Creazy Ptern
「あぁ・・・腹減ったな」
KKは自分の清掃場所である西新宿駅のサンルーフの下から、空を見上げてポツリと呟いた。
そのセリフに合わせてkkの腹がきゅるる・・と切ない音を立てる。
KKはそれをよしよしと宥めながら、滑りの悪い床にモップを走らせた。
その時、丁度KKからは死角の場所に小さな出っ張りがあったため、KKはそれにつまずくことになった。
しっかりと手に握られていた愛用のモップちゃんは、KKの手を離れ床の上を軽快に滑っていった。
「ちょっと待て。さっきまでの滑りの悪さは何処へ行った!?」
KKは慌てて滑っていくモップを走って追いかけて―――本人はそのつもりだったが、実際は一緒に滑っていた―――行った。
それからどれくらいの時間が流れたのか。
「あははっ、待てよ〜マージョリー(←モップの名前)」
ついにしりもちをついたKKは、猛スピードですべるモップをしりもちをついて回転しながら追いかける。
少なくとも3時間43分は滑っているため(現在進行形)、数少ない清掃着(火事で焼けてしまった)は尻の部分が薄い繊維1枚になっている。
そしてついに尻の部分の繊維が破れ、ペタンぢゅるるるる・・・という情けない音とともに、KKの、動きが止まった。
マージョリー(愛用のモップ)は今だ滑り続けている。
その姿が見えなくなると、KKのそりと立ち上がり、「チッ」と明らかに負け惜しみのような
舌打ちをして服の埃を払った。
「何だよ、畜生・・。新しいモップ貰ってこなきゃならねぇじゃねぇか」
周りの人々の生暖かい目線には気づかずに、KKは床に置きっぱなしにしてあったバケツを手に取り、清掃社本部に向かってトボトボト歩いていった。
こっそり、御尻の部分をバケツで隠しながら。
KKの清掃本社は、駅から5秒の場所にあった。
つまり目の前。
KKが顔を上げると、何もなかった。
ビルの建っていた場所に。
あまりの事に、バケツを落とし、壁のあった場所に手を這わせてパントマイムをしながら、KKは壁のあった場所に体を寄せて今年最大の涙をこぼした。
「僕はもうダメだよ・・パトラッシュ・・・」
その時、KKに声を掛けてくる者があった。
ビルの隣に住むおばちゃんである。
「なんだい、アンタ。」
「おばちゃんはネ、忙しいんだよッ」
自分から声を掛けておいて酷い言い草だ。
「ここにあったビルは・・?」
KKはやっとのことで震える指で土地を指差して、おばちゃんに聞いてみた。
「あぁ、そんなの半年以上前に潰れてるヨ」
「何ィーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
KKは驚きの事態に絶叫した。
潰れてるだと!?じゃあ、オレの今までの給料はどうなるんだよ!!???
KKは断固講義を申し立てるべく、まだ愚痴を言っているおばちゃんを振り切ってまだ存在しているレトロな黒電話の前に立った。
番号を回そうとして番号を知らないことに気が付いた。
「・・・・・・・ッ、何で番号知らないんだよ俺ッ」
KKは自己嫌悪でしゃがみ込んだ。
そして何時間たっただろうか。
「KK?」
不意に声を掛けられて、KKは涙と鼻水でベショベショの顔を上げた。
「・・・マコト・・」
KKの顔を見て、マコトの顔が一瞬だけフニャリと緩んだが、すぐに元に戻った。
「どうしたんだよ、Kちゃん」
珍しくまともなマコトが、しゃがみ込んでKKの背中を擦ってやる。
こうやって見ると、優しいお兄ちゃんに見える。
「し、仕事が無くなっちまった・・・」
「え?」
「会社が半年以上も前に潰れてたらしいんだよ、畜生」
「・・・・・」
鼻水がものすごい勢いで上下しているのを見つめながら、マコトはマジな顔で悩んだ。
そしていつものクレイジーっぷりを発揮して、両手を広げた。
「じゃあ、俺の家に永久就職すればいいさ」
KKは懐に手を差し込んで、小型の銃を手にし、撃った。
チュイ―ン☆
マコトは倒れた。
額のど真ん中に、風穴を開けて。
所詮、やはりマコトはマコトでしかない。
KKが早々にこの死体(今だけ)の前を立ち去ろうとしたとき、ムクリと背後で何かが立ち上がる気配がした。
マコトか!?復活するには早すぎる。
KKが振り返ると、案の定起き上がっているのはマコトであった。
もうそろそろお迎えが来てもいいのではないか・・・?
