2002年10月
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@ヴァンパイア・コレクション
 The Vampire Omnibus (1999)
P・ヘイニング編角川文庫ホラー他
582頁1000円★★★

 収録数が多いので一々紹介はしないが、B・ストーカーのオリジナル原稿から抜粋したという「プレリュード――ドラキュラ城の崩壊」というえらいマニアックなものから始まって、それ以前の古典作品が四編も含まれている(1820〜1849)というのが、本書の最大の価値だろう。例えば吸血鬼ヴァーニーという名前はこれまでにもなんどか目にしたことがあったが、今回「吸血鬼の物語」 (Vampire's Story/James Malcolm Rymer/1847)で初めてその一端に触れることができたのは、わたしとしては収穫だった。

 中盤以降は、現代の作家のものや映画原作なども含んだ雑多なヴァリエーションとなっている。言い換えると、自分の気に入るのは数編くらいになってしまう訳だ。吸血鬼に興味があるなら読んで損のない一冊だが、逆にそれほど思い入れがなければ、結構つらいかもしれない。まあ幅広く集めた場合には仕方のないところである。

 わたしは退廃と淫靡に彩られた作品もまあまあ許せるし、パロディもOKだが、やはり一番好きなのは、昔ながらの異界に足を踏み入れてしまった一般人のサバイバルという展開だ。だから22編もの作品(抜粋のものも多いが)が納められながらも、本書の中で一番気に入ったのはS・キング「新・死霊伝説」 (Return to Salem's Lot/Stephen King/1977)だというのは、ある意味悲しい。

 ヴァンパイアものはもっと読まないかんと使命感を持っているのだが、どうも良さ気なものが見つからない。
 映画では、つい最近レンタルで観た「ドラキュリア」は、その間抜けな題名――本編中ではドラキュラと言ってる――ながら、そこそこに楽しめた。B・ストーカーの原典よろしく配下の女吸血鬼が三人出てくるが、その一人は「スタートレック・ボイジャー」のセブン・オブ・ナイン=J・ライアンである。(これがまたセブン・オブ・ナインと180度異なり、いかにもアーパーそうなのがGOODだ)
 「ドラキュリア」と言えば、昔観た「ドラキュリアン」 (The Monster Squid)は、邦題が間抜けだが、吸血鬼のみならず、狼男半魚人ミイラ男フランケンシュタイン(が作ったモンスター)という怪物総出演の楽しい作品だ。

(2014/5/1改訂)

A驚異の未知動物コレクション 空想博物誌シリーズ[1] (2002)
新博物学研究所編グラフィック社博物学薀蓄
135頁2300円★★★

 未知動物の図鑑。とりあえず中身も見ずに買ってしまった。
 さて中身だが、似たような芋虫系、海蛇系、魚竜系のオン・パレードで、いい加減飽きてくるのだが、最近TVなどで見聞きするようになった、ジェボーダンのビーストスカイ・フィッシュチュパカブラなんかもしっかり載っている。
 ¥2300の価値があるかどうかはノーコメントだが…。

 “シリーズ[1]”と銘打っておるところがなんとも恐ろしい。

(2014/5/1改訂)

Bミステリー倶楽部へ行こう (1996)
山口雅也講談社文庫推理小説薀蓄
473頁971円★★★

 著者の作品は、土台が奇抜な割には謎作りはオーソドックスでこじんまりした感じだが、それもその筈と言うか、筋金入りのマニアあがりらしい。なんでも学生時代から、埋もれた名作の紹介とかで雑誌にページを持っていたとのこと。

 その初期の名作紹介も含めて、著者の推理小説への熱愛ぶりがよくわかるガイド・ブックだが、外国作品の紹介ばかりなので、A・クリスティーE・クイーンD・カーV・ダインといった本当の重鎮どころしか知らないわたしには、著者の感性が果たしてわたしに合っているのか、判断できないのがつらい。

 カサックの「殺人交差点」が手に入らないが、R・A・ノックス「陸橋殺人事件」(←10年後に読んだ)とC・ブランドの短編集(←まだ読んでない…)をとりあえず手に入れたので、ぼちぼち読んでみようかと思う。

(2014/5/1改訂)

