1.電子立体視地図とは
従来のステレオ方式による立体視は、ステレオ対を眼幅以内に併置しなければならず、眼幅を超えたステレオ対を裸眼立体視する場合は、写真又は地図の片方を折り曲げて、2枚の像が重ならないようにして立体視しなければならなかった。これが従来のステレオ写真方式又はコンピューターグラフィック的に作成されたステレオ方式による立体地図が持つ欠点であった。
 今回試みた電子立体視地図は、一対のステレオ地図A、Bをコンピューターモニターの中に併置し立体視する方式である。図Bを下面に、図Aを上面にモニター上に置けば、見かけ上、図Aしかモニター面に現れないが、立体視をしたい図Aの一部分に、コンピューター的に窓を開けると、図Bが図Aの枠内に現れ、AB一対のステレオ画像がモニター上で実現する。Aの別の区域を立体視したいときは、モニター上の窓を移動するか、又は窓の位置を固定したまま、AB両図を、マウスを用いてコンピューターの中で移動すればよい。すなわち本手法によれば、これまでのステレオ立体視手法の欠点であった立体視可能な視野制限から開放されることになる。
 
2.電子立体視地図作成に使用した資料
@ 立体視するための原図:
  関東地域で作成された「明治迅速測図(2万分の1)」
A 地形標高データ:
  本例では国土地理院刊行のCD版「数値地図50mメッシュ」を用いた。
 
3.ビューアー
(1) 初期画面の表示とマウスの操作
 ビューアープログラムを立ち上げると、初期画面として任意地域の「明治迅速測図」がモニターに表示される。(図1)および(図2) 図1のビューアー画面「千葉県松戸市矢切周辺」を例に説明を行う。下段テキスト枠に「b16」の番号が表示されているが、これは、検索しやすいように明治迅速測図に付けたインデックス番号で「千葉県松戸市矢切周辺」を示している。別の地域をモニターに表示したいときは、テキスト枠内の番号を希望番号に変え、マウスをテキスト枠内で左ダブルクリックすると2・3秒後にモニターの主画面は新画面に変わる。あるいは、コマンドボタン「原画」を左クリックすると、テキスト枠に入力した番号の図が主画面に表示される。また、マウスを使うことにより、主画面上で、1図面の任意の場所をモニターできる。
 コマンドボタンをマウスクリックしなければ、通常、画面は、左マゼンタ、右赤の2つの立体枠が並置表示されている。両枠の表示図はステレオ対であるから、裸眼立体視可能である。この枠幅の立体視が不慣れな場合、上段テキスト枠の数値200を適当な数値例えば150に変えて、このテキスト枠内でマウスを左ダブルクリックすれば、2つの枠の幅が200から150ピクセルに変わり、眼基線幅が狭くなるので、視野は狭くなるが、立体視がよりやさしくなるはずである。  隣接地域の図面を、モニター表示させたいときは、左上の副画面の図面記号をマウスで右クリックするか、先にしたように、図面記号のテキストの表示を希望の番号に変えて、テキスト内で左ダブルクリックすればよい。
 
4.本電子立体視手法が持つ効果
(1)本手法で電子化された「明治迅速測図」を、パソコン・モニター上で立体視することから得られる効果について、いくつか触れたい。まず、印刷地図の持つ特徴は、持ち運びに利便があるから、とりわけ印刷地図の場合有利である。電子式地図の一般特性ではないとしても、本手法の地図は、戸外での使用には向かないので、利用は机上に限られるであろう。
 しかし、従来、紙地図が、等高線、段彩等で工夫してきた3次元表示は、本手法では優位に解決される。 また、従来の地形図に記載される等高線からだけでは、甚だ困難であったその地域の3次元イメージが、自然に認識され、紙地図だけでは得られない地理情報が頭に入る。
例えば、その場所に足を運ばずに地図だけで、東京の地理を覚えることはなかなか難しい。電子式を問わず3D地図は、臨場感があるので、地理の理解、記憶には優れている。本立体視地図の利用法としては、紙地図のように、目的地に手持ち図として持ち運ぶものでなく、事前、又は事後に目的地の周辺地域の地理の記憶、理解の整理に役立つものであると考える。
 
(2)本手法が持つその他の効果について
徳川氏は幕府開設時、江戸城中心に大規模な土木工事を行い、江戸を都市整備したということは一般人の歴史常識である。その土木工事の一つに神田上水がある。御茶ノ水駅周辺を流れる神田川は、江戸時代に掘削工事が行われたところで毎日通勤乗降する東京人でさえも昔大工事が行われた場所であることをなかなか実感できない。
 しかし、この付近を、「旧図」によって立体視すると、往事、大土木工事のあったことが、その人工的な地形から一目にわかる。(図3)
 
5.まとめ及び今後の課題
本文は、(1)パソコン・モニターを利用する立体視法、及びモニター画像の作成のためにコンピューターを積極的に活用したこと、(2)電子立体視手法を用いて、「明治迅速測図」の活用を図ったことについての報告である。 (1)について、試作画像を作り、周辺の人たちに見せ、その感想を求めたところ、我々地図測量関係者が当然の技能として有効利用している裸眼立体視が、一般の人たちには、必ずしも、なじみな技能ではないことがわかった。
 しかし、ステレオ立体視地図の簡便性、臨場感には、余色メガネ法や鳥瞰図による3D地図と比べて捨てがたい魅力がある。裸眼立体視の技能を習得するのには、若干の訓練が必要だとしても、自転車や水泳を覚えるほどの苦労はないであろう。ステレオ立体視が、学校教育等でも行われ、ひいては一般の人たちのポピュラーな技能になってもらいたい。この意味でも、著作権法、測量法で認められる範囲で、今回試作したソフトをインターネット等で公開し、不特定多数の人たちに使ってもらいたいと思っている。
また、それほど、高度のプログラム知識がなくても、立体視画像の作成は可能なので、今回の「明治迅速測図」以外で、ユーザーの任意地図(紙地図、デジタル地図を問わない)に適用してもらいたい。
ちなみに、この電子立体視地図作成の試みの中で「明治迅速測図」に現在の「地形図」を重ね合わせる手法も試みた。この方法は、明治時代の地物と現在の地物が同時に見ることができるので比較するのに大変便利である。本報告は「明治迅速測図」を裸眼立体視して明治時代の国土の姿を眺めていただくことに主眼を置いたことから説明は割愛させていただいたが参考のために重ね合わせた図を紹介しておく。(図4)
今後、本立体視手法の「明治迅速測図」について、一般の人たちに興味を持ってもらい、さらに、(財)日本地図センターが復刻刊行した本地図を購入して、明治、江戸のなごりを惜しみながら、新旧比較ウォーキングをしてみようかと思ってもらえれば幸いである。          
 (国土地理院OB)
 

 
「新旧重ね合わせ図」
ファイル化した白黒の旧図と、ファイル化した新図を旧図面の区画で、ピクセルごとに重ね合わせの演算操作した図である。
 
「明治迅速測図」
「フランス式彩色地図」ともよばれている「明治迅速測図(2万分の1」は明治13〜19年、関東全域を対象に、フランス陸軍 の地図作成様式に従って作られた、縮尺2万分の1の、わが国初の本格的な地形図である。この地形図の作成技術は、その後、陸地測量部の「5万分の1地形図」に引き継がれたが、迅速図自体は彩色図であったため、当時の技術では多色印刷することができず、5万分の1地形図と異なり、一般市井人に活用がされることはなく、その存在さえも知られることはなかった。「明治迅速測図」は、最近、復刻市販され、ようやく世の中から注目されるようになった。