2003年 3月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2003年 2月に戻る 2003年 4月に進む
@浪花少年探偵団 (1986〜1988)
東野圭吾講談社文庫推理
297頁533円★★★

 「しのぶセンセの推理」「しのぶセンセと家なき子」「しのぶセンセのお見合い」「しのぶセンセのクリスマス」「しのぶセンセを仰げば尊し」の5編の連作短編集。大阪弁ばりばりで人情味の溢れた、その雰囲気を楽しむためのストーリー。決してトリックや意外性が小さいとか言ってはいけない。朝の連ドラを見る感覚で気楽に読むべし。
 大阪弁が嫌だということが特になければ、誰にでも箸休めとしてお薦めできる一品だ。

 口も早けりゃ手も早い、しかし黙っていれば丸顔の美人というしのぶセンセ、わたしは池脇千鶴のイメージで読んだのだが、「仮面ライダーΦz」の主役の女の子(芳賀優里亜)が、――歳が若すぎるが――よりイメージに近いのではないかと思う今日この頃だ。
 ま、どうでもいい話だが…。(最近多部未華子主演でドラマ化されましたな)

(2012/11/10改訂)

A機神兵団3 (1991)
機神兵団4 (1992)
山田正紀ハルキ文庫伝奇冒険
236頁/237頁660円/660円★★★

 白蘭花、榊大作、真澄公彦の三体の機神のパイロットたちは、それぞれの任務において姑娘島の存在を嗅ぎつけた。そしてついに始まった姑娘島攻略作戦。機神兵団のはじめての大規模な実戦は、想像をはるかに超える敵の巨大兵器に苦しめられながらも、なんとかこれを退けることに成功する。そして、彼らは再び個々人のの任務が与えられるが、一方、独自の機神を有するという噂のドイツでは、ベルリン大学の客員教授速水の息子次郎が、父から託された分厚いマニラ封筒とともに、ナチス政権下のベルリンからなんとか脱出しようとしていた・・・。

 大国間の軋みが大きくなり、世界大戦の影が忍び寄る昭和初期を時代設定に、広大な中国と満州をメイン舞台とした活劇というのは、日本人を主に据えて物語を作る時、とても魅力的な選択だ。どんな奇想天外なストーリーでも許されるキャパシティを秘めている。今回の3巻、4巻もなかなか魅力的な活劇だ。

 しかしまあ、どんな奇想天外なストーリーでもとか言っておきながらなんだが、正直言って機神が出てこない部分のほうが楽しめる。“モジュール”は、まあエイリアンのコンピューターということで、ソフト部分で姿勢制御や、半歩譲ってエネルギー変換効率を飛躍的に高めるといった解釈は良しとしても、ハードであるマテリアルやメカニカルが昭和初期の技術なのだから、崖を登ったりするのはどうにも・・・。
 超巨大戦車などというのも、意外にエイリアンの馬鹿さ加減を露呈している。

 ところで、最も不要なのは挿絵だ。60センチ自走砲カールの車体に“殺人光線”発射システムを積んだ陸軍の秘密兵器。実在の兵器を使用しているのだから、挿絵に書くならちっとは調べてほしい。

(2012/11/10改訂)

B前田利家 上下 [新装版] (1981)
戸部新十郎光文社時代小説文庫歴史
400頁/339頁590円/590円★★★

 大河ドラマもとっくの昔に終わっているが、「前田利家」である。戸部作品としては、本書を読んでから「前田太平記」に進むべきなのだろうが、順番が逆になってしまった。

 利家に関しては、賤ヶ岳以降の秀吉政権下での出世した姿はよく目にするところなので、それ以前の若き日の犬千代、又左衛門としての物語を期待したいというのがわたしの希望だ。
 その観点から見ると、十阿弥を殺して信長に勘当されるのが40頁。帰参が許されて赤母衣衆に選ばれるのが100頁。府中三人衆の一人として、初めて北陸へ行くのが130頁。そして本能寺の変が170頁と、上下巻で800頁近くあることを考えると、少々駆け足の気がする。もう少し若い時代に頁を割いてくれてもよかった。

 著者の歴史小説では、決まって兵法者が重要な役どころで登場する。本書では富田景政と重政がそれにあたるのだが、意外に本書では影が薄かった。唯一の素敵なシーンは、利家と家康の家臣団が水汲み場でいざこざを起こし、一触即発になる九州那古屋の事件で、利家の背後に服部半蔵の鉄砲隊が忍び寄り、家康の背後に重政がすっと向かうところか。このシーンの演出は抜群に良かった。

 まあ本書での重政の影が薄かったからこそ、後に「秘剣龍牙」で彼の活躍をより楽しむことができる…のかな?