C連鎖 (1991)
真保裕一講談社文庫捜査
398頁667円★★★

 東京検疫所に送られてきた、輸入食品のディルドリン汚染の告発書。この内容が事実なら、輸入審査で不合格となったものの一部が、外部に流れ出たとしか考えられない。東京検疫所の職員羽川は、食品衛生監視員の資格を持っていたことを買われて、横流しルートを解明する任務を与えられた。捜査を始めた羽川の前に、彼の元友人でルポライターの竹脇の影がちらつくが、竹脇は以前にチェルノブイリ汚染の食材に関する記事で名を上げた男だが、今は集中治療室で生死の境を彷徨っている。羽川が竹脇の妻、枝里子と肉体関係を持ってしまい、それを知った竹脇が自殺を図ったというのだが・・・。

 秋ぐちに乱歩賞作家を呼んでの講演を開くというのが、地元の例年の催しになっている。事前に何らかの形で案内が届いているはずだが、大抵バタバタしていて、ちらしなどの案内を逃してしまい、「そういえば今年は…」と思った時にはすでに終わっているというのが例年のパターンなのだが、今年は運良く事前に知ることができた。とりあえず講演後に手ぶらで帰るのも申し訳ないので、その場で購入したのが本書だ。

 著者は作家デビュー前にアニメのシナリオを書いていたということで、まるっきりの素人ではなかったらしいが、さすが実質的なデビュー作の本書にも、素人臭さはまるで感じられなかった。著者はそのことを訊かれることにかなりうんざりしているようだったが、やはり読んで最初に思うことは、食物汚染についてよく調べましたなぁということだ。
 大体ハードボイルド系の話というのは、細かなディテールしか記憶に残りにくい。

(2014/5/1改訂)

D妖魔の森の家 カー短編全集2
 The House in Goblin Wood And Other Stories
第三の銃弾 [完全版]
 The Third Bullet
J・D・カー創元推理文庫推理
175頁/225頁620円/560円★★★

(1)妖魔の森の家(The House in Goblin Wood)
 二十数年前、ヴィッキーの身に起きた神隠し事件。戻ってきた彼女は、その後普通に成長していたが、同じ別荘でまたもや起こる失踪。現場にいたH・M卿は・・・。

 “妖魔の森”などというおどろおどろしい名前がついているが、原題では“ゴブリンの森”であった。ファンタジーやゲームの影響で、ゴブリンというとややユーモラスな印象を受けてしまうが、しかし本編の内容からは、妖魔のほうがふさわしいとは言える。評価の固まった名作。

(2)軽率だった夜盗(The Incautious Burglar)
 ある山荘に美術品を盗みに入った夜盗が殺された。その場にいた客が、盗人のマスクを剥ぐと・・・。

 ギデオン・フェル博士もの。
 最初に大きなヒントが堂々と述べられているあたりお見事。犯人の行動理由もうまく説明されていて、なかなかの佳品だが、なぜか印象は弱い。

(3)ある密室 (The Locked Room)
 書籍収集家のシートンが、書斎で瀕死の重傷を負った。その部屋唯一の出口の外には秘書と図書係がおり、人の出入りはなかったと証言する。警察は当然二人の共謀と見たが・・・。

 ギデオン・フェル博士もの。
 うーむ、トリックに使われたものに馴染みがないので、うっちゃられた感じ。
 ミッキー・フィンて何?

(4)赤いカツラの手がかり (The Clue of The Red Wig)
 冬のある夜、静かな住宅地にある公園で、ダイエットのHow toで有名なヘイゼル・ローリングが死んでいるのが発見された。この寒い中、彼女は下着だけの半裸で、なぜか頭には赤いカツラが・・・。

 本編ではなんといっても女性記者ジャクリーヌ・デュボアが目立っている。事件の発端の謎は面白いが、犯人の設定はややご都合主義。

(5)第三の銃弾 (The Third Bullet)
 刑事たちの監視下にあった離れの書斎で、老検事が撃たれて死んだ。銃声は二発。間髪を入れず刑事たちは部屋の中に飛び込んだものの犯人の姿はなく、しかも検事の体から発見された銃弾は、見つかった二挺の銃から発射されたものではなかった・・・。

 創元の「妖魔の森の家」を読んでいて、最後の「第三の銃弾」にさしかかろうとして、アレッと思った。
 未読在庫を見渡してみると、ハヤカワ「第三の銃弾[完全版]」があるではないか。
 というわけで創元版はここまでとして、ハヤカワ版でこれを読んだ。

