Netscape 7 を語る上で、避けて通れないのが"Mozilla" です。けれども、Mozilla という名称は様々な意味を持ちそれぞれ使われているため、どの意味で使われているのか判断する必要があります。ここでは、多義語Mozilla の持つ意味を一つ一つ紹介していきたいと思います。
インターネットの歴史は、1969年のアメリカ国防総省によるアーパネット(ARPANET) に始まるとされています。その後インターネットは急速に進歩し、1989年にはインターネットの代名詞になったWWW (World Wide Web) が開発されました。そしてこのWWW が爆発的に普及するきっかけとなったのが、"Mosaic"(モザイク) というWWW ブラウザでした。Mosaic は1993年、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校NCSA で当時学生だったMark Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏らによって開発されました。Mosaic は初めて画像表示に対応するなど(それまでは文字しか扱えなかった)WWWをグラフィカルなものに変え、自身の急速な普及と共に、今日のインターネットブームの元を作ったと言えるでしょう。
しかし、Mosaic の大成功を見たイリノイ大学は、Mosaic の権利を大学の管理下におきます。これに反発したAndreessen 氏らは大学を去った後に、Jim Clark(ジム・クラーク)氏らと共にベンチャー事業を興し、Mosaic を超えるブラウザの開発に着手しました。会社を興すにあたり、当初社名をMosaic Communications とする予定でしたが"Mosaic" の名称の使用にイリノイ大学からクレームがつき、一時Mozilla Communications という名前も検討しましたが、結局 Network + Landscape の造語からNetscape Communications という名前に決定されました。また、作られたブラウザも当初はMosaic Navigator でしたが、正式版として出荷されるときにNetscape Navigator という名前に変更されました。Mozilla という名前は正式名称ではなく、Navigator の開発コードネームとして生き残ることになりました。
Mozilla という名称は、こうしてMosaic との確執?の中から誕生したと言われています。Mozilla という言葉がMosaic + Godzilla (ゴジラ)の合成語で、Mosaic をうち倒す怪獣という意味が込められたのもこうした経緯があったからでした。表向きはNetscape という名前を使いながらも、本当の名前はMozilla であるというNetscape の立場は、実際にUNIX 版のNN のREADME にも、最終行にAnd remember, it's spelled N-e-t-s-c-a-p-e, but it's pronounced "Mozilla."(N-e-t-s-c-a-p-eと綴るが、モジラと発音する)
と書かれていたことからもうかがえます。こうして出荷されたNN ことMozilla は、Mosaic を凌駕する性能でもってMosaic を駆逐し、ブラウザ業界トップの座を奪います。そしてさらなるバージョンアップで機能強化を遂げ、一時はブラウザ市場シェア9割強とも言われるまで成長したのです。
一方Mosaic の方はというと、この後イリノイ大学によって商用化され、Spyglass という会社にMosaic のライセンスが渡ります。そしてSpygrass からライセンスの転売を受けたのが、かのMicrosoft でした。Microsoft はこれに"Internet Explorer" という名を付け、出荷します。このことは、現在でもIE のバージョン情報のダイアログに記載が確認できます。
Microsoft Internet Explorer のバージョン情報より(抜粋)Based on NCSA Mosaic. NCSA Mosaic(TM); was developed at the National Center for Supercomputing Applications at the University of Illinois at Urbana-Champaign.
Distributed under a licensing agreement with Spyglass, Inc.
