vol22号MPEG4デジタルレコーダーVN-EZ1image-new

パソコンの入力機器として様々な増設機器が開発されてきた。それらは、外付けの専用機材から出発し、あるものは標準装備としてパソコン本体に取り込まれてきた。
ハードウェアと共にパソコンで扱われるデータも、特定のハードに依存するものから、より標準的なもの、よりダイレクトに使用できるものへ収束してきた。画像データを例に挙げるなら、一度写真に撮った後スキャナで取り込むことが必要だった。今ではダイレクトにデジタルスチルカメラ(以下デジカメ)で画像を取得することが可能になったばかりか、デジカメを内蔵したパソコンまでが現れるに至った。

今回検証したのは、動画をダイレクトにパソコンデータにしてしまうというシャープ「MPEG−4デジタルレコーダー・インターネットビューカムVN−EZ1(以下本機)」だ。これまでも、動画を取得できるデジカメはあったが、付加機能という位置づけでしかなかった。本機は、MPEG4という画像圧縮技術を使用し、メモリカードに直接データを書きこむことで、長時間記録を可能にした初めての製品だ。しかも、希望標準小売価格が6万円という意欲作だ。

■仕様・性能・同梱品

仕様の詳細は、別表参照。ここでは特徴的なことに絞って記述する。

●動画

動画としての判断には、フレームレートも考慮する必要がある。フレームレートとは一秒間に記録できる画像の枚数だ。最低でもノーマルモードで撮影しないと、動画にならない。取得サイズが、160×120なので、画質を語れるレベルではない。広角寄りのレンズと相俟って、2m以内で撮影しないと顔を判別することは難しい。

●静止画像

画質的性能については、デジカメと同じ基準で判断できる。しかし、「正方画素・原色フィルター・プログレッシブスキャン」という割にはおそまつだ。静止画での画質は本機の基本性能の低さを現している。一番気になったのは、両サイドが暗くなってしまうことだ。レンズ性能の悪いカメラで四隅が暗くなってしまう事がある。それを極端にしたような感じだ。少しでも光量が不足するとはっきりと分かるレベルになってしまう。

絞りは無く、減光フィルターを手動レバーでセットする。当然、絞り込んでピントがシャープになるということは期待できない。なお、今後静止画像については触れない。

●機能

ホワイトバランス、逆光補正、デジタルズームと機能は一通りのものがあるが、静止画像で書いたように、基本的画質が悪いので、問題外だ。

面白そうなのインターバル撮影。テレビ等のコマ落し撮影だ。ACアダプターは必須だが、三脚に固定して何時間も撮影すると、長時間記録が簡単にできる。

●記録メディア

3.3Vスマートメディア専用で、現在最大の32Mにも対応している。動画はファイルサイズが大きいので、「EZ1はメモリカードがフィルム」という感じだ。なのに、添付のスマートメディアは2Mだ。

●電源

単三形電池を4本。液晶ファインダー専用で、連続的に圧縮・記録するという電力消費の大きな処理を行うことを考えると、健闘している。しかし、使用時間一時間(アルカリ電池)では、起動待機・撮影・確認という流れで使う場合、せいぜい30分程度の記録しかできない。

●デザイン

プラスチックにシルバー塗装の本体、グリップ部と、十字キーがアクセント。筆者の個人的な好みだが、これだけエキセントリックな割り切りをしたのに、過去の延長線上のデザインは残念だ。

シャープの既存デジカメと同じように、レンズ部分が縦に回転する。本機では、これが撮影と再生のモード切り換えスイッチにもなっている。さらに、レンズの保護も行え一石三鳥だ(もう一つは、270度回転させると、上下が反転し、液晶モニタを見ながら自画像が撮れること)。

無指向性マイクが本体上部に位置している。一番良く聞こえるのは、撮影者の声だ。レンズユニットに指向性マイクが付けばと思う。

電池を納める部分がグリップになっていて厚みがあり、重心に近いので、ホールド性がよい。シャッターボタンはグリップ上部にあり、自然に人差し指が当たる。

●重量・サイズ

電池を入れる前の148gというのは驚異的。しかし、電池を入れてしまうと240gとかなり平凡な数字になってしまう。小さいが、グリップ部に厚みがあり、大きめのポケットでないと収まりが悪い。

