2003年 5月
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@異界への扉  始末屋ジャック・シリーズ
 Conspiracies
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリー伝奇冒険
545頁933円★★★
 行方不明になった妻を捜して欲しいという依頼を受けて、ジャックは“秘密組織と未承認現象を暴露する協会=SESOU”の年次総会に潜り込んだ。依頼者エイラーの消えた妻は、UFOや秘密組織、反キリストや世界を支配する陰謀についての大統一理論をSESOUPの総会で発表するつもりだったらしい。彼女は行方知れずになってからエイラーに連絡をとってきたことがあったというが、彼女はその中で、自分を助けられるのは始末屋ジャックしかいないと告げたと…。

 ジャックはわたしたちと同様にUFO狂や陰謀マニアの言動を胡散臭く思っている。本文中「X−ファイル」の名を挙げて彼らを揶揄したりしているのだが、なにせ本書もナイトワールド・サイクルの一部だから、彼らマニアの言動は“本シリーズでは”真実の一端になってしまいかねない。そこが読んでいて居心地の悪いところだ。小説なのでもっともらしい理屈をつけてくれればなんでも有りで構わないのだが、現実世界にも多数存在する「トンデモ本の世界」の側が真実に近いとされると、わたしなどは思わず腰が引けてしまうというものだ。

 ともあれ前巻とはうって変わって、本作ではラサロムの側にどどんと近づいてくる。これは「ナイトワールド」に結びつける当然の段取りだが、二人組みの黒服の男は出てくるわ、“扉”を開くことに関してニコラ・テスラまで引っ張り出してくるわ、胡散臭さ300%アップだ。、少々悪乗りしすぎという気がしなくもない。個人的にはもう少しマウリキオに活躍の場が欲しかったところだが、彼とラコシはどういう関係にあるのだろう?
 クライマックス、“扉”に吸い込まれそうになった絶体絶命のジャックはいいぞ。

(2013/8/1改訂)
A悪夢の秘薬 上下  始末屋ジャック・シリーズ
 All The Rage
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリー伝奇冒険
343頁/316頁752円/752円★★★★
 製薬会社GEMに入社した化学者のナディアーは、彼女のかっての教官で今は同社の役員であるモネから、上手くいけば莫大な利益をもたらす、ある分子化合物の安定化という研究業務を与えられた。モネに惹かれていた時期のあるナディアーは、彼の下での重要な業務に張り切るが、モネがセルビア人ギャングのドラゴヴィチから何らかの脅迫を受けているのを目撃し、ドラコヴィチをモネから退かせるよう、始末屋ジャックに依頼する。その頃巷では、服用者を極端に凶暴にさせる新種のドラッグが席巻していたが、ドラコヴィチを探るジャックは、ついに辿り着いたある見世物ショーの奥で、あの忌わしき怪物ラコシに遭遇する・・・。

 前作で危うく開きかけた異界への穴と多くの謎はとりあえず横に置いておいて、ジャックにとって因縁の敵ラコシの登場。ラコシの血液から分離精製する謎の分子化合物は、一定期間の後には無害なものに変異してしまうのだが、その際には残されたデータまでが変異し、ついでにナディアーやモネの記憶まで消えてしまうというトンデモな設定を何とか乗り越えて、クライマックスのジャックVSラコシになだれ込むべし!
 ――しかし決着はまた先送りですな・・・。

(2013/8/1改訂)
B七回死んだ男
西澤保彦講談社文庫推理
341頁590円★★★★
 時折“時間の反復落とし穴”に落ちてしまうという体質を持つ久太郎。一旦落とし穴に落ち込むと、同じ日を7回繰り返すまでは通常の時間の流れに戻れないという困った“体質”だ。彼の祖父零次郎は一代で巨万の富を築いた男で、正月には親族を集めて酒盛りをするのが通例になっているが、その席では久太郎の母親を筆頭に、ひたすら零次郎に取り入って遺産と後継者の指名を手に入れんと、恥ずかしげもなくやりあっている。そんな年始の集まりの日、零次郎は鈍器で頭を殴られ殺されるという事件が起きてしまう。しかし丁度その日から久太郎の反復落とし穴が始まり、彼は零次郎が殺されるのをあの手この手で阻止しようとするが・・・。

 著者得意のSF的設定の代表作と目されている本だが、分類としてはユーモア・ミステリーか。これは前評判どおり「解体諸因」と同じくらい楽しめた。謎の半分くらいは解ったのだが、さすがわたしがつじつまが合わんなと思ったところまで、しっかり説明をつけてくれている。

