暗闇の中に小さな光が幾憶も瞬いている。
 とても静かだ。ここに酸素が流れてさえ居れば、この窮屈なコックピットから抜け出して漂いたくなる衝動に俺はいつも駆られる。ここは月面基地グラナダから約1時間程通常航行速度で進んだ位置だ。地球とグラナダ。そしていくつかのコロニーがモニター越しに見える絶好のポジションだ。
 俺はジオン軍キシリア閣下隷下の第23機動部隊、通称<クローバーズ・ルナ>に所属してるMSパイロット、ルーベンス・アイルマン軍曹だ。なんでも俺の名前は旧世紀の画家の名前から取ったもんだとおふくろが言っていた。俺にも感受性の強い子に育って欲しいと願っての事だそうだ。画家か音楽家にでもなって欲しかったんだろうが、俺は今、パイロットになっている。俺が望んだままに。

 今は愛機のザクUS型に乗って警戒中という事になっている。というのも、このポイントはたまに連邦の腑抜け共がちょっかい出してくるからだ。しかし本当にたまにしか来ない。更に言えば、現在地上では連邦の連中はオデッサ作戦を決行中で、宇宙にまで気を回してる余裕なんてない。少なくとも俺は、そう思ってる。確かに地上にいる味方は苦戦を強いられては居るだろう。何せあのシャア少佐ですら手を焼く「白い悪魔」がそこには居るんだからな。赤い彗星が仕留められない奴だぜ?更に蒼い巨星と呼ばれたランバ・ラル大尉も屠ったんだから戦場にそいつが居るだけでビビッちまうよな。
 とはいえ、まだまだ制宙権はジオンのものだ。連邦の連中だっておいそれとは手を出して来れないだろう。白い悪魔でも連れて来なきゃな。
 まぁ、こういう考えで俺はのんびりと宇宙を遊覧してる訳だ。
 ボケッとしていたら通信用のランプが点滅していた。
 折角のひとときを代無しにするなよ、とぼやきながら回線を開くと、血相変えたような金切り声がスピーカーから溢れだした。思わずメット越しに耳を押さえてしまう。声の主は俺の所属する艦のオペレーター、カナイ軍曹からのものだった。こいつは男のクセにやたらと甲高い声を出して、俺達パイロットの受けは最悪だ。耳障りこの上ないというのが全員の一致した意見だった。
「なんだよ、どうしたんだ?」
 面倒臭そうに俺が応対するとカナイの奴は、
「どうしたもこうしたもありませんよ! さっきから私が何度も呼びかけて居ると言うのに! 貴方はいつだって・・・」
「ああ、悪かったよ! それで? 物事は簡潔に頼むよ・・・」
 あまりに煩いので話を途中で止めてやった。
「あ、ああ…。そうだ! アイルマン軍曹の居るポイントから7時の方向より熱源反応が4つ! 確認願います!」
 驚いた。あまりの報告に目が点になった。と、驚いた途端に怒りがこみ上げて来た。
「バカ野郎! そういう事は一番初めに言いやがれっ!」
 取り合えず、カナイに怒鳴りつけてから回線を切り、7時の方向に照準を合わせる。ザクのモノアイが判別出来る距離というのは知れている。しかし、ミノフスキー粒子のお陰で目視確認以外、俺らパイロットには確認のしようがない。だからこそオペレーターが俺達に連絡をくれるのだ。まぁ、ぼけっとしてた俺が一番悪いんだが・・・。
 静かな空間の中、自分の呼吸する音だけが鼓膜を振るわせる。それは時として不快なもんだ。
元々気の短い俺が段々いらつき始めた頃、<アイツ>が来た。いや、正確には<アイツら>だ。
「こちらアイルマン。戦闘機タイプの機影が見える。照合確認してくれ」
 回線を再び開き、カナイに確認を求める。まぁ、あの機影から見ても大体分かってはいたが…。
「了解。・・・機影、熱量から、敵機は連邦所属の戦闘機<セイバーフィッシュ>と見られます!」
 やっぱりな・・・。ひとりごちながら更に確認を求めた。
「セシリーとガニムス達はこちらに向かってるのか?」
 セシリーとガニムスってのは俺らの艦にやってきたヒヨッ子パイロットだ。<クローバーズ・ルナ>に所属してるパイロットは俺を含めて5名。うち1名はこの間の戦闘で“まさか”の負傷中だ。だってそうだろ? 誰だって予想出来ないぜ、トチ狂った連邦の戦闘機が特攻してくるなんてさ。直撃は免れたとはいえ、ザクは半壊。奇跡的に乗ってたパイロットのジェイコフは左腕を負傷する程度で済んだが・・・、腕の使えないパイロットってのは致命的ではある。暫く動けないジェイコフの代わりにセシリーとガニムスが代行する事になった。2人で1人分って事なんだろうけど、役に立つのかね・・・。
