2003年10月
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@異次元侵攻軍迫る!  キャプテン・フューチャー14
 World to Come (1943)
E・ハミルトンハヤカワ文庫SF
216頁280円

 突如太陽系内に現れ、太陽に驀進する船をあわやのところで救出したフューチャーメン。驚いた事に、船に乗っていたのは“物質生成の場”を探す冒険で出会ったホル・ジョルとキ・イロックたちだった。今彼等の星系はゴーマ・ハス率いるスヴァードの軍団に、着々と侵略されつつあるという。早速フューチャーメンたち一行は、異次元航行装置を取り付けたコメットで、勇躍ゴーマ・ハスが待ち受ける宙域へと出発する。だが途中船外活動をしていたキャプテン・フューチャーは、事故で船から飛ばされてしまう・・・。

 わたしが本シリーズを立て続けに読んでいた頃(NHKでアニメが放映されていたちょい前くらいだ)には、本書はまだ刊行されていなかった。当時刊行されていたのはたしか「人工進化の秘密」までで、たしかアニメもここまでやった筈だ。つまり刊行順でいって、「人工進化の秘密」までと、「危機を呼ぶ赤い太陽」以後のシリーズでは、わたしの思い入れ度合いがまったく違う。以後の数作の中には確かハミルトン以外の著作も含まれていて、付け足しというか、どうも別物のような感じを持ってしまっている。本書の初読時の印象(ほとんどないに等しいが)も、なんやドンパチやって、尻切れに終わったような覚えがあった。
 今回読み直して驚いたのだが、シリーズ代表作の一つである「輝く星々の彼方へ」のキャラも複数出てくるわ、「彗星王の陰謀」に関連する台詞もあるわ、まごうことなきシリーズの一冊だ。
 初版刊行時の昭和五十六年というと、わたしは平井和正ウルフガイ・シリーズにはまっていた(←中学生が読んではいけません…)時代のはずだから、すでにこういったスペオペには飽きがきていたのだろう。

 とにかく本書、「宇宙囚人船の反乱」2巻続けて、徒手空拳からの宇宙船建造を始めるかと思えば(モットーは“原子力さえ手に入れば金属はなんとでもなる!”、同じく手作りで本物と区別のつかないほど精巧なスヴァードの着ぐるみを数日で造ってしまうのだから、カーティス・ニュートンは銀河系一の科学者であるだけでなく、銀河系一の匠の職人でもあることは間違いない。しかも着ぐるみといっても、中に入って操縦するというまさにパワード・スーツ形式で、その力はグラッグを子ども扱いとくれば、こりゃあなた、よっぽど心を広く構えて読まなければ途中で投げ出してしまうかも…。
 しかし古き良き時代の(太平洋の島々では日本軍が玉砕し始めていた頃ですが…)ノスタルジーを求める古典スペ・オペファンは抑えておかなければなるまい。

 とは言え、アニメ再放送もあって再刊要求の動きもちらほらあるようだが、本書まで再刊するというのはちょっと難しいだろうなぁ。(←2005年にめでたく再刊されましたな。右側表紙)

(2012/11/7改訂)

Aナイトワールド 上下
 Nightworld (1992)
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリーホラー
407頁/382頁583円/583円★★★

 ついに本格的な活動を開始したラサロム。物理現象で説明のつかないままに夜は長くなり、世界の幾箇所で地表に開いた巨大な穴から、悪夢の生き物があふれ出て人々を食い殺す。日に日に長くなる夜が太陽を完全に隠す時、地表は終わることのない地獄と化すだろう。この絶望的な現象がラサロムの仕業だと認識しているグレーケンによって、ラサロムを撃退できるほんの僅かな可能性に賭けて数名の人間が集められる。ラコシの事件で鍵を握った古のネックレスを手に入れるためにジャックが、ダ・タイ・ヴァオを呼ぶためにアランと彼の家族が、そして転生したラサロムと深い因縁を持つビルとキャロルも・・・。

 いや〜あ、長かった。在庫にしてから何年経っているのだろう。「マンハッタン魔の戦慄」「タッチ」、そして「ザ・キープ」の主人公が一堂に会してのハルマゲドンとの内容に、当然のごとく出版されてすぐに買ったはずだが、「ザ・キープ」と本書の橋渡しとなる二冊が未刊ということで読まずに置いておいた。当時未刊のその二冊が「リボーン」「闇の報復」である。しかしそれらが邦訳されて読んだあと、なぜか本書に進まなかった。つらつら考えるに、「聖母の日」でウィルソン作品に萎えてしまったのが大きい。
 そこを「ホログラムの女」で盛り返し、結局数年の間を置いて、もう一度「リボーン」と「闇の報復」を再読、満を持して本書を100頁ほど読んだところで、“なにっ!ジャックものの新刊!?”と慌てふためき、「神と悪魔の遺産」「異界への扉」「悪夢の秘薬」を先に読み、ようやくようやく辿り着いた次第だ。結構感動ものである。
 ジャックものはもう数冊が出るようだが、過去のしがらみを捨ててなんとか完読できた。