動画撮影はカメラを静止させること(あるいは、スムーズに動かすこと)が基本だが、小ささが裏目に出て、ゆらゆらと落ち着きの悪い画面になってしまうことが多かった。

●操作性

操作体系がよくまとまっていて、扱いやすい。十字キーもタッチが良く、操作しやすかった。起動・設定・撮影・モード遷移・再生がほとんど右手一本でできる。レスポンスも良く軽快だ。

マニュアルもコンシューマー製品として、ほぼ完成の域に達したと思う。ファイルフォーマットやネーミングルールにもページを割いている。ただ、説明イラストに運動会の絵があるというのは不適当だ。そんな絵を撮ることは本機では全く不可能。運動会で走っている子供をバストショットにするには、最低でも200mmのレンズが必要だからだ。

使い方としては、数十秒単位のクリップ動画を合計で数十分撮るということが使い方が正解だろう。

●フォーマット・ソフト

動画はMPEG4形式で圧縮され、ASF(※)というフォーマットで記録される。ASFはMSがストリーミングビデオの標準にしようとサポートしているフォーマットだ。

同梱のCDには、ピクスラボ、DirectX6(以下DX6)、WindowsMediaPlayer(以下WMP)、Microsoft Internet Explorer(以下IE)4、アドビ・アクロバットリーダーが入っている。ソフトのマニュアルは、オンラインヘルプかアクロバットファイルのみだ。MPEG4の再生環境が標準的でない現在において、パソコン上で確認できるようにするための最低限の紙製のマニュアルは必要だ。ちなみに、筆者の環境では、ビデオカードのドライバを再インストールする必要があったが、推奨環境とはほど遠いハード環境でも、問題はあまり感じなかった。

ピクスラボは再生のためのソフトというより、動画のフレームレートを変更したり、ストリーミング再生用のHTMLを作ったりのユーティリティという性格が強い。ピクスラボでもIE4でも、ASFの再生には、WMPが起動され、別のウィンドウで再生される。また、MWPの仕様か、同時に複数の再生ウィンドウを開くことはできない。

■MPEG4とは

ここで、簡単にMPEG4を紹介しよう。MPEGというのはMoving Picture Experts GroupというISOの標準策定グループのこと。目標とする回線転送レートと画質を区切り、フェーズ1から4まで(3は欠番)の標準化を行っている。これまでも、MPEG2のビデオはかなり普及しているから、馴染みのある読者も多いだろう。また、最近話題のMP3もMPEGの産物(フェーズ1レイヤー3)だ。MPEG4は、低い転送速度と安定性の低い品質の回線で動画を送るための動画像符号化技術(ユーザーは圧縮と考えて良いだろう)だ。カバーする転送レートは28800bps〜1Mbps。アナログ電話回線でストリーミング動画を送る事を目的としていると考えていい。知っておかなくてはならないは、画質とファイル容量はトレードオフの関係にあるということ。また、不可逆圧縮なので、高画質で撮った画像を圧縮することはたやすいが、低画質で撮った画像を高画質にすることは不可能である、ということだ。

また、前後のフレームと比較し、変化の少ない部分のデータは保存しないので、動きのある画像が画面に締める割合に大きく依存する。固定した背景の中を人物が動くと、人物と周囲だけにモザイクのようなのノイズが現れるのは面白い。そして、背景までが変わるシーンだと、画面全体が一瞬モザイク状になる。その後、カメラが静止すると、画像の静止部分からノイズが収まっていく。圧縮率の低いモードであれば、圧縮ノイズ自体が少ないので、カメラ自体が動いても画面全体にノイズが広がることは少ないが、ノーマルモードではかなり厳しい。人物をはっきり撮りたいならファインでの記録が必須だ。

動画ファイルの大きさは、動いた対象物の比率によって大きく変動する。このためか、撮影時には、残時間と撮影時間とが表示されるようになっている。最初は「残り時間だけ分ってれば、逆算できるのに」と思ったが、対象によって全く変わってしまうので、納得した。静止した状態で録ってみたら、残量時間の何倍もの時間を記録できた。現在、本機が作るASFファイルを再生するためにはWMPが必要。マック版は無いので、今のところ、マックユーザーにはこのファイルを開くことは全く不可能だ。MSが主導で普及を進めているASFが、ストリーミング用のフォーマットととして普及するのかどうかは未定だ。

