2003年12月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2003年11月に戻る 2004年 1月に進む
@壱岐・対馬の道  街道をゆく13
司馬遼太郎朝日文庫歴史紀行
244頁460円★★★

 珍しく壱岐・対馬の二島でまるまる一冊が充てられている。
 対馬と言えば、対朝鮮の窓口というイメージ。江戸期の朝鮮通信使の接待担当であり、元寇時には朝鮮軍から大きな被害を受けた。本書もそこを外すことはないが、さすがネタの深みが違う。先鋭的な申維翰と応接係の雨森芳洲、その雨森芳洲と同門の新井白石の関係など、いたるところにドラマありである。

 地理的に対馬が対外的な防波堤となっていることが大きいのだろうが、壱岐に対するイメージは微かである。
 松尾芭蕉の門人として名の知られている、河合曾良の終焉の地というのは知らなかった。興味深い。  なんでも壱岐人と対馬人は性格的にも随分と違っていて、仲も悪いらしい。やはり近隣とはそういうものか。

(2015/9/19改訂)

A毒を食らわば
 Strong Poison
D・L・セイヤーズ創元推理文庫探偵
347頁680円★★★

 うーむ、この後に読んだ「毒入りチョコレート事件」とごっちゃになって――というか上書きされて――なんにも覚えてない…。悲しいくらいにトリ頭。
 とりあえず御歳四十前後のピーター卿が恋する、ハリエット・ヴェイン初登場。
 ピーター卿がハリエットに惚れたのかはよく解らないが、それまでの彼の周りには、金銭的に自立した職業婦人が少なかったのかな?

 恋人毒殺容疑で起訴されたハリエットの無実を証明する話という程度しか覚えていないのだが、兎にも角にも印象的だったのが次の件、

「最近の若いもんは〜」
「戦後世代はそういうもんですよ〜」


 この戦争が第一次大戦だからおもしろい。
 いつの時代も、大人は下の世代を批判したがるものですなぁ。

(2015/9/19改訂)

Bクロスファイア 上下
宮部みゆき光文社文庫
395頁/362頁590円/590円★★★

 パイロキネシス能力者青木淳子は、自分の裡に溜まったエネルギーを定期的に排出するために深夜の廃工場に忍び込んだが、そこで若い男が集団に殺されるのを目撃、犯人四人のうち三人を炎上させるものの、アサバと呼ばれた一人を逃してしまう。殺された男が今際の際に残した「なつこ」を助け、そしてアサバを処刑するために淳子は行動を開始するが、彼女の周りにガーディアンと名乗る組織の影がちらつき始める。
 一方刑事部放火班の石津は、事件を追ううちに超常能力者の存在を感じるが・・・。

 スティーブン・キングのファンであることを著者は広言しているが、明らかに「ファイア・スターター」を意識した作品である。
 同書のパイロキネシス能力者のチャーリーはまだほんの子供だったが、大人である青木淳子は自分の能力をしっかり制御できるようになっており、一般人の中に溶け込んでいる。チャーリーが淳子に成長したと捉えて、続編として読めるわけだ。
 さらには、彼女は自分の能力を肯定的に受け止めるまでに折り合いをつけて、積極的に社会の隠れた悪を排除しているのだが、逆にそれが彼女を酔わせ始めている。初期には高邁な理想を持っていても、権力の自由な行使が人を時に独裁者に変貌させてしまうという新たなテーマまで加わっている。

 それにしても、ファン気分からオマージュ的な作品を書いて、本家とタメを張れる作品を書けるのだから、まったくその才能が羨ましい。
 とは言えこのテーマは、後半ガーディアンの独善性の中に埋もれて影が薄くなってしまうのが残念なところだ。

 宮部みゆきには、もっとこちらの方面のジャンルを書いてもらいたいものだが…。


(2015/9/30改訂)

Cステップファザー・ステップ
宮部みゆき講談社文庫探偵
344頁619円★★★

 新興住宅地にある一軒の家の屋根の上、折からの強風、雷雨にもめげず泥棒に入ろうとした男は、真上に落ちてきた雷に吹っ飛ばされ、気がつくと、双子の少年が覗き込んでいた。
 「おじさん、泥棒でしょ?」「ぼくたち二人を養ってくれないかな」「あなたの指紋とっちゃった」
 両親がそれぞれ駆け落ちし、新築一軒家に取り残された双子の中学一年生と一人の泥棒。奇妙な関係のトリオが織りなす7話からなる連作短編集。