 長年大事にとっておいたお陰で、逆に読むのが怖くなっていた部分はあるのだが、蠢く蟲たち異界の生き物の気持ち悪さを筆頭に、最低限の期待(←これはかなりでかい)は裏切らない話にはなっていた。しかしようやく気付いたのだが、ウィルスン作品に魅力ある男はたくさん登場するものの、彼らの献身を集める女性たちというのは、揃いも揃ってもどーも今一つだな。

(2012/11/7改訂)

B播磨灘物語(一)(二)
司馬遼太郎講談社文庫歴史
288頁/295頁485円/533円★★★★

 羽柴秀吉の軍師といえば、その出世物語の前半には竹中半兵衛、そして後半が黒田官兵衛と二人の兵衛が有名だが、その黒田官兵衛の物語である。全四巻中のこの二冊は、主に秀吉の配下となる前の若い官兵衛がメインだ。80頁ほどまで官兵衛自身は出てこない。曽祖父の代に近江黒田村から流牢し、父の職高が播磨の小豪族小寺氏の傘下に入るまでが丁寧に語られている。
 戦国時代の摂津から播磨地方というのは、秀吉の中国攻めに付随して語られることが多いのだが、別所氏が対立馬として出てくるとは言え統一大名といったものではないので結構掴みにくい。本書ではその辺りが細々と書かれていて、とっても興味深い。

 二巻では、はかばかしくいかない秀吉の中国攻めに泣きっ面に蜂で発生した、荒木村重の謀反の取っ掛かりまで。

(2012/11/7改訂)

C二年間のバカンス/十五少年漂流記
 Deux Ans De Vacances (1888)
J・ヴェルヌ新潮文庫/集英社文庫冒険
271頁/530頁400円/876円★★

 ニュージーランドの英国人寄宿学校の生徒たち14人は、長期休暇を利用して帆船で島を一周する計画に胸を躍らせ、前の晩からスクーナー船スルギ号に乗り込んでいた。ところがあろうことか、彼等が眠っている間に、船は大人たちを一人も乗せないまま港を離れてしまう。嵐に揉まれたスルギ号は、なんとか大きな少年たちの必死の操作でこれを乗り切り、陸地にたどり着くことができたが、南米大陸の一部なのか島なのかも判然としないそのその土地に上陸したのは、13歳以下の少年ばかり15人だけだった・・・。

 あまりにも有名な少年向け冒険小説。完訳版として集英社文庫版を読み出したのだが、あまりにもへたっぴいな文章に驚くことしきりだ。
 例えば、パッと頁を繰ってみるとこんな文章だ――

道具類については、大工用の箱に、釘の袋、木ねじ、ねじ釘、ヨットの修理をするための
あらゆる種類の金属類のほかにも、ひとそろいになっているものがあった。たびたび
つくろいもののあるのを予想して、子どもたちの母親が、気をくばったからだった。

 なんともたどたどしい文章でびっくりする。
 それで新潮文庫の抄訳版と読み比べる気になったのだが、解説には、本国で然程脚光を浴びなかった本書の翻訳の経緯が詳しく書かれている。どうも、だらだらとつまらん文体なのはヴェルヌの特徴のようだ。それにしても、いくらフランス語版からの完訳(日本で広まったのは、英訳からの重訳にして抄訳)を謳い文句にしているとは言え、ヴェルヌ研究書ではないのだから、日本語としてまとまるようにきちんと意訳はしてほしい。こんな文書が530頁続くのだからとっても辛い。
 表紙の画にしたところで、わざわざ外人のイラストレーターを起用しているのだが、なんだこのサヨナラ負けして放心するキャッチャーは!?一体どこの場面だ。えらくファンキーなファッションをしてくれているが、少年たちがチェアマン島で過ごした二年は、日本では大老井伊直弼桜田門外の変で暗殺され、京都に安政の大獄の反動テロが横行していた時期だぞ。

 対して、新潮文庫のほうはほぼ半分の量だが、エピソードの固まりをばっさりと省くようなことはしていない。同じストーリーでも文章で大きく印象が変わるということを、あらためて教えてもらった。(表紙のアニメ絵はこれまたよー解らんが・・・)

 それはそうと、昔読んだときには意識しなかったが、コック見習いの唯一の黒人少年モコは、子供たちだけの漂流生活に入っても、やはり使用人であることは変わらないし、しかも誰もそれに疑念を覚えない。ホームズ譚でワトスンが何度もインドの従軍時代を思い返しながら、インド人のことについては何も触れないのと同様、時代性を感じさせておもしろい。

