2004年12月
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@百舌の叫ぶ夜
逢坂剛集英社文庫犯罪/サスペンス
403頁600円★★★★
 新宿で昼日中起こった爆弾事件。酔っ払いに絡まれた三人の女性に走り寄った男が突然爆弾で吹っ飛び、女性の一人も巻き添えで命を落とした。警視庁捜査一課の大杉と、公安三課の明星が事件を担当するが、犠牲になった女性の夫である公安特務一課の倉木も独自に事件を追いかける。一方、この事件に関係し、口封じに殺されかけた新谷は九死に一生を得たものの、過去の記憶を完全に失った。再び命を狙われた新谷は、記憶を取り戻すために東京に舞い戻るが・・・

 ジャンル分けに困る本じゃ。警察小説というには、新谷側の描写も多いし、冒険、謀略、サスペンス、どれもしっくりこない。しかしえらく技巧に富んだ小説であることは間違いなく、記述に少々のトリックもあるので、広義のミステリには含まれるじゃろうか。警察組織の腐敗もありいの、スパイスに大杉の家庭問題ありいの、明星が倉木に抱く男女の機微もちょっぴりありいの、しつこくならない程度にいろんな要素もあって、そんなこんなでとっても巧い本じゃ。
 因みに、百舌は英語にするとシュライクじゃ。
A禁断の日本史 神霊の国日本
井沢元彦KKベストセラーズ歴史薀蓄
254頁500円★★★
 「逆説の日本史」余技で書いたバイト本といったところじゃろうか。
 本書に関しては、既に手元にないので内容をぱらぱら見直すこともできず、ほとんど記憶に残っていないのじゃが、良くも悪くも井沢元彦らしさは薄まっているので、初心者のとっつきにはええじゃろ。
B新装版マックスウェルの悪魔 確率から物理学へ
都筑卓司講談社ブルーバックス物理薀蓄
276頁980円★★★
 "シュレディンガーの猫"と同様、一般読者向けの量子論関係の本には、必ず登場する"マックスウェルの悪魔"。熱力学の第二法則に関してのわしの知識と言えば、熱は熱いものから冷たいものへ流れ、その逆はないという、きわめてざっくりとした説明を中学か高校で受けた記憶があるだけじゃが、理系雑学などではよく出てくるエントロピーの増大と≒なんじゃな。当時はまったくお気楽に流しとったのお。

   本書は三十数年前に書かれた本のようじゃが、どんどん広がる情報の氾濫への警鐘が巻末で述べられたりと、まるで古さを感じない。平和鳥(水飲み鳥)の解説なんかも、人にちょっと自慢できてええんじゃないかい。もっとも、最近はその玩具の存在すら知られとらんかもしれんが・・・

 なかなか楽しく読めるのじゃが、後半、エネルギー準位の逆転とか、皮膚への感覚とは切り離したマイナスの温度は、無限大の温度をもっと激しくしたものだとかになってくると、悲しいかなよお判らんかったりする。
Cエンディミオン 上下
 Endymion
D・シモンズハヤカワ文庫SF
511頁/529頁880円/880円★★★★
 連邦が崩壊し、人類がAIテクノコアと袂を別つようになって三百年、旧連邦の版図の多くは、聖十字架を手中にして信徒を増やし、急激に勢力を広げたパクスによって支配されていた。惑星ハイペリオンで、ハンター相手のいざこざから死刑の判決を受けた青年エンディミオンは、禁書である"詩篇"の著者、あのサイリーナスに救われ、ある仕事を頼まれることになる。サイリーナスの依頼内容とは、間もなく"時間の霊廟"から現れる少女アイネイアーをパクスの手から守り、オールドアースを見つけて取り戻し、パクスの支配を砕き、<テクノコア>のもくろみを潰してほしいということだった・・・

