March 25,1993 AM11:00
羽根の絵

最悪のメンバー

 
 マサは途方に暮れていた。最後の砦であった「金持ち日本人女性」もすべて断られてしまったのだ。もともとこの旅行はマサと同じクラスの人たちとがいく予定であったが、みんな都合が悪くマサはこの旅行をあきらめざる終えなかった。がっかりしているマサを見かねジョーが二人でいこうといってくれた。ここまで気を使ってくれるジョーに対してマサは何かお礼がしたかったのだ。それが旅行のパートナーを捜すことだった。それは別にジョーと二人だけでいくのが嫌だということではなかった。マサは日本に帰ればいくらでも金を稼ぐことでできる。しかしジョーはどうだろう。彼は学校を卒業後、婚約者との旅行が待っている。今、ジョーに金を使わせるわけにはいかない。ジョーには世話になりっぱなしのマサではあったが、これがジョーに対しての精いっぱいの恩返しだったのだ。

 マサは最後の手段にでることにした。実はすべての日本人女性に声をかけてはいなかったのだ。二人だけ声をかけていない女性がいた。もちろんこれには理由がある。どんな状況であってもいっしょに旅行には行きたくない相手だったのだ。

 フミは滋賀の短大に通っており今2年生だ。つい1ヶ月ほど前にIEIに入学してきた。最初は卒業旅行をかねてきたのだと思っていたのだが、3月の下旬となった今でもまったく帰る気配がなく、就職はどうなるのだろうと心配になる。とても20歳には見えない風貌で、ジュリアナで扇子を持って踊っている女性を思い浮かべてもらえばどういう女なのか想像がつくだろう。マサが一番苦手なタイプだった。

 マサはためらったが今はまさに緊急事態である。嫌々フミに声をかける。

「明日、サンディエゴに行くんだけどお前はいかねーよな」

「サンディエゴぉ、ちょうど旅行したいなと思っていたんだけど、マサとじゃねぇ」

 この女首締めてやろうか。マサは心の底からそう思ったがここは我慢だ。

「行くの、行かないのどっちなんだよ」

「行ってもいいけど一つだけ条件があるの」

「何だよ、条件って」

「フミトがいっしょに行くんだったら私も行ってもいい」  

 なるほど、こいつはフミトが好きだったのか! などと納得している場合ではない。とにかくこの女は行くといっているのだ。

「わかった。フミトが行くならお前も行くんだな」

「でも、フミトは行かないっていってたよ」

「大丈夫、フミトは行くよ。オレが説得する!」

 マサはそう言うと、さっそくフミトを探しに外にでた。

 フミトはマサと同じ時期にアメリカに来た。年はマサより1つ上の23才。日本では家具専門の商社に勤めていたが、英語力がないために仕事に限界を感じ、基本から勉強するために会社をやめIEIに入学した。仕事柄、海外の経験は多いらしく話す話題には事欠かない。こんがり焼けた肌、筋肉質な体系の時任三郎顔はいかにも遊び人という感じだが、実際は「超」がつくほどまじめな奴だ。

 マサとフミトは入学当初はSTEP3という一番ランクの低いクラスだった。STEP3はマサにとっては簡単すぎる授業内容だったが、マサは英会話だけを勉強したかったので基本から始める授業に不満はなかった。フミトはこれと逆で英会話はある程度できるのだが、英文法を全く知らない。

 IEIでは月末にSTEPアップのためのテストがあるのだがフミトはなかなか合格できなかった。このテストはヒアリングもあるのだが、ほとんどが筆記だ。これはフミトにとって重大な問題だった。フミトはSTEPがなかなかあがることができずマサもそれに付き合った。英語力のあるフミトよりもマサが上に上がれることが理不尽に思えたからだ。それについて二人は何度も学校に抗議したが、最後までそれが受け入れられることはなかった。

 不思議に思ったのはジョーも二人に付き合ってくれたことだ。ジョーは英文法も結構覚えているし、英会話はマサから見れば完璧だ。それでもジョーは上のクラスにいくことはせず、二人に付き合ってくれた。その理由を聞いてもジョーは笑いながら「I don't know」というだけだった。

 マサはベンチで寝ているフミトを見つけるとさっそく用件を話した。

「頼む! サンディエゴへいっしょに行って来れよ」

 マサは必死だった。旅行の同行者を捜すこと、これはマサの役目だったのだ。なんとしても役目を果たしたかった。

「マサとは最後だし、オレも本当は行きたいんだけど。さっきもいったように金がないんだよ」

「それはわかっている。金の半分はオレが出す。だからいっしょに行ってくれよ」

「まいったな」

 フミトはしばらく考え込んでいたが、にこりと笑うと

「OK! 行くよ、マサとこのまま別れるってのも、いやだしな」

 マサはほっとした。何とか役目を果たすことができた。これでジョーの負担も軽くなる。しかし、マサは4人集めることだけに神経を集中させすぎて肝心なことを忘れていた。

 はやりどこか抜けているのである。

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