2003年11月
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@呼ぶ声
 Sleepwalk (1990)
J・ソール扶桑社ミステリーサスペンス
535頁680円★★★

 小規模の石油採掘会社を中心に広がったニューメキシコの田舎町ボレゴ。近くにはインディアンの居住地があるが、交流はほとんどない。その地に住むジェドはインディアンの血をひく高校生だが、将来に希望もなく怠惰に暮らしていた。彼の父親はボレゴ石油の組合支部長をしており、最近持ち上がっているユニケム社への身売り話に抗すべく動き回っていた。この眠ったような町にジュディスという高校教師が帰郷した頃から、不審な死が続くようになるが・・・。

 ソールのホラーには、少年を主人公にした半SF的設定のもの(「クリーチャー」等)と、少女を主人公にしたゴシックもの(「闇の中の少女」「森の中の少女」等)の二種に概ね分けられるが、本書は前者の作品ということになる。
 ホラーとしては、後者作品のほうが面白い。半SFの設定の前者作品には、背後に人間の世俗的な動機があるのだが、有無を言わせぬスーパー・ナチュラルほどにおどろおどろしさを覚えない。個人的にはストーリーの甘さと中途半端感を感じる。
 本書でも、巨額の投資とリスク回避を計画に盛り込んでいる筈のユニケムの陰謀は、主人公たちが生き残れるかどうかは別として、結末まで待たずもうボロボロになっていて、もはや隠蔽不可能になってしまっている。

(2012/11/7改訂)

A六枚のとんかつ
蘇部健一講談社文庫推理
429頁714円★★★

 ノベルズ版発表当時はかなり物議を醸した連作短編集。
 お下劣ネタに溢れたお馬鹿なミステリということが物議となった理由らしい。

 表題作の「6枚のとんかつ」とその変形バージョンの「5枚のとんかつ」は、絶対に「占星術殺人事件」の前に読んではいけない話だが、こういう変換ができるのかと感心した。
 「金田一少年の事件簿」のあのダイレクトすぎる盗作も、これくらいの工夫があれば、問題にはならなかったかもしれないのに。

 その他の作品に関しては、解説にもあるように、すべてが当たりではない――というかしょぼいものだらけ。中でも「欠けているもの」「鏡の向こう側」などはとびきりしょぼい。
 作者曰く、文庫化するときにあまりにひどい短編をカットしたとあるが、そいつは一体どんなレベルだったんだよ!

 笑ったのは、まじめなアリバイ・トリックものと思いきやの「しおかぜP号四十九分の壁」と、その名もストレートな「オナニー連盟」。爆笑だ。

(2012/11/5改訂)

B時代小説英雄列伝 柳生十兵衛
五味康祐/縄田一男編中公文庫時代
248頁629円★★★

 在庫に持っていることを忘れて二冊目を買ってしまったのが、ますは情けない。
 縄田一男編ということで、複数の作家の描く柳生十兵衛が集められているのかと思いきや、収められた四編の短編は、すべて五味康祐の作品。しかもそれぞれが載った短編集は全て持っていたという体たらくだ。まるで筋を忘れていたからいいようなものだが・・・。

 五味作品は「柳生連也斎」のリドル・ストーリーに代表されるように、描写の省きが多くやや難解なイメージがあるのだが、今回の再読では前より面白く感じた。“柳生”を隠密や暗殺者と捉える場合は、本書のように乾いた文体は結構相性がよい。

 後半四分の一が縄田一男と五味康祐との対談とその作品論になっている。戦後、柳生人気に火をつけた五味作品だが、商業作家として、新聞連載を割り切って書いていたというのが面白い。
 とは言え、何かと扱われ方の良くない柳生宗矩に対して、彼の「兵法家伝書」のほうが、宮本武蔵「五輪の書」より文章は上だなどの発言があったりする。さすがだ。

(2012/11/5改訂)

CQED 百人一首の呪
高田崇史講談社文庫推理
496頁762円★★★

 一代で財を成した真榊大六が「榊御殿」で頭を殴られて死んだ。状況からして、外部の犯行とは思えない。容疑者となるのは、普段は離れて住まわされている娘、息子、そして秘書たち。だが決め手はなく、10ヶ月あまりが無為に過ぎていた。熱心な百人一首のコレクターであった大六が、死体で発見された時に、手に一枚の札を握っていたことから、事件に興味を持ったジャーナリストの小松崎は百人一首に詳しい大学の同級桑原崇に知恵を借りようとする…。

 一般に歴史ミステリでは、対になる“現在”の事件の必要性が希薄になることが多いが、本書では特異なバランスの下に高い完成性を持っている。――ということを、北村薫西沢保彦が解説で理屈だって述べている。まあ西沢保彦なんかは無理に褒めている気がしないでもないが、とにかく労作であることは間違いない。まぁわたしとしては、歴史の謎さえ面白ければ「時の娘」「成吉思汗の秘密」のように、完全に歴史の謎だけでやってもらって一向に構わないのだが。

 本書のキーである百人一首の謎に関しては、著者の努力に感心はする――なんといっても折込の配列図付きだ!――ものの、結局は藤原定家一個人の思いだから、うまい歴史の再構築に出会った時のゾクゾク感は味わえない。
 せっかくの配列図ではあるが、対照させる気力はでなかった…。

(2012/11/5改訂)

D鳩笛草/燔祭/朽ちてゆくまで
宮部みゆき光文社文庫
354頁590円★★★

(1)朽ちてゆくまで

 八歳の時に事故で両親を亡くした智子は、事故の後遺症でそれ以前の記憶をなくしたまま祖母と二人で暮らしてきた。二十一歳で祖母を失った智子が家を整理していた時、物置でダンボール箱に詰まったベータとVHSのビデオテープを見つけた。そこには小さな智子が父親に向かって、夢の内容を話すシーンが何度も録画されていたが・・・。