 やや叙情的な「ハイペリオン」に対して、本書はかなりストレートな冒険活劇の体をなしておる。青年エンディミオンが少女を守って、閉じたはずの転移ゲートを使って惑星から惑星へ河下り。追ってくるのは、教皇のディスキーのもとに圧倒的な武力と権力を与えられたデ・ソヤ神父大佐一行に、背後に謎の黒幕付きの凶悪"ターミネーター"ラダマンス・ネメス。←これはまさに「ターミネーター」シリーズから思いついたキャラやろなあ。位相変化した姿はT−1000そっくりじゃ。
 一方でアイネイアーを護衛するエンディミオンはと言えば、特殊能力はおろか、多少は腕っ節が強いものの朴訥なお人好しで、そう頭のよいほうではない。一体どうやって逃げ切るねん、というところをうまくかわしながらストーリーを作るシモンズはさすがじゃ。
D汚辱のゲーム 上下
 False Memory
D・クーンツ講談社文庫サスペンス
531頁/620頁990円/1019円★★★
 夫のダスティは塗装業を経営、妻のマーティはゲーム・デザイナー。二人ともに手に職を持ち、愛犬のヴァレイとともに、何不自由することない幸せな生活を築いているが、ダスティには時に自殺衝動にかられる弟のスキートが、マーティには夜な夜な見えないレイプ被害を訴える親友のスーザンがいる。彼女は主治医のアーリマンに診察を受けている間は比較的穏やかだが、そこ以外では極度の広場恐怖症に襲われてしまう。
 ダスティはおかしな挙動を示すスキートの面倒を見るうちに、彼がある言葉に特別の反応を示すことに気づくが、一方でラスティにも、暴力衝動を伴う先端恐怖症の気が・・・

 "超訳"以降、クーンツの長編新作を文庫で読む機会などなくなったと思っていたところに本書が出たので、とりあえず買っておいたものじゃ。
 クーンツ作品では、悪役の狂気の走りっぷりが魅力で、本書もその例に漏れないのじゃが、一方で主役サイドの、@愛し合う男女、A親との確執そしてトラウマ、B愛犬登場という、見事なまでの引き出しのなさもまた共通で、特にアーリマンがほとんど出てこずストーリーの方向性が見えない上巻のたるさは堪らん。人によっては、その見えないところが楽しかったりもするのじゃろうが、所詮は予定調和のクーンツ本、上巻をなんとか読み終えたところで力尽きて、随分と放っぽってしもうたわい。下巻はそれなりに面白くなってくるし、セラピストに導かれるところの"抑圧された心理"なんてものが、極めて胡散臭いものだということは「人はなぜエセ科学に騙されるのか」と共通認識で興味深いのじゃが、上下巻で¥2000の値段を考えるとつらいわ。枝葉を刈って半分くらいの分量にするべきじゃな。

 昔クーンツ信者として、友人に布教活動していた頃が懐かしいのお。
E壬申の乱の謎
関裕二PHP文庫歴史薀蓄
262頁533円★★★
 古代史における最大の国内戦争ながら、その実相は霧の彼方で、その前後――大化の改新〜奈良時代――の流れも、決して中学で習ったような単純なものではない。というのは、「逆説の日本史2」を読んで判ることじゃが、井沢説が完全に正しいということもないじゃろ、ということで、本書を読んでみた。

