2005年10月
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@外交なき戦争の終末 太平洋戦争日本の敗因6
NHK取材班編角川文庫歴史薀蓄
262頁500円★★★★
 毎回々々重い気分になってしまうこのシリーズじゃが、漸く最終巻を読み終わったわい。
 何が重いと言って、日本人の特性が基本的に当時と今でそれほど変わっていないように思えるのが怖いんじゃ。もちろん、今の羊になった日本人の社会で自衛隊独走などはありえないが、その場しのぎの大局観のなさというのは、今も昔も変わらんような気がするんじゃのぉ。

 今回は特に昭和20年になってからの対ソ外交に焦点があたっておる。
 ここに至るも、まるで世界の動きを読めず、否、ソ連駐在の大使館員からの確かな情報が入っていてさえ、見たくないものは見ないふりをし、まさに井沢元彦の怨霊史観に則ったような希望的観測を繰り返していたんじゃのぉ。
 まるで喜劇なんじゃけど、これで沖縄、広島、長崎、そして無差別空襲を受けた数多くの街での一般民死傷者数は、莫大に増えてしまったのじゃから、せつなさと気持ち悪さがこみ上げてくるというもんじゃ。
 正直、7月26日にポツダム宣言を受けた際の鈴木首相の発言、「重大な価値があるものとは認めず黙殺し、戦争の完遂に邁進すべし」。これさえもう少しまっとうなものなら、原爆投下はなかったんじゃないかと思えるのぉ。

 本書のシリーズは、特に日本のバカっぷりを検証するための編集で、それはそれで有意義じゃが、連合国の、特にソ連の悪魔的な行為がごっそり抜けておる。というか、シベリア抑留でさえ、日本が許可した密約があったのではという可能性をえらく探しているようじゃな。
 それはあまりに自虐的では?
A新・世界の七不思議
鯨統一郎創元推理文庫歴史推理
314頁700円★★★
 「邪馬台国はどこですか」に続く第二弾。
 ますます拍車がかかる宮田の奇説に反論ができない、気鋭の歴史学者“ミス静香”にはますますへたらされてしまうが、開き直って、それこそ酒席のバカネタと思って拝聴すればなかなか楽しく読めるじゃろお。特に今回収録された「アトランティス大陸の不思議」「ストーンヘンジの不思議」「ピラミッドの不思議」「ノアの方舟の不思議」「始皇帝の不思議」「ナスカの地上絵の不思議」「モアイ像の不思議」の7編は、それぞれ日本文化との関連性を唱えるという大技で統一されていて、感心させられる。(←信じてしまうという意味ではない。)

 しかし、本ネタよりも、毎編挿入されるカクテルのレシピのほうが興味深かった気がしないでもないのぉ。
B黄金色の祈り
西澤保彦文春文庫推理
388頁657円★★★
 取り壊し中の高校の天井裏で白骨体が発見され、身元はその学校の卒業生で、すでに名のあるロック・バンドのメンバー松元幸一だと判った。そして死体の傍らにはサックスが置かれていたが、それは彼のものではなく、彼の高校在学当時にブラバンから盗まれたものであることも判った。中学時代の友人の謎の死を後日知った「僕」は、アメリカに留学したものの、職もなく負け犬意識を抱えていたが、一念発起し、その事件から想像をめぐらせて、推理小説を書き上げ見事入選。作家への道を歩き始めるが・・・。

 著者の作品は、すちゃらか設定の“チョーモンイン”シリーズでさえ、かなり人の心の暗黒面が表に出てきて、気持ちよく読み終えられないことが多いが、単発作品で著者の自伝的要素をかなり添加した本書は、小さな気持ちのずれとは言え、いやな気持ちになること請け合いじゃ。
 物語は、「僕」の中学、高校、アメリカ留学時代を行ったり来たりと回想・自己分析していくが、その思いが、人の思いといかにずれているかに「僕」は何度も愕然とすることになるんじゃのぉ。

 まあ、人の心を忖度(漢字が判らんかったからルビふっとこ。“そんたく”)することを覚えなあかん中高生が読むにはいいかもしらんが、わしは今さら読むんじゃなかった。
 本書のような内容ならば、過去のことは笑って済ませて、前向きに生きるしかないんじゃよ。

 残酷な結末とわずかな救い?が待っているが、はっきり言って、こんな二人に明日はないと思うぞ。
C地獄十兵衛
志津三郎光文社時代小説文庫時代伝奇
335頁571円★★
 鄭成功松平信綱にもたらした情報。それは天草四郎が生きていたというものだった。しかも吸血鬼となって、幕府の転覆を企んでいるらしい。松平信綱は昔馴染みの柳生十兵衛にその探索と野望の阻止を依頼するが・・・。