「ま、Kちゃんそれは全て本気として・・、仕事が無くなっちゃったならオレの家の美容院でバイトをしないか?掃除だけど」
「いいのか!!?」
「早ッ!!」
仕事の話が出たときのKKの反応は速かった。
「じゃあ、Kちゃんには主にこのフロアの掃除をしてもらうよ。あとは・・・、この俺の・・」
皆まで言う前にKKは口封じを施行した。
「これを片付ければいいんだな」
白目を剥いているマコトを、今は使用が禁止されている黒ゴミ袋に入れながらKKは呟いた。
「な、何してんのKK・・」
声がした。多分、サイバーの。
「ヨォ、久しぶりだなサイバー」
KKは満面の笑みで、グラサンを3枚重ねしたサイバーを見やる。
「俺、今日からここで働くことになったんだ。宜しくな。取りあえず、ごみを片付けてるところだ」
「うん、そっか・・・」
どこか遠い場所を見つめながら、サイバーは応えた。
できれば、永久に復活しないようにしてください。
いままでこの兄にかけられた苦労を思い出せば、そう思わずにはいられないサイバーだった。
でも、それも無駄な願いである。
どうせ兄は10分としないうちに復活するので。
「なぁ、サイバーこれはどこにしまえばいいんだ?」
KKが、ちりとりを手に持ってサイバーを振り返った。
「ええっと、それはこっちに・・」
サイバーが掃除用具入れを開けて、KKに丁寧に教える。
他愛無い会話をしていると、マコトを詰めた黒ゴミ袋がガタガタと揺れだした。
ズボッと言う音がして、ゴミ袋から手足が生えた。
顔の部分は、余程きつく縛ってあるのか(ロッククライミング結びだ)開かなかったらしく、ゴミ袋に手足が生えた奇妙な生物らしき物が生まれた。
何故か長い手足をバタバタしながら、見えないはずのKKの下に一直線に走ってくる。
KKは、あらかじめ仕掛けておいた罠を発動させた。
落とし穴。
なぜこんな物が店の中に・・。
サイバーは店の隅で壁に話しかけながら、この世の終わりとも取れる兄の奇妙な姿を色の濃いグラサンに映した。
一直線に落ちていくマコト。
手足を収納して本物のゴミのように落ちていく。
一瞬のうちにマコトの姿は見えなくなった。
KKは何事もなかったかのように、鼻歌を歌いながら店内をモップで磨いている。
「ねぇ、KK」
「なんだ?」
「この穴って・・・どこに続いているの?」
「ん。ゴミ集積所の焼却炉だ」
今世紀最大の満面の笑みでKKはさわやかに答えた。
「今日もいい天気っスー」
真っ青な空の下、この独特のしゃべり方の持ち主獣人のアッシュが両手に32個のゴミ袋(市指定の透明なヤツだ)を持って、自足300kmのスピードで山を下っていた。
「全く、ゴミがたまりすぎちゃって大変っスよー」
独り言をしゃべりながらどんどん下っていく。
昨日は、何故か盛り上がってしまい宴会に発展した。
そのため、宴会で出たこのゴミをわざわざ捨てに行っているのだ。
揺れるゴミ袋のガサガサと言う音の合間に、「アッシュ・・・ぅ、たすけ・・・」とかいう声が聞こえていたが、アッシュには聞こえていなかった。
否、アッシュに聞こえないはずも無いのだから、わざと無視していたのかもしれない。
一番下のひときわ大きいゴミ袋の中にスマイルが見え隠れ。
・・・2分後にアッシュが街の焼却炉に到着したときにそれは起きた。
「せぇのっ・・」
気合も十分にアッシュがゴミを燃え盛る焼却口から放り込もうとしたとき、何故か上から落ちてきた黒ポリ袋が見えた。
それは、放物線を描いてアッシュのゴミ袋のほうへ飛んでくる。
アッシュが陰険そうな目つきで見ていると、手足が生えた。
にゅっ
アッシュは危険を悟った。
それは吸盤のようにアッシュの持つゴミ袋に張り付き、よじ登ろうとした。
そして、それを見てアッシュは・・・
普通にゴミ袋を焼却炉の中に放り投げた。
「ふ〜〜、やれやれ。さて、早く帰らねぇとユーリがお腹空かすっス!」
アッシュはゴキゴキッと背骨を鳴らすと、もと来た道を自足600kmのスピードで駆け抜けていった。
愛の力ゆえに。(笑)
一方スマイルはと言えば、泣きながら運命に忠実にいた。
彼も妖怪の端くれ、そう簡単には死にはしない。
重力に従って綺麗に落ちていく。
一緒に落ちて言った黒ポリ袋ことマコトは、必死で泳いでいた。
傍から見ると、ひじょ―――――にキモイ。
そしてマコトのどろく(努力)は実を結び、何とか脱出に成功した。
いくらマコトでも、火に焼かれれば死んでしまう。
今のところは。多分。
今度試してみよう。
マコトは黒ポリ袋に包まれたまま、すっくと立ち上がった。
何だか、夕日が眩しかった。
「結び目・・、解けないよぅ・・・」
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