| 2004年 8月 | |||
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| @ | 夢・出逢い・魔性 You May Die in My Show | ![]() | |||
| 森博嗣 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 417頁 | 667円 | ★★★ | |||
| 紫子、紅子、練無の三人は、視聴者クイズ番組に参加する女子大生(!)三人組として東京へやってきた。友人に会うついでということで、保呂草も同行している。そして4人は、放送局の収録スタジオでのリハーサル中、またもや殺人事件に巻き込まれてしまう。保呂草は知り合いの探偵稲村とともに事件の真相を探ろうとするが、事件の重要参考人であるアイドルの立花亜裕美は、練無と一緒に失踪してしまい・・・ 「月は幽咽のデバイス」がなかなか面白かったので続けて読んでみたが、本作はいまいち。またまた動機の解りにくい――サイコ・サスペンスがブームになって以後に湧いてきたようなタイプの――犯人じゃった。という訳で本作は、TV局という萌え系との組み合わせ抜群のロケーションを楽しむのがいいんじゃなかろーか。クイズ番組本番中に紅子になぞの解明をさせる演出はさすがじゃ。 ま、本書はこの凝った題名だけでOKじゃろお。 しかし名大医学部?の練無君にはラドンくらいは答えてもらいたいところじゃ。大学受験生なら知っとるべきレベルじゃと思うがのお。 ちなみにわしが教えてもらったハロゲン族の覚え方はこうじゃ。 ある日(Ar:アルゴン)狂って(Kr:クリプトン) セックス(Xe:キセノン)乱発(Rn:ラドン)。 | |||||
| A | 司馬遼太郎全講演[1] 1964−1974 | ![]() | |||
| 司馬遼太郎 | 朝日文庫 | 歴史薀蓄 | |||
| 396頁 | 660円 | ★★★ | |||
| その名のとおりの講演集で、本書は64年から74年という初期のものを集めておる。かなり初期の時代とはいえ、「坂の上の雲」や「花神」、「峠」といった著者の代表作はあらかた含まれているので、それら作品に言及することが多いこの時期の講演が、もしかすると一番面白いのかもしれん。まだ読んでいないが、後期の講演のほうは土地問題などの、耳に痛い話が多くなるような気がするのお。 | |||||
| D | 群集の悪魔 デュパン第四の事件 | ![]() | |||
| 笠井潔 | 講談社文庫 | 推理/時代 | |||
| 695頁 | 952円 | ★★★ | |||
| 1848年2月のパリ。デモに集った民衆に向かって放たれた警察の銃弾は暴動を産み、これを機にルイ・フィリップの七月王制は瓦解した。しかしそのデモに参加していた若い詩人のシャルルは、暴動のきっかけである新聞記者の射殺が、警察側ではなく、背後から撃たれたのを目撃していた。シャルルは思い悩んだ挙句、数年前に知り合ったオーギュスト・デュパンを訪問する・・・ デュパン第四の事件とあって、これがポーに対するオマージュであることは明らかじゃが、とんでもないのは、デュパンの携わった三つの事件、「モルグ街の殺人」、「マリー・ロジェの謎」、「盗まれた手紙」の全てを足してさらに三倍くらいするようなこの分量。それだけで笑ってしまうというもんじゃろお。もちろん一筋縄でいかない著者のこと、1830年から始まった七月王制は議会制君主政治とは言え、政治は一部のブルジョアに開放されただけじゃったが、産業革命を機に膨れ上がってきたプロレタリアの圧力も加わって、この二月革命で七月王制は倒れて第二共和制を迎える。こうした時代を背景として、ある条件でブルジョアもプロレタリアも混沌とした顔の無い"群集"という新しい存在へと変貌する。そうした時代を描くというのが本書の主旨なんじゃな。時代の申し子"純粋群集"を理解し、彼らを操れる感性の持ち主が本書の連続殺人の犯人であり"群集の悪魔"じゃ。そしてその容疑者となるのは、バルザック、ジラルダン、ド・モルニーという実在の錚々たる面々じゃ。これにルイ・ナポレオンも加えて推理小説を構成するのじゃから、なんという力技じゃろ。 しかし、よっぽどのデュパン(あるいはポー)のファンか、またはフランス史に興味がなければ、ちょっと推理小説が好きなんですくらいでは、本書を読了するのはきついかもしれん。 