March 27,1993 PM11:00
羽根の絵

フミトの疑惑
 

 最高の夜を終え、マサとジョーは上機嫌でモーテルに帰ってきた。

 部屋にはフミトとフミとユーヤがいたがどうも様子がおかしい。酔っぱらい二人にはここは場違いだった。それでもマサはさっきまでの雰囲気を持続したかったので、すぐにでも寝たかった。3人の雰囲気からしてただならぬことが起こったというのは容易にわかったが、今はめんどうなことに巻き込まれるのは勘弁してほしかった。マサはベッドに入りもう一度、神に祈った。明日こそ目覚めのよい朝を...

 マサは熟睡した。

「ねぇ、マサ起きてよ」

 ずいぶん早い朝だった。眠ってから30分もたっていない気がする。神様よオレはこんなに早い朝はお願いしていないぞ。マサはまたもや神に裏切られた。

 声の主はやっぱりフミだった。

「なんだよ、早く部屋に帰れよ」

「フミトとユーヤがどこかいって戻ってこないいんだけど」

 フミは「ほら、私のいったとおりで展開になったでしょ」といわんばかりの高慢な態度だった。 「なんでおまえが威張ってんだ」  マサはツッコミをいれようとしたが、やめておいた。とっととトラブルを解決して眠りを続行したかったからだ。

「はいはい、見てくればいいんでしょ」

 マサはもうどうにでもなれと、なかばヤケクソ気味に外にでた。マサには何が起こったのかだいたいわかっていたし、それが大したことでないことも知っていた。だいたいあの3人を残してきた時点で、こういう結果になるということは決まっていたのだ。

 マサは隣の部屋に向かった。そこに二人がいることは分かり切ったことなのだ。もちろんフミが思っていることをしているわけはなく、フミの悪口を言っているに違いない。それしか考えられないのだ。しかし現実はそれほど甘くなかった。マサは足を止めた。電気が消えている。また嫌な予感がした。こういうときは冷徹になって考えてみることが大事だ。マサはプールわきにある椅子に座り、タバコに火をつけた。

 まず、フミトはユーヤを何とも思っていない。それを前提にして考えなければならない。それを前提に大学で習ったフローチャートで考えてみた。

 ユーヤ VS フミで喧嘩になった。
 マサ、ジョーが帰ってくる。寝る。
 フミトとユーヤが部屋をでる。隣の部屋に入る。
 フミト、ユーヤはフミの悪口を言う。意気投合。
 フミはふてくされている。
 ユーヤは落ちこんでいる。
 フミトは情に弱くて女好き
 マサとジョーは熟睡中
 部屋の電気を消す。
 ×××××××

 ダメだやり直しだ。今度はフミトには日本に彼女がいるという前提とユーヤは堅いという前提ををつけ加えてみた

 ユーヤ VS フミで喧嘩になった。
 マサ、ジョーが帰ってくる。寝る。
 フミトとユーヤが部屋をでる。隣の部屋に入る。
 フミト、ユーヤはフミの悪口を言う。意気投合。
 フミはふてくされている。
 ユーヤは落ちこまない。
 フミトは情に弱いが彼女がいる
 フミトはマサに女遊びするように説得された
 ユーヤは堅い。
 ユーヤは欲求不満。
 マサとジョーは熟睡中。
 部屋の電気を消す。
 ×××××××
 だからどうした、オレの知ったことではない。

 そうなのだ。よく考えたらフミトとユーヤがどういう関係になろうとマサには別に関係ないのだ。苦しむのはフミだけなのだから、そう思ったらずいぶん楽になった。タバコをもみ消し立ち上がると隣の部屋に向かった。ドアの前で一瞬立ち止まったが、ノブに手をかけ勢いよくドアを開けた。

 嫌な予感は当っていた。

 フミトが椅子に座ってくつろいでおり、奧に下着姿のユーヤがいた。

 マサは思った。「だからどうした、オレの知ったことではない」

 落ち着くにはずいぶん早いような気もするが、何事にも個人差はつきものだ。

「フミがうるさくて寝れないんだよ。連れ戻してくれないか」

 マサは機械的な口調でユーヤにいった。ユーヤは頷いて答える。

「まったくしょうがないよな、今も二人でフミの悪口を言ってたんだよ。結局アイツが被害妄想を巡らしてるだけなんだよな。ひとりで勘違いして、ひとりで怒ってるんだよ。マサたちが飲みに行ってる間、ずっと口論してたんだぜ。口論が一段落したところでちょうど帰って来るんだもんな。ほんとオレも一緒に飲みに行くべきだったよ。マサだってフミには不満だらけだろ。何とか言ってやってくれよ」

「とにかくフミを連れ戻してくれよ。オレは眠くてしょうがないんだ」

 マサは機械的な口調でフミトに答えた。

「じゃあ、そろそろオレも戻るよ」

 そう言ってフミトが立ち上がり、3人は隣の部屋に向かった。外にでて街灯に照らされたユーヤを見ると下着姿ではなく、ショートパンツだった。

 マサは思った。「だからどうした、オレの知ったことではない」

 冷静を装っていても、マサは完全に動揺していた。被害妄想を巡らしているのは、フミではなくマサだったのかもしれない。

 フミはマサのベットで寝ていた。その横でジョーも熟睡している。

 マサはフミをたたき起こした。

「あの部屋に帰りたくない!」

 フミは目を覚ますなり、またわがままを言い始めた。今度はテコを使ってでも動かないと言う態度だったので、マサは心を鬼にしてフミを帰らせようとした。その姿はまさに鬼そのものだった。蹴りをいれるは毛布をひっぺがえすはやりたい放題である。

「Get out of here!(ここから出ていけ)」

 大騒ぎにびっくりして目を覚ましたジョーにもこの事態が飲み込めるようにマサはわざと英語で怒鳴った。とうとうフミは観念したのか、渋々自分の部屋に戻っていった。

 現在の時刻はAM0:00。

 こんな時間に大声で騒いで他の部屋の客から文句が出なかったのが不思議である。

 結局この日もマサたちは十分な睡眠をとることはできなかった。

 

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