 お判りのとおり、ライトなタッチの作品だ。
 両親がそれぞれ駆け落ち(お互いに相手が子供の面倒を見ていると思っている)というトンデモ設定は、後で利いてくるのかと思っていたが、これはあくまで状況を作るための設定で、何らかのオチに発展するわけではなかった。
 この不自然な設定だけが頭に残って、個々の短編の中身をまるで覚えていない…。

 著者の力量を知っているだけに、少々物足りない作品だ。

(2015/9/30改訂)

D探偵ガリレオ
東野圭吾文春文庫推理
531頁/620頁990円/1019円★★★

(1)燃える
 深夜、自販機の前にたむろして騒音をたてるバイクの男たち。その一人の後頭部が突然燃え上がったかと思うと、次の瞬間自販機横の新聞包みが火を噴き彼らを包んだ…。

(2)転写る
 廃棄物で溢れた池で中学生が拾ったデスマスク。そのデスマスクは文化祭の出し物に使われたが、それを見た一人の女性は、そのデスマスクは行方不明の兄の顔であるという…。

(3)壊死る
 入浴中の男が心臓発作で死んだ。普通なら自然死として問題ないところだが、奇妙なことに男の右胸の直径10センチほどの細胞が壊死していた…。

(4)爆ぜる
 海岸に座って沖に浮かぶ妻を眺めていた夫の目の前で、突然轟音とともに火柱がそそり立ち、妻はその中に消えた…。

(5)離脱る
 病気の少年は、事件に関係のある車が川原に停まっているのを目撃しスケッチした。彼の部屋と川原の間には食品会社で遮られているのだが…。

 警視庁の草薙に相談された不可思議な事件を、物理学部助教授の湯川が科学的知識をもって解決するというパターンの連作物。
 おそらくツッコミどころは多いのだろうが、理系の割にその能力がわたしになくて残念。まあデスマスクがそんなに完璧にできるものではないだろうなぁ。<ネタばれ反転>もっとへしゃげた顔になるのと違うだろうか。
 それから<ネタばれ反転>一属のナトリウムはたしかに反応性の高い物質で、アシモフ「存在しなかった惑星」を読んでも少々疑問だが、火柱がそそり立つまでの爆発にはなるのかな。もちろん量にもよるが。

 ライトな推理小説だが、まさか後年このシリーズが直木賞に輝くとは、お釈迦様でも気がつくめぇ。

(2015/9/30改訂)

Eシルクロード 歴史地図の歩き方
吉村貴青春出版社歴史薀蓄
201頁667円★★

 本書だけで旅本とするには、地図や写真が載っていないので不十分だし、もちろん司馬遼太郎陳舜臣等のエッセイ作品で得られるようなロマンを感じることもできず、存在価値は少々低い。

 「地球の歩き方」シリーズの副読本とするのがいいだろう。

 監修の長澤和俊という人物は、こういったシルクロード関連本によく名を連ねているが、名前を貸すことで幾ら貰っているのかな?

(2015/9/30改訂)

Fトコトンやさしい接着の本
三刀基郷B&Tブックス化学薀蓄
156頁1400円★★★

 日常お目にかかる便利グッズから、医療や航空機といった人命に関わる安全性が求められるものまで、現代では接着技術に関係ないものを探すほうが難しいくらいだ。接着剤あるいは粘着剤がいかに社会を支えているかということにあらためて驚かされる。

 一概に接着/粘着剤といっても、強度、剥がれやすさ、耐用期間、温度条件その他の環境条件、もちろんコストや安全性etc.etc.のパラメーターの違いで、様々な接着/粘着剤が存在するが、本書ではそうした製品の紹介はもとより、界面化学の説明にもかなりの頁を割いている。ファンデルワールス力なんて単語には、数十年ぶりにお目にかかった。

 アスファルトなどの材料が紀元前からがあるように、接着はいかにも身近な現象、技術という印象だが、界面の物理的/化学的な状態が複雑に混ざり合って接着状態が成り立っており、個々の要素を分離して解析するのは意外に難しいらしい。

(2015/9/30改訂)

G毒入りチョコレート事件
 The Poisoned Chocolates Case
A・バークリー創元推理文庫推理
298頁560円★★★

 ある実業家の妻が毒入りのチョコレートを食べて死んだ。そのチョコは元々別の人宛てに送られていたことが判り、その人物ペンファーザー卿にはよからぬ噂が多かったことから、本来はその人物への恨みによる犯行として警察は捜査するが、捜査は難航、迷宮入りの様相を呈する。モレスビー主席警部は、作家のシェリンガムが会長を勤める「犯罪研究会」に相談を持ちかけたことから、研究会の面々は日替わりで自分たちの推理を披露していくが・・・。