なお、電話回線でストリーミング再生を行うためには、最も圧縮率の高いLPモードにする必要がある。ただし、撮影時にLPモードを使うのではなく、ノーマル以上のレートで撮影した後、メディアラボで圧縮する方が良い。LPモードで記録すると1〜2枚/秒のフレームレートだが、ノーマルで記録した画像をLPに圧縮したものなら、4〜5枚/秒(ローカルHD上のファイル再生時)になる。

実用的な配信方法としては、写真のように、ホームページ上には高品質のデータとLPファイルを置き、LPで確認後高品質なファイルをダウンロードするように促すことが考えられる。

なお、ASFファイルをホームページディレクトリに置くだけではストリーミング再生させられない場合がある。シェルが使えるなら、「.htaccess」という設定ファイルを置くことで対処できるが、そうでない場合は、プロバイダーでの設定が必要だ。

■用途は?

本機の使用シーンとしては、プリクラやインスタントカメラのようなもや。田舎の両親に子供の映像を送るという、ビデオレターの電子版といったところだろうか。おばあちゃんならボケボケの画面でも、十分孫を見分けられるだろうから。

本機に向いているのは、短いクリップ画像を気軽に残すことだろう。というより、数分以上の画像を手持ちで撮影するのは苦痛だし、困難だ。

一つ残念なのが、ビデオ出力端子がないことだ。これがあれば、パソコンを起動する必要が無いし。何処ででも楽しむことができる。99年6月において、WMPを再生できるパソコンの普及率はかなり低いだろう。しかも、DX6もIE4もシステムを不安定にする可能性が高い。本機のデータを一時的に見るためだけにインストールすることは避けたいところだ。

コスト的にきついかもしれないが、ビデオの入力端子をつけて、既存のビデオをMPEG4動画にエンコードできれば、用途が拡がるかもしれない。

■意欲的な最初の一歩だが

本機を試用して感じたのは、「未完成」ということだ。コンセプト自体が不明確で、作ってみたものの使い道を提案できないとまどいを感じた。仕様を煮詰める時間もなく、MPEG4技術の用途として、「初めにMPEG4ありき」で開発されたのではないだろうか。

十分に煮詰められていないことは、ファイル名にも現れている。開発中にはノーマルで表現していたモードでは記録時間が短すぎる印象を持たれるので、モードの呼び名を替えたような感じだ。

良くも悪くも技術者の遊び心が結晶している。面白みのなくなってきたパソコンやデジカメの新製品には無い楽しさを感じられるのは良い点だ。しかし、パソコンの階層メニューを思わせるメニュー構成やパソコンでしかブラウズすることのできない仕様等は、日常的にパソコンを使っていて、身の回りにインターネット環境がある人間の感覚だと思う。それは、ユーザーとは少しずれている。

カシオのQV-10がパーソナルデジカメを語るときに記念碑として語られるのと同様に、一番最初にMPEG4記録ができるカメラとして、歴史に残る可能性はある。少なくとも、テクノオタクのコレクターアイテムとして、記憶に残ることは間違いない。また、そういうユーザーにしか勧められない。

ただ、個人ユーザーが購入できる価格帯でストリーミングビデオのソースを作りたい場合には、選択枝はない。そういう意味での意義が大きいことは追記する。

■動画カメラの将来性

動画を直接パソコンのファイルにできること自体は文句無く楽しい。このタイプのカメラで、連続記録時間はさほど問題ではない。ストリーミング再生できるファイルをカメラで生成する必要も無い。

せめて、1/4VGAでスムーズに動いてくれて、テレビでの再生ができれば、これ自体で「クリッピングムービー」というような、新しい楽しみが提案できるだろう。もちろん、そのために超えるべきハードルは高い。もう少しマシな光学性能と高速のCPU、大容量の充電池、最適化したCCD(動画サイズに割り切って開発すれば、もっと実効感度の高いCCDが作れたはずだ)などが必要だろう。これらを、現在の価格(市場価格49800円)で送り出すことができれば、普及するかもしれない。もちろん、本機は「見送り」だ。