サンディエゴからメキシコまではすぐだ。 フミは何も知らなかったようだが、マサたちの予定では今日一日をメキシコですごすことにしていた。国境なんて滅多に見られる物ではない。車内は徐々に活気を帯びてきた。
「国境ってどういう風になってるの」
「何もないし、あっという間に越えちゃうよ」
「そんなもんなんだ。全然おもしろくないね」
せっかく盛り上がった雰囲気も「物知りフミト」の冷めた答えにしらけてきってしまった。
「だったらさ、国境の直前でカウントダウンしようぜ」
それでも唯一興奮していたマサが子供みたいなことを言い出すと、再び活気を帯びてきた。所詮みんな子供なのだ。ジョーにカウントダウンするから国境の近くまで来たら教えてくるように頼むと、ジョーまで興奮してるのか「O〜K〜!」とお茶らけていった。
「Near the border ! (もうすぐ国境だ)」
ジョーの一言で一同はカウントダウンの準備にはいった。だが期待は美事に裏切られた。
「なんだ、国境って車で簡単に通り過ぎるってわけじゃないんだ」
多くの車で渋滞している国境の入り口を見ながらフミがいった。
「話が違うじゃないか!」
マサもカンカンだ。
「人だったらあっという間に越えれるよ。門をくぐればいいだけの話さ。マサたちがあんまり盛り上がってるか言い辛かったんだよ」
ばつの悪そうにフミトがいった。
国境に着き、車を駐車場におき歩いてメキシコに向かう。最初は車でメキシコに向かう予定だったがフミトが車で行くのは危険だと反対したのだ。犯罪がはびこるメキシコでは警察官でさえも信用できない。理由もなしに車を止められ罰金を取られることもあるのだ。もしそれを拒めば留置所に入れられる可能性もある。最悪の場合は二度と母国には戻れなくなってしまう。
アメリカからの国境越えはフミトの言うとおり簡単だった。門をくぐればそこはもうメキシコ。パスポートもいらない。しかし門をくぐった5人はそこに広がる異様な光景に思わず目をふさいだ。路上にたむろするホームレスの集団。路上の真ん中でギターを弾き金ごいをする幼児。黒ずんだ橋、路上、店。街には英語とスペイン語が乱れ飛ぶ。国境を越え100Mも歩いていないのに世界がまるで違う。気のせいなのか空もよどんで見える。
「何かこわいんだけど」
さすがのフミも不安を隠しきれない。フミトだけが平然としていて、ここぞとばかりに安いタバコを買い占めていたが、なんの不自由もなく育ってきた一般人にとってはこの世界は耐えかねる物があった
ここでバスに乗りティファナまでいく予定なのだが、肝心のバス停などどこにも見あたらない。そこら辺を歩き回りバス停を探そうとしたが、フミがもう帰りたいというのでしょうがなく5人はアメリカに戻ることにした。マサもこのときばかりはフミのわがままに感謝した。ここはそういう場所だった。
アメリカからの国境越えとは逆に、メキシコからアメリカへの国境越えは厳重だ。入国審査には多くのメキシコ人が並んでいた。入国があまりにも簡単なので、何も知らずパスポートなしでメキシコに入国するとメキシコからはでられなくなってしまう。もちろん5人の中にパスポートを忘れてきているものなどいなかった。マサたちは入国審査を終え無事アメリカに戻ってくることができた。
旅行初心者にとって入国審査ほど緊張するものはない。パスポート見ながら顔を睨み付ける審査官の目は真剣であり、恐ろしく感じるものだ。別に悪いことなど何もしていないのだが、入国審査を終えるとほっと胸をなで下ろし、各々はしゃぎまくる。よくある光景だ。
しかしフミトがいない。一番旅行慣れしているはずのフミトがいないのだ。まさか入国審査で引っかかったのではと思いそちらを見ると、フミトが訳が分からないという表情でたっている。フミが一目散にフミトの方へ走りだした。それにマサたちも続く。入国審査のゲートを境に国境越しの連絡が始まる。
「いったいどうしたの」
「わからないよ、このパスポートじゃ通れないって言うんだよ、訳が分からないよ」
「なんで? 私たちはちゃんと通れたのに」
ゲート越しにマサたちが騒いでいるので、不振に思った職員たちが集まり、辺りはちょっとしたパニックになった。4人は職員に引っ張られ国境の出口までつれていかれ、フミトは事務所につれていかれた。
「フミトのことだから大丈夫だよ。何か手違いがあったんだよ」
マサはそう言ってフミを慰めたが
「もう一回見てくる」
といってフミはまたゲートの方にいってしまった。
案の定、フミは職員に引っ張られ連れ戻されてくる。
マサとジョーとユーヤはあまり心配はしてなかった。確かにフミトはパスポートを持っていたし、何も悪いことなどしていない。せいぜいタバコの買い占めをしたぐらいだ。そのうち戻ってくるに決まってるのだ。しかし、フミはそうではなかった。もうフミトとが戻ってこないと思っているらしい。
1時間ぐらいたっただろうか。
やっとフミトがマサたちところへ戻ってきた。どうやらベテラン旅行者が陥りやすいビザの記載漏れが原因だったらしい。しばらくの間フミトは不機嫌だったが、それもすぐになくなったようだった。