 第二次大戦前の古典的名作として名高い作品だが、最近まで存在を知らなかった。同様に最近存在を知ったノックス「陸橋殺人事件」とともに入手していたのだが、「毒を喰らわば」を読んだので、毒つながりであわせて読んでみた。
 内容的には、デクスターモース警部シリーズアシモフ黒後家蜘蛛シリーズの中間といった印象。「虚無への供物」にも近いものを感じる。いずれにせよそれら名高い名作に、さらにこのようなしっかりした先行作品が存在していたことが驚きだ。

 しかしこの手の作品によく言われる事がそのまま当てはまるのだが、“真相”となる最後の解釈が、特に抜きん出た印象にならないのは残念。

(2015/10/4改訂)

H人体表現読本
塩田丸男文春文庫言葉薀蓄
294頁600円★★★

 身の周りの言葉の語源でナルホドっと思いたくてこういった本に手を出すわけだが、どうも取り上げられた言葉自体、すでに死語じゃね、聞いたことないぞというものが多かった。わたしがもの知らずなのか?  またこういった本には、マクラやオトシ方に普通のエッセイ以上に力量が問われるものだが、残念ながらあまりキレがあるわけでもなかった。とりあえず紹介してますといった風情。

 最後に読者サービスのつもりか、シモに関する呼び名のあれこれが延々22頁もついているが、これにもしらけてしまったなぁ。

(2015/10/4改訂)

I戦国名将一日一言
童門冬ニPHP文庫歴史薀蓄
420頁743円★★★

 戦国武将の名言を366日分並べて紹介したもの。  戦国時代といえば、現代とはまるで倫理感が違っていた筈だが、どうして個々の人間関係の機微にはなにほどの差もないことが判る。

 本書がこれら名言を幾多の文献から集めたのなら大変な労作だが、「名将言行録」という有名な本からの切り抜き編集である。他にもいろいろと著作の多い作者だが、これはええバイト仕事だったのでは。

(2015/10/4改訂)

J覇剣 武蔵と柳生兵庫助
鳥羽亮祥伝社文庫時代
512頁800円★★★★

 佐々木小次郎を斃した後も、溢れんばかりの剣気を放射しながら我流で剣を極め続ける宮本武蔵。片や柳生新陰流の嫡流として、加藤清正の下で殺戮の剣を揮った後は活人剣を求め、剣の道を究め続ける柳生兵庫助。戦国の世から太平へと向かう時代に、それぞれ剣の道を究め続けた二人の剣聖が、尾張城下でついに対峙する…。

 このシチュエーションだけで、剣豪ファンはひたすら熱くなることうけあい。
 わたしは山田風太郎「柳生忍法帖」「魔界転生」で剣豪と柳生新陰流に目覚め、津本陽「柳生兵庫助」の所為で、いまだに剣豪ランキングの一位は兵庫助利厳であると強くインプリントされている。そんなわたしにとっては、この組み合わせはまさしく最高のもの。これを超える組み合わせは、それこそ忍法魔界転生のような特殊な装置を用意しなくては不可能だ。【注1】
 そうそう、廻国修行中の兵庫助と富田越後守の出逢いも、剣豪ファンにとってはたまらない。【注2】

 さて、津本作品でわたしの剣豪ランクは柳生兵庫助利厳で不動だが、その後津本陽作品は、どの作品を読んでも代わり映えがせず、わたしの評価はどんどん下がってしまった。しかし奇を衒わない剣理に則った剣戟描写は非常に新鮮であった。その剣戟描写を最も受け継いでいるのが鳥羽亮だとわたしはふんでいる。
 他の柳生剣士を主役に配した作品も著者は何冊か書いているが、柳生十兵衛(兵庫助の従兄弟)や柳生連也厳包(兵庫助の三男)等のそれらの作品を含めて、本書が最高であろう。

【注1】「忍法剣士伝」のような抱腹絶倒の作品もあるが、これも山風作品。
【注2】江戸期の剣豪の中で、主君に仕えて最も石高が高かったのは、柳生宗矩ではなく、この富田重政である。
(2015/10/4改訂)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2003年11月に戻る 2004年 1月に進む