2006年 1月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2005年12月に戻る 2006年 2月に進む
@捩れ屋敷の利鈍
 The Riddle in Torsional Nest
森博嗣講談社文庫推理
262頁514円★★★
 熊野御堂家にあのエンジェル・マヌーヴァがある。保呂草はどうにか手段を駆使して、その屋敷に秋野と名乗って入り込むことに成功した。当主の熊野御堂譲は、メビウスの帯状に造られた建物にエンジェル・マヌーヴァを飾っていたが、秋野(保呂草)とそこに招待されていた西之園萌絵は、そこで二つの殺人事件とエンジェル・マヌーヴァの盗難事件に遭遇する・・・。

 メビウスの帯状の建物というのが興味をそそったが、まあ特にエポックなものではなかった。保呂草潤平と西之園萌絵の競演に驚く以上のことはないじゃろ。まぁ建築費が高くつきそうじゃな。

 考えてみれば、単に両シリーズの合一ではなく、ワトスンというか助手役の二人の競演で推理小説が作れるのじゃから、奥が深いのぉ。しかし保呂草がしきりに萌絵と紅子が似ていることを記述するのは、著者の開き直りか。エピローグの記述が妙にあざといぞ。
 知的なくせに恋に盲目という、双方ともに鬱陶しい性格が嫌じゃ。

 蛇足じゃが、メビウスの環の真ん中を鋏で切りつなげた場合、180度ねじりだと大きなひとつの輪に、360度ねじりだとふたつの輪が組み合わさった鎖になるぞ。
A北朝鮮とのケンカのしかた 「宣戦布告」なき対日戦争
豊田有恒祥伝社黄金文庫時事薀蓄
348頁619円★★★
 豊田有恒と言えば、わしにとっては「退魔戦記」等のSF時代劇の作者じゃが、北朝鮮通だとは知らなかったわい。
 内容はあまり一般民衆の貧困と飢餓には踏み込まずに、政治システムや軍備比較を中心にした内容となっておる。彼らの行動理念を考察しながら、それに対してノホホンすぎる(この間の事件でかなり是正されたと思うが)日本に必要な気構えを読むのは興味深い。SF作家だけあって、やはり軍用兵器には興味があるようで、古くなった軍備の比較(アントノフAH2という複葉機!!はあまりに古く、また複葉で揚力が大きいから失速することなく低速で勧告への侵入が可能で云々等々)や核開発(原子力発電の方式の考察から、彼らに可能と思われる核攻撃の内容等)に関する言及はとても興味深い。

 仲がおかしくなった中国とロシアの間で、綱渡り的なタカリ外交を取っていた北朝鮮が、今はアメリカ、韓国、日本を相手取って、同じ事をしようとしているのが情けないやら恐ろしいやら。

 例によって、文庫じゃから最新情報ではない(3年ほど前の刊行)なので、北朝鮮が拉致の事実を認めたあたりまでの内容じゃ。現代の最新情報が知りたいところじゃな。
 しかし最新として怖いのは、過度に北朝鮮との宥和政策を採っている韓国ノ・ムヒョン政権じゃ。漸くあの朝鮮総連に査察も入ったと思ったら、民団との和解が報道されるわ、拉致問題の解決には後ろ向きじゃわ、とりあえず国内をまとめるために反日を利用するノ・ムヒョン政権は一日でも早く潰れて欲しいもんじゃな。
B遁げろ家康 上下
池宮彰一郎朝日文庫伝奇
325頁/334頁600円/600円★★★
 1560年の桶狭間から1616年の死まで、徳川家康の一代記としては順当なところじゃが、特筆すべきは、若い頃(織田信長の同盟者としてこき使われていた)の律儀さと、歳をとってからの老獪な面を、家康の持って生まれた“小心さ”三河家臣団“欲深さ”をキーワードとして読み解いておることじゃな。なんと言っても「遁げろ家康」というタイトルが絶品じゃ。

 その割りに家康の二大遁走シーン、三方ヶ原の敗戦と“本能寺”後の伊賀越えに割かれたページ数が少ないのが少々解せないが、「平家」のようにつまらんこともなく、楽しんで読めたわい。

 まあ、「覇王の家」のほうが若干上ではあるかのぉ。
Cさだめ
藤沢周河出文庫
172頁520円★★★
 AVのスカウト寺嶋は、前に声をかけたという女から、AV出演OKの打診を受けた。寺島は斎藤佑子というその女に声をかけたことなど覚えておらず、佑子はこの業界にはまるで向きそうに見えない。ところが馴染みの監督の田村は、彼女が逸材だという。寺島は自分には理解できない感覚の持ち主である佑子に多少惹かれる反面、この業界に嫌気がさして、そろそろやめようかと思う彼にとって、一方でそれは鬱陶しいものでもあった。AVの世界に無縁な雰囲気と異なり、どんなプレイも二つ返事で引き受ける佑子だったが、寺島にとってよく理解できないその内面には・・・。

 外で独り飯だというのに手持ちの本がない時に、とりあえず本屋で仕込んだ本。AV業界の裏側に興味を持って読んだ。
 長年読書好きだと広言しておるが、芥川賞受賞作家の小説というのを始めて読んだ。何事もかっちり書かずに、解釈の幅をもたせとくのが文学的ということなんやろか。

 ともあれ、不安定な彼女がひょこんと正気の淵を踏み外してしまうのは、寺島の中途半端な優しさの所為じゃのお。
トップ頁に戻る "本"の目次に戻る 2005年12月に戻る 2006年 2月に進む