 つ、つまらん。
 面白く展開できそうな設定の欠片はあるのじゃが。

 魔物天草四郎VS柳生十兵衛とくれば、いやでも「魔界転生」との比較しての期待をせざるをえない訳で、最近では珍しくもないように、本書でも著者が自らあとがきを書いているのじゃが、先人の山田風太郎に対する謝辞や思いなりが書かれているのかと思いきや、“いいたいことがないわけではない。あるといえばある。”とかいった偏屈な書き出しで、ほかの時代小説の一分野に対する文句をたらたらと書いているだけじゃ。「魔界転生」まの字もない。そう言えば、別の本のあとがきでも、何かに“悲憤慷慨”しておったな。

 まあ「魔界転生」なんぞ関係ない。設定が多少似ているのは、単なる偶然なのかもしれん。

 「魔界転生」のラスト1行は、“柳生十兵衛はどこへゆく。”
 本書のラストの1文が、“それでもまだ行くか十兵衛。”

――これでも?
 “貧乏小説”にぐだぐだ言う前に、せなあかん礼儀があるじゃろぉ。

 ここはやはり夢枕獏「大帝の剣」に期待するしかないじゃろうか。
D西郷と大久保
海音寺潮五郎新潮文庫歴史
538頁705円★★★
 題名のとおり西郷隆盛大久保利通、そして薩摩藩のみに興味を搾った本。鹿児島出身の著者が、並々ならぬ興味と愛情を注いで熱筆したようじゃな。

 西郷吉之助月照とともに自殺を図ろうとした事件の経緯から筆を起こし、中盤は藩父島津久光に取り入ろうと尽力しながら、暴走しようとする下級藩士を何とかなだめようとする大久保一蔵を、後半は復活を果たした吉之助を主に描いておる。

 西郷と大久保とという倒幕の巨頭を描きながら、幕末の最もホットな時期(新選組が活躍した時期と言えば判りやすいじゃろう)をわずか半ページでばっさりと割愛し、また征韓論に敗れて国に戻って以降(「翔ぶが如く」なら10巻じゃ!)もまったく描かないというのは面白いのお。
Eゾンガーと魔道師の王 レムリアン・サーガ1
 Thongor And The Wizard of Lemuria
L・カーターハヤカワ文庫異境冒険
242頁300円★★★
 指揮官の百卒長を殺した罪で処刑を待っていたゾンガーは、辛くも王の飛行艇を盗んでトゥルディスの都を脱出することに成功したが、巨大な翼竜に襲われて、凶悪な爬虫類の蠢く密林に墜落してしまう。彼の窮地を救ったのは、大魔道師のシャライシャ。彼が言うには、遥かな太古に人間に追われて逼塞した悪竜の王が、今しも邪悪な魔法で混沌界の門を開き、大悪魔とその眷属を呼び込んで人類に復讐を計ろうとしているという。その目論見を挫くことができるのは、ネメディスの剣の霊力のみ。シャライシャは、その剣を手に入れ悪竜と闘う戦士として、ゾンガーを冒険へと誘う・・・。

 初読時は気にもとめていなかったが、ハワードのコナンシリーズとは30年程度、バローズの火星シリーズとは実に50年ほどの時差があるんじゃのお。それほどに新しいのであるが、いわゆるバローズ・タイプの異世界冒険物語の中でも、例えばノーマンの反地球シリーズなどのように、独自性が色濃く出てきたタイプと異なり、ハワード、バローズのコピーに徹したような内容じゃ。
 世界観と主人公の設定は完全にコナンのものじゃが、登場人物の個性はバローズに準じとる。
 まあそれはいいのじゃけど、話があまりに御都合主義。RPG用原作かのような、課題を順番にこなしてアイテムを揃えていく展開が悲しい。クライマックスでは、ありえないほどのスーパー・ラッキーを“神々のなせる御業”の一言で片付けられてしまっては・・・。

 しかし突っ込みどころが豊富じゃから、ある意味楽しめるかもしれん。
 ゾンガーたち一行の足となる飛行艇。船殻は完全無重量の金属ウルリウムに、4組のプロペラを稼動させる動力は手回しのぜんまいじゃぞ!
 しかもこれで広大なレムリア大陸(本書ではなぜかレムリア=ムー大陸で、これもよく判らんのじゃが)を縦横無尽に飛び回るという恐ろしさじゃ。さすが錬金術師オーリム・ポンの設計じゃ。

 そうそう、大事なことを忘れておった。
 このページ数にして、表紙と口絵以外の挿絵が見開き3点を含めてなんと17点。これは武部本一郎ファンにはたまらんわい。
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