2003年 1月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2002年12月に戻る 2003年 2月に進む
@怪獣とヒーローを創った男たち
特撮映画研究会◎編タツミムック特撮薀蓄
175頁1600円★★★★
 最近はややおかしな方向に人気が広がってる気もするが、特撮怪獣/ヒーローものはコンスタントにブームが続いておるので、関連本もどんどん出版されとるようじゃ。しかし特撮技術ではなく、ましてや訳者のおっかけでもなく、怪獣、怪人になくてはならない"着ぐるみ"で一冊に括った本は珍しいのではなかろうか。とにかくゴジラ以降、怪獣ブームを支えた造型者たちのインタビューや当時の写真を豊富に掲載しておって非常に興味深い。役者が顔を出したアンギラスや、リヤカーに乗ったバランの写真なんて涙ものじゃよ。

 ただ話の中心が、昭和ゴジラ/ガメラ、それに第一次怪獣ブームから、せいぜい第二次怪獣ブームと仮面ライダーあたりまでにほぼ限られ、特に平成の作品にはまるで触れられておらんのが残念じゃ。最近の仮面ライダーや戦隊ものでは、かなり硬質感のあるシャープな着ぐるみになっておるので、それらも取り込んだうえで、ぜひ着ぐるみの発展史としてまとめあげてほしかったのお。
A最後のディナー
島田荘司角川文庫推理
245頁495円★★★
 龍臥亭の事件以後に石岡の周りで起きた、小さな出来事を3つ集めた短編集じゃ。いや、石岡にとってみれば、里美の上京は大きな出来事かな。

「里美上京」・・・まあそういった、かなりやばい石岡の精神面に救済が降りてくるという話じゃ。しかしその後も大きな改善効果は見られないような…

「大根奇聞」・・・セリトス女子大で里美を教える御名木が、石岡に語った薩摩の郷土史上の謎。飢饉の中、殿様の大根を奪った老婆が殺されなかった理由とは…

 完全なフィクションじゃが、歴史ミステリっぽくて面白く読めたわい。御名木が話すところの、里美をやっかむ一部の人間もいるとは、何らかの大きな事件に発展させる布石だったりするんかいのお。
 久しぶりの御手洗と石岡のトークは楽しませてもらったが、しかしペンタゴンとはのお。フラクタルはどーなる?

「最後のディナー」・・・里美に無理やり参加させられた英会話教室で、石岡は一人の初老の男と知り合う。物静かで控えめな大田原というその男に、多少の惹かれるものを感じる石岡だが・・・

 石岡のあまりのもじもじくんぶりに耐えられなくなりそうじゃ。それはともかく、自分の命を超えて仕事を残すという石岡の感慨は、残る者にとってはおそらく真実たりうるじゃろお。しかし、大田原がどれだけ無念だったかを思うと心が痛むわい。
B熾天使の夏
笠井潔講談社文庫
220頁619円★★★
 "矢吹駆"第0作!"というキャッチ・コピーにまんまと騙されて読んでしまったわい。東南アジアのどこいらのホテルに潜伏する男の独白と、過去のテロ事件に関する男の独白。これが交互に語られるのじゃが、わし、最後までラストにひねりがあるもんじゃと思ってたわい。そのまんまじゃからのお・・・

 このテロの失敗から思索の時を経て、矢吹駆はフランスで修行僧のような生活に入り、殺人者との思想対決へと繋がるということじゃな。いずれにせよ矢吹駆というのは馬鹿野郎じゃな。

 作者に儲け心があるわけではないじゃろうが、こういった本を単行本で出版するのはどうじゃろうのお、講談社よ。笠井潔の最初期の習作として、一部のコアなファンと、笠井潔論を展開する批評家には貴重な作品だろうが、一般の読者としては、まるでおもろないと断言しておこう。
 しかし「テロルの現象学」はちょっと読んでみたい気もするのじゃが・・・
C彗星王の陰謀  キャプテン・フューチャー11
 The Comet King
E・ハミルトンハヤカワ文庫SF
244頁280円
 頻発する宇宙船消失事件。これを捜査していた、太陽系警察機構のエズラ・ガーニーとジョオン・ランドールもまた船と共に消息を絶った。船が消えた地点は一定しておらず、捜査は難航していたが、事件の解明に乗り出したキャプテン・フューチャーは、消失ポイントの傍に常にハレー彗星があることをつきとめる。フューチャーメンは急遽コメットを駆ってハレー彗星へと向かうが、その強烈な電磁場のコマを潜り抜けて到着した世界には、奇妙な電気人間が支配する世界だった。さらに、その背後で彼ら彗星人を操るアルルスとは・・・
 