「既に2人をザクに乗せてそちらに向かわせてます!」
 ザク? あいつら実戦はまだ未経験だろ? 大丈夫なのか? 頭が痛くなってきた・・・。うちの艦に搭載されてるMSは計7機。現在出撃可能機体は5機だ。全てザクだ。1機はこの間ので半壊したのがようやく直ったばかりだが調整がまだされてない。まぁ、パイロットが居ないから調整もクソもないが。もう1機は専属のパイロットが不在だ。皆、こいつのパイロットになりたくて狙ってるけどな。俺もその一人だけど。
 頭を押させている俺のことなんて知らない連邦の連中はじっくりと縦列編成で近付いて来ていた。気を抜いてる場合じゃない。俺もジェイコフみたいになる訳にはいかないからな。ちらちらとモニターとレーダーを見つめながら4秒経つのを待った。既に先程の連絡時にモノアイはザクマシンガンのスコープと連動させてある。
 1秒・・・2秒・・・3秒・・・4秒! 俺はトリガーを引いた。左から右へ一条の光が走る。ワントリガーで5発の弾丸が射出される。この一発はあくまでも威嚇だ。
 こちらの思い通りに敵は動いてくれた。縦列編成から各自分散する。その動きを狙って俺は再びトリガーを引く。戦闘機は急には曲がれない。だから進路上に向かって撃てばいい。もちろん、こちらも動きながらだが。ザクの装甲でもセイバーフィッシュのミサイルをモロに喰らえばヤバイ。丁度編成から上へ飛び出た1機に数発当たった。そして大破、爆発。爆発する寸前、パイロットが放り出される姿が見えた。(腕が悪ければ被弾するのは当たり前だ。恨むんだったら自分を恨んでくれよな)と思いながら次の標的を決める。
 奴らは俺を中心にして円運動のようにクルクル回っている。たまになかなか良いタイミングで機銃を撃ってくるが、当たってやる程お人好しではない。代わりに10時の方向から4時方向へ転換する奴に向かって弾丸をお見舞いしてやった。暗闇に大きな閃光が上がる。残り2機。しかし相変わらずこちらの周りを回ってるだけで効果のある攻撃をしてこない。何故だ・・・? ふと計器に目を落とした時俺は気付いた。母艦から離れ過ぎてしまって居たことに。
「しまった! 罠か!」
 俺が気付いたと分かった途端、1機の動きが変わった。こちらにミサイルと機銃掃射を仕掛けてきた。戦闘機タイプの攻撃は直線的だからまだ避けやすい。だが、1機に気を取られていると残りの1機に隙を突かれる危険がある。俺は咄嗟に攻撃を仕掛けてきた奴に向かって直進した。ミサイルをギリギリまで引き付けてから急降下(と言っても宇宙だからどちらが上か分からんが・・・)して避けつつ、腰に設置してあるザクの近接武器のヒートホークを左腕に構え、機体を捻り、頭上を通り抜けるセイバーフィッシュのどてっ腹を切り上げて真っ二つに分断した。セイバー“フィッシュ”だけに2枚下ろしと言いたい所だが、そんな下らない事を言ってる場合じゃなかった。最後の1機が俺を狙って突っ込んで来ていた。(また特攻かよ?!)と心の中で叫びながら俺は急いで銃口をそいつに向けた。と、モニターからそいつが消えた。
「?!」
 慌ててレーダーに目をやると、そいつは俺の足元へ“急降下”して俺の背後に回ろうとしていた。正にさっきの俺がやったことと同じ事をやり返されたんだ。こんなふざけた事する奴は許せねぇ。絶対、墜落(おと)してやる! 俺は頭に血が上り、とにかく落としてやろうと乱射した。狙いを定めて居ない分、命中精度は如実に下がる。“無駄弾は極力避けるべし!”戦場での掟をすっかり俺は忘れていた。それくらい<アイツ>はムカつかせてくれたんだ。1分もの間乱射してただろうか。アイツはひょいひょいと俺の放つ弾を避けながら確実に俺に機銃を当てていた。俺が撃つタイミングや方向を見抜いてるとでも言うのか? 俺は動揺した。これがジオン・ダイクンが言った<ニュータイプ>って奴なのか? 気付けば俺の愛機の表面はボコボコになっていた。そこへカナイの声が飛び込んできた。回線を開きっぱなしにしてたんだ。カナイは相変わらず焦った金切り声を上げているがミノフスキー粒子のお陰でぶつぶつに切れてて全部は聞こえはしなかったが・・・。確かに聞こえた・・・。
