2003年 6月
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@月曜日の水玉模様 (1998)
加納朋子集英社文庫推理
259頁495円★★★

 OLの片桐陶子は、通勤電車に乗り合わせたのが縁で、調査会社の新入社員の萩(水玉ネクタイ)と知り合った。彼と一緒に、日常生活の中で出会うちょっと不思議な出来事の真相を探っていく。

 月曜から日曜まで、7編からなる連作短編集。
 一応連作を追っていくことで、陶子の負ってきた過去が見えてくる仕掛けになっているが、本書に関しては特になくても構わない設定だという気がしないでもない。
 「ななつのこ」「魔法飛行」の凝った作りの印象が強いだけに、あるいは出版社側からの強い要求もあったのかもしれないが、陶子の性格が少々気難しげに感じてしまうのも、このあたりの設定も含めた重さが漂っているようだ。
 こんなことを書くと、手に職のないOLの先行きへの不安を描こうとした?著者の意義が失われるのかもしれないが、わたしはもっと気楽に謎解きオンリーの話でまったくOKだ。(サム・ホーソーンものの開き直りを見よ)

 短編ミステリは現実逃避で十分であるが、少しでも真面目に読んだら、陶子のこの会社は彼女以外の社員が仕事していないようですな…。

(2014/5/18改訂)

Aナイフが町に降ってくる (1998)
西澤保彦祥伝社文庫推理
312頁562円★★★

 杉本先生をオトすため、夏休みの今日も彼の自宅周辺の商店街をうろつく高二の真奈。しかし彼女がふと気が付くと、自分の周りの世界が――人も物も――すべての動きが停止しているのだ。そして彼女は止まった世界で一人動いている男、末統一郎に出会う。末が言うには、なんと時間停止現象は、彼が疑問に囚われれば生じ、彼が何らかの納得をするまで解除されないという。そして毎回誰か一人が止まった世界で彼とともに動けるのだという。理由は全く解らないが、とにかくそれがルールなのだと・・・。
 今回は彼の前で突然倒れた男にナイフが刺されていたことが疑問となった。刺された男の近くには自分しかいなかったというのに、一体誰が何の目的で・・・。その疑問によって発生した“時間牢”に、末のパートナーとして無作為に“選ばれ”たのが真奈ということらしい。この謎を解かない限り、通常の世界に戻れない彼らだが、奇妙なナイフ刺傷事件は、なんと商店街の其処彼処で発生していた・・・。

「むつかしく考えないでくれ。要するに、そういうものなんだな。」

と主人公に宣言されては仕方がないが、とにかく開き直ったすごい設定だ。まぁあんまり気合を入れて読んでいないので、適当なことを言うのもなんだが、あいかわらずの手堅い謎解きものとして、気楽に読み飛ばせばいいだろう。

(2014/5/27改訂)

B信州佐久平みち、潟のみちほか  街道をゆく9
司馬遼太郎朝日文庫歴史紀行
363頁317円★★★

 有数の干拓地を抱えた新潟で、農地改良事業や小作争議について語られる「潟のみち」は、比較的近い時代での話に終始し、著者の土地公有論とも絡んでくるので、万が一本書で初めてシリーズを手にとってしまったなら、ややとっつきにくいだろう。と言うか、恥ずかしながらわたしも長いこと中断してしまった。

 続く「播州揖保川・室津みち」では、今は寂びれてしまった古典的権威を持つ港、室津が大きく取り上げられ、こんな小さな島国の日本が、日露戦争前後までは内陸国家だったという指摘がなるほど面白い。
 「高野山みち」「信州佐久平みち」では、真田一族と“聖”についてが二編を通して語られる。真田雪村はともかく、真田氏の発祥が話題になるのは珍しいのでは。
 高野聖に代表される聖とは、正式な僧ではなく回国する私度僧のことだが、もともとの言葉の意味するところはともかく、室町時代には、宗教を売り物にする乞食同然の輩というイメージがついてしまっていたらしい。“高野聖に宿貸すな。娘とられて恥かくな。”とまで言われたのだそうな。
 しかし、日本の宗教史を語るうえでは非常に重要な職種集団だったようで、今更ながら歴史は奥が深い。