――月やエロスまで人間を住まわせたハミルトンは、今度はハレー彗星にまで進出じゃ!――

 ハレー彗星はいわゆる"汚れた雪玉"であり、その尻尾のほとんどは氷の混ざったHOのガス噴流じゃから、それが光って見えるのは、月と同じく太陽光の反射というわけじゃが、この当時は電磁気的に自発光する粒子の噴出が尻尾だと思われておったんじゃのお。それはともかく、電磁場の中に住む箒星人=電気人間(もっともアルルスに改造されるまでは普通の人間だったわけじゃが)というのが、なんとも安直で微笑ましい。

 さて、いつもいつも仲の悪いグラッグとオットー。ピンチに陥れば結構なチームワークを見せるのじゃが、今回はそのコントラストが顕著じゃぞ。彗星のコマに突入する際の互いの懺悔から始まって、捕まったキャプテンを追ってアルルスの塔まで、道中肩を並べていいコンビぶりじゃ。
 アルルスと言えば、そのイメージにクトゥルーの影が見えるように思うのじゃが、ハミルトンもやはりラブクラフトに惹かれたのじゃろうか。

 それはそうと、この数巻では影が薄かったジョオンじゃが、なんと自ら箒星人に改造されてキャプテンの前に現れる。その行動理念は大したものじゃが、やはりものの役にはたっておらんぞ。いや、カーティス・ニュートンをとことんやる気にさせたという功績は大じゃ。もしかして、当然自分たちを追ってやってくるフューチャーメンを見込んでの作戦じゃろうか。恐るべき智謀じゃ、ジョオン!

 わしもすっかり忘れておったが、本書の最後に、カーティスははっきりとジョオンにプロポーズしとるんじゃな、こりゃ。
D真夜中への鍵
 The Key to Midnight
D・クーンツ創元推理文庫サスペンス
529頁980円★★★
 京都を第二の故郷とするジョアンナ・ランドは、ラウンジのオーナーとして成功していたが、夜毎彼女を襲う義手の男の悪夢に苦しめられていた。
 一方米国で探偵社を経営するアレックス・ハンターは、一年に一度の休暇で京都を訪れていた。ジョアンナのラウンジで彼女を見たとき、アレックスは彼女が八年前に捜索依頼を受け不首尾に終わったリーザではないかと疑問を持つ。ジョアンナにはイギリスで生まれ育った記憶があったが、ハンターが彼女に近づいたことで、これまで疑わなかった自分の過去と毎夜の悪夢の原因に挑むことに・・・ だが、過去の扉の鍵を開けようとする彼女たちの周りに、不穏な影がちらつき始めるのだった。

 クーンツの「ベストセラー小説の書き方」の中で、舞台のリアリティーを出すためには、調べ物を怠ってはいけない。逆にしっかりとリサーチしていれば、現地に実際に行かずともリアリティーを出すことは可能だという例として、自画自賛と共に多用されておったが、実際よく調べとる。しかしジョアンナの記憶を呼び覚ます重要な役どころである精神医が、彼女のラウンジ共同経営者、稲村真理子の叔父だというのはあまりに御都合よろしすぎじゃな。アメリカじゃともかく、日本じゃそうそう精神医やカウンセラーなんぞはおらんぞ。わしはてっきり敵側の回し者だと確信しとったわい。逆に言えば、こういう人物を野放しにしていた敵組織はなんとも間抜けじゃが。
 ついでに言えばこの叔父、稲村臣というのも妙な名前じゃ。OMI INAMURA? しかし原文に漢字が使われていたはずもないのじゃから、SHIN INAMURA だったのかもしれんのお。とすると、おかしいのは訳者の漢字の選択か?
 