「アイ・・・マン軍・・・! 我が・・・攻撃を・・・けて・・・居ます! 突然・・・ジムが・・・!!」
 ジム?! ジムって言ったのか?! 俺は焦った。罠だと気付いていたのに戻らなかったばかりに母艦が大変な事になっちまった。通りでセシリー達の支援が来ない訳だ。きっと慣れないながらにジムと交戦してるのだろう。早く戻ってやりたい。しかし、俺はアイツの所為ですぐに戻れそうにない・・・。どうする?! 様々な考えが頭の中を駆け巡った時、アイツが乗ったセイバーフィッシュがモニターに大写しになった。いや、大写しというより、正確には接近していたんだ。俺は度肝を抜かれた。(やられる!?)と思った瞬間、アイツは俺を飛び越えて“ある方向”へと高速移動して消えて行った。俺は遊ばれたんだ・・・。そう自覚するまでに数秒掛かった。戦場で呆然としてるのは命取りだったが、幸い今は俺一人だった。だが・・・。
「おい! カナイ! 聞こえてたら返事しろ!?」
 回線に向かって俺はとにかく叫んでいた。悔しかった。あんな奴に翻弄されていた自分自身が。我を取り戻した俺は艦へ戻る為に急旋回してバーニアを吹かした。既にアイツは目視出来る範囲から外れていた。ザクと戦闘機ではスピードが違うというのは分かりきった事だが、それすら悔しい。
「なにやってたんですか?!」
 ザクの機体が悲鳴を上げるギリギリまで速度を上げながら移動して8秒後、カナイから応答があった。
「なにやってたって、こっちの勝手だろ?! それより今の状況を教えてくれ!」
 文句の多いオペレーターだ。それも仕方がないといえば、仕方ない事だろう。なんせ襲撃を受けてる最中なのだから。それでもカナイは“それなりの”冷静さで状況を知らせてくれた。レーダーで確認出来ない距離ではない所から突然ジムが3機も現れたらしい。そしてセイバーフィッシュとトリアーエズがそれぞれ2機ずつ。方角的には俺が居たポイントとは正反対のポイントから出てきたらしい。どうやって・・・? それも今はどうでもいい疑問だった。

 ひたすらペダルを踏みながら俺は機体の損傷率とマシンガンの残弾を確認した。無駄弾を撃ち過ぎてた。残り弾数は20発。4回トリガーを引けば終わってしまう。機体の損傷率は大した事はなかった(第1装甲がへこんでいただけだった)が、ジムとやりあうには不安が残った。俺はひたすら思考を回転させた。そこにひとつの案が浮かんだ。やるしかない。
「カナイ、艦長に繋げてくれ」
 俺は艦長に“ある作戦”を提案した。無茶苦茶で荒唐無稽な作戦ではある。考えた俺ですらそう思った。
「ルーベンス・・・やれるのか?」
 艦長は確認を俺に求めた。
「やるしかないでしょう。ってか、このまま死ぬ訳にはいかんでしょう?! やりますよ! 俺はやってみせます!」
 上官に対する口調ではないのは分かってる。そしてこの自信はどっから沸いて出てきた物か俺自身分からなかった。無謀とも言い換えられるかもしれない。しかし、今ははったりでもやらなきゃ全滅する。俺は何故かそう思って居た。
「・・・分かった。こちらは何をすればいい?」
「さすが艦長! まず、俺が到着するまでに・・・」
 俺は艦長の懐の広さに感謝した。こんな無謀な作戦に付き合う必要があるのか? と思ったに違いない。普通ならさっさと逃げてしまえばいいだけの話。だが、艦は退路を絶たれている。俺が逃した<アイツ>が到着すれば艦の保有している戦闘力を上回るだろう。たった1機でもだ。それが俺にこの作戦を思いつかせる事になった。
 俺は一通りの作戦内容と準備の手順を告げ、回線を切った。もうすぐで到着する。それは戦闘区域に突入するということだ。口を開いていて舌を噛み切ってしまったら作戦どころの話じゃない。