(2014/5/27改訂)

C星降り山荘の殺人 (1996)
倉知淳講談社文庫サスペンス
481頁752円★★★

 流行のスターウォッチャーとして茶の間で人気のイケメン星園。彼の付き人となった杉下はイメージ・キャラクターとして招待された星園とともに、埼玉の奥地にある渡河里岳コテージ村を訪れた。同様に招かれたUFO研究家の嵯峨や作家の草吹、そしてオーナーである不動産会社の社長と彼が連れてきた女子大生等々、胡散臭げな人物が集ったその夜、はたして殺人が起こり・・・。

 閉ざされた雪の山荘というコテコテの設定に、敢えて挑戦した意欲作。
 本書の面白いところは、殺人のトリック自体よりも、章ごとのト書きである。

 曰く、

「まず本編の主人公が登場する。主人公は語り手でありいわばワトスン役、
つまり全ての情報を読者と共有する立場であり、事件の犯人ではありえない。」


とか

「部屋割りに関しては、犯人の意図は特別働いていないので、深読みする必要はない。」

だの

「その中でひとつ重要な伏線が張られている。お見落としのないよう。」

といった具合。

 これにはしてやられた。
 著者もホクホクしながら書いていたのじゃないかな。

(2014/5/27改訂)

Dなるほどナットク! LANがわかる本 (2003)
石井弘毅オーム社PC薀蓄
193TD>1200D>★★★★

 インターネットイントラネット、とにかくネットに繋がなければ業務がまるでできなくなる昨今、たしかに便利ではあるが、通信がらみのエラーによる細かいトラブルもやたら発生する。わたしはまあ、そんなときには部内のネットワーク担当に文句を言って処置してもらっているが、多少の用語の掴みは持っておくべきかということで読んだ本。イーサネット・ケーブルから始まって、後半はTCP/IPまで、なかなかわかり易くまとめられているのではないかな。TCP/IPについてより詳しく知りたければ、同シリーズに「TCP/IPがわかる本」も出版されている。
 とりあえず雑多な通信プロトコルの大筋をつかむために、OSI参照モデルでの階層構造を知っておいても損はないだろう。

 しかしイーサネットのイーサが古典SFで有名なエーテルと同意だったとは…。
 このあたりの洒落っ気は、なかなか日本人には真似のできないところか。

(2014/5/25改訂)

Eスコッチ・ゲーム (1998)
西澤保彦角川文庫推理
342頁600円★★★

 高瀬千帆のルームメイトの恵が、寮内で何者かにめった刺しに殺された。自分とただならぬ関係にあった恵の死に千帆は驚愕するが、事件はそれで納まらず、さらに第二、第三の同様な殺人事件が起こる。タカチが高校卒業直後に遭遇したこの残虐な事件は、彼女が大学二年となった今でも解決の目処がたっていなかったが、彼女がようやく事件に向き合ってタックに長い話を終えたとき、彼はタカチにこう告げる。「――そんな必要はないと思う。タカチ、きみは誰が犯人なのか知っている筈だ」と――。

 今回は完全にタカチの話だ。それにしても――「解体諸因」での普通のガールフレンド・キャラが宝塚男役キャラになってしまうとは、タカチはえらく変わってしまいましたな。

 あいかわらず屋上屋を重ねる推論の積み重ねなので、最後に物的証拠が現れても、おいそれとは納得できないくらいだが、シリーズに慣れてきたからか、「彼女が死んだ夜」「子羊たちの聖夜」ほどには気持ち悪くなることもなかった。まあ、犯人との距離の所為でもあるが、するっと読了だ。

(2014/5/1改訂)