 興味深いのは、攻撃的な井沢元彦を批判していることと、彼の攻撃に対する史学会側の遠山美都男の反論を掲載しとるところじゃろお。
 しかし関説はどちらかというと井沢説に近く、天智と天武の年齢の逆転と天武の正体については、どちらも高向王の息子漢皇子を挙げておる。ただその周辺の事情はいろいろと異なり、蘇我氏、尾張氏、物部氏の関わりをクローズ・アップしておるのが特色か。しかしそのあたりの詳細が、著者の他の作品に書いてるという理由で省かれていることが多く、説得力にかけるように感じる箇所がかなりあったわい。
 「日本書紀」が勝者の歴史書であり、編者の思惑が色濃く反映されていることは確かじゃろうが、その元締めが持統天皇や舎人親王ではなく藤原不比等であって、彼が天皇家のためでなく藤原氏のために「日本書紀」を編纂したという説は面白い。
F世界遺産アンコール遺跡の光
田村仁小学館文庫遺跡写真
215頁838円★★★
 アンコール・ワットの名前は誰しも耳にしたことくらいはあるじゃろうが、、アンコール・トムや東バライ、西バライというと知らんと言う人間も多い。わしの知識ももここまでだったのじゃが、本書を読むと、アンコール遺跡群の中にはアンコール・ワットやアンコール・トム以外にもたくさんの魅力ある遺跡があって、やはり死ぬまでに一度は訪れてみたいという気にさせられたぞ。
 驚くのは、アンコール・ワットのすぐ近くにシェムリアップ空港なんかがあって、えらくアクセスしやすくなっておるんじゃのお。そう昔でない時代にポル・ポト派が躍動していて大変な危険地帯だった筈じゃが、やっとええ時代になったもんじゃ。

 基本的に写真メイン(すべてカラーじゃ)で、これには非のつけどころがないが、文もそのカメラマンのものなので、歴史が判る記述はそう多くはない。そちらのほうに興味があれば、別にもう一冊用意するほうがええじゃろ。
G双頭の悪魔
有栖川有栖創元推理文庫推理
683頁1040円★★★
 「孤島パズル」事件で受けた傷心を四国の芸術家村で癒すマリア。英都大推理小説研究会の面々四人は、彼女の父親からの依頼で、彼女を連れ戻すべくその村、木更村を目指したが、村の入り口で住人から訪問を頑なに拒まれてしまった。ならば強行するのみとばかりに、強まる雨の中、四人は木更村へ潜入を試みるが、もろくも撃退され、部長の江上以外の三人は木更村の外、夏森村へと追い返されてしまう。そして暴風雨は二つの村を孤立させ、その状況の中、再開を果たした木更村の江上とマリア、そして夏森村のアリス、望月、織田たちが、それぞれが殺人事件に巻き込まれることに・・・

 なかなか魅力的な設定で、そのうえ目次を見ると、"読者への挑戦状"が三回もあるというご機嫌さに、思わず読むのを先延ばしに大事に置いていたのじゃが、あまりの期待の大きさがまずかったのじゃろうが、面白さはそこそこという感想じゃ。

 そもそもマリアに魅力を感じないので、マリアパートはつらいのじゃが、結構軽快なアリスパートも、たまに(マリアのことを考える度に)青臭くなってしまうのが悲しい。もっとも、そこが好きな読者もおるんじゃろな。

 それぞれのパートは小ネタの謎と推理が多くて、その分マリアとアリスの地の文が気になってしまうのじゃろうが、二つの舞台のばらばらな事件を繋ぐ凶悪な感性が、書名と結びついてGOODじゃ。
H実況中死 神麻嗣子の超能力事件簿
西澤保彦講談社文庫推理
405頁667円★★★
 主婦の素子は交通事故に会ってから、折につけ、他人の目を通した景色を見てしまうという能力を得た。その"他人"は決まった人物なのだが、おそらく男だろうという程度で誰かは判らない。しかもその"他人"は女性の首を絞めて殺したあと、今も次の犠牲者を物色しているらしい。思い余った彼女は、警察に相手にされないだろうと、マスコミに手紙を出し、それは回りまわって保科の知るところになった。とりあえず彼は、超常現象の可能性ありということで、能解警部と神麻さんに連絡するが・・・

 表紙が表紙なのと、今一つ萌えられないということで、「幻惑密室」以来1年半ぶりじゃが、年末押し迫って酔っ払った勢いで読んでみた。残念ながら、「幻惑密室」と同じ感想になってしまうのお。しかしすごい美女の能解警部とすごい美少女の神麻さんは、なぜに保科に惹かれているのか、彼の文ではさっぱり判らん。光るものなど何もなさそうなんじゃけど・・・

 そのあたり、"幻想探偵社"や「魔獣学園」もまあ同じなんじゃがね。
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