(2015/7/19改訂)

Cしのぶセンセにサヨナラ 浪花少年探偵団・独立篇 (1990〜1992)
東野圭吾講談社文庫推理
325頁590円★★★

 「しのぶセンセは勉強中」「しのぶセンセは暴走族」「しのぶセンセの上京」「しのぶセンセは入院中」「しのぶセンセの引っ越し」「しのぶセンセの復活」の6編の連作短編集。

 前作とほとんど同時に読んだわけだが、うーむ困った、感想も一緒だ。大阪弁にアレルギーが無ければ読んで損はなし。しかし編を追うごとにストーリーを作っていくのが難しくなっていくようで、本巻では多少の無理を感じる。
 題名の“しのぶセンセにサヨナラ”はストーリー上のものではなく、このシリーズに作者がサヨナラするという宣言だな。

(2012/11/10改訂)

D井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室
井上ひさしほか 文学の蔵編新潮文庫国語薀蓄
271頁619円★★★★

 井上ひさしが岩手県一関市で行なった「作文教室」からおこした本だ。文学熱心の一関市が、暫くの間一関で暮らしたことのある彼を上手く引っ張ってきて、この講座を開いたということらしい。

 後半は「作文教室」に参加した生徒たち(141人だな)に書かせた作文の添削なんかがあるのだが、前半の講演部分はなかなか含蓄豊かだ。

・〜ですが、〜ので等々、理由を述べなければならない接続は文章を難しい方向へ引っ張っていくので、できるだけ避ける。
・日本語には関係代名詞がないので、(司馬遼太郎が述べたこととして、)日本語の文章は長い貨物列車のように、一車両に一つの貨物だけ載せて、それを十、二十と重ねることで大文章になっていく。

 ははあ、なるほど。
 読ませる創作文を作るなら重要だ。

(2012/11/23改訂)

EPの密室
島田荘司講談社文庫推理
366頁514円★★★★

(1)鈴蘭事件
 セリトス女子大学に隣接する居酒屋で主人が殺された。警察は事故と判断し動こうとしないが、当時女学院内で育てられていた御手洗潔(5歳)が、居酒屋の娘で友達のえり子のためにたちあがる。

 こういった回想形式の短編は、ホームズ譚でもそうだが、導入部分が重要。このあたり、さすが島田荘司は巧い。当時事件を担当した警官だった馬夜川老人の回想もいいし、御手洗の幼馴染みだったえり子の登場もいい。しかしラーメン博物館でのデートシーンは二、三行ですませてまったくOKだぞ。
 御手洗の天才少年ぶり(うちの娘と同い年だ…)には、たまたま彼が知りえた一般的でない知識というマイナス要素はあるのだが、ここは素直に幼児御手洗のスーパー児童ぶりを楽しむのがいいだろう。

(2)Pの密室
 著名な画家土田が、新築したアトリエで愛人とともに殺された。部屋の中央で死んでいた彼らの周りには、彼が毎年審査している小中学校生の描いた絵が、表面を真っ赤に塗られて、部屋一面に敷き詰められていた。この異常な事件に興味を持った御手洗潔(7歳)が、えり子を引き連れて事件に乗り出す。

 久しぶりに、発端の異常性が全面に出た作品のような気がする。まあWHY DONE IT? についてはそう難しくないので、文章だけでもかなりの人間が気がつきそうだ。あれだけ見取り図をつけたら、それこそ大抵の人間にはバレると思うが・・・。
 まあ分数の四則計算もできない大学生もいるというご時世なのでそうでもないのか。
 いずれにせよ、その方向性は嬉しい。

(2012/11/23改訂)

Fミステリーのおきて102条
阿刀田高角川文庫推理エッセイ
378頁629円★★★

 わたしにとって著者は、穏やかで滑らかな語り口の、しかし駄洒落はややうるさい外国古典文学の先生にとどまっているので、ショート・ショートはもちろん有名な「ナポレオン狂」すら読んでいないのだが、ミステリー・ジャンルのエッセイということで手にとってみた。
 題名どおり102の項目に分かれている。穏やかな語り口で滑らかに、という著者の持ち味はそのままだが、意表をついた角度からの切れ味がエッセイの大きな魅力という観点からすれば、さほど大きな収穫はなかった。どこかの連載をまとめたものかもしれないが、ミステリからほとんど外れたような話も見受けられたので、二、三割ほどシェイプ・アップしたほうがいいかもしれない。

(2012/11/23改訂)

Gバラヤー内乱
 Barrayar
L・M・ビジョルド創元SF文庫SF
547頁980円★★★★

 ベータ殖民惑星軍の大佐だったコーデリアは、戦時下での冒険の末、敵国バラヤーの退役将校で軍事貴族のアラール・ヴォルコシガンと結ばれ、終戦後のバラヤーで暮らすことになった。…「名誉のかけら」

