2005年 9月
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@イリーガル・エイリアン
 Illegal Alien
R・J・ソウヤーハヤカワ文庫SF
509頁940円★★★★
 地球人とエイリアンとの初の遭遇は、極めて円滑に上手く進んだ。そのエイリアン、トソク族は、アルファ・ケンタウリからやってきた冒険家たちだという。彼らの宇宙船は修理を必要としており、地球人はそのために彼らから技術を教わることになった。そして地球人を指導する数人のトソク族が地上に滞在し、その間も。ところがその施設内で地球人が惨殺される事件が発生。状況からみて、犯行はトソク族によるものと断定される。そして前代未聞の、被告がエイリアンという法廷闘争が始まったが・・・。

 人類とほとんどミュニケーションに困らぬ異星人といい、挙句に裁判とくるもんじゃから、正直出だしはつらく思ってたんじゃが、あまり人間と変わらない宇宙人じゃからこそ、SFの大きな役割のひとつである風刺が活きてくるんじゃのぉ。まさか<ネタバレ反転>カチコチの狂信者だとわ!
 まぁ「スタートレック」では珍しいことではないが、驚かされたのは確かじゃ。

 ケンタウリABCの恒星系は興味深いし、人体の設計評価や陪臣システムについてなど、薀蓄に興味深いところもあるし、トソク族の目的、動機、そしてどんでん返しと、ミステリとしての楽しさも十分じゃ。

 しかし三審制にまったく触れてこないとこなど、アメリカ人の自己中心主義を感じて気持ち悪いのぉ。たしか日本も陪審制に移る予定があったはずじゃが、また例によって、まともな検討なしの“右へ習え”ではなかろうな。心配じゃ。
A日本史鑑定 天皇と日本文化
明石散人/篠田正浩ハヤカワ文庫歴史対談
239頁533円★★★
 対談相手が映画監督なので、話の方向が演劇絡みに流れがちでケッコウつまらん。
 明石散人といえば、薀蓄垂れながら話相手に文句たらたら(という演出)じゃが、今回は対談と言うことでさすがにそんなことはなく、というか互いに相手を持ち上げまくっているように感じてどうも気持ち悪い。二人してそうだそうだと悲憤慷慨しておるのじゃが、わしとしては同意しかねるところもあるので、余計にそう感じるんかのお。
 例えば、天皇の女系相続を認めるか否やという件で、彼らは大反対しておる。今日や昨日のレベルの伝統ではないのじゃから、やみくもに男女同権を敷衍すればいいというものではないが、敗戦後の皇室典範の改定で、庶出の男系は相続を認めないとされたのは、天皇制を破壊するためのアメリカの陰謀だというのは、あまりにも・・・。ネタとしては面白いがのぉ。男系相続というのも意識の問題で、生物学的には何の意味もないし、実際問題、今のご時世、皇室にだけ第二妻、第三妻を認めるなんぞは認められる筈もなく、“腹は借り物”理論も通用せんのじゃから、女系相続はやむなしじゃろぉ。
 まあ理屈でそうは言っても、皇室がどんどん庶民に近くなって、イギリス王室みたいになっても困るので、愛子さまには多少気の毒かもわからんが、将来の婿は宮家くらいからとってもらうのが、感情面からの折衷案としてリーズナブルかもしれんのぉ。
B奇厳城
 L'aiguille-creuse
M・ルブラン創元推理文庫冒険
246頁420円★★★
 ジェーヴル伯爵の姪のレイモンドは、屋敷の庭を逃げる賊を銃で撃った。賊は間違いなくその場にくずれおちたが、不思議にも鳥撃帽子をその場に残し、四囲が塞がった庭から忽然と消えた。そしてこの事件の解決に、高校生ながら名探偵の誉れ高いイジドール・ボートルレが名乗りを上げる。だがこれは、裏でフランス史を動かし、多くの著名人の運命を変えてきた大いなる秘宝をめぐる、高校生探偵とアルセーヌ・ルパンの知略を尽くした戦いの始まりに過ぎなかった。

 「奇巌城」と言えば、すべての小学生が読んだ(とわしは信じておるが)、学校の図書室で一、二を争うメジャー作品じゃ。わしも初めて覚えたフランス語が“エイギュイユ・クルーズ(空洞の針)”じゃったからのお。
 ところでポプラ社の南洋一郎訳ルパンはかなりの翻案で、例えば「ルパンの大作戦」(創元推理文庫での題名「オルヌカン城の秘密」)なんかでは、原作のルパンは大作戦どころか、物語の締めのためにちょいと顔を出すくらいで、文庫で読み直した時に随分と違和感を感じたものじゃが、本書はポプラ社版「奇巌城」との差異はそんなに感じなかったわい。シャーロック・ホームズの情けなさもそのままじゃな。

 しかし、進学試験の勉強を優先させて捜査を中断するイジドールはともかく、それを是として時期を待つフランス警察って一体・・・。

 裏歴史を魅力的なネタにして、デュマから脈々と続くフィユトンの流れにどっぷり浸かった冒険活劇は、なるほどそれなりに面白いが、正直これがルパンものの代表作と言われると、うーむというところじゃ。
C因果の火
 Hellfire
J・ソール扶桑社ミステリーホラー
516頁660円★★★
 田舎町ウェストオーヴァの名家スタージス家に、後妻として入ったキャロラインと先夫との娘ベス。長年スタージス家を牛耳ってきた父が死に、当主となった夫のフィリップはキャロライン達を愛してくれているが、姑のアビゲイルと、ベスにとって義理の姉になるトレイシーは、彼女達を受け入れようとはせず、なにかにつけ辛くあたる。町には百年前に火災を起こした靴工場が廃墟となったまま放置されていたが、フィリップが、新しい当主として、そこに新しいショッピング・センターを建てる計画を進め始めた時、怨念が開き、犠牲者を求め始める・・・。

