| 2005年 3月 | |||
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| @ | レイテに沈んだ大東亜共栄圏 太平洋戦争日本の敗因5 | ![]() | |||
| NHK取材班編 | 角川文庫 | 歴史薀蓄 | |||
| 229頁 | 480円 | ★★★★ | |||
| シリーズ5冊目は、ミッドウェーでこけてから、ガダルカナルを失い、サイパンを落とされ、ついに南方資源ルートの一大拠点を失うことになったフィリピン戦についてじゃ。 レイテと言えば、レイテ沖の一大海戦での武蔵沈没と、栗田艦隊の謎の反転というイメージが先に立つが、本書のメインテーマは、同じように自国優先の帝国主義者なのに、なぜフィリピン人に日本人は嫌われ、アメリカ人は解放者と呼ばれたのかということの解明じゃ。 演出にこだわりすぎるくらいこだわり、本音と建前を巧く使い分けたマッカーサーと、無策ごり押しの子供のような大日本帝国の対比がよく解ってまたまた悲しい。当時スペインからアメリカの支配下に移ってすでに半世紀のフィリピンが、すでにアメリカ文化に毒されていたことに気づけるような視野を、日本はまったく持っていなかったんじゃのお。 現在の日本が毒されているように、当時のフィリピン人がふがいなさ気なことは、「Gパン主計ルソン戦記」でも描写されとるが、レイテやルソンで死んだ膨大な日本軍兵士以上の数のフィリピン人が、アメリカと日本の戦争の巻き添えで死んだらしいことや、負けがこんでいよいよフィリピンゲリラに悩まされた日本軍に、端的に言えば「民間人とゲリラの区別がつかんから、怪しい人間はすべて処分しろ。ただしこっそりとやれ。」という指令書まであったことは忘れてはならんじゃろお。 日本人を守る自衛隊として、ガダルカナルで、アッツで、犠牲者を減らしにいっとる「ジパング」じゃが、他国人も守る展開が欲しいところじゃな。 | |||||
| A | Gパン主計ルソン戦記 | ![]() | |||
| 金井英一郎 | 光人社NF文庫 | 歴史体験記 | |||
| 342頁 | ― | ★★★★ | |||
| 戦史、特に日中戦争から太平洋戦争にかけての戦史は、自虐にすぎるのも肯定的にすぎるのも、極端なのはいかんと思うのじゃが、では個人の戦記はどうかというと、これもやはり愚痴や恨みであったり、自己礼賛であったりといった代物が多いというのが、前書きで著者が書いていることじゃ。 こんな時代だというのに妙に女っ気があるのが気になるが、満州の従軍慰安婦の話や、ルソン島で入れられた"病院"の地獄の話など、興味深い内容がたくさんある。同じルソン島の中でも、生存の可能性は場所や立場や諸々の状況でまるで変わってしまうのが怖ろしいのお。多少の才覚も関係するとはいえ、ほとんどが運以外の何物でもないからのお。 著者が主計、つまり補給担当なので、銃を構えて突撃するようなシーンはまるでないが、そういう立場だからこそ、部隊とともに移動せざるをえなかった民間人たちの惨状にも筆が及ぶのじゃろお。なかなか新鮮じゃ。 本書は借り物なので、フィリピン戦記が二冊続くのは偶然なのじゃが、多角的に見る上で、「レイテに沈んだ大東亜共栄圏」と合わせて読むことを勧めておこう。 | |||||
| B | エンディミオンの覚醒 上下 The Rise of Endymion | ![]() ![]() | |||
| D・シモンズ | ハヤカワ文庫 | SF | |||
| 703頁/708頁 | 1000円/1000円 | ★★★ | |||
