2006年 7月
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@ジャンプ
佐藤正午光文社文庫推理?
351頁590円★★★
 「ちょっとりんごを買ってくる」
 そう言って酔いつぶれた三谷を自分の部屋に先に入れて、南雲みはるはコンビニへ向かった。そして彼女は二度と三谷の元へ帰ってこなかった。
 残された三谷は、みはるの足取りを追おうとするのだが・・・。

 三谷が箇条書きに挙げた三、なぜだ?八、なぜだ?に引っ張られて、一日で読了してしまった。かなりやるせない話を予想していたが、文体が意外に軽いのと、<ネタばれ反転>浮気感覚はないにせよ、ふらふら他の女と会っている三谷の性格のせいで、悲壮感は漂わずに気楽に読めた。
 しかし結末が知りたくて一気に読んでしまったとはいうものの、最終的な感想としては今ひとつ。みはるが三谷に連絡を取らない理由も、解ってみればああそうですかという驚きのないものだし、月曜だかに一旦みはるが自分の部屋へ帰った時には、<ネタばれ反転>携帯電話に最低限の充電をして、三谷に連絡を取るのが常識だろう。その時にはまだ手紙は読んでないのだから。それが不自然。
 それにいくら<ネタばれ反転>非が三谷にあるとしても、ケジメの別れ電話、いやEメール1本でも入れるのが良識だと思う。三谷が自分を探していることを知りながら、あくまで連絡1本とらないと言うのは、みはるに恣意的な悪意を感じる。しかも「5年後」の結末であらたに生じた謎は放置される始末だ。

 モトモト普通のミステリとは違うらしい(文芸ミステリ?)とは判っていたが、やはりミステリとして購入してしまったので不満が残った。
 と、ここまで書いて、たいへん迂闊なことに、ほんの三週間ほど前にとてもよく似た発端の「さむけ」を読んでいたことに気づいた。
 いやぁ参った。ストーリー展開がまるで違うとは言え情けない。 そりゃ推理小説として読んだ場合、あれと比べると分が悪い。

 朝目覚めてみはるが帰っていないことを知った際の、三谷の行動が非難されるが、あの状況では出張に向かうのは当然だ。連絡が取れるまで出張先では気もそぞろで、ろくろく仕事が手につかんだろうが…。もちろん、その日が個人の範疇で吸収できる業務しかないのであれば、休むのも構わないが、将来のかかった仕事をなめたらイカン。
 もっとも、わたしなら、これから関係を深めたい女性の前で、酔いつぶれるかもしれないリスクは絶対に冒さないが・・・。

(2012/10/9改訂)
A占星術殺人事件
島田荘司講談社文庫推理
460頁700円★★★★
 昭和11年。日本各地で六人の姉妹従姉妹の死体が相次いで発見された。しかも死体はそれぞれ身体の一部が欠損している悲惨なものだった。彼女等の父親(伯父)梅沢平吉は、その手記に拠れば、それら集めたパーツから、占星術に基づいて完全な女性(アゾート)を製作する意図を持っていたと思われ、実際その手記に従った場所から被害者の死体が見つかったのだ。しかし問題は当の平吉が、被害者たちが行方不明になる前に、すでに殺されていたことだった。
 迷宮入りとなって四十数年の1979年春、多くの素人玄人が挑み、解決できなかったこの事件に、占星術師御手洗潔が挑む・・・。

 実家から島田荘司一式を引き上げてきたついでに、つい再読してしまった。
 時系列の設定が本書の直後――だと裏表紙に書いてある――にあたる「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」の文庫を買ったというのも理由の一つだ。

 直近で読んだ島田荘司が、「龍臥亭事件」「涙流れるままに」の拾い読みなので、やはり筋立てや文体の違いには驚いた。元気な石岡君にもびっくりだが、おかげで台詞のやりとりは誰が喋っているのか判らなくなるわ、中だるみや構成のごちゃごちゃ感もあるわで、当時乱歩賞?を獲れなかったのも仕方ないという気がしないでもない。

 一方で、シャーロック・ホームズについてのトークや、京都、大阪での地道な聞き込みは、後の「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」や一連の吉敷ものを思わせる。デビュー作には、その作家のすべてが出るという言葉を思い出した。
 著者の稚気だろうが、御手洗たちが存在する世界では、どうやらホームズも実在しているらしい。

 初読時は、なんといってもあの盗作マンガのおかげで、途中で大トリックに気付いてしまったという暗い過去を持つわたしだが、読み直してみると、その大トリックの影になって忘れていた平吉殺しの密室トリックに、<ネタばれ反転>却下されるとは言え、有名な古典トリックを持ち出しているのはこちらもダメだろう。

