むかしむかし、ビクトリアアイランドは
キノコと人間とモンスターが仲良く暮らす平和な島でした。
「太陽の光が邪魔だなあ」
魔法使いは島の中心の楓の木に穴を掘り、自分の研究所にしてしまいました。「ここならずっと夜だ。夜はオイラが独り占めしてやる」
夜を独り占めされてしまったため、ビクトリアアイランドは朝と昼と夕方しか来なくなってしまいました。
ずっと太陽が昇っているビクトリアアイランドでは、みんなの生活のリズムが崩れ、大迷惑です。
「私がちょっと彼に文句を言ってこよう」
人々の代表、英雄トリスタンと仲間達が魔法使いの研究所に向かうと、そこはもはや
研究所ではなく、ダンジョンと呼ぶに相応しいものでした。
お供のルークとマイクは、突然訪れた夜に眠気を誘われ、立ったまま眠ってしまいました。
「スリーピーウッド」と言う名前はそこから付きました。
英雄トリスタンと仲間達は、眠気に耐えながらダンジョンを進んでいきました。
「なんて複雑な所なんだ…」
進んでも進んでも木の中です。途中にある魔法使いの研究品に驚かされながらも なんとか開けたところに来ました。「ここで一休みしよう」
「英雄トリスタン、我々はもう進めません」
お供のサビトラマとクリシュラマが言いました。
優れた魔法使いであるこの二人が抜けてしまうと、とても困った事になってしまいます。
トリスタンが困った顔をしていると、クリシュラマが言いました。
「大丈夫です、英雄トリスタン。我々はここで貴方達を待ち続けます。疲れた貴方達を癒す為に。」
サビトラマとクリシュラマ、そしてその弟子達がありあわせの木材と、持ち込んだ機械を駆使し
気分すっきり!サウナのついたホテルを建てました。
「英雄トリスタン、我々は貴方達と共にあります」
「もう根は抜けたのか… なんだこのキノコは!」
そこにいたのは魔法使いの魔法で、死にながら生かされているキノコ、ゾンビキノコでした。「彼は何を研究しているんだ…」
更に奥に進むと、明らかに世界の違う場所に到達しました。「この神殿は一体…」
英雄トリスタン達は知りませんでした。大きな楓の木は、神の眠る墓標だという事を。
神の眠る神殿を、誰も荒らすことのないよう育てられたという事を。
「魔法使いよ、私達に夜を少し返してください」
魔法使いは首を横に振ると、力強い声で答えました。「断る。夜の闇こそ私の住むべき場所。私が全ての知識を手に入れるまでは渡せない。
ここが一番研究がはかどるのだ。見ただろう、私の研究の成果達を」
「魔法使いよ、あれは最早研究の産物とは言えない。狂気の為せる業だ」
魔法使いはトリスタンの言葉を聞くと、髪を振り乱しながら叫びました。「私は狂ってなどいない! 私を侮辱したなトリスタン!」
魔法使いが呪文を唱えると、魔方陣から見たこともない禍々しいモンスターが現れました。「これが私の研究成果の一つだ!眠りから覚めよバルログよ!
