2006年11月
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@剣豪 その流派と名刀
牧秀彦光文社新書歴史薀蓄
780円★★★
歴代の剣豪や流派を紹介する薀蓄本は結構あるものだが、本書の特色は刀工たちの紹介にも頁を割いていることだろう。時代劇が好きならば、村正とか小鉄とかの名前は聞いたことがあるだろうし、興味もあるかもしれないが、全頁数の半分を占められてはつらい。
 各刀工の作刀の違いが解るように写真でも載っていればいいのだが、それもないし・・・。

 それぞれの流派の項目の末尾には、人物や流派に関連した本のみならずマンガまで幅広く紹介しているという、若年層も意識した作りになっているのだが、なにせ“名刀編”120頁を読むのははけっこうキツかった。
A邪馬台国の秘密
高木彬光光文社文庫歴史推理
470頁743円★★★★
 急性肝炎で入院した神津恭介は、以前盲腸で入院した際の成吉思汗ミステリーの談義を懐かしく思い出し、今回も同様に暇つぶしになる歴史上のミステリーがないかと、友人の松下に問いかけてみた。松下はこれは無茶な御題なのだがと、邪馬台国の所在地論争を持ち出すが…。

 日本の三大名探偵のひとり、神津恭介のベッド・ディテクティブ歴史ミステリ第二弾。古代史上最も有名なミステリーがお題である。

    邪馬台国所在地へのアプローチは、魏志東夷伝倭人条という唯一の文献史料をあたるか、同時代と認定される考古学上の出土物を検討することになるが、ベッド・ディテクティブの神津恭介はもちろん前者で推理を展開することになる。
 この所在地論争においては、主に北九州説(東大派)畿内説(京大派)に分けられるが、の使節が九州に上陸した地点までは、いずれにおいても概ね共通している。對馬國=対馬一大國=壱岐末廬國=松浦というところまでだ。語感からしてもたしかにそれっぽく、わたしも疑問に思ったことなどなかったが、神津恭介は使節の上陸地点を大幅に東へずらして、末廬國の所在を<ネタバレ反転>宗像としている。

 神津案のポイントは二つあるのだが、そのひとつは地政学を重要視していることだ。これはたしかに考えてしかるべきポイントで、一里の換算を踏まえて、“陸行”がうまく繋がるのがポイントだ。
 そして最大のポイントは、魏志倭人伝で距離を示す文章内にときに現れる<ネタバレ反転>“余”という字の解釈である。これによって、邪馬台国の所在地は(本書では)ピタリと決まるのである。なるほど説得力のある意見で、まぁいろんなツッコミは出てくるのかもしれないが、道中の理屈を度外視しても、所在地自体はわたしと同じ意見だったので、とても気に入っている。

 推理小説ファン、古代史ファン、いずれもが必読すべき一冊だ。

(2012年12月16日記載)
Bネジ式ザゼツキー
島田荘司講談社文庫推理
636頁876円★★★
 記憶障害を持つ男エゴン・マーカットが書いた一冊のファンタジー、「タンジール蜜柑共和国への帰還」。ハインリッヒが連れてきたエゴンのこの本を御手洗が読んだとき、彼の驚くべき過去が推理される。それは遥か彼方の地で起きた奇怪なネジ殺人事件へと導くものだった・・・。

 フォントが異なる上記「タンジール蜜柑共和国への帰還」や「ゴウレム(1〜5)」といった、幻想味ある話を挿んだミステリー。前半で提示されたファンタジーから導かれた現実の殺人事件が、さらに奇妙な態を示しているという二段構えで、「眩暈」の発展系になっている(記憶喪失の男を御手洗が助けるという意味において、解説では「異邦の騎士」と結びつけているが、それには気がつかなかった)。
 正直なところ、着地を含めた全体としては、オチの強引さ+冤罪絡みというおなじみ島田ファンタジーで満足しきれないところではあるのだが、中盤までのトリップ感はかなりのものだ。まさか(一応)推理小説で、ガンダム<ネタバレ反転>でおなじみのオニール計画が絡んでくるとは思わなかった。因みに<ネタバレ反転>Island3のスペックにおいては、擬似重力を振り切るには600Km/h以上必要なので、自動車の運用も可能ですな。

 とまぁ大胆に薀蓄が取り込まれているわけですが、史実との切り分けはどうなっているのだろう。本書に名前の出るクリストファー・ダイソンは創作だろうか? <ネタバレ反転>数多のSFに登場するダイソン球の提唱者はフリーマン・ダイソンですが・・・。  そんなことを気にしだすと、<ネタバレ反転>ルーシーを発掘した調査隊の隊長カール・ザセツキーの実在まで疑わないといけないことになってしまいますな。

 とにもかくにも、こんな本を書き上げられるのは著者以外にはいないだろう。二十数年ぶりに晴らされる冤罪に素直に感動したい。
C初稿・刺青殺人事件
高木彬光扶桑社文庫推理
525頁800円★★★★
D上高地の切り裂きジャック
島田荘司文春文庫推理
364頁590円★★★
(1)「上高地の切り裂きジャック」
 2000年8月。ロケ中の女優が死体で発見された。遺体の腹は裂かれて臓器は奪われ、代わりに石を詰められているという凄惨かつ異常な状態で、さらには強姦された形跡もあった。残された精液から犯人はすぐに特定されたが、その男には完全にアリバイがあった。磯子署の蓮見刑事が、里美経由で石岡に協力を求め・・・。

 御手洗が電話の向こうのウプサラ?からパペット・マスターとなって事件を解決するというトンデモなパターンにも、随分と馴れてしまった。考えてみれば、安楽椅子探偵モノの良いとこ取りができるので、優れたアイディアといえる。
 <ネタばれ反転>蛆の観察と犯行現場の気温から、犯行時刻の誤認があらわになる展開は鮮やかだが、御手洗の操りぶりのコントラストを鮮やかにする分、石岡と蓮見は平均以上に鈍くみえるというワトスン・モードになっているのが若干気になる。
 かなりの猟奇的な事件で、容疑者の行為も気持ち悪いにもかかわらず、末尾の犯人の告白が非人間的なものでないため、意外にも読後感は悪くない。

(2)「山手の幽霊」
 1990年4月。横浜の一軒家に設置されたシェルター内で、男の餓死死体が発見された。男はその家の前の主人だったが、現在の持ち主がそのシェルターを釘づけにした時には、その中に人がいないことは確認したという。しかも釘付けの後、町で死んだ男を見かけたとも。一方、御手洗は現場の近くを走る根岸線の運転手からも、死んだ娘の幽霊を見たと聞き込むが・・・

 本編もこの奇妙な事件の演出者の告白(日記)で幕となるが、こちらはかなり重くてイタイ。やるせない読了感である。「赤髪連盟」ばりの展開で、御手洗の旗振りっぷりはホームズ以上に強引・軽妙で楽しめるので、そのトリップ感のまま軽く終わらせることはできなかったものだろうか。深刻にすればいいというものでもあるまい。
 閉所恐怖症なので、後半は少々斜め読みしたことを白状しておこう。
E「古代日本」誕生の時 大和朝廷から統一国家へ
武光誠PHP文庫歴史薀蓄
282頁590円★★★
F数学者の休憩時間
藤原正彦新潮文庫エッセイ
304頁476円★★★★
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