2006年 5月
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@わが名はコンラッド
 This Immortal
R・ゼラズニィハヤカワ文庫SF
277頁480★★★
 大規模な戦争で荒廃した地球。生態系は狂い、ギリシャ神話の怪物を彷彿とさせるミュータントがのし歩いていた。人類は生き残っているが、地球外へ逃げ出す人も多い。そんな中、年齢不詳の男コンラッドはヴェガ人の作家の地球取材に同行して、彼の身を守る任を受けるが・・・。

 買ったのはかなり昔。
 実は最初の数頁をクリアできずに投げ出していた。
 冒頭のコンラッドとカッサンドラの粋な会話が、ファンタジーかSFかもはっきり判らず、なんともうざったるく感じたものだが、一念発起して読み出してみれば、今回はするするっと読めてしまった。

 著者の言によれば、ファンタジーをたっぷりと用意して、それにSFの支柱を添えるのだとか。
 読み終わってしまえば成る程といった感じだな。
A人の心を動かす「ことば」の極意
斎藤茂太集英社文庫エッセイ
247頁457円★★
 すでに純文学やら私小説に耽読するような年ではないので、本を選ぶ基準は世知辛い日常からの逃避、または知識欲である。エッセイでも後者の意図だ。
 だから本書のような生き方指導っぽい本を、どういうつもりで手に取ったのかが不思議だ。
 著者が斎藤茂吉の息子で北杜夫の兄だというところに興味を覚えたのかもしれない。

 といったわけで、本書を貶す気はまったくないのだが、本書に出てくる歴史薀蓄などは特に目新しくもないので、個人的には少々物足りなかった。
B逆説の日本史9 戦国野望編
井沢元彦小学館文庫歴史薀蓄
479頁657円★★★★
 いよいよこのシリーズも戦国時代に入ってきた。京都に初めて上洛する頃までの織田信長と、彼以前の戦国大名、北条早雲毛利元就武田信玄などが登場している。
 しかし本書の特徴は、第1章で琉球史が、第2章で倭寇史が大きく取り上げられているところだろう。
 江戸時代の琉球が、日本(というより薩摩)とに二重に従属していたことくらいは知っていが、北山中山南山の三地帯に分かれていたことや、中山王尚氏の王統が途中で変わっていることなど、まったく知らんかった。

 倭寇史では意外や意外、前期倭寇にしても後期倭寇にしても、その実体はそれぞれ韓人、漢人が多数を占めていたというのは驚きだ。

 たとえ話半分としても、こういったことは声を大にして宣伝すべきだ。倭寇のボスでもあり、「街道をゆく11」でも採り上げられていた王直についての話も興味深い。
C警官嫌い [87分署シリーズ(1)]
 Cop Hater "An 87th Precinct Novel"
E・マクベインハヤカワ文庫警察/探偵
299頁640円★★★
 暑気にうだる都会の夜、一人の警官が撃たれて死んだ。警官殺しに警察は色めき立つが、犯人を挙げられないままに二人目、三人目の警官殺しが続く。捜査が難航する中、87分署の二級刑事キャレラもまた地道に捜査を続けていくg・・・。

 若い世代にはどうか知らんが、かなり有名な“87分署シリーズ”の第一巻。私の守備範囲ではないので長らく読んだことがなかったが、古典のメジャー作品をまったく読んでいないというのも悲しいので、シリーズ第1作を読んでみた。

 発表当時は、この手の警察小説――普通人の警察官が、組織の一員として地道に捜査していくストーリー。その組織も決して一枚岩ではなくて、様々なセクショナリズムや個人間の対立や人情が絡む――のパイオニアとして、大変に目新しかったようだが、今となっては、残念ながら特に新鮮な満足感を得られることはない。本書に影響を受けた作品が掃いて捨てるほど(小説よりむしろTVドラマの中か)にあるので、これは残念ながら仕方のないところか。

 しかしそれでも、ちょっとキャラクターの肉付けに人間ドラマを加えることで、あっという間に頁数が嵩んでくる作品が多い中、本書のように頁数が少なく手軽に読めるというのは、それなりにお薦めできるポイントである。解説によると、なんでもシリーズ・キャラクターの多くは、本書ではまだ登場していないようだから、読み続けることで新たな味わいが生まれることも期待できる。
Dホメロスを楽しむために
阿刀田高新潮文庫神話薀蓄
362頁552円★★★
 阿刀田高はよほどギリシャ神話が大好きなようで、小説を除いてわしが知る限りでも、「ギリシャ神話を知っていますか」「私のギリシャ神話」といった同種の二冊が別にある。くだけた筆致の教養本として、私のニーズによく適合するありがたい本なのだが、肩の凝らない反面、時にキツイ駄洒落で腰がオチルことは覚悟しなければならない。

 ホメロスと聞いて、「イリアス」「オデュッセイア」がすぐに出てくる人は少ないかもしれないが、まあそれらの作者として知られている。(私なんぞはヘロドトスとごっちゃになっていたりしたが・・・)
 とりあえず、この両作品のすべてをホメロス一個人が創作したのかどうかには疑問があること、トロイ戦争を扱った「イリアス」は、実質的には10年続いたトロイ戦争終盤10日間しか扱っていないこと、あの戦争中最も有名な“トロイの木馬”のエピソードは含まれていないことは抑えておこう。
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