 見えた・・・。交戦時に見えるビームの光だ。ガニムスを庇うようにセシリーが奮闘しているようだ。女に守られてちゃあかんぜ、ボーイ。そう思いながら、モニターを見つめると、そのセシリーの背後で2人を庇っているカインのザクが見えた。カインは俺と同期入隊の奴で腕は確かだ。とはいえ、お荷物2つも抱えてたら実力も発揮出来ないだろう。
 そして・・・俺は再び<アイツ>を発見した。さっきすれ違った時に見たあの“青いノーマルスーツ”の<アイツ>だ。本当に青だったか分からんが、そう見えた。アイツは確実に俺らより実戦慣れしてる“戦闘機乗り”だ。“エース”と言っても良いかもしれない。アイツはジムと他の戦闘機との連携を上手く取らせて居た。うちの艦からの機銃掃射もやはりあっさり避けている。しかもギリギリで。戦闘を楽しんでる様に見えた。やっぱり無性に腹が立つ。
 俺はカインを狙っているジムへ一発お見舞いした。ジムのパイロットからすれば不意を突かれたんだろう。避ける間もなく全弾命中した。これで確信した。アイツ以外は熟練したパイロットではない。カナイからの報告では戦闘機は合計4機居たはずだが、既に3機は落とされている。だがジムはまだ全機健在だった。ザクマシンガンでは一撃で簡単に倒せない装甲なんだ、ジムは。逆にザクはジムのスプレーガンに一撃で落とされる可能性が高い。状況はやはり不利だ。
 しかし、俺に全弾命中させられたジムのパイロットは混乱したのか、突然乱射を始めた。良く見ればツルツルのジムの顔に穴が空いてる。おそらくモニターが死んだらしい。サブモニターに切り替える事も忘れてるんだろう。先程まで有利な状況下で俺の仲間をいたぶったのが、突如形勢が逆転したのだ、混乱しても仕方ないのかもしれない。しかし、俺から見ればまたとない好機になった。
 俺は乱射し続けるジムへ接近した。銃口さえ見てれば当たりはしない。その時ふと気付いた。そうだ、さっきの俺もこいつと同じだったのだ。アイツは<ニュータイプ>なんかじゃない。こいつのように俺もバカみたいに乱射してたのだから今の俺のように軽々避けるのは雑作もない事だ。そう認識すると自然とアイツに対しての意味のない畏怖感は消えていた。戦場で慌てる奴は死ぬだけだ。俺はジムの放つビームを避けながら近付き、上手く背後を取った。そしてそのままジムの右腕を取り、ビームガンの銃口を他のジムへ向けた。俺に捕獲されてると気付かずにめくら撃ちしてるこのバカなパイロットのお陰で残りのジムや戦闘機は容易に艦に近付けなくなった。とはいえ、ビームの弾数も残り少ないだろう。弾切れを起こした途端に近付いてくるかもしれない。だが、今はこのバカジムを利用する手はない。さすがに味方の弾に当たって死ぬのは嫌らしく、ジム達は一定の距離を保ちつつ離れていった。と、俺の後ろからアイツが来た。背後に回って俺だけを狙うつもりらしい。それもこちらの計算通りだ。ギリギリまで引き付けてミサイルが射出する寸前に捕まえていたジムをそちらに投げてやった。アイツはすんでの所でジムの体当たりを避けられたが、哀れジムはミサイルとディープキスした。ざまぁみろだ。これで1機撃破だ。と、その隙を突いて俺は艦の後方に移動した。回線を繋ぎ俺は叫んだ。
「艦長!」
 俺の叫びと同時に後部ハッチが開いた。うちの艦は旧式のムサイだ。後部と艦の腹の部分にMS用のハッチがある。ここまで接近されてる戦闘中にハッチを開くのは自殺行為ではあったが、俺の指示通りに皆が動いてくれている。俺は速度を落とさずにハッチの前まで移動した。そしてコックピットのドアを開きながらハッチへ突っ込んだ。ハッチに入る寸前、俺は機体の前後を反転させた。これで背中から突っ込む形になる。高速移動中だが俺は目の前のコンソールを蹴り機体から飛び出した。俺のザクはそのままハッチでメカニック達が用意した電磁ネットに突っ込んだが・・・勢いがありすぎたようで壁にめり込んだ。俺は他のクルーに空中で受け止められ、そのまま両腕を引っ張られてザクとは違う方向へ投げ飛ばされた。そこに待って居たのはこの間受領したMSだ。コックピットが俺を受け止める為に開かれている。
「ルーベンス! こいつはザクとは段違いだぞ!? 調整もまだ出来てない! 気を付けろよ!」
