| 2006年 9月 | |||
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| @ | 太陽王と月の王 | ![]() | |||
| 渋澤龍彦 | 河出文庫 | エッセイ | |||
| 205頁 | 730円 | ★★★ | |||
| 朝日文庫以外で渋澤龍彦の本を読むのは始めてじゃ。 “太陽王と月の王”とは、もちろんルイ14世とルートヴィヒ2世のことじゃ。わしはてっきり、そのネタで1冊、あるいは50頁程度はあるものと思っていたのじゃが、表題も含めて5頁程度の小エッセイ集じゃな。あの渋澤龍彦にも戦時中には学徒動員で、汗水流して機関車のタンク内の煤落としなどをしていたことがあったと思うことは、なかなか興味深いと言えることじゃが、普通の歴史書には出てこない趣味人(胡散臭いものから極悪なものも含めて)と、彼等/彼女等が暮らした社会、文化を感じるのが、渋澤龍彦の本を読む理由なのじゃから、少々アテが外れた感は否めないのぉ。 | |||||
| A | メモリー 上下 MEMORY | ![]() ![]() | |||
| R・M・ビジョルド | 創元SF文庫 | SF | |||
| 388頁/356頁 | 980円/940円 | ★★★★ | |||
| デンダリィ隊の作戦遂行中に低温蘇生の発作を起こし、あわや救出した人質を殺してしまいそうになったマイルズは、ウソの報告を提出して見事にばれてしまい、過去の実績から辛うじて医療退役の形は採られたものの、軍からは放逐されてしまう。貴族としてではなく、アラール・ヴォルコシガン卿の息子としてではなく、自己の地歩を固めるために、デンダリィ艦隊とバラヤー帝国軍での地位に野心を求めていた彼にとって、軍からの放逐は彼を茫然自失させる。一方、機を同じくして機密保安庁では長官のイリヤンが、記憶チップの失調から言動が狂い、監禁されてしまうという事故/事件が発生。マイルズはイリヤンを見舞いに行くも、機密保安庁の臨時長官に任命されたハローチから拒絶される。イリヤンの症状はチップの自然劣化なのか、人為的なものなのか。機密保安庁でも最優先で調査しているはずだが、今のマイルズは軍とはなんの関係もなく、情報もイリヤンの容態もわからない。しかし徐々に自分を取り戻したマイルズは、グレゴール帝から臨時で皇帝直属の聴聞卿の肩書きを手に入れ、これまでの職場である機密保安庁に乗り込み・・・。 「ミラー・ダンス」では主人公の座をマークと分け合ったマイルズだが、本作では出づっぱりじゃ。というか、17歳でデンダリィ傭兵艦隊の提督という裏の地位を手に入れてから、高級貴族と帝国軍の中尉という表の顔に加えて3つのペルソナを使って踊り続けていたマイルズが、30歳でついにデンダリィ艦隊と帝国軍士官の位置を手放し、かわりの地位を得ることになる節目の巻じゃな。いつの間にやら、グレゴール皇帝もすっかり貫禄がついてきとる。 そんなこんなで、これまでのシリーズの集大成ということも言えて、「ミラー・ダンス」はもちろんじゃが、「喪の山」や「迷宮」といった短編も、先に読んでおいたほうが面白さは膨らむじゃろぉ。 今ひとつな題名が多い本シリーズ――最近は素直な題名とは言え、本作の題名は漢字にしてほしかった――じゃが、本書での“聴聞卿”はなかなか秀逸な訳語じゃな。 | |||||
| B | 三百年のベール 異伝 徳川家康 | ![]() | |||
| 南條範夫 | 学研M文庫 | 歴史 | |||
| 271頁 | 580円 | ★★★ | |||