 著者らしいおどろおどろしさはないが、不可思議性の際立った優良作品だ。
 マーキス大佐の最後の台詞が印象的である。
 しかしハヤカワ版は字がでかすぎる…。

(2014/5/1改訂)

E彼女が死んだ夜 (1996)
西澤保彦角川文庫推理
320頁571円★★★

 世間知らずのわがまま女子大生ハコちゃんが、コンパが終わって両親が法事で不在の自宅へ帰ると、家の中には見知らぬ女性の死体が…。警察に知らせてしまえば、明日からの楽しいホームステイ日程に障りが出る。困ったハコちゃんはコンパ仲間を呼び出し、死体の処理を強要するが・・・。

 その死体遺棄の一端を担ってしまったのが、「解体諸因」のタックとボアンたちということで、シリーズ第二作というか、時系列的に言えばシリーズ第一作となる長編だ。デビュー作で使ったキャラクターを再利用してシリーズ化を図ったというところだろうか。

 これは著者のほかの作品でも共通だが、ほんわかとややユーモラスな文章で、とっつき易く読み易いわりに、事件の真相は気持ちが悪い。「解体諸因」くらい突拍子もなくやってくれればそう気にはならないのだが、事件の規模が小さく長編である分、人の悪意が浮かび上がって読後感がちょっと悪いのが残念だ。

 しかし学生時代のことをノスタルジックに思い出せるといった部分で、森博嗣犀川&萌絵シリーズとも共通している。理系の研究室の雰囲気を味わえるのはアチラだが、一般大学生のへなちょこな生活ぶりをより出してるのはこちらだろう。それにしても「解体諸因」ではチョイ役で個性もなかった、タカチの変身ぶりはすごい。

(2014/5/1改訂)

Fシルクロード旅ノート (1999)
陳舜臣中公文庫歴史薀蓄
224頁743円★★★★

 中国に詳しい著者が、シルクロード、特に新疆ウイグル自治区を旅行しての歴史エッセイだ。

 敦煌トルファンウルムチにはわたしも一度行ったが、史跡巡りが中心で、これはこれで貴重な体験だったが、歌舞音曲や現地の人々との交流は多くはなかった。結局新疆の入り口を10日ほどうろうろしただけだったから、著者のようにカシュガルホータンまで足を延ばしてその体験を書かれると、羨ましくてしかたがない。

 文庫だがカラー写真も挿入されていて、シルクロードに興味のある向きにはとってもお勧めだ。
 写真の著者が若い!

(2014/5/1改訂)

G麦酒の家の冒険 (1996)
西澤保彦講談社文庫推理
346頁619円★★★

 夏の事件の後遺症を振り切るために、ボアン、タック、タカチ、ウサコの四人はR高原にやってきた。気持ちよく過ごしたその帰り道、道に迷った一行が迷い――無断家宅侵入した――込んだペンションは、1階のベッドと2階の冷蔵庫以外には何の生活用品もなく、そして冷蔵庫の中には缶ビールが目一杯つまっていた。
 最初はおずおずと、最後にはがばがばとビールをかっ喰らって一夜を過ごす一行は、“無人の家に一面のビール”の謎をあーだこーだと推論するが・・・。

 著者の言によれば、「九マイルは遠すぎる」のような純粋論理で長編を作ってみたかったとのこと。状況をひねくりまわして辿り着いた、その最終的な解がどーだというようなことはあまり気にせずに、その心意気と謎の設定だけで良だ。

(2014/5/1改訂)

Hタイム・マシン ウェルズSF傑作選1
 The Time Machine And Other Stories
H・G・ウェルズ創元SF文庫SF他
270頁480円★★★

(1)塀についたドア
 大臣のウォーレスは、子供の時、塀についた緑のドアから別の世界へ入り込み、そこで幻想的に楽しく遊んだという経験があった。大人になり若くして成功を手に入れた彼が、数十年ぶりに塀についた緑のドアを見かけて…。

(2)奇跡をおこせる男
 議論好きのフォザリンゲー氏は、酒場で周りの男を相手に、軌跡など起こりっこないということを熱弁していたが…。

(3)ダイアモンド製造家
 テームズ川のほとりで出会ったやつれた男は、自分は人造ダイヤモンドを作ることができるといって、巨大なダイヤの原石を見せてきた。そして研究を完成させるために、幾ばくかの金を渡してくれないかと持ちかけてきたのだが・・・。

