2004年11月
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@ロシア幽霊軍艦事件
島田荘司角川文庫推理
345頁590円★★★★
 レオナから送られてきた暑中見舞いと、それに同封された奇妙なファンレターは、暑い夏に退屈しきった御手洗と石岡を、芦ノ湖のホテルへ連れ出した。そこで二人は、大正八年の強い雷雨と濃霧の夜、忽然と芦ノ湖に姿を現して消えたというロシアの幽霊軍艦の写真を見せられる。そしてこのミステリーは、歴史に埋もれた、思いもよらない一つの悲劇を浮かび上がらせることに・・・

 御手洗本人が出てくる長編を久しぶりに読んだ。
 ホームズを超える稚気がたっぷりの御手洗のショーマン・シップは楽しいのお。これが意外に早くて200頁あたりなので、最近のミステリーとしては中篇サイズじゃ。後半にエピローグと称して、著者の潤色を加えた"史実"がたっぷりと書かれとるが、こんなところにもホームズ譚を思わせるところがあるな。
 幽霊軍艦については、<ネタばれ反転>ドルニエのDoXの画像も見てみたが、うーむ、どうかいな。しかしまあOKじゃろお。
 どこまで史実かは判らない――もちろん日本パートはフィクションじゃ――のじゃけど、アニメの<ネタばれ反転>「アナスタシア」を見た人間なら読んでおくのがいいじゃろ。他にも、往々にして残酷な歴史が埋もれているもんじゃろうから。↑一応反転させておくが、巻末の参考文献に大書きされているので注意するように。
A亡国のイージス 上下
福井晴敏講談社文庫冒険
552頁/559頁695円/695円★★★★★
 ミニ・イージス・システムを改造搭載した護衛艦<いそかぜ>は、その試験航海のため呉を出港した。由良で海上訓練指導隊を乗せた後、<うらかぜ>とともに四国沖で演習となる。
 一方、アメリカがその漏出防止のために躊躇なく一つの基地を犠牲にしたという、恐るべき殺戮兵器を盗み出すことに成功した北朝鮮のテロリスト、ホ・ヨンファのグループは都内のビルに篭城していたが、それが開放された場合のあまりの被害の甚大さに、為すすべなく監視することしかできなかった日本政府組織をあざ笑うかのように、その監視体制をすり抜けて姿を消す。そして、巨大な力を手に入れたテロリストが<いそかぜ>をジャックした時、日本が戦後に味わう未曾有の自体が始まる・・・

 瀬名秀明の「パラサイト・イブ」を読んだ時、ついに年下にこんな本を書く奴が出てきたかと悔しい思いをしたものじゃが、本書(瀬名秀明と同い歳)にはそれを遥かに越える衝撃を味わったわい。
 頼りなさ気なガンダム好きのあんちゃんのようで(「BSアニメ夜話」の"ガンダム"にゲストで出ていた)、そんなに人生経験も豊富なようには見えんのじゃが、個々人や官僚組織の描写も達者なものじゃ。テロリスト対個人という図式は、「ダイ・ハード」に代表されるように目新しくもないものじゃが、主人公以外はまるで能無しというのがパターンじゃ。本書で特筆すべきなのは、冒頭のプロローグでそれぞれ章をもらって登場する三人(<いそかぜ>艦長宮津、専任伍長仙石、謎多き海士如月)はもとより、防衛庁情報局の内事本部長渥美他の後方の面々までがしっかりと魅力的に描かれていることじゃろお。
 とにかく、帯にあるように読んで熱くなること必至。読後に「ジパング」を読むと、えらくちゃっちく感じてしまうぞ。
B古代中国文明  「知の再発見」双書86
 La Redecouverte de la Chine Ancienne
C・ドゥベーヌ=フランクフォール創元社歴史薀蓄
151頁1400円★★★
 豊富な図版が売りじゃけど、硬い原文を固く訳した本文が今一つというのが、このシリーズの印象じゃ。しかし三冊目の本書は比較的読みやすくてするっと読むことができたわい。
 学生時分に習う世界史では、古代中国文明と言えば黄河文明オンリーで、"殷王朝"と"甲骨文字"くらいだったように思う(注:理系の場合)が、黄河文明とは言えずあきらかに別系統で、縦目仮面にびっくりの三星堆遺跡や、殷にしても饕餮文に代表される青銅器文化の芳醇さには圧倒されるわい。

 本書は漢の時代までカバーしとるので、もちろん始皇帝の兵馬俑についてもたっぷり図版がついとるぞ。
Cパーフェクトモデリングマニュアル@ 【初級編】
 MAX渡辺のプラモ大好き!
ホビージャパン編集部・編ホビージャパンMOOK模型薀蓄
185頁1905円
 8月に住処が変わって、模型作りスペースも様変わりしたものじゃから、なんとなしに再読する気になった。

 MGが出だした頃の本じゃが、今読んでもまるで古くなく、わしのレベルではこの【初級編】で完全にOKじゃ。
D万邦の賓客 中国歴史紀行
陳舜臣集英社文庫歴史薀蓄
292頁533円★★★
 中国周辺部、特に甘粛から西のシルクロードを題材とした、著者得意の歴史紀行じゃ。シルクロード好きは必ず抑えとくべきじゃろお。
 本書で特筆すべきなのは、第三部の「辺境歴史紀行」の稿が、白水社で出版された「中国辺境歴史の旅(全八巻)」のそれぞれの巻末に寄せた著者の解説であることじゃ。解説文ということで、あまり面白い文章ではないが、「中国辺境歴史の旅(全八巻)」二十世紀前半に実際に彼の地を訪れた人々の紀行文の訳本ということで、きわめて貴重であることは間違いない。清朝の滅亡から共産化、ロシア改めソ連の南下などという政治状況が現地にどう影響していたのか等、他の本ではあまり触れられない内容が興味深いのお。
 本書自身新しくはないので、現在までに多少の進展はあるのかもしれないが、大谷光瑞の探検記録は早くまとめられるべきじゃろお。
E壬生義士伝 上下
浅田次郎文春文庫時代
463頁/445頁590円/590円★★★★
 吉村貫一郎という新撰組隊士は、鳥羽伏見の戦い後、南部藩の大阪藩邸前で切腹して果てたということしか判っておらず、他の新選組ものの小説で出てくることはまあないのじゃが、そんな人物を取り上げて、よくもまあこんな物語に仕立て上げたもんじゃと感心しきりじゃ。
 わしの興味は新選組が絡む部分に限られるので、南部藩での生活や息子たちの話は正直どうでもええし、吉村を切腹に追い込んだ幼馴染の親友大野次郎右衛門の感性などは、どう正当づけようが他にやりようがあった筈で納得できるもんではないが、吉村と同期入隊の名無し、稗田利八、そして斉藤一が語る新選組パートにはえらく引き込まれてしまった。大河ドラマ「新選組!」とのコントラスト(沖田や斉藤のキャラ設定)の違いがとても面白いのお。
 「新選組!」ではアクロバティックに斎藤一が竜馬の護衛を勤めていたが、本書ではなんとその斎藤一が竜馬暗殺の実行犯という設定じゃ。この辺りが歴史ものの楽しさじゃのお。

 そうそう、わしはまだ本書の映画は観ておらんのじゃが、「新選組!」とそのキャストを較べるだけでも笑えること間違いなしじゃ。
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