雛祭
「あっ」
春の日差しが感じられるようになったこの頃、ふとカレンダーを見ていたアッシュが突然声を上げた。
その声に、静かに読書をしていたユーリが眉をしかめる。
アッシュはそれに気付かずに、嬉しそうに言った。
「明日はひな祭りっスか〜」
アッシュの言葉を聞いて、ユーリが不思議そうに聞く。
「何だ、それは」
「あ、ひな祭りは日本のお祭り何スよ。月で言う3月の、女の子のお祭りっス!」
「そうなのか?」
「せっかくっスから、ユリ子ちゃんを呼んでお祝いしましょう!」
アッシュがウキウキしながら言う。どうやら、明日作る料理の献立を早くも考えているようだ。
ユーリはそんなアッシュの様子に、薄っすらと笑みを浮かべた。
「それも良いな」
「でしょう?」
アッシュが満面の笑みで振り返る。
「ユーリ、せっかくだからユリ子ちゃんに雛人形買ってあげたらどうっスか?」
「雛人形?」
「そうっス!女の子が幸せになれるようにって飾る人形っスよ。本当は全部揃って生まれたときに買うらしいんスけど、お雛様とお内裏様だけでも買ってあげたら良いと思うっスよ」
「ふむ・・」
とユーリが顎に手を置いて頷く。
「そうだな・・、買うことにしよう」
立ちながらそう言うと、受話器を手にしてユリ子の部屋のナンバーをプッシュした。
「は〜い、もしもし?」
女の子らしい可愛い声が電話の向こうから聞こえる。
その声を聞いてユーリが優しげに微笑んだ。
「ユリ子か」
「あ、お兄ちゃん!どうしたの?突然」
「ああ、明日が何の日か知ってるか?」
「・・・ひな祭り、だよね?」
「そうだ。よく知っていたな。で、アッシュが明日ユリ子達を食事に招待したいそうだ。・・・来るか?」
「行く〜〜っ!!」
「そうか。じゃあ、明日ラヴァ−も連れて私の城に来るといい」
「うん、判った。じゃ、明日ね」
「ああ」
そう言って、電話を切った。
そして後ろを振り返り、返事をウキウキして待っているアッシュに、
「来るそうだ」
と告げた。
「よ〜しっ、頑張って作るっスよ!!」
アッシュがガッツポーズを取って意気込む。
「その前に、人形を買ってこなければな・・」
「あ、そうっスねェ。じゃあ、今から行きましょうか。付き合うっスよ」
3月3日当日
ユリ子とラヴァ−がユーリの城を尋ねると、既に居間のテーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。
「いらっしゃいっス〜」
アッシュが嬉しそうにユリ子達を招く。
「アリガト〜、アッシュさん」
「よ、久しぶりだな、アッシュ」
ユリ子とラヴァ−がそれぞれ挨拶をした。
「よく来たな」
後ろから声が聞こえ、ユリ子が振り返る。
「お兄ちゃんっvv」
と、同時に抱きついた。
ユーリの頬が薄っすらと赤くなる。ユーリはあまりこう言った行動に慣れていないので、すぐに赤くなってしまう。
そんな様子を、アッシュとラヴァ−が微笑ましいといった感じで見守っていた。
「そうだ、ユリ子ちゃん。ユーリからプレゼントがあるんスよ」
アッシュが思い出したようにユリ子に言った。
「え?何何?」
ユリ子が不思議そうにアッシュを振り返る。
アッシュはニコニコ笑ったまま何も言わない。
やっとユリ子から開放されたユーリが、隣室に続くドアを開くとその中には・・・。
「わぁっ」
中に置かれている物を見て、ユリ子が感嘆の声を上げる。
「雛人形・・・?」
ラヴァ―がアッシュに小さく聞く。
「そうっスよ」
アッシュが、にっこり笑って答えた。
深紅の絨緞に彩られた、7段の雛飾りが部屋の真ん中に鎮座していた。
「にしても・・、デカイな・・」
ラヴァ―がボソリと言った。
「そうっスねェ・・。お雛様とお内裏様くらいで良いんじゃないかって言ったんスけど・・、中途半端なのは嫌だと言って聞かねェんスよ、ユーリ」
アッシュが苦笑して、ラヴァ―に耳打ちをする。
ラヴァ―もそれに苦笑を返した。
「有り難う、お兄ちゃんっ!!」
「喜んでもらえて何よりだ」
礼を言うユリ子にユーリが微笑んで答える。
兄らしい優しい笑みだった。
「さ、そろそろ食べるっスよ。」
「そうだな、折角の料理だ。食べなければ勿体無い」
アッシュが、席についた皆に料理を振舞う。
卓に置かれた料理は、チラシ寿司をメインに、ひし形ゼリー、甘酒など、桃の節句を彩るのに相応しいものだった。
勿論、料理の味は絶品!
誰もが、このひと時を楽しんだ。
―――その後結局、あの巨大な雛飾りはマンション暮らしのユリ子に持って帰れる筈も無く、ユーリの城に保管される事になったとか。
そして1年に1度、3月3日にアッシュが飾っているらしい。
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