(2015/11/8改訂)

D天才数学者たちが挑んだ最大の難問
<数理を愉しむ>シリーズ
 Fermat's Last Theorem
A・D・アクゼルハヤカワ文庫数学薀蓄
219頁580円★★★★

 初めてフェルマー予想アンドリュー・ワイルズを知ったのは、藤原正彦の著作と彼が案内したNHK人間講座でだが、そこではいずれも、複数取り上げられた数学者たちの一人だった。それに対して、本書は丸々フェルマー予想(最終定理)が証明されるまでの話だ。(もちろん証明の中身ではない。そんなものはどうせちんぷんかんぷんだ)

 「心は孤独な数学者」「NHK人間講座 天才の栄光と挫折 数学者列伝」でも、アンドリュー・ワイルズの快挙は、先人の業績の積み重ねの上に橋をかけてなされた仕事で、例えば、日本人数学者の志村・谷山予想がワイルズの証明に重要な役割を占めたことは紹介されていたが、本書ではさらに突っ込んだ話がされている。このあたりの言った/言わないの話になると、悪意とうっかりの境界もあいまいで判定が難しい。なんにせよ志村の名誉は守られているようで嬉しい。

 フェルマー予想の証明に取り組もうとしたワイルズの決意から完全証明まで、その紆余曲折の経緯はとってもエキサイティングだが、本書ではフェルマー以前の数学史についても結構頁を割いて紹介していて、これがなかなか面白い。“万物は数である”くらいは学校で習うピタゴラス(本書の表記はピュタゴラス)の一派が、神秘主義教団に発展していたことなどはとても面白い。なんでも無理数という不可解な数の存在を世に漏らしてしまった一教徒は、なんとピタゴラス自身の手で溺死させられた!とかいう伝説まであるそうだ。

(2012/11/7改訂)

E魔術探偵スラクサス
 Thraxas
M・スコットハヤカワ文庫ファンタジー
310頁680円★★★

 トゥライで探偵屋を開いているスラクサスは、以前は宮廷で勤めていたこともあるのだが、そこを追い出された今では、ぼってり腹も出るわ、魔法の力もめっきり弱るわと、愚痴りながらの毎日。そこへ依頼人として現れたのは、なんとトゥライの第三皇女。ニオジの外交官に宛てた恋文を取り戻してほしいと言う。ぼろい商売とほくそえんだスラクサスだったが、事件は暗殺者ギルドや魔術師、エルフたちも入り乱れて、トゥライを揺るがす大騒動へと発展する。

 ファンタジーの記号を使った探偵(ハードボイルド)もの。ユーモラスな味も出してドタバタと進行していくのだが、スラップスティックに堕していないところがよい。まあ世界幻想文学大賞を受賞したというのには、どうコメントしたものかと悩んでしまうが、他のメディアへの展開には適してそうだから、業界からは好まれるかもしれない。
 しかし登場人物が入れ代わり立ち代りにぎやかなのはよいが、結局誰が糸を引いていてどうオチがついたのか、すでに忘却の彼方なのがなんとも・・・。

(2012/11/7改訂)

F世界の[宗教と戦争]講座
井沢元彦徳間文庫宗教薀蓄
343頁590円★★★★

 どうも以前読んだ「井沢元彦の世界宗教講座」の改訂版のようだ。まあこういう本は何度でも読むべきだと思うので、復習がてらの再読気分だ。ユダヤ教のところなどは、前作に比べてかなり追加しているということだ。

 井沢元彦と言えば、口を開けば“怨霊と言霊”か、“歴史学者はアホ”発言なのだけど、本作は入門書としての自粛があって、「Lesson1 和の世界」でも先鋭的な文章は影を潜めているからお薦めしやすい。

 これはぜひとも中学高校の副読本にしてほしいものだ。

(2012/11/7改訂)

Gぼくのミステリな日常
若竹七海創元推理文庫推理
357頁660円★★★

 社内報に一年を通して連載された、匿名の作家による12の短編。編集を担当している女性社員の若竹七海は、短編を読み進めていくうちに、一つの大きな疑惑を持つようになる・・・。

 いわゆる日常ミステリもの。連作短編の形で、全体を通しての謎に対する布石が各短編中に撒かれておるという形式は、「ななつのこ」などにも共通する。調べてはいないが、こちらのほうが先に書かれたのかも…。個々の短編は特筆するほどの面白さはないし、キーポイントにもなる「消滅する希望」「吉祥果夢」なんかはつらいものがあるが、まぁ読みやすい文だし、途中で投げ出すこともないだろう。
 短編をすべて読んだあとの二段オチまで頑張る価値はある。

(2012/11/7改訂)

H開国ニッポン
清水義範歴史パロディ

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