2002年11月
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@黄昏の岸 暁の天
小野不由美講談社文庫ファンタジー
444頁714円★★★
 慶国の首都尭天の陵雲山に、一人の女が騎獣とももに倒れ込んできた。戴国から来たその女の名は利斎。彼女の話では、戴で反乱が起き、登極間もない戴王驍宗と泰麒は共に生死不明、それから六年たった国土は荒廃の極みにあるという。頼られるも未だ復興がなったとはとても言えない慶国ではあったが、慶王陽子は、他国へ広く使者を遣わし、泰麒の捜索を呼びかける。

 「魔性の子」と表裏となる対の一編。十二国側からの高里サルベージ計画が語られる訳じゃ。廉麟が捜し、延王が渡るという「魔性の子」の展開じゃっただけに、「魔性の子」の解説にあったとおり、十二国側では数カ国が絡んだとんでもない事態になっているのではという期待があったのじゃが、結局景王陽子の音頭で捜索しただけというのは、ちょっと肩透かしを喰らった気分じゃ。同世代の日本人である景王と泰麒が初めて顔を会わすシーンがわずかに面白いかのお。
 しかしそういうときでも王の重荷を外せない陽子は大変そうやねえ。

 じゃが最も可哀相なのは、泰麒=高里の蓬莱=日本での家族、特に弟じゃよなあ。哀れじゃ。
 それに関する泰麒の感想がないのじゃが、彼は一体どう考えとるんじゃ。わし、なんやなよなよしとって、こいつ嫌い。
A華胥の幽夢
小野不由美講談社文庫ファンタジー
342頁648円★★★
 短編集。これまでの長編で登場したキャラクターを効果的に使い、十二国記の世界を広げる五編の挿話じゃ。

「冬栄」…驍宗が泰麒に与えた漣国への使者の役目。戴国の麒麟として、何の役にもたっていないことに不安を憶えている泰麒は、酷寒の戴と対極の位置にあり、なにもかもが戴と異なる南国の漣で、廉麟と廉王に出会うが…
 「風の海 迷宮の岸」「黄昏の岸 暁の天」との間のごく短い期間に起こった出来事。本編の出会いを縁として、「魔性の子」「黄昏の岸 暁の天」の廉麟があるわけじゃな。

「乗月」…峯王を弑逆して芳国の実権を握った月渓。彼には偽王として立つ意思はなく、反乱から4年経った今、中央から離れることを考えていた。そんな月渓のもとに、遠く慶国から親書を持った使いがやってくる…
 「風の万里 黎明の空」における芳国の後日談。今は慶の女官となった祥瓊に対しての、 恭王の反応がいかにもという感じで面白い。

「書簡」…陽子が慶の玉座につくのに大きな功があった楽俊は、そのおかげで本来半獣の楽俊には縁のない、雁国の大学に今は留学中の身。その楽俊と陽子との書簡での近況報告という「月の岸 影の海」の後日談じゃが、同書で大きな運と運命をつかんだ楽俊に陽子といっても、ともに楽な生活にはなっていないところがこのシリーズらしい。

「華胥」…采王砥尚は清廉で理想高く、誰からも認められる王だが、国の麒麟は長く病んでいた。麒麟が患う、これは失道ではないのか。采の面々は一様に不安を抱いていたが、砥尚は自信に満ち溢れていた。そんな折、宮中で砥尚の父親が何者かに殺められるという事件が起こる…
 本書の中では最も長い中編じゃが、最後に朱夏が気付いたことなんぞは、王朝を始めた途端に気付いて然るべきじゃよな。

「帰山」…国が傾き始めているとの噂を聞きつけ、風来坊の利広は柳国を訪れていた。そこで数十年ぶりに会った風漢と情報を交換し、利広は自分の国に帰る。柳とは世界の反対に位置する、そこは彼の父が治める奏の国。
 「図南の翼」で珠昌と黄海行を共にした利広の奏王朝の挿話じゃ。各王朝にもそれぞれ個性があるもんじゃが、この奏国の家族合議制は、すでに「図南の翼」の終章で紹介済みじゃよな。
B徒然草殺人事件
斎藤栄徳間文庫推理
392頁590円★★★★
 神奈川の浄水場で男の死体が発見された。殺された早島は、同じ県内の別の浄水場で働いており、一週間前に結婚したばかりだった。人の紹介の結婚で、夫をよく知る間もなく未亡人となった妻のひとみは、夫の過去を知るため、彼が神奈川へ来る前に勤めていた岐阜県に向かう。

 まったく徒然草に関係ないようじゃが、そのとおりじゃ。

 というか、ひとみに早島を紹介した、厚生会館館長の酒井が素人研究家で、彼が徒然草の作者である兼好法師に関する研究をしており、その研究活動が上記の事件と絡むことになるのじゃな。事件自体と徒然草は関係ないんじゃ。
 とにかく徒然草に関する薀蓄で楽しめることも確かじゃが、現代の殺人事件についても社会問題も加味しながら、推理小説の構成としてのひねりもあり、TVに映るゴーストから、ゴーストの原因となる反射物体とTV受像機との距離を算出する計算式を出してみたりと、いろんな要素を織り込んだなかなかの労作じゃ。