私を侮辱したこの男の故郷を滅ぼすがよい!」
「いかん、ペリオンが!」
「英雄トリスタン、ここは私達に任せてペリオンへ!」
ペリオンでは突如現れたバルログに、人々はパニックになっていました。
今までのモンスターは会話が出来たのに、会話の機会すらもとうともしないバルログは人々の理解を超えていたのです。
ペリオンに住む戦士達は、皆武器を持って戦いました。
「もうすぐ英雄トリスタンがやってくる!皆、ワシのとっておきの武器を持って戦うのじゃ!」
鍛冶屋のサンダーさんが叫びます。
しかし、バルログの圧倒的な力の前に皆倒されていき、サンダーさんも傷ついてしまいました。
殆どの人が倒れたペリオンで、バルログがデザートに選んだのは異国から来た少年でした。
「助けて、英雄トリスタン…!」
少年の祈りが天に通じたのでしょう。
すんでのところで英雄トリスタンが現れ、少年を救ってくれました。
「大丈夫か、マンジ!」
「トリスタン、危ない!」
少年に気を取られていたトリスタンは、自慢の剣術で受け流す事も出来ずに「この子は、この子は殺させん!! 命に代えても!」
トリスタンは愛剣を構えなおし、バルログの胸に突き刺しました。マンジが谷底に降りた時には、既にバルログ、トリスタンの息は無く、
バルログに覆いかぶさるようにして倒れていました。
しかし、バルログの胸に突き刺さった剣は、死んでもトリスタンの手から離されていませんでした。
「英雄トリスタン…」
マンジがトリスタンの遺体をバルログから離そうとしたところ、なんという事か。
バルログに残された魔力が、剣を腐らせていきます。
とっさの事にマンジは、トリスタンを抱えたまま剣を蹴り飛ばしました。
剣はかろうじてその形を残しましたが、マンジの足にも魔力がついてしまいました。
「足が、足が痛いよ!! 助けて! ママ!」
マンジの叫びは、再び天に届きました。
バルログに襲われたペリオンを心配して、「やさしいママッシュ」が様子を見に来ていたのです。
ママッシュも本当はダンジョンに進むはずだったのですが、大きな体が災いし、中に入れなかったのです。
「ママッシュ…?」
「やぁ、こどものひと、こんにちは。あしがいたいの?」
「うん…」
「ぼくがたすけてあげる。たにのうえにいきたいのね?」
ママッシュは器用に傘の上にマンジとトリスタンを乗せると、自慢のジャンプで谷の上までひとっとび。「ここならもうだいじょうぶ。おとなのひとをよんできてあげる。」
「ありがとうママッシュ。あいたた…」
マンジの足は、まだ魔力が残ったままです。このままではトリスタンの剣のように腐ってしまいます。「これはたいへんだね。ぼくがたすけてあげる」
ママッシュはマンジの足を撫でながら、おまじないを唱えました。「ちちんぷいぷい、いたいのいたいの、ままっしゅにとんでけー」
ママッシュが魔力を吸収し、マンジの足の腐敗は収まりました。「あとはえいようのあるものをたべていればだいじょうぶだよ」
「ありがとう。でもママッシュは?」
「ぼくはだいじょうぶ。ままっしゅはなんでもへっちゃらさ」
やがてペリオンの生き残りの人々がやってきて、マンジは助かりました。
「あれあれ、かさがいたいよ」
「こまったなぁ、かさのなかにぼくがもうひとりいるみたい」
ママッシュを心配して、仲間のキノコ達がやってきました。「ままっしゅ、だいじょうぶ?」
「へいきへいき、ままっしゅはなんでもへっちゃらさ」
しかし、ママッシュの容態は益々悪化していき、ついにはお隣の人の家を「あら、ママッシュ。具合はもういいの?」
お隣さんが尋ねます。「うん、もうへっちゃらさ。なんともないよ」
ママッシュはぴょんぴょん飛び回り、元気な事をアピールしました。「良かった」
お隣さんが後ろを向いたその瞬間。
ママッシュは大きなジャンプをすると、お隣さんを踏み潰してしまいました。
骨と内臓が砕け、飛び散る音が止んだ時、ママッシュは一人呟きました。
「こんなことしてもだいじょうぶ。もすぃまむはなんでもへっちゃらさ」
やさしいママッシュは、もういなくなってしまいました。「あの魔法使いのせいで、全てがおかしくなっている」
英雄トリスタンの後にも、何人もスリーピーダンジョンに挑んでいきましたが、誰も帰って来ませんでした。「我々はこれからの事を考えるべきだと思う」
ペリオンの村長、【コブシを開いて立て】のもと、各街の代表が話し合いました。それから何年も、何十年も経って…