 ところが突然のバラヤー皇帝の崩御で、アラールは幼い新皇帝の摂政に任命される。バラヤーは長い孤立時代からは抜け出たものの、国内には狂信的な保守派を、国外にはバラヤー領を狙うセタガンダをはじめ、国政の舵取りには多難を控えていた。
 完全自由主義のベータで産まれ育ったコーデリアは、異文化の極みであるバラヤーで、摂政夫人として窮屈な生活に慣れようとしていたが、アラール襲撃の毒ガスの影響を受け、大きな後遺症を被った胎児は人工子宮へ。さらに首都で起こったクーデターで、彼女は5歳の皇帝とともにバラヤーの山中を彷徨うことに・・・。

 「無限の境界」以来久方ぶりのビジョルド(「スピリット・リング」は別として)。出ない出ないと気をもんでいたら、立て続けに三冊もでた。
 本書はシリーズ主人公のマイルズ・ヴォルコシガンの誕生前夜の物語である。彼が身障者として生きることになるそもそもの原因が語られる訳だ。マイルズを認めない祖父(アラールの父、ヴォルコシガン国守)も主要キャラクターとして登場し、「名誉のかけら」との繋がり以上に「喪の山」とも密接に関わっている。

 なにせ題名が“Barrayar”だから、これまで以上にバラヤーの特異性が描写されるのだが、地球からの植民以降、長年の孤立時代を終えて急激に宇宙時代を再び迎えるというバラヤーの設定は、ほとほと明治維新日本との関連性を感じずにはおれない。徳川幕府が倒れずに、幕府の手で明治維新が成っていれば――日本史に疎いとピンとこないかもしれんが、そうなる可能性も結構あった――より近い形になっただろうか。

(2015/5/11改訂)

H闇の報復 上下
 Reprisal
F・P・ウィルソン扶桑社ミステリーホラー
310頁/332頁524円/544円★★★★

 大学で数学を教えるリスルは、不幸な結果に終わった一度目の結婚の後、身だしなみにも構わずに大学での研究生活に没頭していたが、期待もなく参加したパーティーでレイフ・ロスマラと名乗るハンサムな大学生と知り合い、急速に仲を深めていく。彼女の数少ない友人で大学の清掃員ウィルは、リスルがレイフの悪魔的な考えに感化されていくことに、一抹の不安を覚えてゆく。しかし彼女を気遣うウィルには、隠遁者のように生きなければならない理由があった。彼は決して電話機の近くには近寄らないようにしていたのだが・・・。

 前作、ウィルスン版「ローズマリーの赤ちゃん」に続いて、本作はウィルスン版「オーメン」だ。
 着々と成長し、力を解放する時を待っているラサロムについては、いかにも細かく人々に悪さをしかけて喜んでいるその理由はよく解らないが、ホラーとしての怖さはシリーズ一だろう。“5年前のダニーの事件”なんぞは、ただのフィクションとは言え、いたいけな子供によくもまあここまで残酷な仕打ちを書けたものだと感心する。

 ラサロムの力は物理法則をも超えると断言されているので、もはや何も言えないが、ウィルに仕掛け続けているきめ細かな悪意のアフターケアは、一体どういうメカニズムなんだろ。

(2015/5/12改訂)

I有栖川有栖の密室大図鑑
有栖川有栖/磯田和一新潮文庫ミステリ薀蓄
3555頁552円★★★★

 古今東西の推理小説から41の密室を選りすぐって紹介した本。黎明期の古典から新本格ブーム以降の作品(「人狼城の恐怖」「すべてがFになる」など)まで、本当に広い選だ。
 もちろん安手の推理パズル読本とは違って、自身推理小説作家が書いているのだから、ネタばらしなどはしていない。ここをオープンにせずに小説の魅力を伝えようとしているのだから、たいへんな技がいる。

   そして本書の大きな魅力のひとつが、それぞれの密室の挿絵がついていることだ。これを眺めるのも楽しいのだが、<作画ポイント>なる挿絵画家の一言は不要か。
 わたしの推理小説知識もまだまだで、結構読んでない本もいっぱいだ。
 とりあえず、次月で紹介する銀座幽霊サム・ホーソーンの事件簿を購入するきっかけにはなった。

(2015/5/12改訂)

J新選組剣客伝
山村竜也PHP文庫歴史薀蓄
247頁495円★★★★

 新撰組の関連本は山のようにあるので、本書にはあまり期待もしていなかったが、意外に知らなかった情報が多くあって面白かった。子母澤寛新撰組三部作とかなり重なった記述もあったとは思うが、8人の人物に限定して紀伝体形式で書かれているので、より印象的に感じる。
 近藤勇土方歳三沖田総司はともかく、山南敬助永倉新八原田左之助藤堂平助斎藤一についての貴重な話が目白押しで、中でも永倉と原田の豪快なエピソードが印象的だった。

 主に試衛館出身者で占められているのだが、井上源三郎がとりあげられていないのはなぜ?

(2012/11/23改訂)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2003年 2月に戻る 2003年 4月に進む