 それも含めて、「ストレンジャーズ」以降のクーンツのメジャー作品と比べると、敵組織のディテールは甘く、後半のアクション部がやや物足りない感じじゃのお。
E世界軍事学講座
松井茂新潮文庫軍事薀蓄
332頁476円★★★★
 以前から、アメリカの海兵隊というのがよく判らんかったのじゃが、彼の国では、陸海空の三軍に、独立した海兵隊が加わって四軍編成ということらしい。どうも専攻軍の位置付けのようで、大統領直轄でスピーディーに動けるようにしているのかもしれんが、命令系統図はついていないので、よく判らん。ついでに言えば、ロシアでは、地上軍、海軍、空軍の他に、防空軍と戦略ロケット軍の五軍編成で、各軍を横断的に核戦略軍というのも組織されているらしい。

 軍編成についても、陸海空別にいろいろと解りやすく解説されとるが、戦争もの、あるいは歴史ものを読む場合に、これくらいは頭に入れといたほうがいいじゃろう。

  分隊:10人前後(分隊長:下士官)
  小隊:3〜4個分隊、30〜40人(小隊長:少尉)
  中隊:3〜5個小隊、120人前後(中隊長:大尉)
  大隊:3〜4個中隊、400〜500人前後(大隊長:少佐)
  連隊:3〜4個大隊+専門中隊、2000人前後(連隊長:大佐)

この連隊を基本単位として、
  師団:10000〜15000人程度(師団長:少将)

師団は工兵隊、輜重隊、衛生隊等あらゆる兵種を含んで、独立行動ができるようになっておるんじゃのお。この他、師団の1/3くらいの規模で、旅団というのが設定されたりもするようじゃ。もちろんこれは陸軍の例じゃ。

   悲しくもメソポタミアでは戦争たけなわじゃが、この本を読んで、ソ連崩壊後いかにアメリカの軍事力が規模、質ともに他国を圧倒しているかが解った。アメリカと同盟(安保を考えると従属か?)している日本としては、北朝鮮問題もあって追随せざるをえないということも判るが、このままパックス・アメリカーナが推し進められて大丈夫かという心配はある。所詮アメリカが自国のことしか考えていないのは、京都議定書にサインしないことからも明らかじゃからのお。
F図解雑学 豊臣秀吉
志村有弘ナツメ社歴史薀蓄
214頁1300円★★★
 「図解雑学」シリーズは、簡便平易に薀蓄をUPできるのでわしも愛用しとるのじゃが、さすがに題材が豊臣秀吉ではメジャーすぎて、ほとんど目新しい記述はなかったわい。本書に関しては、¥1300を出してまで読む必要はなかったのお。
 もちろん、例えば大河ドラマの「利家とまつ」で、初めて秀吉に興味を覚えたというならば本書の価値は大きいじゃろうが、それなら大勢の作家が書いている各種の太閤記を選ぶべきじゃろうな。
G柳生十兵衛
永岡慶之助青樹社文庫時代
302頁571円★★★
 家光政権安定のため、他藩取り潰しに血道をあげる幕閣。老中松平伊豆守が次に近づいたのは、上州七日市前田家。伊豆守は一万石の小藩に何の要があるのか。しかし七日市藩主前田利孝は顔色を変え、大聖寺孫四郎を使者として国許へ向かわせる。上州には何があるのか・・・
 前田本藩の富田流の遣い手でもある孫四郎だったが、早速放たれた幕府の刺客に襲われ倒れてしまう。その彼の命を、危ういところで救った深編笠の武士は、徳川宗家兵法御指南役、柳生但馬守宗矩が嫡男、柳生十兵衛光厳だった・・・

 江戸柳生家の祖であり、二代、三代将軍に仕えた宗矩の役どころとしては、幕府の走狗として裏の仕事を仕切るか、あるいは太平の世の中で存在理由が揺らぐ剣術に、剣禅一如の活人剣としての光をあてた大政治家といったところであり、その息子の十兵衛の役どころは、父親の下で裏仕事の実行隊長か、あるいは政治に深入りする父親に反発し、ひたすら剣の道を極めようとする求道家のどちらかであることが多い。
 山岡荘八と隆慶一郎の作品を二、三読めばその違いは歴然で、またその差こそが、柳生ものの魅力の一つでもあるのじゃが、本書での宗矩、十兵衛の設定はその間を捉えた感じで、宗矩と十兵衛、十兵衛と弟との関係も、上記した極端なパターンのものではなかったわい。言ってみれば、デフォルメされていない普通さ、というかバランスが新鮮じゃったぞ。

 この柳生一族の設定には、なかなかソソラレタのじゃが、しかし後半、どうも十兵衛自身はオブザーバーになってしまい話の中心におらんのじゃ。「柳生十兵衛」という名を冠しとるのじゃからのお。話を引っ張るのは、大聖寺孫四郎と前田本藩の別式女若狭、そして彼らの恋心。うーむB級時代劇じゃあ。残念!
トップ頁に戻る "本"の目次に戻る 2002年12月に戻る 2003年 2月に進む