 わしにとっては、珍しく地元が舞台――時代小説ではよく登場するが――になっておってポイント・アップなんじゃが、この本の執筆当時と比べても、宅地造成や量販店の進出等々、ここ等も随分様変わりしておるぞ。
Cカリオストロ伯爵夫人
 La Comtesse De Cagliostro
M・ルブラン創元推理文庫冒険
496頁762円★★★★
 1892年、若き野心家ラウール・ダンドレジーは、デ・チーグ男爵の一人娘クラリスと恋仲となるが、男爵の理解が得られないでいる。行動力溢れるラウールは、クラリスに会うため、男爵の屋敷に忍び込むが、計らずも、男爵一味が誘拐してきた女を詰問する現場を目撃する。どうやら彼らは、マリー・アントワネットも関わる莫大な財宝を巡って、"敵対関係にあるらしい。九死に一生のところで女を危うく救出したラウールは、その女、ジョゼフィーヌ・バルサモ="カリオストロ伯爵夫人"との危険な恋に溺れていくが・・・

 ラウールが本格的に盗賊への道を歩みだした、記念すべき冒険じゃ。デュマの「三銃士」「鉄仮面」に代表されるフランス・ロマン活劇の楽しさが溢れておる。ちらっと奇巌城も顔を出すぞ。とにかく"クラリス"、"カリオストロ"と聞いてルパン三世しか思い浮かばん輩は心して読むべし。
 あ、もちろんラウール・ダンドレジーというのは、アルセーヌ・ルパンのことじゃぞ。ダンドレジーというのは、母方の苗字なんじゃのお。
D海の伽耶?琴 上下
神坂次郎講談社文庫歴史
290頁/291頁552円/552円★★★
 紀州雑賀を束ねる孫市の息子小源太は、一党と共に本願寺に合力し、破竹の勢いの織田軍団との戦を重ねる。しかし時代の趨勢は信長、そして秀吉へと移り、小源太たち雑賀の一党もまた秀吉の傘下に加わることになっていく。やがて国内統一をほぼ果たした秀吉は、その矛先を朝鮮半島に向けけ、小源太たち雑賀党も朝鮮へと進軍することになるが・・・

 「尻啖え孫市」が秀吉の軍門に下るところでストンと終わっているもんじゃから、孫市の息子を主人公として、朝鮮出兵までカバーした本書は目のつけどころがナイスじゃ。「街道をゆく2 韓のくに紀行」でも言及された沙也可と雑賀を結びつけるのも、音が近いことからの思いつきにすぎないだろうが、非常に面白いぞ。
 しかし、小説としては、人物造形があまりに陳腐でステロなのがどうしようもないんじゃよな。あの「尻啖え孫市」の豪放な孫市との比較になるので余計に思ってしまう部分もあろうが、主役の小源太もまことに優等生的な反応しかせず、えらくつまらんぞ。小説家が歴史を題材にして書くのと異なり、歴史家が趣味が高じて小説を書く場合、こういう風になりがちだという気がするわい。
 お国言葉まるだしの会話文は、わしの本籍地ということもあり、親しみが持てて好きなんじゃがな。
Eロボットと帝国 上下
 Robots And Empire
I・アシモフハヤカワ文庫SF
383頁/331頁660円/660円★★★★
 惑星オーロラで静かな生活を送るグレディアに、立て続けに二つの大きな出来事が起こった。一つは彼女の天敵、アマディロ博士の下で働く彼女の孫だという男が現れたこと。もう一つは、あのイライジャ・ベイリの子孫だというセツラーが現れたことだ。
 多数のロボットに取り巻かれ、長命のもと緩やかに生きるオーロラ人を始めとするスペーサーたちに対して、短命ながらも旺盛な繁殖力と興味で、近年殖民惑星を切り開きながら、著しく勢力を伸ばしてきたセツラー。
 双方それぞれの思惑の中、グレディアは謎の失踪事件と宇宙船爆破事件の真相を探るため、D・G・ベイリに伴って、彼女の故郷ソラリアへと向かうが…

 「鋼鉄都市」では広所恐怖症でロボット嫌いの典型的な地球人、そして一介の刑事として登場したイライジャ・ベイリが、すっかり歴史上の人物として祀られているのに驚き、主要キャラのジスカルドの存在をころっと忘れておったことには愕然としたが、なんとも見事にロボットものと銀河帝国ものを繋げてきたもんじゃ。ダニールとジスカルドの屋上屋を重ねるような推論には突込みどころも多々ありそうじゃが、人間には判らない高速言語で意思を伝え合う二体のロボットが、後の銀河帝国のとなったことを思うと非常に楽しくなるぞ。

 この次には「ファウンデーションへの序曲」へ進むつもりじゃったが、「宇宙の小石」を再読したくなってきたぞ。
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