの言葉をかけてくれた。
 よかった、無事に終わって。心の底から安堵の息を漏らす。
 その時、深雪さんの携帯が鳴った。着信音は『檄!帝国華撃団』
 深雪さんは二、三言話すと、

ごめん、ちょっと席をはずすね。4時まで休憩してていいから。なんなら外出しても構わないからね」

 って言って、テントから慌てるように出て行った。
 ぽつぅぅんとテントの中には私一人取り残された。
 あ、ゴメンゴメン。えれふぁんもいたね。
 えれふぁんに話し掛けようとしたら、細めの目がくわわっ、と開かれてこう言った。

宇宙的危機が危機なのだ!」

……また?」

またとはなんだ、そもそも織姫は星の民としての自覚が薄いのだよ。我々が何のためにこの地に遣わされたのかその存在理由と自己確立がなぁ……」

 あっちゃ〜またえれふぁんの講釈(ちょっと電波っぽいし)が始まっちゃった〜。
 長いんだよね、コレが。いっそのことテントの外に出しちゃえばその饒舌な口も凍るかしら。

で、でも次の仕事がせまってるし、ね?」

では織姫は危機を救うのは自分の仕事ではないと申すのだな」

う……でも、それを言うならここに派遣されている星の民はどうしたのよ」

リフレッシュ休暇中だ」

 ……あるんだ、リフレッシュ休暇。
 仕方ない。ため息が出そうなのをこらえて、代わりに深呼吸をひとつ。

それで、今回はどんな危機が危機なの?」

電波の影響を受けた人間が暴れている。送信を始めないうちに食い止めるのだ」

でも、どこで……」

大丈夫、ミルキースターが導いてくれる。それに今回は私がサポートに就こう」

判ったわ。でも4時までだからね」

 えれふぁんにそう念を押して、ミルキースターをそっと外す。

みるきーしるき」

声が小さぁい!!」

 えれふぁんのツッコミ。も〜全部終わったらおにぎりの刑にしてやるんだから!!
 あらためて一息。

ミルキー・シルキー・ラブリー・ポエミー!輝け、ミルキースター☆」

 私の呪文を受けてミルキースターは7色の光を放ちながら、ゆっくりと流星形に姿を変えていく。
 溢れ出す光はくるくると回り、交差し、私を優しく包み身体が宙に浮くのが判った。
 そして重力が再び私を支配したとき、
 目の前にはさっき深雪さんと一緒に見た四越のライオンさんがいた。



〈5〉


ふふふ、コレで俺は合格だぁ。念願の宇宙立ファオン大学のキャンパスライフをエンジョイだぜ」

 怪しい男の笑い声が、四越前のスクランブル交差点にこだまする。
 スクランブル交差点を行き来する沢山の人は全員が目を合わせないように、と足早に去っていっていた。ここなら闘っても大丈夫かな?
 目の前のライオンさんを見ると、街の風景から確実に浮いている人がそのライオンさんにまたがっていた。
 まず格好からして電波をかもし出していた。
 今どき学帽をかぶり、ガクランに下駄履き。私がかけたらきっと倒れちゃうような渦巻きメガネ。ご丁寧にも「必勝」と書かれたハチマキをしている。
 受験生なのかな。でもライオンさん可哀相かも……

ねぇ、えれふぁん。人も多いしどうしたらいい?」

 藁にもすがる思いでえれふぁんに小声で助言を求める。
 …………

ちょっと、えれふぁん、聞いてるの?」

 …………

……えれふぁん?」

 返事はない。ただの屍のようだ……
 ……って!寒さで口が利けないのね!

もう!この肝心なときに!」

 あっ、と気がついて慌てて口を覆う。怒りのあまり声に出しちゃったんだ。
 ううっ、電波な人がコッチを見てる!
 いや〜んな予感。

なんだとぅ?何か言ったか、この小市民が」

 やっぱり、コッチを見て怒ってるよぉ! 