| 遥かなマゼラン星雲にあるオールド・アースで、芸術家サークルの中で平穏な時を過ごしていたアイネイアーは、ついにパクスとAI<テクノコア>が虎視眈々と待つ銀河系への帰還を宣言した。エンディミオンは、<天山>で再会できるという彼女の言葉を信じて、独りカヤックに乗り込み、転移ゲートをくぐる。パクスとAI<テクノコア>の思惑は? オールド・アースの銀河系への復帰は? そして彼とアイネイアーの未来は・・・ この「ハイペリオン」から始まった長大な物語もようやく大団円じゃ。ホッとすると同時に少々寂しい。 あいかわらずにぎやかに風呂敷の中身をぶちまけたような物語は圧巻じゃ。<虚空界>へのアクセス方法や鯨の歌がどうたらこうたらと、トンデモな人たちが喜びそうな、妙に胡散臭い論法が気になったりもするし、アイネイアーとエンディミオンにも共感しにくかったりと、不満はいろいろとあるのじゃが、一人乗りのカヤックで木星型惑星の成層圏を漂流するだとか、恒星を巡る植物ベースのダイソン球とか、とてもわしには思いつけない広大なイメージが心地よい。 これまで不満だったキリスト教偏重の宗教観に、曲がりなりにもダライ・ラマが加わったのも良しじゃ。 ただし残念なのは、ラストの予想がついてしまうとこじゃ。本文でもあまり隠そうとはしていないようじゃが、なんせ<ネタバレ反転>表紙に描いてしまってはダメじゃろ!! | |||||
| C | QED 東照宮の怨 | ![]() | |||
| 高田嵩史 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 41頁 | 695円 | ★★★ | |||
| 八重垣リゾートの社長が自宅で殺された。体中をずたずたに切り刻まれた被害者は、死の直前、"かごめ"という言葉を残し、現場からは貴重な三十六歌仙絵が盗まれたという。この歌仙絵について八重垣を取材するつもりだった小松崎は、これ幸いと桑原崇をこの事件に引き込もうとし、崇は小松崎に協力するために、まず日光にある三十六歌仙の勅額を直に見たいを主張した。一方、八重垣の周りではさらに犠牲者が増え、連続殺人の様相を呈するが・・・ 前作は変化球だったが、今回はまた得意な分野に戻ってきたようじゃ。やはり三十六歌仙の歌の並びが〜、という話が大事な箇所で出てくるが、それも含めて、徳川幕府と朝廷の呪術合戦が浮かび上がってくるのが興味深い。そしてそれをも覆う天海の企てはまたよおできとる。この説、どこまでが著者の新説なんじゃろ。 この徳川政権初期の幕府と朝廷の暗闘は、隆慶一郎の「吉原御免状」または「花と火の帝(未完)」を読むと、さらに興味深さ倍増じゃぞ。 | |||||
| F | QED 式の密室 | ![]() | |||
| 高田嵩史 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 222頁 | 419円 | ★★★ | |||
| いつもの店で桑原崇、小松崎良平と一緒に酒を飲んでいた奈々は、同じ大学出身ながら、まるで接点のなさそうな二人がどうして知り合ったのか、ふと疑問に思い尋ねてみた。それに応えて崇が語った小松崎との始めての出会いは、過ぎる大学一年の春、陰陽師の末裔だという弓削和哉を間に挟んでのことだった。彼に聞かされた、三十年前の祖父母の不審な自殺事件に興味をもった崇は、事件関係者で生きていた木津川――式神を操って祖父母を殺した犯人だと、弓削和哉が主張する――を訪ようと提案して・・・ 前の巻からひっぱっていた、かごめかごめの解釈は、「図解雑学 こんなに面白い民俗学」のほうが腑に落ちるのじゃが、そういえばあの本では、なんで天神様(=菅原道真)の細道なのかということには触れていなかったような・・・ 式神の解釈はなかなか面白かったが、シリーズで最も短い文量の割りに、薀蓄のこじつけ臭さは最も大きい気がするのお。 しかしまあ、本書で一番印象に残ったのが、崇たちとわしが同期ということじゃな。 | |||||
| H | 北の夕鶴2/3の殺人 吉敷竹史シリーズ3 | ![]() | |||
| 島田荘司 | 光文社文庫 | 推理 | |||
| 381頁 | 600円 | ★★★★ | |||
