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「あなたは誰ですか?」 * * * * * * * * * * * * 僕がまだ大学3年生の秋、一足先に大企業へと就職していった先輩達に久しぶりに会う機会があった。 彼らは学生の頃実に自由に生きていて、その為にケンカやトラブルなどもあったけれど、僕はその個性がぶつかりあいながらも調和しあっている姿を見るのがとても好きだった。 そしてそんな彼らとの再会を僕は本当に嬉しく思い、その時を心待ちにしていた。 久しぶりに会う彼らは社会人らしく見事に変わっていた。 立派に。 とても立派にね。 そう、あまりにも立派な「企業人間」になっていたんだ。 同じ様な格好、同じ様な言葉づかい、同じ様な笑顔・・。 そして少し背中を丸めて虚ろな目をしながらお酒を飲む姿。 瞬時に僕の脳裏をある光景が横切った。 街でよく見るあの人間達だ・・。 オフィス街に行くと腐るほどいるあの人間達だ・・。 その瞬間いい知れぬ悲しみと嫌悪感と吐き気が一気に僕を包み込み、更には恐怖すらおぼえた。 そして僕は心の中で彼らに問いかけていた。 「あなたは誰ですか?」 それが、身近な人が「知らない人間」になるという事を経験した初めての夜だった。 * * * * * * * * * * * * そして年月が経ち僕自身も社会人になったある夏の日、又同じ事がおきた。 「彼」は学生時代、仲間内でも特に個性的と言われるタイプの友人だった。 事前に場所と時間を約束しておいたのでそこに現れたのが「彼」である事は疑う余地もなかった。 しかし僕がそこにいる人物を「彼」だと認識するまでにかなりの時間を必要とした。 「・・・・・この人は誰だろう?」 僕は目の前に座っているその知らない人物をただ見つめていた。。 いくら話しても彼が「彼」だという実感が持てなかった。 僕が暫くしてやっとその事を認識出来た時、又しても言いようのない悲しみが僕を襲った。 「アナタハ・・・ダレデスカ・・・」 心の中で僕は必死に問いかけた。 しかしその答えを見つけられないまま僕は重い足取りでその場を去った。 * * * * * * * * * * * * あれから更に数年が経ち、僕も、そしてきっと彼らも変わらぬ日々を送っている。 その間にも僕は、大切な人達が「知らない人間」になっていく姿を何人も見てきた。 仕方ないんだ・・そういうものなんだ・・・頭では理解したつもりだよ。 でもだめなんだ・・やっぱりとっても悲しいんだ。 みんながみんな、まるで川底のでこぼこした石が水の流れによって角が削り取られていくようにどんどんどんどん小さく丸くなって・・・気付けば同じ方向を向いてきれいに整列している。 僕はいつの日か自分がその中の一人になる瞬間を一番恐れていたのかもしれない。 だからこうやって自分を社会からなるべく遠ざけてきたのかもしれない。 幸か不幸か僕はいわゆる企業人間には見えないとよく言われる。 もともと、一般的な企業人間として働いていないから当然かもしれないけど この人は何をしている人だろう?と思わせるものがまだ外見にも中身にもあるらしい。 「サラリーマン」や「OL」・・・・一目でそう見える人間にはなりたくない。 たとえ世間でそう呼ばれる仕事をしていても、プライベートな部分まで浸食されたくない。 だからスーツ着用を義務づけられる仕事は嫌いだ。 スーツを来て毎日定時に会社に通っているうちに、みんな同じ顔になっていくんだ。 もしもそれが世間で言う「立派な社会人になる」という事だとしたら、僕は立派な社会人になんてなりたくない。 それどころか喜んで「社会不適応人間」になるよ。 感受性が豊かで喜怒哀楽を素直に感じられ、それを素直に表現できる人間でいたい。 他の誰とも違う自分だけの色を持っている人間でいたい。 「 みんなと仲良くショーケースになんて並びたくないんだ。 笑っちゃうよね。 でも無性に悲しいんだよ・・君が、僕の知らない人間になっていくのが。 世間で言う「立派な社会人」になる為に あんなに素敵な「角」をいともあっさりと捨ててしまえる君が とても悲しいんだ。 僕はその「角」が大好きだったのに。 君のその「角」は僕にとってかけがえのない宝物だったのに。 今ならまだ取り戻せるかもしれないのに。 最後にもう一度だけ聞いてもいいかな * * * * * * * * * * * * 「アナタは・・・誰ですか?」 |