 これは“少女が苛められるもの”のほう。
 まったく手堅く、前にも書いたような悲劇が繰り返されとるわい。さすが職人じゃのぉ。
 どんな悲劇なのかはもう書かないが、ソールの労働条件には憧れるのぉ。
D黒い仏
殊能将之講談社文庫伝奇
307頁552円★★★
 名探偵石動戯作は、838年に円仁等とともに唐に渡った、円戴にまつわる「妙法蟲聲經」の捜索を引き受け、九州に向かった。一方福岡では、誰の指紋ひとつも残されていない部屋に残された、身元不明者の死体という事件が起こっていたが・・・。

 まさに問題作じゃ。よくもまぁ・・・。
E狂戦士コナン
 Conan The Barbarian
R・E・ハワードハヤカワ文庫ヒロイック・ファンタジー
340頁420円★★★★
「砂漠の魔王」Black Colossus (1933.6)
 ステイジアの東の砂漠から、魔道士ナトクに率いられた軍団が押し寄せてくる。小国家コーラジャは迫る軍団との戦争の矢面に立つことになったが、若き王は他国の捕虜にされていた。王女ヤスメラは、神託に従い、深夜の街から一人の傭兵を指揮官として王宮に招く。その男の名はコナン・・・。

 若き日より個人的武勇に恵まれたコナンが、一傭兵ではなく、初めて(多分)一軍の指揮官としての才能を示した一遍。

「月下の怪影」Shadows in The Moonlight (1934.4)
 逃亡中のコナンは、これまた逃亡中だった女奴隷オリヴィアを追ってきた太守を斬った。予想される追っ手を撒くために、二人はヴィラエット海に漕ぎ出し、途上でとある島に上陸した。その島は無人島だと思われたが、森にはコナンを遥かに超える膂力を持った何者かが潜み、廃墟には生きているかと見紛う彫像の群れが立っていた。そして島には海賊の集団も上陸してくるが・・・。

 強大な力を誇るコナンじゃけど、意外に彼以上のパワーに難渋する話が多い。まあ、たいがい人間相手じゃないんじゃが・・・。

「魔女の誕生」A Witch Shall Be Born (1934.12)
 コーラン王国はコンスタンチウスの率いる傭兵団の手に落ちた。復讐に燃えた女王の妹サロメの手引きによるもので、女王タラミスは恥辱に満ちた虜囚となってしまう。一方コーランの近衛隊長のコナンは、このクーデターで捕らわれ、砂漠の地で磔に架けられるが、九死に一生を得る。放浪部族に身を投じることになった彼は、借りを返すために・・・。

 本書の表紙にも使われとるし、またシュワルツェネッガー「コナン・ザ・グレート」にも選択された、磔されながら禿鷹を屠るシーンが有名じゃな。

「ザンボーラの影」Shadows in Zamboula 1939.11・・・
 アラム・バクシュの宿で襲われたコナンは、住民の誰もが屋内に閉じこもるザンボーラの夜の街で、ザビビという舞姫の命を救った。彼女に懇願されたコナンは、ハヌマーン神殿に侵入するが・・・

 屠殺人バール・プテオールがちょっと魅力的じゃが、活躍は少ない。ザンボーラは今のシリア辺りに位置するようじゃが、ラーマーヤナの猿神ハヌマーンが登場するのが、ご愛嬌。

「鋼鉄の悪魔」The Devil in Iron 1934.8・・・
 ツラン王国の街カワーリズムの太守は、近頃勃興してきた草原の民コザクの頭領を陥れる策略を実行した。それにまんまと乗って、ヴィラエット海に浮かぶ孤島ザパルに導かれたコザクの頭領コナンは、彼をおびき寄せる餌として選ばれたオクタヴィアとともに、その島で幻影の街に迷い込み、恐ろしい鋼鉄の悪魔コーサトラル・ケールに追われることになる・・・。

 シチュエーションは「月下の怪影」に似ていて、ごっちゃに記憶していたが、本書の中では「ザンボーラの影」と合わせて、最もコナンらしい活躍が楽しめるじゃろお。これまた映画を髣髴とさせる大蛇の部屋のシーンが印象的。
F統計でウソをつく法  数式を使わない統計学入門
 How to Lie with Statistics
D・ハフ講談社ブルー・バックス統計薀蓄
221頁880円★★★
 身の周りにはモノを売り込むための宣伝が溢れておるが、その売り込みでよく耳に目にするのが、“○○%の人が絶賛!”とかの文句。
 この場合、まず信じる前に、そのパーセンテージを計算するためのサンプルの母数がどれくらいなのか、またそのサンプルはどこでどのように採取したのか。それらが明記されているのかチェックするのが大事じゃ。

 極端な例を挙げると、“50%に効果あり!”という場合に、2人中1人なのか、10000人中5000人なのかで、まったく重みが違うし、サンプルの採取場所が駅前ならば、車通勤や自営業、専業主婦なんかがサンプル集団に入ってこなくなる訳じゃ。
 また、人種差別や男女差別に関するアンケートに対しては、質問者が白人/黒人なのか、男性/女性なのかによってパーセンテージが変わるという。回答者がその質問に対するはっきりとした考えを持っていないときには、その回答はその場の雰囲気で如何様にも変わることもあるということじゃ。

 結構古い本なんじゃけど、価値はまるで失っておらん。誰もが一読して損はない本じゃ。
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