 しかしすべての推理小説ファンが読まねばならない重要な作品だ。
 ところで、渡月橋のたもとにお地蔵さんの家みたいな電話ボックスはなかったが、撤去されたのだろうか。

―琴ぎき茶屋のあんこの入っていない桜餅 (2006/7/22)―


(2012/10/9改訂)
Bセント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴
島田荘司角川文庫推理
270頁514円★★
 1982年11月最後の土曜日、馬車道の御手洗と石岡のもとを訪れた老婦人は、教会の市で不思議な言動を行った知人の話をした。突然の雨に顔色を変え、花壇の土を掘り返し始めた夫婦。その母親はその場で倒れ、救急車で運ばれたという。老婆は話をした後、御手洗たちのもとを辞そうとしたが、御手洗はその背中に声をかけた。「これは大変な事件ですよ」・・・。

 シャーロック・ホームズテイストな中編だ。
 本屋でこの本を見つけたとき、実はおーっと思った。南トルコの地中海に面した港町デムレにあるセント・ニコラス教会と彼の墓を見てきたばかりだったからだ。

・聖ニコラス教会・聖ニコラスの棺

 デムレの教会は、彼の墓の上に建てられたというわけだ。
 ニコラスが生きていた4世紀、当地デムレ――古代はリュキア王国の首邑で、ローマの属州となっていたミュラ――ではキリスト教がさかんだった。聖ニコラス教会は世界に随分とあるらしいが、彼の故地にあるこの教会は別格だ。
 観光客には実際ロシア人が多いらしい。

 というわけで、彼にまつわる薀蓄が楽しみだったのだが、セント・ニコラスに関する話はまるでなし。拍子抜けだった。
 だからかもしれんが、他にも気にいらないところばかりが目についてしまった。

・ほんの数年で石岡は自分で考える能力ゼロの人に成り下がっている。
・弱者救済といういつものパターンもなんか中途半端。
「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」←この句読点はなに?
・裏表紙の“「占星術殺人事件」の直後”という間違い。実際は数年後。

 特にこの裏表紙の文句がなければ、「占星術殺人事件」の再読はなかったから腹立つ。

 きわめつきは、ダウジング・・・。
 冒頭にアカデミックな人たちの集まりを配したのだから、物語の最後にも登場させて、

「へいっキヨシ、ダウジングなんて本気で機能すると思っているのかい。」

と言わせて欲しかった。

(2012/10/9改訂)
C御手洗潔の挨拶
島田荘司講談社文庫推理
334頁560円★★★
D銀河ヒッチハイク・ガイド
 The Hitchhiker's Guide to The Galaxy
D・アダムズ河出文庫SF
289頁650円★★★
 バイパス工事のための立ち退き要求に体を張って抵抗していたアーサー・デントは、銀河バイパス工事の邪魔になった地球が破壊される間際、友人のフォード(実は異星人)に危うい所を助けられた。デントとフォードは、ヴォゴン人の船に密航して危うく難を逃れたが、それも束の間、見つかって宇宙へ放り出されてしまう。その彼らは天文学的な確率で<黄金の心>号に救出されて・・・。

 昔「宇宙の果てのレストラン」「宇宙クリケット大戦争」とともに、本屋で並んでいるのを見かけたものだ。
 まさかの映画化で、本シリーズも再び店頭で見かけるようになったが、わざわざ劇場に出かけた映画を、疲れによる睡魔の所為で8割方寝てしまったという間抜けな失態がなければ、本書を読むことはなかっただろう。

 わたしは、物語には適度な緊張感がなけりゃいかんと基本的には思ってるクチなので、こういったお馬鹿なドタバタは好きではないのだが、非日常なガジェットで常識を相対化するのがSFの主要な機能だとすれば、本書もなかなかSFしている。この馬鹿馬鹿しいブラックさは嫌いではない。
 それにしても、英国というのはこういった話が好きなんだなぁ。
 映画もなかなか面白い(その後DVDで観た)ので、お試しあれ。

(2012/10/9改訂)
Eママ、手紙を書く
 A Nice Murder for Mom
J・ヤッフェ創元推理文庫推理
283頁600円★★★
 妻に先立たれてニューヨークを離れ、メサグランデで公選弁護人の調査員として働き始めたわたしのもとに、故郷からママがやってきた。それにタイミングを合わせるように、メサグランデ大学の英文学助教授が殺され、同職の男が容疑者となる。彼の調査を引き受けることになったわたしに、以前と同様ママのアドバイスが真相を・・・。

 安楽椅子探偵ものとしてなかなか有名なシリーズらしいが、本書は長い中断を置いての再開となった初の長編で、主人公を取り巻く環境もかなり変わっているようだ。ママは現場へは行かないので安楽椅子ものであることは間違いないが、息子の“わたし”は現在進行形でガンガン関係者へ聞き込みして回るので、あまり安楽椅子ものという気はしない。
 それにしても、調査員たる“わたし”といい、大学の教員連中といい、通常は夕方には終業してしまうらしく、なんともご機嫌な環境だ。アメリカの田舎町ではそんなものなのか?

