とりあえず、この高座の第1回目として、目玉焼を取り上げてみよう。 順番からすれば、米の炊き方、味噌汁の作り方から始めるのが順当かもしれないが、 そんなの勝手にやってくれ。 教本はいくらでもあるし、白味噌派や赤味噌派や「我がママ」派等の全ての面倒は見切れない。
目玉焼を取り上げたのは第1回目の大サービスである。僕が研究の末編み出した秘策を公開しよう。 基本的に「黄身(やや)固め」派の人の為の秘策だ。 「黄身柔かめ」派の人にはあまり役に立たないかもしれない。
実を言うと、この問題の対処法としては、かのアメリカ辺りに「ターニング方式」 というのがある。いわゆる両面焼きですな。 先ず片面を焼き、黒焦げにならない内にひっくり返せば、ちゃんと黄身は固まる ... という、なんともあっけないと言うか、アメリカ的粗雑的合理主義ですな。 この方法が気に入った人は以下を読む必用無し。さよなら。 いや、絹の様な繊細さを持った我々日本人にとって、この方法は耐え難い ... という人は読み進むべし。僕の秘策は「サニーサイドアップ方式」を厳守している。
「フライパンを作る」っていうのがどういう事か分からない人の為に一応説明するけど、 要するに「新しく買ってきた鉄製のフライパンを使い始める時の作法」です。 最近はコーティング加工のフライパンが主流で、 今どき鉄製のフライパンを使う人はいないかもしれないけど、 使い続けて馴染んでくると鉄製の方が使いやすいし、メシがうまいよ。
さて、順番にいこう。
ポイントは、「2」の工程で酸化膜を作る事と、「4〜8」の工程で油膜を作る事ですね。 この文章を読んだ限りでは、酸化膜というのがどういう物か分からないかもしれないけど、 実際にやってみれば、 空焼きしているフライパンの表面に青光りする膜が張って行く様子が目に見えて分かるので、 心配する必用は無いでしょう。 出来上がったフライパンを図解するとこうなります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ← 油膜
・・・・・・・・・・・・・ ← 酸化膜
−−−−−−−−−−−−− ← フライパンの地肌
今後このフライパンを使い続ける上での注意点は、なるべく酸化膜を壊さない事です。 油膜は、料理したり洗ったりする毎に壊れるのは当たり前なので、 料理の後油を塗る等のメンテを忘れなければ特に神経質になる必用はありません。 酸化膜を守る為には、洗剤を付けたスポンジやタワシでゴシゴシ洗わない ... 等の注意が必用です。
ざっと、こんなところですな。えっ? メンドイって? とは言え、時間にしてせいぜい2時間位ですぜ。 たかだか2時間位の投資で、今後うまいメシが一生食えるんですぜ旦那。
ウ〜〜ン。問題は各工程に秘められた原理原則である。
「工程1〜3」は、たまに料理書等で目にする事があるかもしれない。 しかし、その原理を説明した物はあまり無いだろう。 これは、かの名高き「錬金術」を源泉とする秘術である。 物理学では「アニーリング」とも称されている。 また、これは東洋の神秘の世界に於いては「金冷法」という名で特に男性の間で広く流布されている。 その原理とするところは、 「金属分子に急激な熱変化を与える事により、その分子配列を整然たらしめる」事である。 つまり、これによって、フライパンの鉄分子を整列させ、熱伝播の不均等さを無くする ... というありがたい秘法なのである。ちなみに、「フライパンの底を濡れ布巾の上に乗せて」 の部分は、「フライパンをひっくり返して、底に水道の蛇口の水をぶっかけて」でもOKだ。
次の「工程4〜5」は、重要なポイントだ。 まづ、目玉焼を焼く時の油として何を使用するかという問題がある。 ここは、独断を承知で言わせて戴ければ「ラード」である。 少なくとも「動物性油」。間違ってもサラダ油等の「植物性油」は避けるべきだ。 その根拠は「うまい」からだ。植物性油を使用した場合、 ベチャベチャの油臭い目玉焼が出来るのに対して、ラード等を使用すると、 油分が卵に吸収されて表面上はサッパリ、ホッコリした目玉焼が出来る。 これは、チャーハンを作る時も同じだ。 ここでは、栄養学的側面、健康管理的側面は一切無視している。 動物性油がコレステロール等で健康上望ましく無いとしても、 同時に野菜を摂取すれば解決する問題だ。 しかし、「まずい物を食べる」という精神的ストレスを同時に解消する食べ物は存在しない。
さて、「工程4〜5」で特に重要なポイントは、卵をフライパンに落とす時に「ジュッ」 といわせない事だ。 「余熱を利用して油を延ばす」とか、 「コンロの外でフライパンの上に卵を落とす」という操作はその為である。 これは、テレビのドラマ等で「目玉焼はフライパンの上でジュッという物だ」 という擦り込みをされている人々にとっては意外かもしれない。
この「卵をジュッといわせない」操作は、 「工程6〜8」でも通奏低音の様に連綿と続いている。 では、何故「ジュッ」がいけないのか? 何故それ程までに「ジュッ」を敵視しなければがいけないのか?
「ジュッ」をさせると、当然卵に気泡が発生する。 この気泡は、卵の表面に無数のクレーターを造成する。 そう、まさにケーシー高峰のあばたの様に ... (って、古いな俺も) 逆に、「ジュッ」をさせないと、このクレーターが発生しない。 クレーターが発生しない事によって、どういう利点があるかというと、 ひとつには「見た目がきれい」という事がある。 しかし、これは(少なくとも僕にとっては)重要では無い。 重要なのは、「表面積が小さくなる」事である。 クレーターが発生しない分、表面積が小さくなり、 熱発散量が抑えられ、「冷め難いホコホコの目玉焼」ができるのだ。
ところで、「工程6」にも重要な秘密が隠されている。 何故最弱火にしなければいけないか? 上記の通り、「ジュッ」といわせない事もひとつの理由ではある。 しかし、一番大きな理由は、「弱火で焼く限り、たいていの料理は焦げない」 という点である。 そう。焦げないんですね。 もちろん、2時間とか10時間焼き続けるなんていう非常識な事をすれば焦げますよ、そりゃ。 しかし、中火や強火で焼く時のように「ちょっと目を離したすきに、アッという間にまる焦げ」 という事態は避ける事ができるんですよ旦那。
「工程7」はオプションですな。固め派の人は蓋をすればいいし、 柔らか派の人は蓋をしなければいいし、ミディアム派の人は途中まで蓋をすればいいし。
というわけで、楽しい楽しい目玉焼の出来上がり。
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