| 明治30年代初頭。静岡県庁教務課長の平岡素一郎は、過去の文献を読むうちに、徳川家康が実はささら者出身ではないかという考えを抱くようになった。徳川幕府>が一部の民を農民以下に位置づけ、それまでの政権以上に差別化を図ったのは、彼自身の出身を隠すためではなかったのか。素一郎は自分の説を固めるために、部下の山根三蔵に資料の収集を手伝わせていたが、一方で三蔵は現在も差別を受け続けている部落の娘と恋仲になり、それは県庁でも問題となっていく・・・。 徳川家康入替わり説と言えば、隆慶一郎の「影武者徳川家康」とのアプローチの違いが気になるところじゃ。あちらが関が原の戦い最中の入替わりなのに対し、本書では、桶狭間の戦いの後に信長との職徳同盟を結ぶ直前からの入替わりとなっておる。時に説得力が足りないように感じるが、説としてはやはり魅力的ではある。 物語としては、「影武者徳川家康」のほうが圧倒的に面白いのじゃが、あとがきやウィキペディアを読むと、主人公の名前こそ微妙に変更しておるものの、実際に明治時代に発表された仮説とその時代背景をベースにしていて、徳川家康入替わり説の紹介としては、こちらが正統じゃ。馬鹿げた説と一蹴することは簡単じゃが、まだまだ部落差別が大手を振ってまかり通っており、徳川旗本が多数住んでいた明治35年の静岡県の土地柄の中で発表された説だというのが興味深いのぉ。 | |||||
| C | 「世界の神々」がよくわかる本 | ![]() | |||
| 造事務所 東ゆみこ監修 | PHP文庫 | 神話薀蓄 | |||
| 314頁 | 648円 | ★★★★ | |||
| E・ハミルトンの「眠れる人の島」を読み始めて気がついたのじゃが、ティアマトだのマルドゥクだの、あるいはヘイムダルだのテュールだのといった神々がやたらに出てくる。ギリシャ神話はともかく、北欧神話はオーディンやトール、世界樹ユグドラシルと例の三女神の名前くらいしか知らんし、その他の神話などさっぱりじゃから、若年層向けの軽い編集の本ではあるが、こういった本はありがたいのぉ。 本書にはギリシャ神話、北欧神話(ヘイムダルやテュールはここ)の神々のほかに、ケルト神話、エジプト神話、メソポタミア神話(ティアマトやマルドゥクはここ)、インド神話の神々が紹介されておる。主要な神々には頁いっぱいの挿絵もついているので、――これが若年向けである最たる例かもしれんが――神々の名前を覚えるには有効じゃろぉ。イシュタルの妖艶な挿絵は特筆に価するかも。 それと最大の特徴はこれ、なんとクトゥルー神話にも1章が与えられておる。もちろん、これが20世紀に書かれた物語を元にした架空の神話であることは明記されておるが、大技には違いない。もっとも、神話に新旧の違いはあれど正統邪道などはなくて、いかに文化に影響を与えるか、他の書物に引用されるかといったことが重要じゃ。 馬鹿馬鹿しい設定ながらもクトゥルー神話も十分に偉大な神話と言えないことはないわ。 例えばM・スレイドの「グール」なんかは、クトゥルー神話をある程度知っておいたほうがいいぞ。 | |||||
| F | コーランを知っていますか | ![]() | |||
| 阿刀田高 | 新潮文庫 | 宗教薀蓄 | |||
| 361頁 | 552円 | ★★★ | |||
| 「○○を知っていますか」シリーズの一冊。特に「旧約聖書を〜」、「新約聖書を〜」に続く聖典第三弾じゃ。とは言え、前の二冊は古典としての豊かな物語性の紹介が主で、もともとそれが、本来著者の意図したことの筈じゃが、その点、本書をまとめあげるには著者の苦労が偲ばれるんじゃのぉ。 というのも、コーランは物語性にはさほど注意を払っておらんらしい。アラーの偉大さと細かい生活の規範が何度も何度も繰り返されるのが特徴なんじゃな。 その分コーランの記述以外に、7世紀当時の時代背景などにも多く筆が割かれたり、なんと著者のサウジアラビア旅行記まであったりするのじゃ。 つまり本書は、イスラム社会の姿を知ってもらおうという企画の下に書かれたんじゃのぉ。その背景には、例の9.11テロがあるのは言うまでもないじゃろ。 なんといっても、下手なこと書くとどんなひどい目に遭うかもわからないので、著者もなかなか気を使って書いているのがありありと判るのじゃが、それでもアラーの言葉を親父の小言に例えるあたりなどさすがじゃ。コーランに親しむ第一歩として価値はたいへん大きなものじゃろぉ。 しかし例によって、つまらんダジャレをジョークと呼ぶのはやめてほしいぞ。 | |||||
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