 プロローグでママが手紙に書いている表の真相はすぐに解ったのだが、裏の真相まできっちり組み立てているのはさすが。
 しかしお約束とは言え、息子の話だけで100%の状況やニュアンスが伝わるはずもないのだから、ママに神のごとき裁断をされてしまうと、若干ひいてしまう。
 <ネタばれ反転>著者の被差別階級への過剰な肩入れが感じられるが・・・。

(2012/10/9改訂)
F魔神の遊戯
島田荘司文春文庫推理
510頁819円★★
 2001年11月末、ネス湖のほとりの静かな田舎町で、異常な力で引きちぎられた手足や首、胴体が、街中にばらまかれるという残虐な連続ばらばら殺人事件が発生する。狙われるのは六十代の老婦人ばかりだが、彼女たちに恨みを持つロドニー・ラーヒムという、精神疾患のある画家の未来の記憶とは。現地に咆哮する叫び声は、果たしてユダヤ人の敵を滅ぼすヤーハエなのか・・・。

 「占星術殺人事件」「水晶のピラミッド」等と並ぶ傑作と解説にあるが、それはどうか…。
 さらには、記憶がテーマに挙げられるのが「眩暈」に通じる云々ともある。なるほど「眩暈」同じようにつまらない作品だ。テーマは悪くないと思うが、いかんせん、推理小説としてつまらなくては・・・。

 執筆時期のチェックしてはいないが、トリックは<ネタばれ反転>「黒猫の三角」とかぶっているし、犯人の扱いなんかにも、<ネタばれ反転>(一応世俗的な動機も用意しとるけど)どうも森博嗣の臭いを感じる。姿の見えない犯人が解決編で浮上するも、「占星術殺人事件」の鮮やかさとは雲泥の差だ。
 執筆順云々はともかく、島田御大ともあろう大御所にこの方向に走ってもらいたくはなかった。しかも三分の一を読まずに凡そはネタは割れたから、裏表紙にあるような衝撃も感動もなかったし…。

 百歩譲って上記のことは措くにしても、これだけ膨大な手間隙をかける根拠<ネタばれ反転>(脳研究における貴重な実験)に対しては描写が不十分だし、だいたいどれだけ<ネタばれ反転>御手洗のものまねが上手いのか知らないが、後日何かでウプサラ大に連絡が行った時にばれてしまう危険性99%だろう。なんと無理のある計画か。

(2012/10/9改訂)
G日本プラモデル興亡史 子供たちの昭和史
井田博文春文庫模型薀蓄
243頁590円★★★★
 模型誌「モデルアート」の創刊者である著者が書いた、プラモデルの発展史。なんでも戦後進駐軍が持ったきたことに始まるらしい。

 実は、バンダイの一人勝ち(に見える)模型業界の裏側が知りたくて読んだ。――が、そこのところは残念。いわゆるガンプラ・ブームについては、最初期の小売店側からの印象しか記載がない。
 しかし米寿を迎えようという著者が、プラモデルと言わず、戦前のハリガネ飛行機や戦後間もない頃のUコンと呼ばれるワイヤー付きの動力飛行機、それにゴム動力の飛行機の競技会等々、模型業界から見た昭和史を丁寧にやわらかい口調で訥々と語ってくれて、なんともありがたい気持ちになった。

(2012/10/9改訂)
Hベテラン整備士が明かす意外な事実
ジャンボ旅客機99の謎
A・ウイパー二見文庫航空機薀蓄
237頁600円★★★
 羽田空港の売店で買った。
 何度ジャンボ旅客機に乗ろうと、あんな巨大な金属の塊が空を飛ぶというのは、不思議でしかたがない。
 表紙に大々的に書かれているように、“ジャンボジェットの主翼は8mもしなる!”というのがまず凄い。物量ネタはやはり豊富で、ボーイング747は部品点数600万。数年毎に行われるDチェックで全剥離されては最塗装される塗料の重さは揮発成分が抜けた後で200Kg
 一方で、747を10cmまで縮小した時の比率計算をすると、紙飛行機よりも軽くなるそうな。面白いねぇ。

(2012/10/9改訂)
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