 やっぱりタックとタカチの青春残酷物語よりは、こういったやつのほうがお気楽でいい。

(2013/8/1改訂)
C白く長い廊下
川田弥一郎講談社文庫推理
363頁563円★★
 M大医学部から高宗総合病院への派遣医として勤務している窪島は、簡単な十二指腸潰瘍の手術で患者を死なせてしまう。病院側の責任を言い立て、賠償金を手に入れようとする親族側に対し、病院は保険金で賠償して示談にしようとする。保険金の申請が通るためには、窪島が過失を認めなければならない。しかし彼は、どうしても患者が死んだのが自分の責任とは思えなかった。彼がパラスチミンの静脈注射を命じた時、確かに患者は呼吸を始めていた。彼の指示は間違っていなかったはずだが・・・。

 92年度の江戸川乱歩賞受賞作品。
 医療事故に納得のいかない主人公が、親しくなった薬剤師のちづると一緒に死んだ患者と現場にいた看護婦の周辺を探り始めると、そこには人為的な計画犯罪の構図がみえてくるという流れだが、どうにも江戸川乱歩賞というものが解らない。真保裕一の「連鎖」もそうだが、その“業界”にいなければ伺うことのできない内幕を知ることは、それは興味深いことではあるが、謎解きのエンターテインメントとしてなぜこれが受賞作なのだろう。「連鎖」はハードボイルド的なサスペンスとして文章も上手かったが、本書はそれも今ひとつ。プロローグを設けてわざわざ「白く長い廊下」などと穿った題名をつけているが、「医療事故の罠」とかなんとかで十分だ。

 医療事故偽装のスケープゴートとされかかった男の真相究明の闘いということで、窪島が大真面目な性格なのは当然と言えるが、女性への対応はちょいといただけない。手を伸ばせば届く、自分より10歳ほども若い病院一の美人(性格ばっちり。料理もできて、設定の都合よろしすぎ)にあんな仕打ちとは、あんた包容力なさすぎ。そこは男の甲斐性でしょう。
 ――執筆当時の著者がチェリーだったのではないかというのは、あまりに失礼すぎるか…。

(2013/8/1改訂)
D東京珍景録
林望新潮文庫
243頁667円★★★
 都市の日常の中に埋もれ、省みられることのない風景に愛惜を感じる著者が、それを「珍景」と名づけて蒐集した半写真集。
 収められた写真は、主として昭和初期のアールデコ調のコンクリート建造物が多い。今となっては重く野暮ったい感じのするデザインだが、大正デモクラシーから昭和初期までは、そんなデザインが一般の商家やアパートなどにもどんどん取り入れられていたのだ。

 写真を眺めている分にはなかなか興味深い――“怪人二十面相のアジト”なんていう章もある――のだが、写真を受けた文章は、都市論や文明論、日本人論に展開することもなく、ただノスタルジックな感傷を語っているだけだから、大して感銘を受けることはない。

(2013/8/1改訂)
E卒業 雪月花殺人ゲーム
東野圭吾講談社文庫推理
365頁590円★★★
 高校時分から仲の良い大学4年生6人組。卒業を間近にして、それぞれ就職活動や最後の部活動に勤しむ中、グループの一人祥子が死んだ。当初自殺と思われた事件には、どうにも納得のできない妙な点があった。残されたメンバーは、祥子のために事件を解決しようとするが、そうこうしている間に、高校時代の恩師南沢の自宅で行われた茶会の席上で、また一人、仲間が毒を飲んで命を失ってしまう・・・。

 西澤保彦のタックとタカチのシリーズは、ボアン先輩のような狂言回しのキャラクターやこれらのニックネームのおかげで、パッと見ユーモアミステリかと思いきや、読んでみると人間心理の汚さが浮き出る青春残酷物語で辛いのだが、本書はその元祖といった趣だ。しかもこの六人組は一向に楽しくなさ気な奴らで、とにかく仲間にはなりたくない。

 ストーリー上あまり重要でもないのだが、探偵役の加賀は大学剣道の覇者だったりする。おそらくあの夏木六三四や東堂修羅よりも強いんだぞ!こいつはすごい。

 ヨタ話はともかく、“雪月花殺人ゲーム”という副題があるように、茶会の遊戯ルールが犯人探しの重要項目になるのだが、図解で詳しく説明してくれるとは言え、わたしのようななんちゃって読みでは、とても人には説明できないし、できたところでそれほど感銘を受けるわけでもない。第一の事件における密室トリックは、実際に実現できるのか疑問が沸くところだし、正直かなりつまらなかった。

