冬の寒空の下、僕は近くのコンビニで買って来たサンドウィッチにかぶり付いた。
 ここは公園である。当然屋外だ。つまりは寒い。
 何故寒いのが嫌いな――というより苦手――な僕がこんなところで昼食を摂っているか、というとあまり理由はない。
 強いて言うならば、
「空が青かったから、かなぁ」
 どんよりと灰色の重い雲が覆い尽くす空を見上げながら、誰にともなく呟いてみたりする。
 ひゅーるりー、と北風が身にしみた。





猫のいる風景








「あー、寒っ」
 そう言いながら、温めの缶コーヒーを啜る。口に出したところで寒さが緩和されるわけでもなく、逆に体感温度は下がるのではないだろうか。
 身体を小刻みに震わせながら、再びサンドウィッチを頬張る。
「うん、冷たい」
 ――まぁ、サンドウィッチだし。
 なんかもっと寒くなってきた。
 こんなに寒がっているのなら、早いところ会社に戻ったほうがよさそうなものだが、一度下ろした僕の重い腰はこんなことじゃ上がらない。それに今ここを立ってしまったら、何か負けた気がするので嫌なのだ。何に負けるのかは、僕自身いまいち分かっちゃいないけど。
 そんなことをぼんやり考えていると、なにやら僕に近づいてくる物体が一つ。
 人間ではない。人間にしては小さすぎる。
 四本足で、颯爽とした歩き方のそれ。
 食肉目ネコ科の哺乳類。というか、猫。
 そいつは僕から1mぐらい離れたところで座り込んで、じっと僕のほうを見つめてきた。
 僕がそいつの目をじっと見ると目をそらす。だけど僕が目を離すと、再び僕のほうを見つめてくる。
 というか、僕、というより、僕が食べているサンドウィッチを見ている、と言った方が正しいのかな。この場合は。
 現にそいつの目はサンドウィッチからぴたりと離れてはいない。
 ――腹、減ってるのか。だめだめ、俺も腹減ってんだ。それにこれは人間様の食事だい。
 とか思いつつ、再び口に運ぶ。
 そいつはあいも変わらず、じーっとこちらを見つめている。
 なんだか恨めしそうに。
 ――む、無視だ。無視。
 食べる。
 非難度合いが強くなった気がする。その視線を言葉に例えるのなら、じとぉ、だろうか。
「ああ、分かったよ。もう」
 結局折れたのは僕のほうだった。
 どうもああいった小動物の視線に、僕は弱いらしい。
 すこしだけ千切って猫の目の前に放ってやる。
 そいつは少し飛び退いて、恐る恐る僕の投げたサンドウィッチ(チキンカツ)に近づいていく。興味深そうに匂いをかいで、食べられると判断したのか、勢いよくかぶりついた。
 ――ふむ。我の寛大な心に感謝しろよ。
 などと考えていると、向こうはもう食べ終わったらしい。再びこちらをじぃっと見ている。あえて人間後に翻訳するなら、
「もっと寄越せ」
 だろうか。
 僕は、はぁ、と溜息をつき、再び千切って放ってやる。
 しばらく、静かな静かなお食事会が続いた。





 僕が最後の一切れを食べ終え、腰を上げて伸びをする。
 猫は未だ僕の顔を見ていた。
「もう終わりだ。残ってないよ」
 そういってやる。僕の言葉がわかったのか、ただ単に食べるものを持ってないことに気付いたのか、猫はふいっ、とよそを向いて、そのまま歩き去っていった。
 ほんの少し、寂しくなった。
 なんというか、感謝の気持ちがあってもいいじゃないか。
 鶴だって恩を返すために自分の羽を引き抜いて機(はた)を織ったんだぞ。
 というか、無生物の地蔵でさえお供え物を家まで持ってきたんだぞ。
 ――ああ、そっか。猫は気まぐれだから、猫なんだっけ。
 猫が晴らすのは恨みであって、恩じゃなかったっけか。
 ま、どうでもいいけどね。
「じゃ、またな」
 なんとなく立ち去る猫の背中に向けて、そう呼びかけてみる。
 そいつは振り返って僕のほうを一瞥すると、何事もなかったかのように茂みのほうへ向かっていった。




「いつか懐いていた猫は、お腹すかしていただけで〜。っと」
 耳に残っていたフレーズを口ずさみながら、僕は会社へと帰っていく。
「さて、もう一頑張りしますかね」
 空はまだ晴れず、重い雲は敷き詰められている。北風は未だ吹き止まず、ついでに財布の中も寒い。
 ――まぁ、こんな日もあるだろう。
 ぼんやりとそんなことを考える昼下がり。
 どうやら春は、もうちょっと先らしい。