あ、あの。私そんなつもりじゃなくて……」

 電波な人はライオンさんから降りてゆっくりと私に向ってくる。
 こんな人とお近づきになったって嬉しくないよ。

そうか、俺の合格を羨んで邪魔しようってんだなぁ?」

羨ましくなんか……いえいえ!合格おめでとうございます」

 私の『合格』の言葉に電波な人の動きが止まった。

……そうさ、実は落ちたのさ。俺が浪人生なのがそんなにおかしいかぁ!」

 まさしくこれこそ『火に油』

そ、そんなことないです!一つの目標に向って頑張るのは良い事だと思いますし……」

 そしてもう一つのことわざが私の頭の中に浮かんだ。『焼け石に水』
 その瞬間。

これでもくらえぃ!」

 動きを止めていたのはタメ攻撃のため(シャレじゃないのよ〉だったのかと思うくらいの勢いで、手にしていた本を投げつけてきた。
 駄目!避けきれない!
 来るべき痛みに備えて、ぎゅっうっと両目をつぶる。

 ……
 …………
 ……………………?
 だけど痛みが私を襲ったりはしなかった。そぉっと、おそるおそる眼を開けてみる。
 眼を開けるとそこには純白の雪で出来た、大きな盾があった。
 雪が、守ってくれたの?
 雪の盾にそっと手を伸ばすと盾は見る見るうちに姿を変え、瞬きが終わったときには私の目の前に赤い小さなモノが浮かんでいた。

これは……」

 それを手にとって確かめると『北海道神宮・学業成就』と書かれた小さなお守りだった。
 きゅぴーん!!
 そっか、コレを使えばいいのね。
 電波な人はというと、不思議そうに私のほうを見つめている。
 今しか!私は手にしたお守りを電波な人に向って掲げた。

うっ、そ、それは!」

 思ったとおり、電波な人の動きがぴたりと止まる。やっぱり学業のお守りに向って攻撃は出来ないみたい。
 ぎゅっと、ミルキースターを握りなおす。

今よ、きららちゃん!』

 どこからか聞こえたその声と、私の身体が動くのは同時だった。
 ごめんね!
 ミルキースターでこつん、と軽く電波な人に触れると、その先端から沢山の光が溢れ出した。

うっ、くあぁぁぁぁっ!!ま、眩しいぃぃぃぃ」

 電波な人は苦痛の声をあげながら両目をおさえ、その場にうずくまり、その拍子にかけていた渦巻きメガネが地面に落ちて、パリーンと甲高い音を立て砕け散った。



〈エピローグ〉


 その後、私はなんとか時間に間に合い、無事仕事を終えることが出来た。
 電波な人はどうやらあの渦巻きメガネが電波受信装置だったらしく、メガネが無くなった後はフツーの人になってどこかへ消えていった。
 メガネを外した顔が思いもよらずカッコ良かったのには驚いたな。(お約束)
 そして今、私は深雪さんと一緒に空港に居る。
 私の手に掛かっている紙袋の中には沢山のお土産が入っていた。どれもこれも空港で深雪さんと色々話しながら買ったものだ。
 札幌ラーメンもご馳走になったし、えれふぁんはおにぎりの刑にしたし、札幌でやり残したことはもうないはず。色々あったけど、あっという間の一日だった。

さてと、そろそろかな?」

 もうそろそろ搭乗口まで行かなきゃならない時間。

あ、あのっ!」

 どうしても深雪さんに聞きたいことがあった。
 私が電波な人と戦っていたとき、私にかけられた声はえれふぁんの声じゃなっかた。
 深雪さんの声。私はそう確信していた。
 ……でも、何故?深雪さんも星の民なの?

