連続ネーミング小説
命名(なづ)けんぼ
WEBversion第2回
(前回のあらすじ)「究極のネーミング」づくりに取り組むコピーライター山名岡士郎は、中高校生向けコンドーム対決で宿敵海名原雄山と激突するのだが…
海名原雄山の手にした巻紙には墨痕も鮮やかにこうしたためられていた。
『責任くん』
「そもそも私は、昨今の十代の性の乱れに憤りを感じてやまなかった」
声もない一同を前にして、雄山は余裕たっぷりに話し始めた。
「そこへ今回の中高校生向けコンドームの発売だ。下手をすると無軌道な青い性の暴走にいよいよ拍車をかけぬとも限らん。そう考えた私は、このネーミングにそうした風潮へ一石を投じる役割をあたえたのだ。
考えてもみるがいい。うわついた名前のコンドームを発売したところで、それはうわついたセックスを助長するに過ぎぬ。この商品本来の目的は、単に性病や予定外の妊娠を予防することだけではないはず」
「なるほど、言われてみればその通りじゃ…」
「若者の性道徳に訴えることまで考えとるちゅうわけか。わしらは大切なことを忘れとったようや…」
「それだけじゃないわ! 一つ一つの音の口当たりはサラリと爽やかなのに、文字の持つずっしりとした重厚さがなんともいえない信頼感をかもしだしている…分かった! 最後にあえて『くん』と平仮名を使った軽みが、思いもかけない隠し味になっているのね!」
「うほおっ、敵ながら上手い! 上手いですなあっ!」
黙りこむ山名岡に目もくれず、海名原は勝ち誇ったように続けた。
「さらにそれを使用する現場を想定していただこう。男は『責任くん』の文字を見ることによってもう一度そのセックスの意味を自らに問い直すことになる。また女がこれを男に差し出せば、無言のうちに『遊びじゃないわよね』と決断を迫ることができる−−
分かったか士郎! それしきのこともわきまえずに『ラブラブこんちゃん』などとは笑止千万! 真の商品背景さえ理解できないお前にネーミングをする資格はない!」
山名岡は雄山の罵声を浴びても、青ざめた顔でうつむいたままだった。
「…どうやら勝負あったようじゃな」
「それでは今回のコンドーム対決、至高のネーミングの勝ちと…」
「待ってくれ!」
突然、山名岡が叫んだ。
「もう一度、もう一度だけチャンスをくれ!一週間後、必ず『責任くん』を上回る名前を用意してみせる!」
(つづく)
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