 メカニックチーフのジョセフがコックピットに乗り込んだ俺に叫んでる。最後の“気を付けろよ!”というのは“傷付けんじゃねぇぞ!”という意味だと受け止めて置く。分かってるよ。という意味で俺は親指をジョセフに向かって立てた。口の端を上げながらジョセフは機体から離れて行った。ハッチに突っ込んでからこのやり取りまで、要した時間は1分。俺が想定した限界時間を約10秒オーバーしている。このままでは口を開いたハッチを攻撃されてしまう。外でカイン達が頑張ってくれてるからなんとかなってるが・・・。俺は焦ってもいいはずだった。だが今は妙に落ち着いている。コンソールに目を配りながら初めて乗る機体のバランスを確認する。
 ・・・いける! なんとなくそういう自信が湧いている。不思議な感覚だった。
 射出用カタパルトに俺の愛機を無理矢理乗せる。その後ろに俺の乗った機体を待機させる。カウントダウンもなしに無人のザクが射出された。案の定、射出直後にジム達から狙い撃ちされた愛機を見ながら俺は叫んだ。
「ルーベンス・アイルマン! リック・ドム、出るぞ!」
 カタパルトなしでの出撃にも関わらず、物凄いGを身体に感じた。これがジオンの新主力MS・・・。そう思うと胸が躍った。右手に構えたジャイアント・バズーカも機体の平均速度の高速化で命中率が下がってるとはいえ、頼もしく感じた。そう、なんとなくだが・・・今なら確実に全弾当てる事が出来る気がした。ザクだけだと思っていたジム達はまたも俺に不意を突かれた形になった。俺はあっさりとジムの背後に回って照準をその“ランドセル”に合わせ撃ち抜いた。ジムは前につんのめるようにして吹き飛び、そして一撃で大破した。踊るような気持ちが沸き上がるのを堪えて周囲を見渡すと、残りのジムがシールドを前に突き出してこちらにビームを数発撃ちながら飛び込んできた。俺はひょいとビームを避けるとバーニアを吹かしてジムの右側面に回った。何故かMSってのは「右利き」になっている。つまりシールドは常に左側に装備されている訳だ。連邦のパイロットにはリック・ドムのモノアイが一段と大きく見えただろうと思える程に接近しながらヒートソードでジムの胴体を横薙ぎに切り裂く。装甲が熔解し内部の装置が悲鳴を上げながらスパークしているのが見えた。俺はジムが爆発する前にその場を移動した。そう、アイツを仕留める為だ。ところが・・・
「・・・ちっ、逃げたか」
 周囲を見渡してもアイツの姿は見えなかった。負けっ放しというのは面白くない。それでも、俺達としては勝った。辛勝と言われようが勝ちは勝ちだ。生き残ったんだからな。俺はカインとセシリー、それと泣きながら頑張った(らしい)ガニムスと合流し、着艦した。
 着艦後、俺は艦長に呼び出され、ザク1機分のお説教を有難く頂く羽目になった。そしてそれと同時にリック・ドムの正式なパイロットとして任命された。これはカイン達からえらくブーイングが出たが、俺の機体がないのだからしょうがないだろ。って事で艦長が丸めてくれたようだ。
 今度、アイツに戦場で会ったらこのリック・ドムで仕留めてみせる・・・。俺は徐々に広がるグラナダを見ながら心に誓った。

 後日、俺はアイツの情報を耳にした。ただ、その情報を聞いた時にはアイツはもうこの世に居なかった。なんでもアイツはソロモンでドズル閣下の乗った大型MAに特攻したらしい。青いノーマルスーツの奴が乗った連邦の戦闘機が突っ込んだ所為でドズル閣下は戦死したという噂話ではあったが。勝ち逃げされた俺はなんとも言えない気分でリック・ドムを眺めた。この機体も今じゃゲルググのお陰で霞んで見えるらしい。カインやセシリー達もゲルググに乗ってるしな。だが、俺は今もリック・ドムに乗り続けている。アイツに会った時に仕留めると決めてたからだ。だが、アイツはもう居ないらしい。それでもやっぱり俺はこいつに乗る。それが今まで俺を生かしてくれたこいつへの礼だし、あの時の事を忘れない為でもある。
「全クルーに通達! 第2警戒態勢! パイロットは各自MSに搭乗して別命あるまで待機して居てください!」
 相変わらず甲高い声でカナイが叫んでいる。さて・・・次はどんな奴と会えるかね・・・。