 著者のエッセイ「あの頃ボクらはあほでした」で、大いに同好の士気分になったので、(わたしとしては)立て続けに数冊を読んでみたのだが、これはヒットというものには会えなかった。しのぶセンセのシリーズのような、大阪弁丸出しユーモア・ミステリを頑張ってもらいたいところだが、店頭に並んでいる傾向からすると、新しめのやつは暗いものが多そうだ。

(2013/8/1改訂)
Fぼくはこんな本を読んできた 立花式読書論、読書術、書斎論
立花隆文春文庫
375頁514円★★★
 文理を問わず、驚くような知識でそれぞれの専門家たちと対談する著者が、“こんな本を読んできた”というフレーズに興味を惹かれて読んだのだが、いやぁこれは役に立たんね。
 後半は著者が「週刊文春」に連載していた書評が纏録されているのだが、その中でわたしが読んでいたのは「トンデモ本の世界」のみだった。

 前半がどうかと言えば、これは尋常ではない。知識をつけたい対象が決まったら、とにかく本屋を回って専門書から一般向けの興味本まで、根こそぎかと思うくらいごっそりと買い込んで、ひたすら読んでいくらしい。1テーマ500冊くらいだそうな。

 語学を学ぶ最も効率の高い方法は、身銭を切って家庭教師を雇い、短期間に集中してやることだという。
なるほど卓見である。

(2013/8/2改訂)
G日本語はどこからきたのか ことばと文明のつながりを考える
大野晋中公文庫歴史薀蓄
175頁590円★★★
 たしか「世界不思議発見!」で、九州出土で長らく用途が判らなかった子持ち土器やかめ棺などの形状が、南インド出土のものと似通ったものが多いということを以前紹介していた。

 その内容を含めて、日本語と南インドのタミル語との繋がりを紹介した本だ。
 素人向けの薄い本だが、かなり丁寧に両言語の文法構造、単語の音、意味、それに歌の形式等に類縁性があることを紹介していて、その繋がりが納得できる。

 学問として語るには、こういう地道で緻密な研究が必要なんだな。

(2013/8/2改訂)
Hくノ一忍法帖
山田風太郎角川文庫時代伝奇
296頁552円★★★
 大阪夏の陣後、豊臣秀頼を失った千姫が江戸に帰着した。しかし千姫は豊臣家を滅亡した祖父の徳川家康を許そうとしない。その上彼女が連れ戻った腰元の中には、秀頼の種を宿した女がいるという。この情報を入手して家康は驚愕する。千は不憫で手を出すことは許されない。が、秀頼の種は流さねばならない。家康の命で腰元衆の命を狙うのは、伊賀から呼ばれた手練の忍者たち。しかし狙われる腰元たちも、亡き真田雪村配下のくノ一であった。

 記念すべき忍法帖の一作目(と思う)だが、なぜかこれまで読んだことがなかった。構図としては伊賀忍群VS真田くノ一だが、千姫といえばこの人、坂崎出羽守や、後の春日局お福、他にも長宗我部盛親を亡くし復讐に燃える妻なんぞも出てきて話をややこしくしてくれるのがたまらない。
 丸橋という盛親の妻は鎌使いの大女である。描写は山田風太郎だから淡白とはいうものの、夢枕獏「蒼獣鬼」に出てくる羅門にイメージがかぶった。
 司馬遼太郎「戦雲の夢」の主人公、大器でありながら時代に飲み込まれた不幸な男、長宗我部盛親にこんな妻がおったのかと思うと笑える。

 オールスター・キャストで自由奔放に贈る傑作時代劇だが、唯一惜しむらくは、柳生が関与していないこと。どうした柳生又右衛門宗矩

 その後の千姫が「柳生忍法帖」にちらっと顔を出すことや、何よりもラストのオチが「魔界転生」に絡んでくることを思えば、柳生には登場願いたかったところだ。ま、こちらが先に執筆されたのじゃから仕方ないのだが・・・。

 当時10歳くらいだった筈の柳生十兵衛三厳が出てきても良かったのだが。←しつこい。

(2013/8/2改訂)
I最新宇宙論と天文学を楽しむ本
 太陽系の謎からインフレーション宇宙まで
佐藤勝彦[監修]PHP文庫宇宙薀蓄
244頁476円★★★
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