中学二年の秋、あなたは、お教室のガラスを割るという事件を起しました。あのガラス
はどうして割れたのか、今でも事情ははっきりしません。ただ、どうやらわかってきたの
は、あなたがママに嘘をついたらしいということ。
あの日、学校から帰ってくるなり、あなたはママのところへとんできていいました。
「ママ、今日、ポク死にかけたよ」
また始まった。大げさな!
「教室のガラスをさ、ほら、戸口の。あれを割って、ガラスの破片を頭からかぶっちゃっ
たんだ」
これには少し驚きました。
「どうして?」
「教室の床がデコボコになってるじゃない。あそこに靴の先を引っかけて倒れたはずみに
割っちゃったんだよ」
「それでどうしたの?先生、何ていった?床を直すっていった?」
「別に」
「別に? ガラスの破片の中に頭をつっ込んだのに、何もいわないの?」
「うん」
だんだん腹が立ってきました。まかり間違えば大怪我になったかも知れない事件を放っ
ておくなんて。
そこで、さっそく学校へ電話し、その床をすぐに修理するよう、要求しました。電話に
出られた担任のH先生は、
「どうも床のせいとは思えないんですが……。普通にしていれば転ぶような場所じゃない
んですがね」
と、モヤモヤ言ったあげく、生徒がガラスを割った時には、その代金を弁償してもらう
ことになっている。あのガラスは八千円であるからよろしく、と事務的な要求をしてきま
した。いよいよ腹が立ちました。つまずくような床を放置しておいた学校側の責任につい
ては、一言の弁明もなかったからです。気まづい雰囲気のうちに電話は切れました。
次の日、あなたは八千円を持って学校に行き、四千円のお釣りを持って帰ってきました。
あまり高額だから半分でいいと先生がいった、と。変な話だ、ママは不愉快でした。
ところが、事実は大分違うようなのです。同じクラスのD君の話によると、どうやらこ
ういうことらしい。
あなたはふざけていて(わざとだったという人もいるそうです)、ガラスを割った。ホ
ームルームでそのことが話題になった時、あなたはママにした通りの説明をし、床のせい
にした。ところが目撃者は大勢いたのです。旗色の悪くなったあなたは急に居直って、ク
ラス全員でガラス代を負担しょうという善意の申し出もけって、自分一人で払う、払やい
いんだろうみたいなことを言ったというわけです。
「この時は、クラスの人達も大分アタマにきたようです」
とD君。当然です。ママだってそんな子がいたらアクマにきます。
この様子を後から知って、ママは二つの意味でショックを受けました。学校でうまくい
っていると思っていたこの時期に、すでにあなたがクラスのミソッカス的存在になってい
た、ということが一つ。もう一つは、ママと友達同士のようにじゃれ合いながら、こうい
った深刻な問題は打ち明けられず、ウソをついて隠したということ。
ことの真相を、その時点で知りたかったと思います。H先生はどうしてあの時、くわし
い事情を親に報告して下さらなかったのでしょうか。
クラスの友達は、だんだんあなたを問題にしなくなりました。先生も、「勉強ばかりで
きても、人間的にどうかと思う生徒がいる」と、あからさまにあなたを意識した発言をす
るようになりました。あなたは腹の中で思っていたに違いない。好きなだけ、きれいごと
を並べるがいいさ。最後に笑うのは俺なんだから、と。
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