まあ本文の群集や時代を語るトークは、矢吹駆シリーズの読者ならどんなものか判るじゃろうという感じじゃが、決して堅いだけではなくて、オーギュスト・デュパンがジョルジュ・サンドの遠縁!であったり、映画にもなったから多少は知名度の上がったヴィドックも登場したり、果てはデュパンの従僕が漂流した薩摩藩の侍!!で、クライマックス手前では彼が立ち回りをしたりといったお遊びも出てきて結構楽しめんことはない。少なくとも、してやられた「熾天使の夏」のようなことはないじゃろ。 それにしても、歴史の教科書なら一行で終わる短い第二共和制を背景にして、こんな濃密な小説を仕立て上げるのじゃからたいしたものじゃ。フランス文学史に詳しければ、もっと楽しめるじゃろな。 | |||||
| G | 図解雑学 毒の科学 | ![]() | |||
| 船山信次 | ナツメ社 | 化学薀蓄 | |||
| 230頁 | 1300円 | ★★★ | |||
| ミステリーに冒険小説、毒薬に麻薬の"常識"は欠かせまへん。 という訳で読んでみました、図解雑学シリーズ。 毒か薬かというのは、あくまで人間社会にとってどうかという名前分けであって、決して絶対的なものではないことは抑えとくべきじゃろお。同じ物質でも量や使用法によって薬が毒になったりもするわけじゃ。 神経細胞と神経伝達物質は、「記憶力を強くする」で未だ記憶も新しいが、多くの毒薬/麻薬は神経伝達物質と近い形状をしていることが多くて、この伝達を阻害または過剰に供給(分解を阻害)することで被害を与えるんじゃのお。 わしが嬉しかったのは、推理小説でよく名前の挙がるアルカロイドの意味がようやく判った(窒素を含む有機化合物のことらしいが、体内に含まれる多くの物質は例外とされるようで、よお覚えきれん)のと、メジャーな麻薬について整理できたことかのお。 コカインで有名なコカの葉は、その昔コカ・コーラに含まれとったらしいぞ。 さて問題。 ケシの実から取れる液体を乾燥させたのは?・・・@ @の主成分は?・・・A Aを合成して強力にしたのは・・・B 大麻の葉を乾燥させたのは・・・C 大麻の雌花の樹脂を固めたものは・・・D 昔ヒロポンという商品名で売られていた覚せい剤は・・・E 答えは、@アヘンAモルヒネBヘロインCマリファナDハシシュEメタンフェタミン 暗殺者(assassin)の語源がハシシュじゃから、山の老人が使ってたのはこれか? | |||||
| H | 決闘の辻 藤沢版新剣客伝 | ![]() | |||
| 藤沢周平 | 講談社文庫 | 時代 | |||
| 279頁 | 533円 | ★★★ | |||
| 藤沢周平の本を始めて読んだ。 いわゆる剣豪を主役にした短編集ということで、戸部新十郎と比較して読むのが一興じゃが、こりゃまた見事なくらい色が違うのが面白い。 風韻漂う語り口が特徴の戸部作品では、主人公は時勢に棹さすことなどまるでない、飄々とした造形をされることが多く、時に仙人の域まで達観しておるような時もあるが、本書においては、「二天の窟」の宮本武蔵も「死闘」の伊藤一刀斎も、ともに剣聖と呼ばれた人にもかかわらず、自らの老いを繕って名を守ろうとする策士として描かれとる。しかし実際の心の奥なんてものは、功なり名を遂げ、人から尊敬を受け続けて歳を経たような人間でもこんなものかもしれん。 他の短編はというと、千姫救出にの功がありながら割を食ってしまった、例の坂崎出羽絡みで、柳生一族に恨みを持つ小関八十郎に柳生但馬宗矩が立ち上がる「夜明けの月影」では、普通自らは手を汚さない政治家として描かれることの多い、宗矩の剣の腕前が披露されて嬉しい。 「師弟剣」は、ちょっとした剣豪逸話集を読めば必ず出てくる根岸兎角に岩間小熊の復讐話じゃが、やはりそれぞれの煩悩に追われる様が肉付けされていて興味深く読める。思いついたが、どの短編をとっても、功名心だけでなく女色に対する煩悩が前面に出てくるのじゃが、これは藤沢周平の特徴か。 「飛ぶ猿」は父の敵として愛洲移香斎を追いかける無名の男の話。ラストが印象的じゃ。"人間よりも神に近い"と形容された、頂点を極めた兵法者が棲まう、苛烈で荒涼とした世界に身を置く移香斎にもの悲しさを感じるのお。 | |||||
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