| 昭和59年12月。警視庁一課刑事の吉敷のもとに、5年前に別れた妻の通子から電話がかかってきた。吉敷は<ゆうづる9号>で新宿駅を離れる通子と、ガラス越しに一瞬の再会を果たしたが、後日その列車内で通子らしき年恰好の女性が変死したという情報を漏れ聞き、大晦日の晩に急遽青森へ向かう。死体は通子ではなかったが、それは姿を消した彼女が重要参考人であることを意味する。この事件に吉敷の元妻が関係しているということは現状では誰も知らないが、彼女が窮地に陥っていることは間違いない。 吉敷は正月の休みを利用して、彼女が店を構えているはずの釧路へ向かい、なんとそこで、通子がさらに不可解な事件の重要参考人として、警察に行方を追われる身となっていることを知るのだった。 大作「涙流れるままに」を読むために、記憶の薄れた"通子もの"を読み直そう企画第一弾。 一応このシリーズは"列車もの"として始まったので、本書もまだそれを引っ張った題名になっとるし、列車名とか接続情報なんかも詳しく書かれておるが、列車ものの定番であるアリバイ崩しなんぞはまったく関係してこない。メイン事件の舞台は、変わった構造のマンションに、なんといってもすすり鳴く夜鳴き石、後ろ向きに彷徨う鎧武者の亡霊である。 トリックについては、ちょっと使い回しが多いぞというツッコミはあるが、わしは本書が最初だったので、その種明かしは、実現性はともかくえらく、幽霊ネタまで説明していて感心したものじゃ。(少なくともあと二冊は同種トリックの話があるが、ここでは触れない。) とにかく本書は列車ものの皮を被った本格(と書くと語弊があるが、わしは時刻表トリックは好きじゃないので)なのじゃが、一方で弱者を守る騎士のハードボイルド物語であることに驚く。別れた昔の女房(ここではまだ片鱗しか見せないが、それでもとんでもなく難しい女)を助けるために、吉敷ズタぼろじゃもの。これまた物理的トリックとともに、著者の大好きな分野じゃが、おそらく出版社の意向で書き始めた列車ものとしての吉敷竹史シリーズが着実に実績をつけてきて、本書は著者の好きなように書けたのじゃろうなあと想像する。 ところで2/3って何? | |||||
| I | 羽衣伝説の記憶 吉敷竹史シリーズ12 | ![]() | |||
| 島田荘司 | 光文社文庫 | 推理 | |||
| 256頁 | 480円 | ★★★ | |||
| 平成2年1月。東京で殺されたホステスの銀行口座から、遠く離れた天橋立で毎月定期的に金が引き出されていることを掴んだ吉敷は、引き出される現場を押さえるために現地へ出張する。銀行での張り込みは功を奏し、首尾よくこの事件は収束方向へ。そして彼は銀行の支店長の勧めで、天橋立のすぐ脇にある宿で一泊することになったが、そのことが偶然にも、釧路の事件以後、再び音信不通となっていた通子との6年ぶりの再会を呼ぶことになるのだった・・・ "通子もの"を読み直そう企画第二弾。 本書は"文庫書き下ろし"ということもあって、吉敷が捜査する事件は、通子と再会するための出汁に使われ、本旨となるのは、なぜ釧路の事件の後、いかにもよりを戻してハッピーエンドになりそうだった二人が、また6年もの間離れることになったのは何が原因なのか、その元である通子の心因的なトラウマの謎を解釈することじゃ。 今でこそ、西澤保彦の一連の作品で慣れてしまったが、最初に本書を読んだときには、えっ、証明もなんもなしの解釈だけでええんか!?と戸惑ったもんじゃ。(いや、一応物証はあったな・・・) 今度こそよりを戻せるのか、吉敷! | |||||
| J | 飛鳥のガラスの靴 吉敷竹史シリーズ14 | ![]() | |||
| 島田荘司 | 光文社文庫 | 刑事 | |||
| 438頁 | 680円 | ★★★ | |||