(4)イーピヨルニスの島
 シンドバッドロック鳥のもとになった、イーピヨルニスという巨大鳥の卵をみつけた男は、その3個の卵とともに漂流する羽目に…。

(5)水晶の卵
 ちっぽけな古物商の店に置かれた卵形の水晶。その水晶に光を照射し、137度の角度から覗きこむと、そこには不思議な光景が広がる…。

(6)タイム・マシン
 タイム・トラヴェラーが友人たちに語る、80万年後の世界とは…。

 あまりにも有名な古典SFを収録した作品集。中編の「タイム・マシン」が半分強を占めているが、それ以外の短編はファンタジーかホラ話に近く、特に「奇跡をおこせる男」に至っては、藤子・F・不二雄星新一の短編といった処。ウェルズのユーモリストの一面が見えて興味深い。

 現在の時間旅行ものは、過去に戻ってパラドックスを扱うか、もしくは歴史の目撃というのが定番だが、大御所の本書は豪快に80万年後の未来を舞台としているのが面白い。もちろんこれは作者の目線の違いで、彼の意図は19世紀後半の英国における資本家と労働者の二極分化という社会問題に警鐘を鳴らしている訳だ。この当時において、バラ色の未来ではないディストピアを描くウェルズの慧眼には脱帽。
 80万年後に、曲がりなりにも人間の子孫が存在しているだけでも、良しという気がしないでもないが…。

 そういえば、時間移動中の描写は先日公開された映画「タイムマシン」のとおりだった。驚きである。

(2014/5/1改訂)

I仔羊たちの聖夜 (1997)
西澤保彦講談社文庫推理
361頁619円★★★

 一年前のクリスマス・イヴ。タックとタカチが初めて顔を合わせた夜でもあったが、マンションから飛び降り自殺した女性を目撃した日でもある。それから一年も経って、その女性のものと思しきプレゼントを故人に代わって届けることになった彼らは、彼女の死のさらに5年前、同じマンションで別の飛び降り自殺があったことを知る。さらにタックとタカチの友人もまた、そのマンションから・・・。

 なんともグロテスクでやるせないストーリー。おまけに謎解きはかなりメタに近いもので、あまり面白いとは言えない。しかし彼ら主役君たちは、<ネタバレ反転>もう少し友人を選んだほうがいい。

 なんにせよ今回の主役はタカチ。最後の謎解きの役割も過去の設定による肉付けも、本巻は彼女のためのストーリーであった。
 キャラクターの掘り下げに走るのもいいが、あまり過ぎると、今後のシリーズ展開が心配だ。

(2014/5/1改訂)

J尻啖え孫市 (1964)
司馬遼太郎角川文庫歴史
645頁740円★★★

 駿河遠江今川氏美濃斎藤氏を破って日の出の勢いの織田信長の新しい膝元、岐阜の城下に一際目立った巨漢が現れた。真っ赤な袖なし羽織の背中に三本足の烏という、その異装の男の名前は鈴木孫市。紀州の豪族で鉄砲をよく使う傭兵集団として昨今名高い雑賀一族の跡取である。信長も気になるその男の意を探るために、木下藤吉郎の妻、寧々が近づくが…。

 横軸に孫市と秀吉の交友を絡めながら、織田VS雑賀の戦を描いているのだが、本書の魅力は孫市のキャラクターにつきる。“観音”を捜しておなごと交わり交わり、観音位を与えたおなごのためには、いつ何時雑賀三千人を率いて駆けつける。それだけが生涯の願望であると豪語するこの男には参ってしまう。
 雑賀の鈴木孫市というと比較的史実が少なく、それゆえに作者の想像の余地が多く残されているのだが、そういう余地が多い場合、著者は生理的に生臭い情念を描写しがちで、基本的にわたしはあまり好きではないのじゃが、本書ではもう突き抜けていて、ひどく明るく爽快ですらある。

 孫市の最期については、本書の内容が史実なのかよく判らない。「修羅の刻」のように、もっと早い時期に死んで京に晒されたという記事もあるし。そういえば、「修羅の刻」の金ヶ崎の殿戦では、秀吉を助ける役どころは当然陸奥の役回りだが、本書では雑賀孫市がその役どころを担っていることも興味深いところだ。

(2014/5/1改訂)

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