(2)燔祭

 荒川河川敷で男女四人の焼死死体が発見された。その新聞記事を見て、多田一樹は彼女が帰ってきたことを知った。二年前やるせない怒りを抱いていた多田の前に現れ、彼の武器になろうと申し出た彼女が・・・。

(3)鳩笛草

 自分に備わった読心能力を利用することで、貴子は刑事として高い能力を発揮してきた。今その能力が弱くなるとともに、体の不調も目立ってきている。能力に頼ってきた自分からその力が消えたとき、刑事としてやっていけるのか。そもそも生きていられるのか。誰にも相談できないまま、貴子の能力の低下と体調の悪化はどんどん進んでいくが・・・。

 超能力を持った三人の女性の三つの物語。
 いずれもマンガ的な派手な超能力とはまるで方向が異なっている。ド派手な能力という意味では、「燔祭」の青木淳子は強力な念力放火の能力を持っているのだが、「燔祭」の主人公は、あえて多田一樹という普通人だ。
 しかし派手なシーンなどまるでないというのに、一気に読まされてしまうのだから、著者の筆力には脱帽である。
 ただし著者の作品がどれも同じように好きということではなくて、本書のような超自然ものか、あるいはそうわしている「龍は眠る」「魔術はささやく」「レベル7」といった作品のほうが、それ以外よりも肌に合っているようだ。

(2012/11/7改訂)

E宇宙気流
 The Currents of Space (1952)
I・アシモフハヤカワ文庫SF
331頁440円★★★

 銀河系中の上流階級を魅了する特殊な繊維カートを唯一産出する惑星フロリナ。この惑星を支配するサーク人はカート生産で莫大な富を手にしていた。フロリナで暮らす娘ヴァローナは、一年前にすべての記憶をなくした頭のおかしな青年リックの面倒を見てきたが、最近彼はすこしずつ記憶を取り戻しかけており、自分はかつて“無”を分析していたという。ヴァローナは村の司政官テレンスの下に相談にいくが、彼の失われた記憶の底には、フロリナとサークの運命、そしてここ500年で帝国へと拡大してきたトランターにも大きな影響を与える情報が眠っているのだった・・・。

 「ロボットと帝国」から「ファウンデーションへの序曲」までの間に位置づけられている。“アシモフの旧作品を読み直してみよう”シリーズ第一弾として再読した。

 例によって、前回読んだときの記憶をなくしているものだから、初読と何ら変わらない。
 “宇宙気流”の中身が、水素流、ヘリウム流その他の原子の流れであって、素粒子や電磁波についてはまるで言及されていなかったり、空間分析家という言葉自体も、やはり50年代初期の作品という古さを感じてしまう。最後に明らかにされる宇宙気流が引き起こす現象も納得できるものではないのだが、これはこれで古典の良さだろう。

 サークは優秀なフロリナ人を選別し、特権としてサーク人の下働きをさせるのだが、彼らには結婚を許していない。これによって、世代を重ねるにつれフロリナ人の知能レベルを下げようとする、サークの極めて非人道的で巧妙な政略が恐ろしい。

(2012/11/7改訂)

Fカメレオンは大海を渡る
橋元淳一郎ハヤカワ文庫科学薀蓄
281頁660円★★★

 著者が「シュレディンガーの猫は死んだか」に続けて贈る、最新科学を紹介したコラム集。「ネイチャー」「サイエンス」に発表された論文からの選りすぐりらしい。

 あと1000年くらいで地磁気消滅だとか、オゾンを使わない磁気冷蔵庫の話なんかが印象的だ。最近TVで紹介されることも多くなったカーボン・ナノチューブフラーレンもあれば、ボーズ=アインシュタイン凝縮体フェルミオンなのにボゾンのように振舞う)とかの話もあったな。

(2012/11/5改訂)

G尾張春風伝 上下
清水義範幻冬舎文庫歴史
437頁/428頁648円/648円★★★★

 徳川宗春を知っているだろうか。八代将軍吉宗とよく比較される尾張の殿様だが、一般にはそうメジャーではないだろう。それを上下巻900頁弱、しかも著者が「開国ニッポン」の清水義範じゃから、期待してよいのかどうか・・・。
 とは言え在庫にすでにあったのじゃから仕方がない。

 名古屋出身の著者なので、郷土の英雄を掘り起こしてみるかといったところかもしれないが、時代小説のようにべったりとくっつくのではなく、時に距離を措いて、この中りが宗春の限界かなどと見極めながら暖かく見守っているようだ。もとより想像の部分はかなり多いと思うが、資料もしっかり集めているし、面白い歴史小説になっていた。

 吉宗の米経済に拘りながらの倹約政策であった享保の改革と、同時代の宗春が社会の活性化を図って行った派手な行動は、まさに比較されるに見事なマッチングだ。また吉宗と宗春では、その殿様になるまでの生い立ちまでが似ているのだから面白い。
@四男坊だか五男坊だかに生まれて、下手したら一生部屋住みのところを
A養子に出て小さな藩の藩主になったところ
Cあれよあれよといううちに上の兄たちが連続して他界、しかも世継ぎがいなかったので
D本家の藩主になってしまう。

 吉宗はさらに将軍家まで継いでしまう訳だが、これはちょっとしためぐり合わせの違いで、尾張が将軍家を継ぐ可能性も十分あったのである。

(2012/11/7改訂)

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