どうかした?きららちゃん?」

 不思議そうな顔で深雪さんが私を見ている。
 『深雪さんも星の民ですか?』って喉まで言葉が出かけていた。
 ……ううん。いいや。深雪さんは深雪さんだもん。

いえ、なんでも。それよりありがとうございました。おかげで楽しい仕事になりました」

そう言ってくれると嬉しいわ。また、札幌に来てね。私も、ファンも待ってるから」

はい!」

 とびっきりの笑顔で別れよう、それだけは心に決めていた。

それじゃ、気をつけて。お疲れさま」

 深雪さんが笑顔で私に声をかける。

お疲れ様でした〜!」

 元気よく言葉を返して私は手を振りながら搭乗ゲートに進んだ。
 こぼれそうになった涙はゲートをくぐってからそっと拭いた。



 星野ヶ丘の駅に着いたとき、当たり前だけどかなり遅い時間になっていた。
 ちょっと怖いけど走って帰れば大丈夫だよね。
 雪があったら走れないな、と思ったら何だか面白くて、ひとりだというのにクスッと笑ってしまう。

何、一人で笑ってんだよ。きしょいなぁ」

 聞き覚えのある声。
 この声と憎まれ口は間違いない。

彗聖ぇ〜」

 駅の入り口に自転車に乗った彗聖がいた。

開口一番きしょいはないじゃない!」

じゃ、土産は」

あんたにお土産なんてないも〜んだ!」

オマエ、じゃ、何のために札幌まで行ったんだよ」

お・し・ご・と。彗聖こそ何やってんのよ、こんな時間に」

 いつもならすぐに返ってくる彗聖の憎まれ口が一旦止まった。
 アレ?どうしたんだろ。

それは、あれだ、……コンビニだよ!コンビニに用があったの。たまたま」

 なんかしどろもどろ。ひょっとしてカップメンを缶のお汁粉で作ろうとでもしていたのかなぁ?

そっか。ねぇ彗聖。帰るんだったら後ろ乗せてよ」

重いのに?土産もないのに?」

お土産ならちゃんと買ってあるってば」

 紙袋の中から彗聖のお土産を取り出す。北海道ロイスのチョコレート。本当はバレンタインに渡そうと思ってたんだけどまぁいいか。
 お土産の箱を彗聖に渡すと、満足そうにうむと頷いて自転車の後ろに乗せてくれた。
 ごとごとと揺れる自転車の後ろで、空からこぼれ落ちるぼたん雪を思い出していた。



〈&エピローグ〉


 車の中に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
 曲はもう飽きるほど聴いた『檄!帝国華撃団』
 慌てて車を停めて、携帯電話を手に取りディスプレイを見る。
 暗い車の中では眩しいくらいのディスプレイには『小泉』と表示されていた。
 通話ボタンを押して、耳にあてる。

もしもし、小泉?そう、きららちゃんが無事に家に着いたのね。よかった。ホント、可愛い娘ね。あんたが力を入れてるのがわかる気がする。それでね、前に言ってくれた話覚えてる?……うん、それ。来月には辞表を出してそっちに行くわ。……まぁ、会ってみて気が変わったのよ。あの娘がいつか、持っている力に溺れる日が来るんじゃないかって心配なの。その時は私の力が役に立つんじゃないかなって。ふふっ、ちょっと思い上がり?……ま、詳しい話は今度改めて電話する。……うん。それじゃ、きららちゃんによろしく言っておいてね」

 ツー…ツー…ツー…
 ツー…ツー…ツー…
 ツー…ツー…ツー…




謝 辞

札幌支部のたつるさんより『snowdrop』をご投稿いただきました。
きららちゃん初の遠征エピソードです。
札幌雪祭りでステージとは凄いですね。巨大彫像物に囲まれて歌うきららちゃんを想像して思わずにたりと……。
くぅ〜〜っ、イイねえ!
そして今回は、謎な挿絵が一枚紛れ込んでいます……。
作品の雰囲気をぶち壊す落書きなんで、見ない方が賢明デーース。


たつるさん。ご投稿ありがとうございました!


感想を送るぜ。
素晴らしい小説を頂けた、たつるさんにぜひご感想を! 上の直通メールフォームをご利用下さい。

たつるさんの「建茶屋」へは、下のバナーからいけます。
「建茶屋」へGo!