| 俳優の大和田剛太が突然失踪し、家族に右手が送りつけられるという事件が発生してから一年、吉敷はこの事件が未だ解決していないことを知り興味を持った。京都府警管轄のこの事件に、今さら警視庁の刑事がしゃしゃり出ても誰も喜ばぶはずもないが、主任の売り言葉に買い言葉で、吉敷は一週間でこの事件を解決する、解決できなければ辞表を出すと宣言してしまう・・・ "通子もの"を読み直そう企画第三弾。一応。 またしてもタイム・リミット付きの孤独な捜査に乗り出してしまう吉敷。 本作は不可能犯罪の謎を解くというスタイルではなく、一見動機の読めない事件から犯人像を読み、その影を追ってリミット内に追いつこうとする捜査小説じゃ。 本編は吉敷の捜査と、宮地禎子なる人物が自己の生い立ちと故郷への望郷、そして故郷飛鳥の地に伝わっていたシンデレラ似の民話への興味から、民話の伝播と変化を考察した自費出版本「飛鳥のガラスの靴」が挿入される。この文章中の宮地姉妹が事件とどう関係するのかが興味の対象じゃな。 しかしはっきり言って、(わしもその一人じゃが)飛鳥に思い入れのある人間が読めば、最初からかなりの違和感を味わった挙句に、肩透かしを食らうこと確実。 と、おいおい、どこが"通子もの"やねん!という話じゃが、冒頭で吉敷と通子の電話のやりとりがあって、その後の吉敷の動きが事件と絡んでくるんじゃよ。言ってみれば、「羽衣伝説の記憶」の逆パターンじゃな。 それにしても、事件についてはするどい閃きを見せる吉敷君、通子のことになると凡人以下じゃな、あんた。なにかに気付けよ。覚えがあるじゃろ。それともリスク管理したかどうかまで忘れてしまうような鳥頭なのか?? これでようやく読む準備が整ったというもんじゃ。本当はもう一冊、重要な長編があるにはあるが、あまりに大部なのと比較的記憶に新しいので、ちょいと拾い読みだけして、さあ「涙流れるままに」にかかるべ。 | |||||
| K | ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず 上 ローマ人の物語2 ローマは一日にして成らず 下 | ![]() > | |||
| 塩野七生 | 新潮文庫 | 歴史薀蓄 | |||
| 197頁/頁 | 400円/400円 | ★★★ | |||
| 学生時代にはさして歴史に興味を持っていなかったので、日本史などは選択もしていなかったのじゃが、一応選択していた世界史で、興味がへたばるまでの春先の期間はそこそこの成績をとっておった。つまり先史からギリシャ、ローマあたりまでじゃ。 だからこのシリーズが本屋にどやどや並びだした時には、これは読まねばいかんじゃろと思ったのじゃが、著者が女性なので、なんや情に流れた史感になるのではないかと二の足を踏んでおった。偏見と言われても仕方のないところじゃな。しかしこれは不明の至りを謝さねばなるまい。きわめて客観的で文章は平易、とても判りやすく、めっぽう興味深く読めたわい。 本書がカバーしているのは、レムルスの建国神話(BC750年)からターラントを併合して南イタリアを統一するまで(BC270年)、言い換えればカルタゴとのポエニ戦争の手前までというところじゃ。参考文献を見ると、紀元前だというのに、ギリシャ、ローマの記録の豊富さ(欠落部分もかなり多いそうじゃが)にも驚いてしまうのお。中国の記録癖もすごいもんじゃが、ギリシャ・ローマもすごい。本書の範囲など、おそらく高校の教科書では数行なんとちゃうやろか。王政から共和政へ移行して、それなりに繁栄しだしたローマが、BC390年にケルト人に蹂躙されたことなどさっぱり知らんかったわい。 ↑でローマの範囲はそこそこの成績だったとのたもうたが、いかに高校レベルの教科書には限られた内容しか載っていないかということじゃ。 もちろんローマ史が中心内容じゃが、ローマへの影響が極めて大きいギリシャについても、かなりしっかりと頁をとっているのがええのお。アレクサンダーのマケドニアが怒涛の勢いを見せたときに、ギリシャ、ローマがどうだったのかということも、教科書ではわからんかったのお。 | |||||
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