その後、機能強化・無料化・強制バンドルといった方法で、IE はNetscape の支配をひっくり返します。Mosaic をうち倒すべく世に出た怪獣Mozilla は、数年の後Mosaic の末裔の返り討ちにあってしまうのでした。
ブラウザは、接続したサイトに、自分が何というソフト(User Agent) であるかを名乗ります。(HTTP_USER_AGENT)また、JavaScript からもアクセスできるようになっています。この文字列の中にも、Mozilla が出てきます。NN は、上記のような理由から当然Mozilla と名乗ります。また、Microsoft のIEが"Mozilla compatible" (Mozilla 互換ブラウザ)と名乗るなど、互換性のためにMozilla と名乗るブラウザもあります。(他にDreamPassport, iCab, Opera 等)また、Netscape のメーラー(Messenger, Mail, Mail&Newsgroups など)も、メールヘッダのUser-Agent: やX-Mailer: で、Mozilla を名乗ります。
あなたのブラウザは
Netscape のマスコットキャラクターとしてDave Titus (Vincent van Mozh?)氏がデザインした緑色の愛嬌のある怪獣も、Mozilla と呼ばれています。また、Mozilla.org(後述)のトップページにいる赤いT-REX も、Mozilla と呼ばれています。
Mozilla の名称が多くの意味を持つようになったのは1998年でした。IE によって窮地に立たされたNetscape はこの年、Netscape Communicator /Navigator のソースコードを広く一般に公開し、オープンソース ソフトウェア"Mozilla"として今後の開発を進めていくことにしました。そして、この計画につけられた名前が"Mozilla Project" でした。それまでは表に出てくることが少なかったMozilla という名称が、初めて公式の名称(組織名・製品名)として使われるようになったのです。
オープンソースについてより詳しく知りたい方は「伽藍とバザール」を参照してください。
Mozilla Project とは簡単にいってしまうと、それまでNetscape が社内でおこなってきたブラウザやメーラーなどの開発を、オープンソースという形で誰でも参加できるようにしたものでした。その為、できあがったプログラムやそのソースコードも一定の条件下で誰もが自由に利用できるようになっています。Netscape 自身は、出来上がったMozilla を少々手直ししてNetscape ブランドのソフトを出荷していくことになりました。
始めは、それまでのNC4.x のソースを改良して、新バージョンを出荷しようとしていたのですが、途中で別に新しく作っていたレンダリングエンジンの"Gecko"(Mozilla.org ではNG Layout)の性能がよいことに気付き、Gecko を利用した製品作りに切り替えます。こうした計画変更による遅れもあって、Mozilla.org はなかなか製品を出荷することが出来ませんでした。またNetscape 自体がAOL(現 AOL TW)に買収されてしまうなどの紆余曲折もあり、現在に至っています。
Mozilla.org の設立後、それまでMozilla と呼ばれていたNN のver.1-4 及び破棄されたver.5 は、新しいMozilla と区別するためにMozillaClassic と呼ばれるようになりました。けれど、このことは一般にはあまり知られていません。
Netscape 7 とMozilla は何が違うのでしょうか?また、Netscape 7はこれまでの系統のNC と何がどう違うのでしょうか?端的に表現すると、Mozilla ≒ Netscape 7 ≠ NC ということになります。
Netscape 7 とNCは名前が同じで、いかにも同じソフトのバージョンが上がっただけのように見えますが、実は設定などのインポートは行えるものの、根本的なプログラムの構造は全くの別物なのです。また、ソフトの性格もNetscape 7 とNCでは大きく異なっています。NCは、<layer> タグのサポートやDynamicFont 等の独自技術満載で、NC で無ければ見られないページを増やしユーザーを囲い込むことを狙っていました。しかし、独自技術の氾濫ではWeb が分断されるだけだという反省から、Netscape 7 はW3C 等の定めた標準技術を出来るだけ遵守する方向で機能を実装するようになりました。そのため、過去のNC で使えた技術も、Netscape 7 では動作しないことがしばしばあるのです。
それに対して、Mozilla とNetscape 7 の関係はどうなのでしょうか?実はMozilla とNetscape 7 はほとんど同じものなのです。Mozilla とNetscape 7 は逆に違いを見つけるのが困難なくらいで、その為「双子」と称されることもあるくらいです。より詳しくMozilla とNetscape の開発の流れを知りたければ、Netscape/Mozilla 開発の軌跡をご覧下さい。
| Mozilla | Netscape 6/7 |
|---|---|
| Mozilla Milestone 14 | Netscape 6 Preview Release 1 |
| Mozilla Milestone 17 | Netscape 6 Preview Release 2 |
| Mozilla Milestone 18 | Netscape 6 Preview Release 3 |
| Mozilla 0.6 | Netscape 6.0, 6.01 |
| Mozilla 0.9.1 | Netscape 6.1 Preview Release 1 |
| Mozilla 0.9.2.1 | Netscape 6.1 |
| Mozilla 0.9.4.1 | Netscape 6.2 |
| Mozilla 0.9.4ec Branch | Netscape 6.2.1, 6.2.2, 6.2.3 |
| Mozilla 1.0 Release Candidate 2 | Netscape 7.0 Preview Release1 |
| Mozilla 1.0.1 Release Candidate 2 | Netscape 7.0 |
| Mozilla 1.0.2, 1.0 Branch | Netscape 7.01, 7.02 |
| Mozilla 1.4 | Netscape 7.1 |
これら双子はどのように見分けるのでしょうか?それは、対象としているユーザ層の違いです。Netscape の方は、一般の方に使ってもらうことを前提としていますが、Mozilla の方は違います。Mozilla は、Mozilla 自身の開発のため、他企業・組織ががカスタマイズするため、サイトの管理者など上級者が利用するために公開されているのです。簡単に言ってしまうと、Mozilla とはOEM 製品(の素)のようなものなのです。
これら2つのソフトそれぞれのそれぞれに対する利点を挙げてみると以下のようになります。Netscape 7 の方はAOL TW との親和性を強調しているのに対し、Mozilla の方はオープンソースの強みを生かしていることがうかがえます。