F狗神 (1996)
坂東眞砂子角川文庫ホラー
320頁500円★★★★

 高知の山里の実家に身を寄せている坊之宮美希は、四十路を迎えた今も、紙を漉きながらひっそりと暮らしていた。過去に傷を持つ彼女はこのまま独りで生きていくつもりだったが、村の高校に新しく赴任してきた若い教師、晃と心ならずも惹かれあい、結ばれるようになる。しかしその事が、この静かな山里を震撼させるとてつもない事件に繋がっていく・・・。

 平井和正ウルフガイ・シリーズで育ったわたしには、この題名だけで十分に惹かれて随分前に購入していた。しかし同時に買って先に読んだ「死国」のクライマックスが、あまりにあかぽんたんだったので、どうにも腰が砕けて、長らく読む気になれなかった。
 本書も「死国」同様、抑えに抑えた出だしで、周りが皆昔からの知り合いという静かな山郷での生活がリアルに描かれている。とは言え「死国」のことがあるので油断はできない。ドキドキしながら読み進めたのだが、あれに比べるとはるかに真っ当な展開だった。もちろん悪夢が物質化するとか訳のわからんことも出てくるが、そこに至るまでにエンディングしてくれたので助かった。あとは真壁雲斎と九十九乱蔵に出張ってもらうしかないだろう。

 そう言えば雰囲気も夢枕獏と似たものがあった。鳴声の記述とか。――びゃうびゃうびゃう。

(2014/5/25改訂)

G怪盗対名探偵 フランス・ミステリーの歴史 (1985)
松村喜雄双葉文庫ミステリー薀蓄
580頁857円★★★

 フランスの小説と言えば、アレクサンドル・デュマ「三銃士」モーリス・ルブランアルセーヌ・ルパンシリーズ、あとはジュール・ヴェルヌの冒険活劇、他になにがあったっけ?という印象で、ミステリと言われて思いつくような作家や作品はあまり思いつかない――いや、もちろん「黄色い部屋の謎」なんて古典的名作もあるのは知っている。ついでに「黒衣婦人の香り」という湿度の高い続編も――のだが、ヴィドックから始まる(胡散臭げな映画が数年前にありましたな)大衆向けの新聞小説=フィユトンとして、論理はそこそこ情感たっぷりに発展してきたフランス・ミステリの歴史を辿っている。つまり上記の「黒衣婦人の香り」は、いかにもフィユトン寄りの作品と言えそうだ。
 著者の好みに引き寄せられて、メグレ警視ジョルジュ・シムノンの頁が多すぎて(シムノンだけで100頁!)少々つらい気はあるが、19世紀のフィユトンが欧米や日本に与えた影響が意外に大きい事に驚いた。

 わたしにとって収穫だったのは、なぜシャーロック・ホームズの長編はあんな奇妙な構成になっているのかという以前からの疑問にどうやら解答がでたことだ。あの形式はフィユトンに遡ることができるらしい。
 知らない人のために言っておくと、ホームズの長編では、事件の発生と解決はそこそこの分量でとっとと終わり、その後は過去に遡って、なぜ事件が発生するに至ったかという人間関係のあれやこれやが延々と続くのだ。奇妙なな――そしてつまらない――趣向だが、フランス人の好みではあったということだ。

 本書のキモとしては、明治から昭和にかけてフランス大衆小説が、日本でも大量に訳されたことの影響の大きさに触れておることが挙げられるが、これは推理小説への影響というより、大衆小説全般への影響であるようだ。例えば、未だに版を重ねる吉川英二「宮本武蔵」は、剣戟のシーンよりも、出会い、別れ、再会を重ねる武蔵の求道と成長を描いたすれ違い小説【注1】だが、上記の“論理はそこそこ、情感たっぷり”の論理を剣戟に換えると、きれいにフィットするというものだ。

 書き忘れたが、始まりがヴィドックだからなのか、いわゆる怪盗が多いのもフランス・ミステリーの特徴だ。ルパンはもちろん、ファントマとかジゴマとかの名前を聞いたことある。

 あと、ルパンのシリーズ・リストがあるのはとってもポイント高しだ。

【注1】携帯電話が普及するようになって、めっきりこの類のストーリーは減ったそうな…。
(2014/5/1改訂)

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